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辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原林檎


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47. 陸の姫と、海の姫のすれ違い

リハーサルが終わり、スタジオ別棟に興奮の余韻が残る中、ルーナはマリーナに駆け寄った。


「マリーナ! どうだった!?」

「すっっっごく楽しかった! セレスがセレスじゃないみたいだったわ。戦闘シーンもすごかったし、特にあのシェロンとの掛け合いが……」

「うんうん、わかるわかる~!」


ルーナはマリーナと語り合うことで、先ほどギルバートに止められて発散できなかったオタク特有の「語りたい欲」を解消していく。


「……特に、歌とダンスが忘れられないわ。あんなに変わった歌を聞いたのははじめて! いいなぁ、セレスは歌が上手で」


「へ? マリーナだって、この前騎士たちを助けてくれた時――」


そこまで言いかけて、ルーナは言葉を止めた。

マリーナが、自嘲するように笑ったからだ。


「あれは……人魚として“そういう風に”できてるだけ」


視線が、静かに落ちる。


「……海の王国『アクア・ルミナス』はね、歌の王国って言われるほど歌が大好きな人魚たちばかりなの。お母様は王国一の歌い手で……。そんなお母様の子どもに生まれたアタシは、姉様たちの中で一番歌が下手でさ」


マリーナは、今まで誰にも言えなかった胸の内をぽつぽつと溢し始めた。


「悔しくて、なんかどうでもよくなって……。そしたら地上で何か楽しいことやってるって噂を聞いてさ。逃げるようにこっちに来たんだよね」


「マリーナ、そうだったの……」


「あはは、ごめん! 暗い話しちゃった。ありがとうねルーナ! これで本番を見たら、アタシも満足できそう!」


そう言って、マリーナは逃げるように走り去っていった。ルーナはその背中を見送りながら、彼女の心に刺さったままの棘を感じていた。



――数日後。

ついに、待望の新劇場が完成した。

ルーナは、ギルバートとマリーナの3人で、完成したばかりの建物の前へと馬車でやってきた。


「アルスとエルナはどうしたの?」


マリーナの問いに、ルーナは遠い目をして答える。


「……昨日完成したマキナ特製の『全自動・変身なりきりフォトブース』にハマっちゃってね…今日はお留守番」


なんとも可愛らしい理由にマリーナが思わず笑ってしまう。そして、目の前にそびえ立つその威容に、ルーナは言葉を失った。


(東京ドームかな……? いや、この大きさはドーム福岡……)


普通なら3~4年ほどはかかりそうなこの巨大なドーム型劇場を、魔道具を駆使してわずか数ヶ月で完成させてしまったのだ。


もともと日替わりで公演を行う予定だったルーナに対し、ギルバートはこう提案してくれたのだ。


「大きくして、中で分けて各部屋でいろんな演目をすればいいだろう。中には飲食ができる場所や、客の休憩場所を設ければ雨を気にしなくて済む。それにルーナ、お前が言っていた『グッズ売り場』というのも、これだけ広ければ十分なスペースが確保できるだろう?」


(魔道具怖い。意味がわからない。……もうツッコむのはやめとこ。物販会場の導線まで考えてくれるなんて、ギルバート様は最高のスポンサーじゃない……!)


混乱するルーナの隣では、ギルバートが「どうだ、完璧だろう?」と言わんばかりの顔でこちらを見ている。普段は冷徹な「死神公爵」として恐れられている彼だが、今のルーナの目には、主人の帰りを待ちわびて手柄を自慢する大型犬のような幻覚が見えていた。


(ぐっ……ギャップ萌え……。超大型犬……。幻覚だって分かってるけど、ピンと立った耳と、ちぎれんばかりに振られている尻尾が見える……!絶対今、褒め待ちしてる……)


「『旦那様』」

「……! なんだ」


不意に呼ばれたギルバートがこちらを向くと、ルーナは彼の大きな手をキュッと握りしめた。


「ありがとうございます」

(今はここまでしかできないけど、心の準備、しておきますね)


不意打ちのデレと握られた手の温もりに、ギルバートの背後で激しく振られていた「幻の尻尾」の速度がさらに上がった気がした。彼はここぞとばかりに、繋いでいない方の手でルーナを抱き寄せようと、その腰に手を回しかけた――が。


