第3章:ゆうこ
エンジェルちゃんはようやく、ゆうこさんに出会うのか?
さぁ~ うちも、けっこう思いつきで書いてますので(笑)
どうぞ楽しんで読んでくださいね!
朝。
目が覚めて、まだ寝ぼけている自分の目で見ている部屋は、まるでまだ夢の世界のようだった。なんていうか、ここから離れるっていう寂しい気持ちが、さっき見た変な夢?それとも悪夢みたいな感覚を与えている。
ベッドから上がって、ベッドの下においている鞄を整えて、チャックを合わせる。
「今からは、みんなが起きる前に朝ごはんを食べて、手紙と小石を置いて、自転車でゆうこに会いに行くことしかないのね・・・」
独り言をつぶやいた。
昨日は思い出になるようなものを鞄に詰め込んだ。
たった数枚だけの写真とか、ホークから貰ったCDとか、お婆ちゃんから貰った本とか、そんな物をね。
こそこそと台所に行って、シーリアルとフルーツを一人で食べた。
洗面所に戻って、顔を洗い歯を磨き、髪の毛を整えた。
そして、孤児院を出た・・・・。
自転車は孤児院の前のレンガ壁においてある。
私は、好みなのでワンピースしか持ってない。ワンピースで自転車を乗るっていうのは、簡単な事じゃない。下着が見えているって気がしてて仕方ない。ホークと一緒に自転車でどっかに行ってる時には特に気になってて、恥ずかしすぎる。
でも、ホークはまあ、男だけどけっこう紳士っぽいから、何も言わないでくれる。
でも、絶対見てた。
自転車で走り出して、涼しいそよ風がふわふわとした茶色の兆発と揺らしている。
目的場所につくまで、まだまだ長い時間がかかりそうだ。ほぼ2、3時間くらい自転車を乗って行きそうだ。
しばらく走っていたら、昨日行ったショッピングセンターの街に近づいているのだった。
ホークは多分今、お父さんのCDショップの前でギターを持ち、歌っているんだろう。
もう二度と会えなくなるとすれば、ホークは私の事を、嫌いになるのかしら・・・。
やだ・・・涙が・・・。
何年も暖かくしてくれた、大切な友達とは、もう二度と会えないとか。
やだわ・・・・。
え・・・・・!!
なんで?なんで?・・・!
数メートル私の前に、とうの友達が、木の柵の上に座っている。
なんでここにいるんだよ!
っていうか、よりによって、どうして今日に限って、ここにいるんだよ!!
通れない。話しかけらずには、通れない。どうしよう・・・。
あ!しまった!見られた・・・。
ホークは笑顔で、どんどんと近づいていく私を見ている。
「HEY!」
手を振られ、呼びかけられた。
作り笑顔で私は、その挨拶を返した。
「Hawk?! What are you doing here?」
どうしてここに?って。
自転車を止めて、ホークの真ん前に立っている。
ホークは笑顔のまま、私の目に見つけている。
「No special reason. How come you’re here?」
べつに、たまたまだ。エンジェルこそ、なんで?って。
これは・・・何て答えればいいんだろう。
嘘をつくことに、慣れたくないな・・。
その瞬間、ホークが、私が抱えている鞄を見た。けっこう重くなってきた鞄は、どう見てもいつもの日常の用事のためじゃない。
ホークも気づいている気がする・・・。
「You goin’ somewhere?」
私をみた。どっか行ってるか?って。
「Ah…yeah. I’m gonna see a friend of, of Sister Judy.」
これ、言っても大丈夫なのかな?分からない。でも、どうしても嘘をつきたくないから・・。
「What’s with the big bag? You gonna be gone for long?」
何だその鞄?長い間帰らないのか?って。
実際は、その言葉通りなんだけど、何て・・・・。
「えっと・・・ごめ・・あっ」
慌てて日本語になってしまった。
ホークが笑った。
「I…I dunno.」
分かんない、って。これって、嘘?いつ戻れるかどうかは、分からないけど。
「Hey…, you…OK?」
ちょっと心配しているような目をしているホーク。大丈夫かって聞かれる時は、真相はどうであろうと、大丈夫って答えるしかないって、最近気づいてしまった。
「We’re, OK? Right?」
