第二話
施設の中はいつも通り変わっていない。コンクリートで主に構成されているこの施設はどこか古臭さを残している四階建ての建物だ。けれども住む家のない紋乃が文句を言うわけもなく心の中で押しつぶす。
最近、隣町ではストリートチルドレンが増えてきているらしい。そんな中高校にも通わせてもらい帰る家もある紋乃は良い部類に入るのだろう。
再び自室に戻ったところですることなどなく、しょうがなくベットに横たわる。が
時計を見れば15:30を回ったところだった。いつもなら昼寝をする時間だが今日はそんな気分ではなかった。
窓を見た。見えるのは一本のイチョウの木。葉がようやく紅葉をし始めたところでまだ緑の葉が多いがもう少しすれば毎年の様に地面を綺麗な黄葉で埋めてくれるに違いない。子供の頃はそれが毎年の様に楽しみだったのだが、最近では魅力すら感じない。
子供の時の様に何も知らずに生きていけたらどんなに楽だろうと思う。
現実は違う。忘れてしまいたいと思う記憶ほど忘れることはできない。記憶なんてそんなものだ。
そんなことを考えているうちに虚しくなっていくのがわかった。この虚無感、自分はこの世界に必要なのだろうと思うが、結論はすぐに至る。
きっと広大な世界が自分を必要とする時なんてないだろう。必要とされたって一人で何が出来るのか、何も出来るわけがない。
じゃあなぜ自分はこの世界に住み続けているのだろうか
――この世界が好きだから??――そんなことはないむしろ嫌いに入るだろう
――好きな人がいるから?? ――生まれてから十七年恋愛などしたことがない
じゃあなぜ生きている、理由がないのに生きる必要なんてあるのだろうか
疑問は疑問を呼び解決の糸口さえ見せようとはしなかった。
「おねーちゃん!!ごはんだよー」
ドアが開けられその先から光が差し込んできた。気付けば日は暮れ太陽の変わりに月が空を支配していた。
「今日は満月だね」
その言葉に呼びに来た子供は紋乃のそばにすぐやってきて「どれどれー??」と言って来る。
紋乃は優しく「あれだよ」と指をさして教えてあげた。子供は「きれー」と連呼し、無邪気に喜んでいる。
――私はいつからこの笑顔を忘れてしまったんだろうか……
そこでやっぱり昔の様には戻れないと再び痛感させられた。
――私は少し知りすぎた。 何もかもね
自分で思ったことを自分で笑う。涙が出そうになったが流れる寸前、袖で拭った。気付けばいつのまにか子供は月を見るのをやめ静かに紋乃の顔をじっと見ていた。その顔は紋乃と同じで神妙な面持ちだけどどこかが違う。そんな気がした。
「おなかすいた……」
そこで「あぁ、そうか」と理解した。思えば少しばかり空いてるかもと思った。子供の目線までしゃがみ言った。今出来る最大の笑顔と一緒に
「行こうか」
その言葉に元気良く「うん!!」と言うと紋乃の腕をつかみ食堂に連れて行かれた。