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アルタジア  作者: 桜花シキ
第11章 最終決戦
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戦いの先に待つもの⑤

 先手をとったのはゼロだった。

 

暗黒ダークネス


 ゼロがそう唱えると、黒い小さな球体のようなものが彼の両手に出現する。アストルはとっさに防御態勢をとったが、放たれたそれはアストルの両脇を通過した。

 ゼロがまず狙ったのはアストルではなく、その後ろで構えていたクローリアとニトだった。黒い球体が直撃した2人は、そのまま後ろの壁に激突する。


「クローリア!ニト!」


 アストルは2人の様子を確認するために振り返った。壁に叩きつけられた2人は床に倒れたが、何とか起き上がる。


「っ……僕は大丈夫」


「あたしも、何とか……」


 とりあえず無事であることに安堵したアストルだったが、息つく暇をゼロは与えてくれない。


加速アクセル


 彼は、すぐさま次の攻撃に移る。次に狙っていたのは、リエルナだった。


「リエルナっ!」


「きゃっ!」


 アストルは瞬時にリエルナとゼロの間に立ち、防御壁バリアウォールを張った。赤い光を纏いながら突進してきたゼロと、アストルが張った防御壁バリアウォールがぶつかり、衝撃波が広がる。

 それでも、何とかゼロの攻撃を防ぎ切った。


「防ぎますか」


 ゼロは後ろに宙返りし、体勢を立て直す。


「ごめんなさい、アストル……」


 リエルナが申し訳なさそうに謝った。アストルは首を横に振り、リエルナに頼む。


「リエルナは、クローリアとニトを診てやってくれ。それから、危なくなったらすぐ防御壁バリアウォールを張るんだ。クローリアとニトは、隙があったら俺をサポートしてくれ」


「うん、分かったの」


 リエルナは頷き、クローリアとニトに駆け寄った。

 アストルは、目の前で強化フォースを使用し、自らの力を増幅させているゼロと対峙する。険しい顔をしたアストルとは対照的に、ゼロは何の感情も表に出していない。それゆえに、彼が何を考えているのかは分からなかった。焦っているのか、はたまた余裕なのか。

 しばらく互いを観察していたが、やがて2人はほぼ同時に動き出す。


加速アクセル


空波撃くうはげき!」


 2つの力が、激しくぶつかり合う。バチバチと赤い火花が散る。しかし、その力は相殺され、2人は後ろに飛びのき間合いを取った。

 そして、着地してすぐに次の攻撃を放つ。これも、ほぼ同時だった。


激流波げきりゅうは!」


怒りの火炎ラスフレイム


 アストルの放った水流と、ゼロの炎が激突する。その衝撃で水は蒸発し、あたりに熱された空気が漂う。息が吸い辛い。

 しかし、そんなことはお構いなしに、ゼロは間髪入れずアストル目がけて突っ込んでくる。

 

接近ステップ加速アクセル


 急接近したかと思うと、アストルの目の前で床を強く蹴り、急加速した。そして、そのままのスピードでアストルに強烈な体当たりを食らわせる。とっさに腕を前でクロスさせてガードしたものの、アストルは後ろの壁まで吹っ飛ばされてしまった。


「っ……」


 壁に叩きつけられ、アストルはすぐには動けない。そこに追撃しようとするゼロの前に、回復を終えたクローリアとニトが立ちふさがる。


「リエルナ、アストルを!」


 クローリアはそう叫び、ニトと共にゼロに攻撃を仕掛ける。


連射マシンガン!」


「大人しくしてってば!」


 アストルに接近しようとしていたゼロは、その攻撃をかわしながら後ろに下がる。しかし、すぐに体勢を立て直すと、まずニトの鎖を軽々かわしながら彼女に接近し、強く蹴り飛ばした。ニトは吹っ飛ばされ、床に倒れて動かない。

 ニトに駆け寄ろうとしたクローリアだったが、今度はゼロが彼の方を向く。クローリアは急いで双銃を構えて弾丸を放ったが、ゼロはそれを短剣で弾き、クローリアに接近する。そして、ニトと同じように蹴り飛ばした。クローリアは壁に激突し、ずるずると背中を壁にこすりつけながら床に座り込んだ。


「……ありがとう、リエルナ。もう大丈夫だ」


 そんな2人の様子を、歯を食いしばりながら見ていたアストルの治療がようやく終わった。再び立ち上がったアストルを見て、ゼロはリエルナへと視線を移す。


「回復されては終わりませんね。そちらからいきますか」


 ゼロはリエルナの力に気がつき、回復役から潰そうと攻撃を仕掛ける。


「リエルナ!」


 アストルの声に反応し、リエルナは先ほど言われたことを思い出す。


「うん!防御壁バリアウォール!」


 リエルナはゼロの攻撃を受ける前に、防御壁バリアウォールを張った。ゼロが振り下ろした短剣はそれに弾かれ、リエルナには届かない。

 カラン、と折れた短剣の刃は床に落ちる。ゼロは後ろに下がり、手に持っていた折れた短剣の持ち手を捨てた。


「これを壊すには、少々時間が足りませんか」


 リエルナの防御壁バリアウォールの強度に、ゼロはリエルナのことをひとまず諦めた。回復される前に、アストルを倒すことにしたようだ。スペアの短剣を取り出し、再び構える。


