ペーパードライバー
私は車の運転に長けている。だからど下手な奴、流れに乗れない奴がいると腹が立つ。
つい先日階段を踏み外し足を骨折して全治4ヶ月のになってしまった。趣味でもある車の運転を禁止され、私はストレスで気がどうにかなってしまいそうだった。
給料のほとんどをマイカーにつぎ込むほど車が好きな私が4ヶ月も運転出来ないとは……。私のマイカーに対する思いは並々ならぬもの。誰よりもマイカーの事を知り、何よりも大切に思っていて触らせたくないほどだ。
全治4ヶ月で足の骨折の間洗車や車内の掃除などのケアが出来ないと考えただけで辛くて仕方が無い。
誰にも邪魔されずにマイカーとデートする事は出来ないものかと考えている時、電話がかかってきた。
電話の相手はバイヤーでどこで知ったのか、私の骨折の事を知り、電話くれたらしい。
「お客様はお車を大切にしていましたからね、お力になれると思いますよ」
私にとても耳寄りな情報があるらしく、バイヤーを家に呼ぶ事にした。
バイヤーはその日の内にやってきて、笑顔で人の形をした紙を渡してきた。
「何だこれは?こんな形じゃメモ帳にもなりゃしない」
「これはメモ帳ではありません。ペーパードライバーです」
人をおちょくっているのだろうか?どこからどう見てもただの紙だ。
「この紙はこう使うのです」
私の思考を感じ取ったようにバイヤーは紙を手に取り、私のおでこにぺたっと貼り付けた。
「な、何をするんだ」
「少々お待ちください」
一分ほどすると紙が私の姿を切り取ったように、まったく同じ背丈になった。
「この商品は怪我などで車の運転が出来ない。でも誰かに運転してもらうのは嫌だという方向けの物なのです」
さらに話を聞くと、紙は貼り付けられた人間と同じ思考、行動をするため、車の運転も自分がしている時と同じものになるらしい。
「それはいい、すぐに売ってくれ」
ただの紙であれば私とマイカーの愛の時間を気にする事は無く、おまけに運転中よりもマイカーと愛し合える。
私はバイヤーが帰った後、すぐにこの紙を使ってドライブに出かける事にした。
それから数時間達、私はげっそりして家に帰ってきた。
助手席で自分の運転を見ていて、どれだけ危険な運転をしていたのか身に沁みたからだ。
4ヵ月後、完治した私は、一から操作法を学ぶために教習所に通い始めた。
終わり
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