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第五話

なぜこんなところに父親と名乗る人がいるんか紋乃は理解できなかった。十七年間も姿を現さなかった父親が目の前にいる。そう考えると怒りがふつふつ湧いてくるのがわかった。

「どうして今更」

「仕方がなかったんだ…」

十七年間行方を眩ますことが仕方がないで片付けられるわけがない。むしろその言葉が紋乃の怒りを増幅させる。沸き起こる怒りそれは殺意の直前までに達しようとしていた。

「理由はあるんだ」

 それを察しなだめるかのように父親は言った。立場が逆転しているのが口調ではっきりとわかる。強気で言う紋乃。なだめる父親。普通の家庭ではありえないことだろう。

「理由は?」

 と紋乃は言い放った。そこから感じるのはやはり怒りのみ、他の感情は一切入っていない。強くなって行く雨が現在は紋乃の心を表している気がする。先ほどまではただ不安を増幅させる存在でしかなかったのに。

「母さんのことを調べていたんだ」

 何を言っているんだこの人は紋乃は思う。ほんと今更の話だと思った。十七年前に私を生んで死んでいったという母親。母親が死んでいると院長から聞かされたときはそれほど驚きはなかった。自分を生んでくれた以外はそこら辺にいる他人となんら変わりないくらいの存在、こんな状況をもし境遇する人がその人はやはり悲しむのだろうか、そう思うと全く感情など起こらない自分に嫌気が差した。しかし一つの疑問が紋乃の中で浮かんだ。

「母さんの名前は何て言うの?」

瀬川希せがわのぞみ 希望の希という漢字を使うんだ。良い名前だろう?」

「そう、そうだね」

 その声に感情は混じっていない。良く言えば純白、悪く言えば無感情。この状況は無感情の方がしっくりくるのは実際に紋乃自身もそう思っているからだろう。父親はその紋乃の姿に落胆していた。しかし気を取り直し話し続ける。

「で、本題だが。 この施設に浅倉加奈子がいるだろう?」

 全く予想していなかった名前だけに紋乃は驚いた。母親と浅倉加奈子の何の関係があるのだろうか、なぜ父親は浅倉加奈子のことを調べていたのだろうかと。

「お前は気にならないのか? 母親の死の真相を」

 父親の顔は真剣だが紋乃には全く伝わってこなかった。

「いや、これといって別に……」

「母親の死と君の親しくしていた職員の死が関係あるとしてもか?」

 その瞬間、紋乃の瞳が変わった。その瞳にたじろいだ父親がいた。死を感じた父親がいた。澄んだ黒曜石の色の瞳その瞳は"殺意""狂気""憎悪"を感じれる。誰もが見た瞬間に死を感じるだろう。それがたとえ十七歳の高校生が言ったとしても怖いものは怖いのだろう。

 紋乃は父親を一心に見て歩を進める。背筋が凍り父親は全く動けなかった。今まで一定間距離で話していた二人は段々と距離が縮まっていく。紋乃は目の前に来るが如く、父親を一瞥し

「名前は?」と聞いた。

「瀬川圭吾」

「そう、覚えておく。 偽名だろうけど」と避け再び自室へと戻っていた。

 その場に紋乃がいなくなるなりへなへなと倒れこんだなんだ。偽名だということもあっさりバレてしまい圭吾は今までに感じたことのない恐怖はどんなに不利な状況で諦め死を覚悟した時の比ではないと感じた。

――あれが俺の担当なのか……

 そう思うと少しだけ先が不安になった。俺で大丈夫なのかと思った。ここにいても仕方ないと思い今日は家に帰ろうと玄関を目指した。

 玄関を開けると雨はまだ強く降っていた。もしかしたらさっきよりも強いかもしれない。傘を持っていない圭吾は仕方なく濡れて帰る。「そうだ」と思いついたように顔を上げ闇空を見た後すぐにその場にしゃがんだ。

 次の瞬間、圭吾の周りを黒い薄い膜のようなものが包んだ。一瞬の出来事だったが次に出てきた圭吾の姿は男子にしては長髪の微青の髪の毛の十八歳くらいの少年だった。

 徐にポケットから携帯電話を出すと片手を器用に動かし誰かに電話をかけた。

「野村圭吾ですけど、失敗してしまいました。 とだけ伝えといてください」と言うと通話を切断し闇の街へ消えていった。

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