俺たち・・・、大丈夫だよね?って。 昨日の事が蘇る。
「Yeah…I’m sorry, but I gotta get going…」
うん・・・。ごめん、私そろそろ・・・。
心配と哀しみがホークの目から放っている。
これはつらい。
「OK…See ya」
「See ya」
この言葉は、『またね』と同じ意味している。また会おうね、みたいな。
それなのに、もう二度と会えないと知っている時ほど、この言葉が似合うシチュエーションなんてない気がする。
いつかはきっとまた会えるはず。
自転車のペダルをひらりと踏み出して、ホークと、この街を後にして行った。
彼は、分かってしまったと思う。
今日から、遠くな場所へと行く私の秘密を、なんとなく、分かってしまった気がする。
いや、どこに行ってるとかは、分かる訳ないけど、なんか、その寂しさにあふれている目を見たら、なんとなく、何かが分かってしまったと思う。
しばらくしたら、回りの景色は、野外やら・・・野外ばっかりである。
行ってる場所は、私の地元よりはちょっとだけ都会と言えるほどの、大きめの街のカフェ。
私は、あそこに行った事がない。
ゆうこさんと出会った時、何て言えばいいんだろう。
お婆ちゃんの事とか、私を、日本につれて欲しいっていう事とかも。
そう。もう、決めたと思う。日本に行く・・・。いや、日本に帰る?って言った方がいいかな。日本にいた覚えがないんだけどね、まったく。
そう思えば、実際に、日本にいた事もないかもしれない。
母と父は、どうして私を捨てたんだろう。
もうこれは泣かないけど。顔すら覚えていないこんな私だし。母と父の事は、何も覚えてない。もやもやとした思い出さえも残っていないし、捨てられたことには泣く事はない。
でも、時々、少しだけ、気になる事はあるけどね。
覚えていない人たちだし、悪く想いたくないから、なんかの事情があって、私を孤児院に預けておいて行くしかなかった、って事にしている。
1時間がたって、私の横を通ってゆく車などで騒がしくなっている道路をまだまだ走っている。あと30分くらいでつきそう。
☆
予想以上に早く街についた。
店だらけの都会みたいな街で、私の愛おしい地元とかまったく違う風景。
知らない人ばっかりで、でも純粋なアメリカンばっかりじゃなくて、様々な顔をしている人たちである意味で、素敵だと感じた。
きっとさ、私はもし、本当に日本に行けたら、まったく違い感覚なんだろうね。
今までと違った目で見つめられるんだろう。
あくまで多分だけなんだけど、もしかするとね、日本にいる日本人は、どう見ても日本人で、アメリカに来る日本人は、どう見てもアメリカ人だ。
なんか、そう、そんな風に見つめられたら、どんな気持ちになるんだろう・・・。
今思うと、少し寂しく感じてしまいそうなんだけど。
今まで私は、アメリカ人だったから。
疑う事はないと言えるほど。
誰からどう見ても、私はずっと、アメリカ人だったから。
街に迷ってしまいそうになってたら、真っ直ぐ目の前には、ゆうこさんとお待ち合わせするカフェがあるのだった。恥ずかしい・・。目の前にあるのに、気づかなかった。
まだまだ時間がある。3時ごろから待つって手紙に書いてあったし・・・。
でもよかった。これで少しだけでも、ゆうこさんに、どう、何て言えばいいのか考えられるから。
まだ時間くらいがあるので、自転車を乗って、なんとなく見つけた公園にたどり着いてきた。わりと、大きいのだった。
やばい・・迷子になっちゃいそう・・。
私の静かな田舎の地元に比べると、ここはニューヨークって感じがする。
一人だとちょっと怖いわ、ここ。
自転車を降りて、ぼんやりと公園を歩いている。
公園の真ん中にある噴水を見つけ、側にあるベンチに座る。
やっと・・・静かだ。
騒がしい場所には、まだ慣れていないって改めて想い知らせられた。
大きくため息を吐いて、噴水から流れている水をぼんやりと見つめている。
髪の毛が涼しい風に揺らし舞わせられて、目をつぶって、またため息。
「Hey」
知らない声にうろたえられた。
目を開けて、目の前には若い男性が立っているのだった。
日本人らしい顔をしているから、ちょっとびっくりしたので思わずじっと見つめた。
彼は軽く微笑んでいる。
そして、勝手に、私の隣に座った。
誰?
