5枚目『戻ってくる日常』
時間空いた割に短いです。スミマセン。
リハビリが終わり、家に帰った。帰ることができた。
今までのことが夢のように思えるほどに変わっていない。けれども、自分の右肩に目をやると、金属の光沢が服の隙間から見えた。以前ならば、その金属を見るたびに涙が溢れた。それが今では、自分のあたらしい体の一部として認めれるようになった。悲しさや苦しさは自然となくなっていた。
玄関の扉を新しい自分の腕で引いて開ける。
「ただいま!」
大きな声が自分の口から出る。自分でも少し驚くほどに大きな声だった。
「おかえり、千沙」
後ろからお父さんとお母さんが言ってくれる。とても優しげな声で。
その声がくすぐったくて、嬉しくて。家に入ったときに感じる臭いが懐かしくて。
自分の顔が自然と笑顔になるのがわかった。
靴を脱いで家に上がる。
私は、自分の部屋に続く階段を上る。一歩ずつ、確かめるように、噛み締めるように。病院に比べて少し高い階段、少しい大きい目の家鳴り。
階段を上り終え、自分の部屋の前に立つ。ドアに掛けられた『千沙の部屋』というシンプルな木の四角い掛け札がある。これも、変わっていなかった。
ドアノブを何の問題も無くつかみ、ゆっくりと押し開ける。
カーテンが閉まって薄暗い部屋。お母さんが掃除をしてくれていたのか、全く埃っぽくない。
光の漏れ出しているカーテンに手をかけ、ゆっくりと動かす。
沈みかけた太陽が部屋を照らす。その照らされた部屋の机の上に、カバンが置いてあった。あの日のカバン。
ゆっくりと近づいて、ファスナーを開ける。肩越しの振動が、少しだけ懐かしい気持ちにさせる。
中身はあの日のままだった。折れ曲がって読みにくそうになった教科書やノート。折れたシャープペンやボールペン。そして、交通安全のお守り。それを手にとって、私は考える。
――――――これがあっても、事故に遭った。でも、これがなかったら、私は今どうなっていたんだろう……。ひょっとしたら……。
そんなことを考えていたら階下から、
「千沙ー、そろそろご飯よー」
というお母さんの声が聞こえたので「はーい」と返事をして、お守りを机の上に置く。
久しぶりの家での食事。お父さんがいて、お母さんがいて。目の前に、ごく普通の料理があって。
以前と違って、お箸はもう使えない。フォークやスプーンも変な持ち方になる。それでも、一人で食べられるようになった。
お父さんもお母さんも、笑顔でいてくれる。それがなんだかとても嬉しかった。お母さんの料理は、病院食と違って、懐かしかった。
その日の食事中、私たちは皆笑顔だったと思う。何気ない話をして、皆で笑った。
食後、お母さんに手伝ってもらってお風呂に入った後、私はすぐに布団に入る。懐かしい臭い。家に帰ってきてから、懐かしいと思ってばかりだった。
――――――でも、これが私の家だもんね……。
そう思いながら、私は睡魔に身をかせた。また、日常が戻ってくると、その気持ちを胸に。その日常を、ほんの少しだけ、楽しみにしながら。
さて、またもう少しで鬱ゾーンに入るのかぁ……ハァ……。頑張らなきゃいけないのはわかってるんだけどもなぁ……。
いや、頑張りますけどね、投げませんけどね。『途中からはハインケルさんでどうぞ』とか言い出したりはしませんからねw