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第三話

食事を終えた紋乃は自室へ戻ろうと食堂の扉を出ようとしたところで呼び止められた。

声のする方へ身体を向けるとそこには院長(浅倉洋子)が立っていた。何事かと思い近づいてみるとあとで院長室に来て欲しいとのことだった。どうやらここでは妹の加奈子の目が気になるらしいのだ。

なので一言

「わかりました」

と言い、微笑んでおいた。

何だろうと思ったのだがそれはすぐにわかることなのであんまり考えずにしていた。

しかしそこで一つの疑問が紋乃の頭を考えらせた。時間を聞くのを忘れていた。すでに食堂から出てしまっていて再び聞きに行くのも億劫おっくうな感じがしたので適当に行けばいいかなと思い、再び自室を目指した。

しかし自室には戻ったもののやっぱりすることがなく結局ベットに横たわっていた。意識が段々と薄れていくのがわかったがもうあらがうことは出来ず眠りに落ちた。


どれくらいの時間が経ったのだろうかまだ寝惚けている身体を無理矢理起こし時計を見た。

21:00を少し回ったところだった。結局二時間ほど寝ていたのを知った。夜寝れるだろうかと思っている自分に苦笑した。毎回考えることだが結局は寝ている自分がそこにはいるのだ。頭を多少使った所為か幾分目が覚めた気がした。

院長のところへ行かないと思い扉を出ようとしたところで小指をぶつけ蹲った。笑う余裕すらなくただただ痛みに耐えた数十秒間それは苦痛でしかなかった。痛みが引いたときにはもう完全に眠気は覚めていた。良かったのか悪かったのかわからない。再び歩き出そうと左足を出したときまだ痛みが少し残っている。そこでやっぱり悪かったと思う。


長い廊下を左に曲がったところに院長室がある。少し手前まで来たところで院長室から話し声が聞こえてきた。

それは院長と妹の会話であることが声が聞こえることによってわかる。

「なんで――の―――しとくんで―――」

 良く聞こえないそう思うと知らずに身体を潜めながら扉に近づく自分がいることに苦笑した。なにしてるんだろうと思ったが盗み聞きしてでも聞かないといけないと直感で思った。

「兎にも角にも、なるべく早くにお願いしますよ、姉さん」

なんだ終わりかと多少落胆していたのも束の間院長室から加奈子が出てきた。紋乃を見るなり

「あなた!! いつからそこにッ」

と怒鳴りつけてきた。加奈子という人が嫌っている紋乃の言い訳などを聞くわけもないことを知っているので黙って説教を聞いていた。しかし今日は違っていた。黙っていることにも「なんとか言いなさいよ!!」と言われ対応に困った。つくづく理不尽な女だと思った。言えば怒られ黙ってれば怒られなら私はどうすれば良いのだ。あなたは私に何を望むのだそんなことを考えていると院長が「それくらいにしなさい」とそれを止めに入ってくれた。止めてくれなければどれくらいあの理不尽な説教を聞かされているのかと考えるだけでも頭が痛くなった。

通路から加奈子がいなくなったのを院長は確認すると部屋に招き入れてくれた。元々はそのために来たのだが説教の所為でそのことが紋乃の頭からすっかり抜け落ちていた。

院長室に入り見回すと一年前に入ったときと特に変化はなかった。どこかのオフィスの造りのその部屋は必要仕事に最低限以外の物を置いていなかった。院長はその部屋にもう一つある扉に歩いていく。その扉は紋乃にとって未知なる世界だった。院長が扉を開け中に入ると紋乃もその後ろを着いて行きその部屋に入った。

赤を基調としたその部屋は異彩を放っていたが紋乃はそんなにも嫌いじゃなかった。が

多少目が痛いのを感じた。

「そこら辺に座って」

 院長が急に話をしたため辺りを見回していた紋乃は前へと向き直し壁に背を預け床に座り院長の話を聞く体制に入る。床が冷たいと感じたがそれを我慢した。

「明日は学校に行けそう?」

 その言葉に紋乃はどうしようと思ったがこれ以上心配をかけるわけにもいかないので小さく頷いた。「そう」と一言だけ言われ心の奥の感情が読み取られたような錯覚に陥る。身体が熱くなるのを感じた。その後二人は沈黙した。段々と落ち着いてきて紋乃にも頭を回転させる余裕が出来た。何のために私をここへ呼んだのだろうかと思っているとそれを見透かしたかのように院長は再び話題を切り出してきた。

「あなたの父親がお見えになったのよ…」

「えっ……」

 思いもかけなかったその言葉に思わず言葉をもらしてしまう。なぜ今更になって父親が現れたのだろうか全く意図が掴めない。言葉を失っている紋乃を見るも院長は話を続けた。

「あなたを引き取りに来たらしいの……けどあなたが丁度いないときでね、仕方なく帰っていったわ。けど多分も明日も来るって言ってた……」

 最後の方は言葉が小さくなって言ったので良く聞こえなかった。院長はタンスを見て立ち上がった。扉を開けそこから出てきたのは一つの赤いアルバムだった。表紙にはカタカナで『アヤノ』と書いてあり院長が無作為に開けたページには紋乃の写真が所狭しときっちり貼られていた。よく見ればば初めて見る写真ばかりだったが自分の小さい頃の写真はやはり懐かしいとつくづく思う。

「かわいいでしょ?」

 と問うてきた。自分自身ではなかなか答えを出しにくい。反応しないのもあれなので院長の顔を見て微笑んだ。それに対し微笑み返してくれたことが嬉しかった。何気ない時間がとても長く感じとても心地よくもあった。しかし本題はそこではない。なぜ父親が急に私を引き取りに来たのかだった。

「あなたがもし父親の方に行くのならこれをあなたにあげます……」

 表情は真剣だが、その心の奥にある寂しさを紋乃は感じてしまった。私はどうすればいいのだろう。父親、院長、父親、院長。

二つの言葉が紋乃の頭を駆け巡り困惑させる。かけがえのない父親に会ってみたいとは思ったものの一緒に住みたいとは思わなかった。紋乃は決めた。

「そのアルバムは洋子先生がもう少し持っていてくれますか?」

「わかったわ」

「お願いします」

 考えることもなく言葉を理解したのか院長は手に持っていたアルバムを再びタンスを開けしまった。これでよかったのだろうかと思った。自分はやっぱり間違った判断をしてしまったのではないかと。

「じゃあ、話は終わり。今日は早く寝なさいね」

しかしその気持ちはすぐに取り払われた。院長の微笑が一瞬でそんな疑問を吹き飛ばす。そう紋乃は確信した。自分は間違ってないと。……その時は。

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