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アルタジア  作者: 桜花シキ
第3章 古代文明マクエラ
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交渉

──アストルたちマクエラ組は、海から見えた大きな遺跡を目の前にしていた。


 どうやら、巨大な研究施設のようだ。

 この研究施設は今でもマクウェルたちが研究に使っているのだという。


「驚いたルル?昔、神石の研究はここ、マクエラから始まったとされているルル。研究者だったアルタジアが進めた魔法研究……その成果が神石ルルよ。この研究施設にも魔法効力が働いているみたいで、アルタジアの研究内容が数多くなくならずに残っている、貴重な場所なんだルル。危なかったルルが、何とか守り切れたルルよ~。元々は、ルルたち学者や王族が研究のために暮らしていた国だったルルが──ルドの一件以来、その生き残りも移住しているルル」


 サーネル教授は、研究施設の中にある一室にアストルたちを通した。


「その辺に座って……カルラ、君は座らないルル~?」


 カルラは扉の前に立ったまま、こちらを睨んでいる。


「カルラは、ここで見張ってる。サーネル教授に手、出させない」


「俺たちは、話をしにきただけなんだけどな……」


「まぁ、許してやってよ。カルラは今、過敏になってるんだ」


 グレイはサーネル教授の隣に腰を下ろした。 そういうグレイも、サーネル教授を守っているように見える。2人とも、警戒はしているようだ。それだけ、この教授は二人にとって大事な人なのだろう。


「そういえば、ちゃんとした自己紹介がまだだったルルね。ルルは、ルル=サーネル。もうすぐ200歳になるルルね」


 頭脳型マクウェルが長命だということはナルクルから聞いていたが、その姿からは想像できない年齢に、少なからず驚く。


「それから、そっちの2人はカルラとグレイ。カルラは15歳で、グレイはそれよりひとつ年上ルルね」


 グレイの年齢に、アストルは正直驚いた。カルラが15歳で、それよりひとつ上ということは、16歳だ。随分落ち着きがあるので、もっと上に見える。


「16……には、見えないな」


 思わずアストルの口からそんな言葉が漏れる。


「それって、俺が老けてるってこと?」


 しっかりしているという意味だと伝えると、


「ああ…、俺も色々あったからさ。フェルムンドって街、知ってる?ルドの前にサイモアに攻め込まれたところなんだ。俺はそこの生き残りでね。まだ10歳だった俺は何も役にたてなくて……戦闘型の父が殺されてから、家族の中で戦闘型は俺だけだった。だけど……母も、兄も妹も弟も……みんな死んだ。運悪く俺だけが生き延びて、ルルに拾ってもらった。マクウェルたちを守るために生まれてきた俺が生き残って……笑える話だよな」


 そう悲しそうに語った。それから6年間、サーネル教授の護衛として働いているらしい。

 幼いころにつらいことを経験したから、こんなに大人びてしまったのか。


「カルラも似たようなものだよ」


「カルラ、同じじゃない。グレイ、まだ10歳だった。だが、カルラは15歳……守れたはずだ。それなのに、カルラ……守れなかった。カルラの父と母、2人とも戦闘型違う。だが、ルド攻められたとき、カルラのこと、かばって死んだ……。カルラ、今度は守る。サーネル教授、とても大事な人。絶対、死なせない」


 サーネル教授は、2人を引き取って面倒を見ていた。親代わりといったところなのだろう。

 そういう事情があるならば、警戒されてもしかたがない。


 これで警戒が解けるかは分からないが、アストルたちも自己紹介する。


「そういうことなら、警戒するのも当たり前だよな……。でも、こっちも大事な話があるんだ。俺は、アストル。アストル=ウルヴァージュ=シャンレル、一応シャンレルの王子だ」


 驚くかと思ったが、リエルナの力を見た時ほどの驚きはなかった。


「ちょっと、そんな気はしてたルル。アストル王子と……」


「僕は、クローリアといいます」


「ルル。2人の瞳はシャンレルの民独特の、光の加減によって微妙に色合いが変わる青色をしているルルから、シャンレルの人間だってことは気づいていたルル~。それに、ルドの一件がいったん収まったくらいに、水竜の笛の音がたくさん聞こえてきたルルよ。そんなこと普通はないルルから、シャンレルに何かあっただろうとは思っていたルル。そんなとき、君たちが現れた。大事な用がなければ、わざわざ大陸なんて渡ってこないルル。王子がわざわざ出向いてくる理由……シャンレルもサイモアにやられたルルか?」


 さすがは、頭脳型マクウェル。見ただけで、これほどの情報が分かってしまうのか。おかげで、説明する手間が省けた。


「その通りだ。それで……」


「マクエラにも、サイモアを倒す手助けを頼みたい……とかそういう話なら、申し訳ないルルが今は無理ルル。ルドの傷跡は、まだ癒えていないルル……。おまけに、サイモアはこの大陸からいなくなった訳じゃないんだルルよ。まだ、フェルムンドで息を潜めていて……マクエラの隙を見て、また襲ってくるはずルル。ここで、他に協力している余裕はないんだルル。悪いけど、あきらめてほしいルル」


「そんな……」


 いきなり、ふりだしに戻ってしまった。沈むアストルとクローリアとは異なり、リエルナはきょとんとした顔をしている。


「2人とも、どうしたの?」


「どうしたのって……ふりだしに戻ったんだぞ?」


「どうして?ここにサイモアの人たちがいるから、みんな困ってる。だったら、アストルがサイモアの人たちに出て行ってもらえるようにすればいいの」


──それは、思いつかなかった!