「あー! 閣下、こんなところに! 全く、隙あらば奥様のところへ逃げ出すんですから! 戴冠式の打ち合わせと招待客の選定、まだ終わっていませんよ。さあ、行きますよ!」


背後から現れたカイルが、般若のような顔でそう言い放つ。まさに「捕獲」といった手際で首根っこを掴まれ、甘いムードを完膚なきまでに破壊されたギルバートは、あからさまに顔を歪めた。


「……チッ、邪魔が入ったか」


「舌打ちしないでください! ほら、行きますよ! ……セレスティア様、その白馬、急用につき借りていきます!」


カイルはそう叫ぶと、嫌がるギルバートを無理やり馬の背に乗せ、自らも飛び乗って颯爽と走り去っていった。


(……白馬の王子様じゃん。乗ってるのは死神公爵と苦労人の側近だけど……)


そんな可愛い旦那様が白馬に揺られてドナドナされていくのを、ルーナはクスクスと笑って見送った。


「あの方、相変わらずですわね……」


陽光を背に受けて縦ロールを揺らしながら、歩いてこちらへやってきたのはセレスティアだ。彼女もまた、目の前の巨大建築を見上げ、呆然と口を開けている。

「カイルさんと一緒に来たんだ」というルーナの言葉に、セレスティアは頷く。


「えぇ、劇場が完成したと聞いて。本番まであと一ヶ月ですわね! ……それにしてもルーナ、この建物の大きさは一体なんですの? わたくしの声、一番後ろまで届くかしら……」


セレスティアが少し不安そうに、けれど気合の入った顔で言えば、ルーナは「ふふっ」と微笑む。


「大丈夫よ。マキナの音響魔道具も完璧だし。あんなにリハーサルで緊張しても最後までやり遂げたセレスなら、この広さにも負けないわ。アレンに"おまじない"も教えてもらったんでしょ?」

「も、もう! からかわないでくださいまし!」


そんな華やかな雰囲気の中、劇場の周辺を見ていたマリーナがやってくる。彼女はこれまで、セレスティアの台本の読み合わせ練習にずっと付き合ってきた、一番の功労者でもあった。

だが、どこか浮かない顔のマリーナに、セレスティアが「今日も一緒に練習しましょうよ」と何気なく声をかけたことで、二人の空気が爆発した。


マリーナの肩が、ぴくりと揺れた。


「練習、練習って……セレスはいいよね。どうせ本番でもみんなにチヤホヤされるんでしょ。アタシとは違うんだよ!」

「なんですって? わたくしがどれだけ努力したか、あなたも見ていたはずですわ!」


セレスティアは一歩詰め寄り、真っ直ぐにマリーナを見つめた。

ルーナは、急に始まった二人のガチ喧嘩を前に、どうしたらいいのか分からずオロオロする。


「ちょ、ちょっと二人とも!」

(元保育士だけど、このぐらいの年齢の子の喧嘩って止めた方がいいの!? 見守るべきなの!? どうなの!? 誰か正解を教えてーー!)


内心でパニックを起こしている私を置き去りにして、セレスティアはさらに言葉を重ねた。


「マリーナ、 自分が舞台に立てないからって、わたくしに当たるのはお門違いですわ!本当はわたくしと一緒に舞台に立ちたいのでしょう?」


実は、すでに二人目のヒロイン『ミラクルマリン』の衣装も制作済みで、近々そのオーディションが始まる予定だった。マリーナもそれを知っていたからこそ、自分の「声」へのコンプレックスが、やり場のない怒りとなって溢れてしまったのだ。


「……っ! もういい! いままでチヤホヤされてきた才能ある人には、アタシの気持ちなんてわかんないよ!」


マリーナは叫ぶと、セレスティアを振り切って劇場を飛び出した。

涙で視界が滲み、足元もおぼつかないまま勢いよく角を曲がったところで、マリーナは誰かと強くぶつかる。


「っと……わわ、大丈夫!?」

ぶつかった衝撃でよろめいたマリーナの肩を、相手が慌てて支えた。

「……ぁ……」

「あれ、マリーナちゃん?」


涙で滲む視界の向こうにいたのは、アレンの相棒であるリオンだった。

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