「あの・・・?」
「What’s your name?」
「あの・・、エンジェルです。 あなたは? あ、すみません。ちょっとビックリしました
ので・・・」
彼は、戸惑った顔をしている。
「Ah.. Sorry, I do not speak Japanese. OK? Just English…」
外国人と苦労して喋っているようなはっきりとした発音で、初めて喋られた。
「あ・・Sorry, I thought…ah sorry…」
そしたら、彼は安心した柔らかな笑顔になったのだ。
「Oh good! You speak English. So how come you speak Japanese?」
あーよかったー。英語喋れるんだな。どうして日本語が出来るの?って、聞かれたら、なんだか不思議な気分になった。どうしてって?それは、むしろ、こっちの台詞じゃないかと思うくらい、彼の問いにちょっと驚いた。
「You don’t speak Japanese?」
日本語ができないの?って、普通に微笑んで問いかけてみた。
彼は笑った。
「Nah…I just look like this. D’ya come from Japan then?」
いやぁ、俺は単純にこんな顔をしてるだけ。そうぃや、日本から来たのか?
この話は、とても初めてで、彼が問いかけてくる質問の一つ一つに驚き続ける。
彼は、どう見ても、日本人の顔をしている。私もそうだけど、日本語の喋れない日本人と話すのは、生まれて初めて。
「Ha ha! No, no. I…, I’m just bi-lingual. Are you a mixed blood? Half Japanese?」
はは!いやいや。私は・・・私はバイリンガルだけでね。 あの・・、ハーフですか?日本人
とのハーフですかね?
「Nah.., my Mom’s from Japan, my Dad’s Japanese born in America. But I can’t speak a word of Japanese.」
いやぁ~、お母さんは日本から来て、で お父さんはアメリカで生まれた日本人なんだ。
日本語は、まったく喋れねぇんだけどだ、俺。
この人は、どう見ても日本人なのに、完璧にアメリカンだ。
きっと彼から見て、私も、どう見てもアメリカンなんでしょうね。
こういう話をするのが始めてで、ちょっと面白い。
彼は笑っている。
私は、そういえば、人生初めて、直接に日本人の男性を見ているかもしれない。あ、いや、本当にそうなんだね・・。私の小さな街には、日本人は私とお婆ちゃんしかいなかったし・・。
比べられるものはないんだけど、私からしては、この人はわりといかしている・・・っていうか、かっこいい。
とにかく、笑顔がいい。
髪型も、スプレイで立たしていて、けっこうお洒落なセンスがあるみたい。
やばい・・・、こんな笑顔のいい人って、初めてみた。
何歳だろう・・・。
「So…Sorry to ask again but, what’s your name?」
ところで、二度と同じ事聞いちゃってすまんけど、君の名前は?
なぜか、私は顔が赤くなったと感じた。
「Ah.., Sorry. I’m, Angel.」
あ、すみません。私は、エンジェルと言います。
彼はなぜか、私の名前に驚いたかのような顔をしている。
「Angel?? That’s a unique name. But it’s pretty. I’m Hilo.」
エンジェル??珍しい名前だな。でもなんか綺麗だね。俺は、Hiloっていうんだ。
「Hilo? Not, Hiro?」
日本語と英語の発音の違いは難しいって改めて思った。
「My Mom said ya can say it either way in English. But, if I say Hiro, it’ll sound like I came out of a comic or somethin’.」
お母さんが、英語だとどっちも言えるって言ったんだけど・・。でもなんか、俺の名前はヒロって言ったら、コミックか何かから来たみたいに聞こえるじゃん。
「AHAHA!」
ちょっと、笑っちゃった。ヒロ、ヒーローって。
「Hey, don’t laugh!」
笑うな!って、彼がその命令とは対照的に、一緒に笑い出だしてしまった。
「いいじゃん、ヒーローで。。Ah, sorry…AHAHA!」
自分が日本語に変えてしまった事にも、同時に笑い出した。
なんか、楽しい。
しばらく話し合ってて、さっきの「誰だこの人!」という違和感がいつの間にか、
親近感に変わってきた気がする。
その所為か、Hiloは少し近づいてきた。あれっ!なんだこの、違和感?
