表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原りんご
第1章 ヴォルフラム編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/84

19. 走り続けた代償

初夏にこの辺境領へやってきてから、季節は巡り、秋も深まってきた。もうすぐそこまで冬の足音が聞こえている。

この数ヶ月で、領地は驚くほどの変貌を遂げた。

きっかけは「青汁」だ。乾燥させてスティック状に包装した商品は、王都の富裕層の間で「辺境の秘薬」として爆発的にヒット。もちろん、特許を取るのも忘れてはいない。ベリー系を強く配合した美容ラインも王都の淑女たちの心を掴み、今では自警団を雇って買い付けに来る商人が現れるほど、領地はかつてない活気に沸いている。

そんなある日、商人のガリオンさんが、とある品を抱えて屋敷を訪ねてくれた。


「え……これって!!!」


「あぁ、あんたんとこの隊服だよ。布屋のじいさんに青汁を届けた時によ、こっちに行くって言ったら、ちょうど出来上がったから持って行ってやってくれとさ」


「ええぇぇ! 嬉しい! ありがとう、ガリオンさん!」


「いいってことよ。こっちも儲けさせてもらってるからな」


ガリオンさんは手でお金のマークを作ると、ニカッと豪快に笑った。


ついに、ついに届いたのである! 私が王都でこだわり抜いて注文した、あの隊服が。


「うぉ! なんだこれ、すごく動きやすいぞ!」


「肌触りが全然違う……。本当にすごいですよ、奥様!」


「今までのは重くてゴワゴワしてたけど、これならどこまでも走れそうだ!」


騎士団のみんなが目を輝かせて新しい隊服に袖を通す。そのスタイリッシュな姿に、私のテンションも爆上がりだ。


(……筋肉祭り開催じゃ。眼福、眼福すぎる……)


誰よりも目を引くのは、やはりギルバート様だった。彼のは他の隊員と差別化するため、配色を別にしてある。

訓練場の端で見守っていると、彼がこちらを見てニヤッと不敵に笑った。


(……っ! イケメンの破壊力、えげつない……。最初に会った頃の怪人枠だった姿がもはや懐かしいレベルだわ……)


私が鼻を押さえて悶絶していると、背後で着替えを終えた騎士たちが小声でザワつき始めた。


「……おい、見たか今の? 団長のあの顔」

「ああ。奥様を見た瞬間、顔の筋肉が緩みっぱなしじゃねーか」

「っていうか、さっきから奥様を目で追いすぎだろ。獲物を狙う魔獣より執念深いぞ」

「あー……あまーい。甘すぎてこっちの口の中がジャリジャリするわ」

「昔の『氷の処刑人』と呼ばれた団長とは真反対だな。もはや『奥様の番犬』だろ」


騎士たちのヒソヒソ声は止まらない。当のギルバートは、部下たちの視線など一切気にせず、ただ俺だけを見ていろと言わんばかりの独占欲を隠そうともしていなかった。


「……またお前は、変な顔をして何を考えている」

「な、なんでもありません! 隊服が似合いすぎてて、ちょっと宇宙の心理に到達しかけただけです!」

「……相変わらず意味がわからん」


呆れたように言いながらも、その眼差しには隠しきれない慈しみが滲んでいる。


そして同じ頃、工房ではついに「それ」が完成していた。

マキナさんが心血を注いだ魔道具(武器)――『ソードルクシア』。


「いいかい、使い方はこうだ」


マキナさんが隊員たちに説明を始める。まずはギルバート様が手に取り、手本を見せることになった。

カチッ、と魔核をスロットに装填し、ゆっくりと魔力を通す。

その瞬間。

――ブォォンッ!!!

剣身が激しく震え、黄金色の雷が爆発するように刀身を纏った。


「はっ!」


ギルバート様が鎧の標的に向かって一閃する。

ドォォォォン!!! という雷鳴のような轟音と共に、鋼鉄の鎧が紙細工のように真っ二つに裂けた。

さらに、グリップのスイッチを押しながら剣を軽く振ると、雷が「光の刃」となって空間を斬り裂き、遠方の壁まで飛んでいく。


「な……ッ!?」


普通の魔法を放つよりも、威力も範囲も、そして速度も大幅に向上している。

ギルバート様は剣を握ったまま唖然とし、騎士団員たちもポカーンと口を空けたまま固まっている。


「や、やべぇもんできちゃった……」


マキナさん自身が震える声で呟き、カイルさんが眼鏡を押し上げながら驚愕の表情で言った。


「これは……武器の、いえ、戦術の革命が起きましたね」


そして、私は。


(カ……)

カ、カッコイイいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!

私の脳内では、ミニルーナが色とりどりのサイリウムを振り回し、床を転げ回り、全力のガッツポーズを連発しながら狂喜乱舞していた。

装填! 起動音! 必殺技! これよ、これこそが特撮の美学なのよ!!!