「それは、君たちがサイモアをここから出してくれるってことルルか?」


「確かに、リエルナの言うとおりだ。ここにサイモアがいたら、後々俺たちも困るもんな。だったら、ここで倒すのもありか」


「もし、それができたら協力していただけますか?サイモアは、シャンレルを制圧しただけでなく、アストルの父、ルクトス王を人質にとっているんです」


「……本当にできたら、ルルから国王陛下に頼んでみるルル」


「やった!」


 3人は跳び上がって喜んだ。しかし、カルラはなおも警戒している。


「本当に、本当か?マクエラ、攻撃しないか?」


「カルラ、信じてみようよ。シャンレルの王子様だっていうのはルルも真実だと確信しているわけだし。それに、このままルルやリーベに負担をかけさせてもおけないだろ?」


「それは、そうだが……」


 先ほどから気にはなっていたのだが、どうやってマクエラは侵略から逃れたのだろう?

 サーネル教授とリベランティス王子の会話もひっかかる。



「なぁ、ここはどうやって守ってるんだ?見たところ、手薄にも見えるんだけど……」


「ああ、それはルルの神石研究の成果さ。マクウェルたちに、強大な神石の力を扱うことはできない。その概念を覆したのが、ルルたちが研究している魔導式。魔導式を使うことで少しの力で、強力な魔力を引き出せる。見えないだろうけど、マクエラには強力な結界が張ってあってね。マクウェルじゃないと入れないようになってるんだ。君たちがここに入れたのは、その魔導式の使用者であるルルが一緒だったからなんだよ」


「へぇ、そんなことができるんだ。じゃあ、その結界だけで今は守れてるのか?」


 アストルの問いに、ルルたちは顔をこわばらせた。

 何か、まずいことでも言っただろうか?


「……それだけじゃ、もちろん不可能ルル」


 ルルは立ち上がって、窓から外の景色を眺めた。遠く……先ほどシルゼンたちが入って行った森の方を見ている。


「さっき、君たちもリベランティス王子に会ったルルね?」


 3人は頷いた。


「彼は、このマクエラ王家の第8王子ルル。たくさんの兄君、姉君に囲まれて育った末の王子で、王家でただ独りの戦闘型マクウェルでもあるルル。王族でありながら、自ら騎士になる道を選び、カルラの生まれ育ったルドの村が攻撃された時も戦いに参加していたルル。リベランティス様は、マクウェルの中じゃ一番強かったと思うルルよ?……それでも、サイモアには敵わなかった」


「それで……どうしたんだ?」


 ルルは唇を噛むと、悔しそうに、震えた声で言った。


「ルルは魔導式の研究をしていたルル。幼いころから、リベランティス様はよくルルの研究室に忍び込んで、勝手に資料を盗み見ていたみたいなんだルル。…その中に、使っちゃいけない魔導式もあったんだルル。あまりに危険だから、処分しようと思っていたルル。でも、緊急事態だから、その魔導式の存在を知っていた王子は自分にそれを使ってほしいと……。言われたって、絶対に使うべきじゃなかったルル!それなのに、解決策がそれしかないから……使ってしまったんだルル。ルルのせいで……ルルがあんなもの作らなければ……」


 ルルは言葉を切った。

 見かねたグレイが続きを引き取る。


「……リーベは、欠陥のある魔導式を自分にかけさせたんだ。神石を直接体内に取り込み、身体の一部に融合させる……。強い力を得た代わりに、ひどい副作用がでるようになってしまった。リーベのおかげで、マクエラは守ることができたし、助かったルドの仲間たちもいる。だけど、リーベは時々力を抑えきれなくなって暴走を始めるようになってしまった。そうなったら、敵も味方も関係なく傷つけてしまう。それを恐れたリーベはああやって国を出て、ここが危なくなった時だけ助けに来てくれてるんだ」


「みんな、リーベのこと好きだ。だが、恐れてる。好きだけど、力怖い。リーベも、みんなのこと好きだ。だから、出ていった。みんな、傷つける怖い。リーベ、優しい。だが、リーベ自分傷つけてる」


 カルラも悲しそうに窓の外を見た。


──みんなを守りたい。


 その気持ちはアストルにも痛いほど分かる。

 そしてその気持ちが、必ずしも最善の道ではないことも。


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