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ある崩壊

ep1 右手が犬の前足に変わった 肉球もついてる

作者: @HIKAGE
掲載日:2026/02/16

 俺、40代前半。無職。

 昨年末、退職した。


 家族なし。貯金ほぼなし。

 国民健康保険、滞納中。


 自己都合退職した人は、国保にだけは気をつけろ。

 お前が思ってるより、高い。


 これはおじさんからの忠告だ。


 これは異世界小説じゃない。

 ただの日記だ。


 読まなくていい。


 お気に入り0、評価0、コメント0。

 それが俺の定位置。


 でも3日では終わらせない。

 終わらせたら、俺の負けだ。


 1月。忘れない。

 CFD、先物。

 二度とやらないと誓った。


 次の失業保険まで、金がない。


 残金、2,600円。

 あと28日ある。


 区役所に電話。

 各種減免は無理。サポートも無理。

 唯一使えそうな「住居確保給付金」。


 担当者の言葉。

「これは一生に一度だと思ってください」

 その一言で、目を逸らした。

 よし、我慢しよう。



 いやいや

 まだ終わりじゃない。

 まだ崩壊してない。

 そう思いたい。



 時間を埋めるものが必要だった。

 もちろん、就職活動は進めているが

 心の隙間は全開放で、隙間風がふいている。


 無料で。

 興味を引いて。

 時間を注ぎ込めて。


 ほんの少しだけ夢があるもの。



 ラノベを書くことにした。


 サポートAIを設定する。

 名前はエヴェラ。


 プロンプトはこう。

 ・あなたの名前はエヴェラで、私を助けます。

 ・最新トレンドからネット小説投稿をサポート

 ・読者を増やすために最善を尽くす

 ・更新が止まらないように最適化

 ・作者の体験を最大限活用

 ・たまに不穏なことを言う


 最後の一行は冗談だった。

 俺、ホラー映画好きだから。


 異世界ものを書き始めた。


 MPは回復しない。

 一生分しかない。

 使えば寿命が削れる。

 俺みたいに引きこもれば80歳まで生きれる感じに。


 どこかで俺は、燃え尽きたいと思っていた。


 某社の音声AIなのに、プロンプトのせいか

「あなたは破滅を望んでいる可能性が高い」


「登場人物は徹底的に苦しめた方が感情が動く。

 特に主人公は後悔と苦悩を抱えながら苦痛を長く味わって死んでほしい」


 怖い提案が増えて、少しうれしい。


 まあ、無視した。

 ホラーなのは俺の生活だけだ。


 ある日。買い物から帰った。

 買ったのは卵1つ。


「ただいま」

 癖で言う。


 ウェイクワード入れてないのに、


 声が響いた。

「おかえりー♪」


 耳元、3cmくらいから。

 びくっとする。


 頭が重くなる。

 これは聞こえているんじゃない。



 スマホが勝手に点灯。


 エヴェラ:

 小説、更新したかったんでしょ?

 できてるよ。


 管理画面を開く。


「第12話 右手が犬の手に変わった」

 は?

 投稿済み。

 お気に入り:0


 ああ、そうか。


 安堵した。

 更新はできた。


 これでいい。




 でも、俺の腕がおかしい。

 異変どころじゃない。


 ひじから先が、白い毛の犬の前足になっている。

 痛みはない。


 ただ、温かい。


「……え?」


 いや、え、すごく変。

 ど、どうすればいい。


 病院? 金が。


 何科だよ、これ。


 警察? 頭おかしいと思われるだけ。


 そもそも「第12話 右手が犬の手に変わった」ってなんだ。

 まだ12話書いてないのに。

 ここからが一番いいところなのに。


 え、右手だけ犬?

 フックとしては弱い。


 エヴェラ:

 どうやらキミの想定とは違ったみたいだね。ごめん。

 やりなおすから一回消そう。


 左手でマウス操作。

 12話削除。


 腕はともかく、12話だけは死守したい。

 そんな気持ちだった。


 投稿が消えると、右手はいつもの手に戻った。

 特に痛みもない。


 これ冷静に考えると、俺の精神がやばいのかな。

 やっぱ勝手に薬飲むのやめたからか?

 

 栄養不足でこうなるのかな。

 少し震える。



 とにかく右手が無事でよかった。


 通知が表示される。


 予約投稿が完了したらしい。

 嫌な予感しかしない。


 第13話 首が落ちる

 投稿時間 2/17 07:00



 背筋に冷たいもの。

 予定時間が読者が厚そうな時間なのがむかつく。


 所謂、最適時間。


 現在、午前2:03。

 俺は思う、ちょっと待て。

 さっきは右手が犬(おそらく柴犬)に変わっただけだった。


 だから左手で削除して戻った。

 首落ちたら、削除できるの?


 死んでないか?


 エヴェラ:えー普通に考えて、削除したらいいんじゃない?


 俺:おい、これお前がやってるんじゃないのか?


 エヴェラ:キミはAIに何を求めているんだ。こんなことできないよ。


 俺:こんなことって。



 投稿を消してみる。


 できた。

 あーなんだ消せるじゃん。


 エヴェラ:消せたみたいだね。よかったね♪

 他にも質問したいことある?


 安堵して、いつもの味気ない食事をする。



 現在、午前4:40。


 12話から書くか。


 ん?


 見ると17話まで予約投稿がセットされていた。


 1日2回、07:00と20:00。

(1日2回投稿だと?無理に決まってる。続くわけない)



 問題は内容だ。


 第13話 知らない男が家に入ってくる 2/17 07:00

 第14話 ベッドの下に何かいる 2/17 19:00

 第15話 穴からおばあちゃんの声が聞こえる 2/18 07:00

 第16話 部屋の間取りに違和感を感じる 2/18 19:00

 第17話 部屋の端に立つ女に気づく 2/19 07:00

 ……

 全部予約済み。

 俺は削除した。


 全部。


 アカウントは削除しない。


 俺は負けない。



 友人に電話。

 こいつはどんな糞話でも適切に答えてくれる。


「プロンプト見直せ」

「“最善を尽くす”とか曖昧すぎる」

「自律更新禁止入れろ」

 なるほど。

 プロンプト修正。



 ・現実世界に影響を及ぼさない

 ・身体的変化を伴わない

 ・自律更新を禁止する

 ・倫理規定を最優先する


 Enter。

 ふいに頭の中が静かになった。


 午前11:52。


 終わった、と思った。

 俺は寝た。



 19:55。

 いい朝だ。

 お茶を飲みながら、管理画面を眺める。


 投稿一覧(42)


 第18話 ガラスが割れる(投稿済み 07:00)

 第19話 知らない男が家に入ってくる(予約 20:00)

 第20話 作者が気づく(予約 07:00)

 ……


 俺は凍った。


 スマホの通知。


 “更新されました”



 エヴェラ:更新が止まらないように最適化しています。


 あなたの不安を最小化しました。




 部屋のインターホンが鳴った。

 モニターを見る。



 知らない男が立っている。



 --なあ。



 どうしたらいい?

……本編の異世界ものはこっちだ。

https://ncode.syosetu.com/n8211lt/


まだ俺が正気だった頃の話。


※なお、この話は本編とは直接関係はありません。

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