私の目を見つめ、Hiloは口を開けた。
「Angel…., you wanna go out?」
ちょっと待って!俺と付き合わないか?って。何だそれ・・・。
あんまりにも驚かされて、口から言葉が出せなくなった。
「へ?・・・」
「Ahaha! My Mom does the same expression! What’s wrong?」
俺のお母さんもさ、同じ仕種するんだ! どうした?。
どうした?って・・・。
「Have you, got a boyfriend already?」
今、彼氏いるのか?って、なんだか少し凹んだような目をしているHilo。
「えっ・・・No....I, haven’t but.…」
いや、いない・・けど・・・。
ふいにその瞬間に頭に浮かんだのはホークの顔だ。彼氏じゃないけど、好きなのかとかも、分からない。でも、なぜか、ホークの顔が、脳裏を過ぎった。
「Then…, let’s go out?」
じゃあ、俺たち付き合おうよ。
そ、そんな・・・ っていうか私明日からもうここに居ないかもしれないって言うのもあるん
だし・・・。
これはどうすれば・・・。
「I…, I …」
頭を下げて、なんて答えればいいか焦って考えていたら、ぼんやりと見ている膝の上に抱えている手を、ぱっと捕まえられた。頭が熱くなって、心臓がドキドキとしてきた。
頭を上げて、チャラながら、若干優しい目をしているHiloを見上げた。
「I…, might not be here tomorrow…」
明日には、もうここにいないかも。
その言葉に、Hiloは目を大きくして、驚いたようだ。
「W, What d’ya mean “You might not be here tomorrow? ! You’re not…, I mean, ill or something, are you?」
『もうここにいない』って?!どういう事?あ、もしかして、いや、まさかだけど、体調、
悪いのか?
どうやら私は言葉遣いが苦手なようだ。
「Ah!…. No, no! I mean, I, I might be in Japan tomorrow.」
あっ! あ、いや! っていうか、明日は、日本にいるかもしれないから・・・。
そう言ったら、Hiloはなんだかかかなりホットした目をした。
「Oh! Really? That’s, too bad… But, what d’ya mean, “might be in Japan”. Ya mean, you still haven’t decided yet, right?」
おっ!本当に?そりゃ、残念だったな・・・。待て・・、『かもしれない』って、まだ決めてないって事だよな?って。
まあ、実際はその通りなんだけどね。
「Well, I…guess so..」
まあ、ね・・。
彼は急にチャラ笑顔になってしまった。でも、なんだか好き。なんでかな・・・。
「If you decide not to go, come back here, to this park, OK?」
もし、行かないと決めたらな、ここに戻って?
そ、そんな・・・。でもなぜかキュンと来た。
でもまさかそんな約束を・・。
「I’m not letting you go until you say “Yes”.」
『いいよ』って言ってくれるまで、行かせないよ。
チャラ・・・。
「OK.」
って、何言ってるんだ、私!でも、仕方がないので。
彼は笑顔になって、ずっと掴んでた私の手をやっと離してくれた。
私はベンチから立ち上がり、最後に彼を見た。
お互いに笑みを浮かべた。
「See ya」
って、私は別れ挨拶を告げた。って言っても、またね、っていう言葉で・・・。
「I hope so」
だといいな、って。
やばい・・。なんだこの人・・・。口上手すぎるじゃないですか。
