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アルタジア  作者: 桜花シキ
第3章 古代文明マクエラ
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滅びし村ルド

 シャンレル制圧の一週間前、サイモア軍第三隊隊長だったシルゼンの元に、ザイクが現れた。


「グレゴルド隊長、少しいいかな?」


 ザイクは、笑みを浮かべて言った。


──この人は、形でしか笑わない。


 ザイクの元で働いてもう十年は経つだろうか。その間に気づいたことだ。


 彼がこういう風に笑うときには、決まって良いことがない。


「……何でしょうか?」


「君は、現在我が国が持つ、世界の拠点を知っているかな?」


「闇の大陸は、ここサイモア。それから、覇の大陸はキルディア、和の大陸は陽月国の陽側。あと……古の大陸はフェルムンド、ですか?」


 ザイクは満足げに頷いた。


「さすがだな。それで話というのは、古の大陸フェルムンドを任せていた第四隊からの通信が途絶えた件だ。第四隊には、拠点拡大のため古代文明マクエラの制圧を任せていた。あそこに巣食うマクウェルたちが、いくらあがいたところで我々に勝てるはずもない。──しかし、どういう訳か音信不通になっている。君には、その原因を探り、マクエラを制圧する命令を下す。分かったな?」


 このあからさまに作った笑顔の奥に、何か恐ろしい化け物がいるような威圧感。

 ノーとは、言えなかった。






 次の日、シルゼンは第三隊を引き連れて古の大陸へと旅立った。


 三日ほどかけてようやく古の大陸の大地を踏みしめた時、その足元に広がっていたのは赤い血の海だった。


──ここは、マクエラの手前……ルドの村だ。


 家は跡形もなく破壊され、マクウェルたちの亡骸があちこちに見られる。

 見たところ、生存者はいない。全滅……もしくは、どこかに避難したのだろうか?


「第四隊でしょうか?」


 兵士のひとりが言った。


 よく見ると、サイモア兵の軍服を着ている者も見受けられる。サイモア軍とマクウェルが戦った跡だ。

 第四隊は、マクエラ制圧を果たそうとした。マクウェルたちは、それに抗ったのだろう。


──しかし、第四隊との連絡は未だにつかない。


「行ってみよう、マクエラへ──」








「──それで、マクエラはどうなったんだ?」


 アストルは真剣にシルゼンの話を聞きながら尋ねた。


「ルル~、立ち話もなんだし、いったんマクエラに来てみるルル?実際に見てもらった方が早い気もするルル」


 サーネル教授の提案に、カルラは断固反対した。


「人間、マクエラ入れるのか!?他の三人ともかく、この男まで……カルラは嫌だ!」


 そう言ってシルゼンを指さす。


「カルラ……。う~ん、でも確かに君まで連れていくと面倒なことになるかもしれないルルね。あの一件で、サイモアの人間を特に嫌がる仲間が増えたルルから……」





──じゃあ、こいつはオレが預かっとく。それなら、いいか?


 突如、どこからか声がした。


「お~っと、危ないぜ!!」


 上を見上げると、人が降ってくるのが見える。そして、避ける間もなくきれいにアストルめがけて着地した。


「ぐえっ!」


 べしゃっ、と地面に顔がめり込む。


「わりーな!大丈夫か~?」


 へらへらと笑いながらアストルを見下ろしているのは、すらりと背の高い青年マクウェルだった。シルゼンほどはないものの、この身長の割に軽かったのが唯一の救いだ。


「アストル!?」


 クローリアとリエルナが心配そうに駆け寄る。


「アストル、顔みせて!私、治すから」


 リエルナは色白な手を胸の前で組むと、意識を集中し始めた。


「アルタジアの加護を……怪我回復ハートレストア


 リエルナの髪飾りが赤く輝く。その光は、リエルナの祈りに応えるようにアストルを包み込んだ。


──怪我が……治っていく?


 信じられないような顔をしながら、アストルは起き上がる。


「すごいな……本当だったんだ」


 リエルナの力を見て、サーネル教授は興奮したように話し出した。


「ルル!そんなの見たことも聞いたこともないルル。ぜひ、話を聞かせてほしいルル!」


「ルル……落ち着いてよ。この通り、ルルはその子の力に興味があるみたいだ。教授は遺跡の調査と神石の力の研究をしていてね。ちょっと協力してあげてくれるかな?」


 グレイが困った顔で言った。


「えっと……あの、私……」


 戸惑うリエルナ。それに割って入るように、さっきの男がしゃべりだす。


「お~い!おいおい、オレのこと無視?そりゃねぇだろ。仮にもマクエラの王子なんだぜ?」


「王子の欠片も見えないよ、リーベ」


 グレイがぴしゃりと言い放った。


「リーベ!お前からも言ってくれ!出ていけ、言ってくれ!」


「おいおい、カルラ話聞いてなかったのか?こいつは、オレが預かっとくって言ったんだ」


 ちょっと待て。さらっと言っていたが、さっき降ってきた男が……王子?


「ルルも聞きたいことあるみたいだし、あんたたちも用があるならルルについてってくれ。こっちは、マクエラに帰れない者同士、野営といこうや」


「え、王子なのに帰れないって……」


 シルゼンを引っ張るようにして去っていこうとする男に、アストルは問いかけた。

 男は顔だけ振り返ると、笑って言う。


「ちょっとやんちゃなのさ、オレは……」


 よく分からないことを言って背を向けた。その背中に、いつの間にかまともに戻ったサーネル教授が言葉をかける。


「リベランティス様……申し訳ありません」


 それを聞いてリベランティスと呼ばれた男は頭をかいた。


「それ、もう言わなくていいって言ったろ?ルルのせいじゃない。オレが無理やり頼んだんだから」


 サーネル教授は、その背中が見えなくなるまで見送っていた。


「──じゃあ、行くルルか。マクエラへ……」


 サーネル教授はその道中、無理に明るく振る舞っているようにも見えた。グレイはそれを悲しげに見つめ、カルラはまだ不服そうに口を閉ざしている。


 古代文明マクエラ……その歴史は何を語るのだろう?

 マクウェルたちは、何を背負って生きてきたのだろう?



 滅びし村──ルド。

 アストルは、シャンレルのことを思い浮かべた。



 世界には、ほかにも同じ状況の国があるのだろうか?


 あまりにも、自分はまだこの世界のことを知らない──


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