強化フォース


 そして、効果が切れた強化魔法をかけ直す。

 そんなゼロと向き合いながら、アストルは聞いてみたくなった。


「お前は、国を壊すやり方をどう思うんだ?」


「俺は、ザイク様に従うだけです」


 何となくその答えは予想していたが、アストルにはどうしてそこまでザイクに忠実なのか、そこが腑に落ちなかった。どうして、自分のすべてをかけてザイクを守ろうとするのか。このゼロという男は何者なのか。


「どうして、お前はそこまであいつに……」


 強化を終えたゼロは、アストルが言葉を言い終える前に短剣で斬りかかってきた。それをかわしながら、アストルはさらに尋ねる。


「自分に従わない国を破壊して……それで、あいつは満足なのか?」


 その言葉に、ゼロは突然短剣を振りかざすのを止め、バッと勢いよく後退する。


「……ザイク様は……本当は……違う」


 ゼロは、急に何かぶつぶつ言いだした。様子が変わったことに、アストルは驚く。


「ゼロ、何か知ってるなら……」


 しかし、ゼロはすぐに首を横に振り、短剣を構え直す。


「俺は……あの人に従うだけです」


 そう言って攻撃を再開したゼロだったが、急に集中力を欠き始めていることに、アストルは気がついた。さっきまでは、攻撃に無駄がないように感じられたのだが、今は違う。攻撃回数が増えた上に、先ほどと比べれば当たりが悪い。魔法の使用頻度も高くなっている。しかし、そのことに本人は気がついていない。


 戦いは持久戦にもつれ込む。戦歴で言えば、ゼロの方が格段に上だ。しかし、魔力には限りがある。その打ち合いになった場合、アストルの方が有利だった。アストルといえど使用量には限度がある。しかし、アルタジアの子孫であり、その上、その身がほぼ神石と相違ない彼が一度に使用できる魔力の量は、世界で最も多い。

 次第に、ゼロの魔力が落ち始めた。それに対して、アストルにはまだ余力がある。ゼロは再び強化しようとしたが、魔力が足りないのか上手くいかず、一瞬の隙が生まれた。


「はあっ!」


 そこに放たれたアストルの蹴りが、ゼロに綺麗に決まる。強烈な蹴りのダメージは大きかったはずだが、ゼロはまた立ち上がろうと足に力を込めた。アストルも、それを覚悟して反撃に備える。


 しかし、立ち上がろうとしたゼロが、かくんと床に膝をついた。ゼロは無表情ではあるが、そんな自分の状態が理解できないのか、首を傾げて両手を見つめている。

 明らかに、体力の限界だ。魔力を使うには、かなりの体力を消耗する。アストルやリエルナなど特殊な立場にある者なら、ある程度魔法を形成するために使う労力は軽減されている。しかし、そうでない者が魔法を使うとなれば、その労力はアストルたちの比ではないのだ。ゼロも、それは例外ではない。


「ぐっ……アストル、どうするの?」


 意識の戻ったクローリアが、膝をつくゼロの方を見る。これ以上やっても勝てないことが分かっているのか、そこから戦闘意欲は感じられない。


「もう十分だろ。これ以上は……やらなくていい」


 アストルはゼロを壁際まで運び、そこに座らせた。立ち上がろうとしたアストルの腕を、ゼロが掴む。身構えたアストルだったが、ゼロは攻撃してくる様子はなく、何か訴えたそうにアストルの方を見ている。

 隣で片膝をつくアストルの耳元で、ゼロは何かを囁いた。その言葉に、アストルは目を丸くする。


「ゼロ、お前……」


 アストルは小さく頷くと、壁にもたれかかるようにして座るゼロの傍から離れた。


「リエルナ、クローリアとニトの怪我を治してやってくれ。ここから先は、俺だけで行く」


「アストル、僕も……っ」


 立ち上がろうとしたクローリアだったが、傷を押さえ、再び座り込む。


「クローリア、その怪我じゃ無理だ。それに、誰かがゼロを見張ってないと駄目だろ。また動かれたら、俺も困る。リエルナじゃゼロの相手はできないし、ニトは完全にダウンしてる。何かあった時、どうにかできるのはお前だけだ」


 ゼロは今のところじっとしているが、邪魔をしてこないとも限らない。

 クローリアは、傍で倒れるニトと、自分の怪我を見て今自分がすべきことを理解した。


「……そうだね。この怪我じゃ、君に迷惑がかかる。僕は、僕にできることをするよ。こっちは心配しないで。任せたよ、アストル」


「ああ」


「気をつけて……アストル」


 クローリアとニトの傍で治療を開始しながら、リエルナはその背中を見送った。


「ああ、行ってくる」


 ゼロが守っていた道を進み、ようやくアストルは“彼”が待つであろうその部屋の扉の前に立つ。そして、後ろにいるクローリア、ニト、リエルナ、ゼロの姿をもう一度目に焼き付けてから、その扉を開いた。


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