きっと、いろんな女の子にも、同じような言葉を言ってきたんでしょうね。
でも、それでも、なんだか嬉しかった。
手首時計を見て、そろそろ時間になっているのだった。
ゆうこさんに、出会う時間に。
自転車を乗ったまま、公園と、Hiloを後にして行った。
今は冬だし、朝はかなり寒かったけど、午後になってやっと少し温まってきた。
時間まであと数分だ。
おろらく、ゆうこさんはすでに待ち合わせのカフェについて、待っているかもしれない。
どうしよう・・・。私、ゆうこさんは私の事を、少ししか知れないと思うんだけど、
私も、ゆうこさんの事も、何も知らないし・・・。
何て、挨拶すればいいんだろう。
自転車でカフェの前についた。
大きな窓から中に除いて、かなり万人でゆうこさんがいるかどうか、まったく見当たれない。
とりあえず、入ってみようか。それしかやる事もないし・・・。
自転車をカフェの窓においておき、カフェのドアを開けると「ちーん」とベルが鳴った。
周りを見回し、日本人らしい顔を探してみた。
見つからず、窓側にあるテーベルに座った。
そうしてすぐに、ウィトレスさんが私のテーベルに歩いてきた。
「I can take your order?」
お金を持ってきたので、いっそう何か注文しようかな~。
メニューを持ち上げて、焦って読み通した。こういう時はいつも焦ってしまう。だって慣れてないもん。ずっと、静かな生活で、見覚えた街とお店しか、私は知らないから・・・。
「An apple-smoothie, and…, a chocolate muffin, please.」
リンゴ・スムージーと、チョコレートのカップケーキをお願いします。
とりあえず、普通なもので。
その注文を書きうけて、ウェイトレスさんがさらっとキッチンへと歩いて行った。
ゆうこさんは、何処だろう・・・・。
そう、思った瞬間、後ろからドアのベルが鳴った。
ぱさっと振り向くと、そこには、日本人っぽい顔をしているお婆さんがいた。
緊張感が走って、どうしようと思ったら、私のテーベルの向こうにある、窓側のテーベルにゆうこさんが座った。
ゆうこさんが目を回すと、なぜなんだか、衝動的に私はパサっと頭を下げて、もう注文を送ったメニューに目を向けついた。
なんだよ、私!子供じゃないか!話すつもりなのに、なんで隠れているんだ!
私って、バカだ・・・。
話しかけに行こうと思って、立ち上がろうとしたら、ウェイトレスさんがこっちに来ていた。スムージーとカップケーキをトレーに持ってきている。
何も言わず、テーベルに注文した物を置いておき、ゆうこさんにテーベルへと向かって行った。注文を受け取り、またキッチンへと消えて行った。
どうしよう・・・。緊張してきた・・・。
私は、国語を二つもできるのに、喋るのがあんまりにも得意じゃないの。
それでも、ゆうこさんとは、話したい事と、話さなきゃいけない事もあるから、勇気を出して、話しかけてみたいと。
よっしゃ!声かける!
と、自分に気合を出させてみたら、ウィトレスさんがまた注文とトレーを持っててここにきている・・・・。
何だこのタイミングの悪さ・・・。
ゆうこさんのテーブルに、注文したようであるコーヒーが入っているっぽいカップと、クリームケーキを置いて、また次のお客さんの注文をしに行った。
よっし!今こそ!
と、勢いよく思って、立ち上がったちょうどその瞬間、目が合った。
ゆうこは、おそらく、私の日本人の顔に気づき、なんとなく分かってきたのかもしれない。
そしたら、ゆうこさんがゆらりと椅子から立ち上がって、私は静かに椅子に戻った。
こっちに来た・・・。
「Sorry to bother you but, are you perhaps, a friend of Sister Judy? Fuyuko…?」
すみませんが、貴方はもしかして、シスター・ジューディー、芙由子とお知り合いですか?
