2:片思いのお相手
真希の片思い相手は、両親共に医者だった。
医者のひとり息子で、噂によると将来を期待されているらしい。
中学校も名門の私立に入る予定だったが、母親が電車通学を嫌がったため、地元の中学に通うことになったとか。
もちろん、学年内でも人気の高い男子だった。
「田宮〜」
休み時間になると、男子達は彼の方へ群がる。
田宮 伊央は、男子にも好かれている。
「田宮ってかっこよくない?」
「本当に。優しいしねー」
でも真希は、ただかっこいいかっこいいなんて言ってる女子達と自分を、同じにされたくはなかった。
―私が一番、田宮の優しさを知ってる
忘れるはずなかった。
去年の冬。
田宮と初めて会ったあの日を。
「…なーにニヤついてんだよ」
帰り道、田宮のことを考えていた真希の肩に、誰かが手を置いた。
真希は呆れたようにため息をつく。
「ちょっと、正人!今いいとこだったのにぃー」
真希の幼馴染で、団地の隣人、北村 正人。
正人の母親は病死して、今は父親と二人で暮らしている。
「なーにが”いいとこ”だ。どうせ『田宮と私で××…』なんて考えてたんだろ?妄想女め」
「ちょ…っ!そんなんじゃないわよ!!確かに昨日はそうだったけど…」
「じゃあ何なわけさ?田宮のことについての考え事だろ?」
真希は仕方ない、と言わんばかりに肩をすくめた。
「…田宮と初めて会ったときのこと、思い出してた」
「ああ…あのことか」
正人はマフラーを巻きなおすと、真希が歩くスピードを遅くしたので歩調をあわせた。
「去年の…今頃だっけ?
家出して、駅前をさ迷っていたお前を俺が探しに来て…――」
「嫌がって泣いてたところに、田宮がいたのよね」
去年の二月初旬のこと。
駅前には、今日みたいな粉雪が、ちらついていた―――…