なんだか、安心と、緊張が同時に走っている。
「あ、わ、私。。そ、そうなんです。エ、エンジェルと申します。始めまして・・・」
なぜか、日本語で話しかけられた事に、ゆうこさんは驚いた目をした。
でも、それが急に、嬉しそうな表情となった。
「日本語が分かるんやな~。エンジェルちゃん。芙由子の、心の娘なんやな。」
その言葉に、ふっと涙目が浮かんだ。
ゆうこさんが、自分のテーベルから、注文した物を持ち上げて、私のテーベルの向こう側にある椅子を取り、私と同じテーベルに座った。
笑顔になったまま、ゆうこさんはクリームケーキの一口を口に入れ込んで、噛みながら話し出す。
「エンジェルちゃんって、ハーフっぽい顔しとるやん。ハーフか?可愛いね~。いや、目鼻立ちとかやなくて、なんか肌色とか、髪色とかかなぁ」
初めて言われた。でも、緊張で黙ってばっかりの私は、何とか喋らなきゃなれない・・・。
「あの、ゆうこさん・・・。伝えなければなれない事があるんです・・・。おばあちゃ・・、芙由子さんは・・」
これは、何て言えばいいんだろう・・・。自分も、とても言いたくない事なのに・・。
「あ!そうや!芙由子はどこ?おるんやな?まだ?」
やだ・・・。どうしよう・・・。
「あ、あの・・・。芙由子ばあちゃんは・・・もう・・・、去年・・・」
急に泣き出して来た私の顔を、ゆうこさんはじーと見つけている。
「もう・・・、先に戻りやがったのかい・・・芙由子・・・」
ゆうこさんの目から、涙が浮かび、すっと手で目を覆う。
「あの・・」
涙を流しながら、私は、何とか言わないといけないって気がして、でも何て言えばいいのか、分からなくて・・・。
「一緒に帰るって約束したのに、帰らずに戻りやがったのか、芙由子・・・」
半分怒って、半分哀しんでいるような顔をしている、ゆうこさん。
さらに手で涙を吹いて、私の泣いている顔を見つけてくれる。
そして、手で私の頬を流れ通している涙を吹いてくれた。
「ほらほら、泣くな泣くな・・・、って、私もやけどな・・・」
って、作り笑いを浮び、鼻をしゅるしゅるとしている、ゆうこさん。
いつぶりか分からないほど、誰かに私の涙を枯らされた。
優しい笑みを浮かんでくれて、ゆうこさんは口を開いた。
「エンジェルちゃんって、いくつになってるかい?」
私のスムージーを、『ほら、飲んで』って促してるかように、私へと動かした。
少し飲んで、ガラスをテーブルに戻した。
「17歳です。」
「17歳かぁ・・・、ええなあ~」
ほんの少し笑い合った。そしたら、ちょっとホットしてきた。
「私の年齢を聞かんでも、ばばあやと分かるやろうけど」と、ゆうこさんが笑った。
「私と芙由子はな、幼馴染でもなく、ただ偶然に出合ったんや。もう・・・、65年も前やけどなぁ。」
「あの・・、芙由子ばあちゃんは、関西から来たんですか?あ、いや、その・・、方言で喋られてらっしゃるんですからね・・・」
ゆうこさんはふふふと笑った。
「いやぁ、関西から来たんは、私だけやねんけどさ。芙由子とは、東京で出合ったんや。
まあ、芙由子も、東京出身やなかったけどなぁ。ここだけの話やけど、乱暴で、暴力的な彼氏から、東京へ逃げて行ったってなあ。」
えっ・・・。そんな話は、私は始めて聞いている・・・。いったいどうなってたんだろう・・・。
これが苦しい・・・。私、お婆ちゃんの事についての、知れることは、全て知っていると思ってたのに、これが、悲しい・・・。
「あ、驚いたかい?そんなん気にすることないんや。ここに来た前、芙由子はちゃんとした、20代の大人の女性やったもんなあ。でも、芙由子は逃げられた。あの人から・・・。」
と、ちょっと寂しそうな目をしてきた。
「あの・・、あの人って、知っているんですか?あ、いや、その・・・、お婆ちゃんの事、知りたくて・・・」
なんか、聞くべきまいって気がしたけれど、やっぱり、知りたい・・・。お婆ちゃんの事を。
「いや・・・、出合ったことはない。芙由子が全てを話してくれただけやけど、あの人の事については、けっして悪口とかせえへんかった。どうしても、『好きだった』とな。でも、逃げたのはよかったと、よく言うてたわ。」
「そ、そうなんですか・・・。」
なんかよく分からないけど、お婆ちゃんって、思ったよりも強くて、すごい人なんだったね、と改めて思えた。
しばらく静けさに沈みかえって、ケーキなどを食べ終わった。
そして、ゆうこさんが口を開いた。
「芸能の女優になりたかったみたい。」
ゆうこはティーを少し飲み、カップを悲しそうに見つめている。
「へ?」
と、しか出せない私が、悔しく感じる。
「歌を覚えて、東京のステージで歌い演じる女優にな。目指していたんや。」
やっと、一つの事が納得した。お婆ちゃんは歌が上手だったのは、やっぱり、これだったんだろう・・・。
「そ、そうなんだ・・・・。あ、あの・・・」
一つだけ聞きたいことが思い浮かんだ。
「お婆ちゃんと、ゆうこさんは、どうして、アメリカに・・・来たんですか?」
ゆうこさんがため息をつい、もう一度ティーを飲んで、口を開いた。
「みつかったんや・・。あの、芙由子の元彼にな・・・。芙由子は、『怖かい、怖い』、って。
どうやら、東京に来た前にも、色んな場所に逃げてきて、やっと無事やと思ったところで、
あいつに見つかられ、また逃げて・・・。」
お婆ちゃん・・・・。
「それで、なんとなく仲良くなった私と芙由子は、アメリカへ逃げた。私の、提案やったけどなぁ・・・。」
またティーを飲み、話を続ける。
「やけど・・・、芙由子は、何て言われても女優になりたくて、いつか、絶対日本に帰るって言うたから、そしたら私も、いつかは、一緒に帰るって約束してあげた。これはもう、アメリカの航空についた後の話やけどな・・・」
そうだったんだ・・・・。
ゆうこさんの話にあんまりにもうろたえたから、思ってる言葉が、口から出せなかった。
「エンジェルちゃんは?」
ゆうこさんがふいにこっちを見た。
「へ・・・・?私って?」
何でしょう・・・。
「どうやって、っていうか、孤児ですかねぇ?」
ゆうこさんは、私がその言葉を言われるのが辛く感じてしまうかのように、私に聞いた。
「あ、私と、お婆ちゃんがどうやって出合ったかって聞いているんですか? そ、それは・・
・私が、赤ん坊の時に、孤児院に置かれて、預けられたんです・・・。でも、お婆ちゃんは、まるで私の本当の家族みたいに、優しく私を育てくれて・・・」
やだ・・・涙が・・・。流れないで・・・。
「あー、そうやったんや。大変やったなあ。ごめんね、エンジェルちゃん、悲しい事、思い出させちゃって・・・。」
「あ、いいえ・・・。私のほうこそ・・。」
頭を下げた。
「何や?エンジェルちゃんはな~にもしてへんやないか。 エンジェルちゃんは、芙由子の
心の娘やで?!手紙で言うてたように、娘が出来たって、言うてたわ!」
「お、お婆ちゃんが、そんな事?わ、私の事?」
「ええ。そうや!やから、哀しむことないで。エンジェルちゃんは、一人やないからさ」
やばい、涙が・・・。
しくしくと泣き始めてしまった。でも、ゆうこさんはすぐに私の頬を流れて通ってゆく涙を、ティッシュで吹いてくらた。
「ほらほら、泣くな、エンジェルちゃん。もう、大丈夫やからね」
と、優しく微笑んでくれた。そのせいで、もっと涙が出た。
泣き止んだら、少し生温くなっているスムージーを飲み、ゆうこさんに聞かれた。
「エンジェルちゃんは、アメリカが好きかい?どう?ここに、いたいか?それとも、私と一緒に、日本に帰ろか?」
「・・・・・・。」
言葉が、出せないのだった。
『アメリカが好きか?ここに、いたいか?』、って・・・。
『日本に、帰ろか?』、って・・・。
私は、何て・・・。
アメリカが、大好き・・・。
日本の事なんか、私は、ほとんど何も知らない・・・。
小説で読んだ物語の中の事々意外には、何も・・・。
だけど、お婆ちゃんは、私に、日本に帰ってほしいって、思ってた気がする。
だって、パスポートをくれたやら、日本語を教えてくれた事もまさか、いつか日本に帰りたいからだったのかしら・・・。
それに、今にいても、私は多分もう二度も、お婆ちゃんと会えないのだろう。
「は、はい・・・。」
「はい、って?何が?」
「わ、私、お婆ちゃんが、私に、日本に行ってほしいと思ってる気がするんです・・・。
ご迷惑をかけたくないんですけど、お願い、私を日本につれて行ってください・・・」
どうでしたか?
感想を、楽しみに待っておりまーす!♥
あと・・・もしゆうこさんの関西弁が可笑しかったりしていたら、そこも、どうか、勘弁してください><(汗)