……しかし、その熱狂を一瞬で凍りつかせるような低い声が、訓練場に響く。


「……さて」


ギルバート様が、手にした『ソードルクシア』の重みを確かめるようにゆっくりと構え直した。その瞳には、先ほど私に向けていた慈しみなど微塵もなく、冷徹な「騎士団長」の光が宿っている。

彼は予備の武器を無造作に手に取ると、呆然と立ち尽くしていた騎士団員たちに次々と放り投げた。


「使い方は、今の実演でだいたい分かっただろう」

「えっ? あ、はい、ですが……」


戸惑う騎士たちを、ギルバート様は蛇に睨まれた蛙のごとく射抜く。


「さっきから後ろでボソボソと喋っていた、そこのお前ら」

「「「ひっ……!!!」」」

「甘いだの、口の中がジャリジャリするだの、余裕があるようだな。……まずは貴様らから相手をしてやろう。かかってこい」

「だ、団長!? あれは、その、冗談でして……!」

「戦場に冗談など存在しない。最新兵装の性能を、その身で確かめさせてやる。……死ぬ気で防げ」


換装セット


――ドォォォォン!!!



返事をする間もなく、今度は全てを凍てつかせる極寒の氷嵐を纏ったギルバートが、突風のごとく踏み込んだ。

訓練場には、騎士たちの悲鳴と、氷が砕け散る鋭い衝撃音が響き渡る。


「きゃーーー!! 凄まじい迫力! これよ! この迫力こそ本物だわ!! みんな頑張ってー!!」


私は訓練場の隅で、騎士たちが文字通り「しごき倒されて」いる惨状にも気づかず、目の前で繰り広げられる実写さながらのアクションシーンに、全力で拍手を送っていた。


(がんばれ騎士団のみんな……! 君たちが吹っ飛ぶたびに、私の脳内コンテが更新されていくわ!)



――けれど。私のテンションとは裏腹に、現実は残酷なほど「多忙」を極めていた。

雪が降れば遠征や物流が止まってしまう。その前にと、マキナさんには急ピッチで温室ビニールハウス用の魔道具も大量に作ってもらった。

雨は降るし気候も安定しているのに、なぜこの土地は痩せているのか。つくづくスマホがない事が悔やまれる。調べようにも限界があり、私は寝る間も惜しんで調べ続け、ようやく酪農による土壌改良という答えにたどり着いた。クローバーを植え、商人のガリオンさんから買い付けた家畜たちを野に放ち、豚に土地を耕させる。


そして何より、私の精神を削ったのはヒーローショーの構築だった。

実は、殺陣たてというものはとても難しい。全くの素人が指導できるものではないのだ。

けれど、元盗賊の一人で妻と幼い息子がいるバンダルさんが、天性の才能を見せてくれた。彼は殺陣のなんたるかを即座に理解し、仲間内ならではの息の合った、実戦さながらの泥臭くも美しいアクションを作り上げてくれた。

ちなみに、現代では一つのパッケージとして作られるヒーローショーだが、私が考えたのは「一週間に一度、新しいお話を見せる」スタイル。テレビがないこの世界でストーリーを繋げるには、この方法しかない。毎週通うドキドキワクワクを、領民たちに植え付けたいのだ。


(いつか、辺境の広大な土地を利用した爆破もやりたい……! 一段落ついたら、戦う女の子も登場させたい……!)


夢は膨らむばかりだった。

少しずつ形になっていくショーに、私は檄を飛ばしながらも、密かに涙ぐみそうになっていた。もうすぐ、もうすぐなんだ。


そんなある日の夕食の席。私の体はすでに自分の意思では支えきれないほど重くなっていた。

向かいではアルスが青汁を飲み干し、隣ではエルナが私の手をブンブンと振った。


「ルーナマリア様! 私、毎日青汁飲んでるから体の調子がすっごく良くなったの! だから、今度のお休みにみんなでピクニックに行きたいな!」


エルナのキラキラした瞳。その純粋な願いが胸に刺さる。


(ピクニック……。ああ、来週の台本と、温室の魔力調整が……)


一瞬、視界がぐらりと揺れた。エルナの笑顔が二重にぶれ、手に持っていたフォークが指先から滑り落ちそうになる。


「ルーナマリア様……?」


「おい、ルーナ? 変だぞ、顔が真っ白だ……!」


心配そうに顔を覗き込んでくる双子に、私は膝の上で震える手をぎゅっと握り込み、無理やり笑顔を作った。


「大丈夫、大丈夫よ! ちょっと……新作の演出を考えてて、のぼせちゃっただけ!」


「本当……?」と不安げなエルナの頭を、私は震える手で優しく撫でた。


「本当よ。ピクニック、絶対行きましょうね」


その場は何とか誤魔化した。



朝は畑、昼は稽古。


「声が小さい!恥ずかしがらない! 立ち姿が命!」

「背筋! アレン、猫背になってる!」

「リオン!台詞飛んでる!本気が見えない! そんなんじゃ子供たちに勇気を与えられないよ!」


私の怒号が響く中、メンバーたちが小声で囁き合っている。


「なぁ、奥様……顔色悪くないか?」

「そうか? いつも通り、鬼教官みたいに元気に見えるけど……」


夕方は市場の様子を見に行き、夜は台本執筆と領地の収支計算。

食料問題を解決しなきゃ。訓練を成功させなきゃ。

私が止まれば、この物語ストーリーが止まってしまう。その一心で、私は限界を無視して走り続けた。

しかし、糸が切れる瞬間は唐突にやってきた。

ある日の夕方。市場からの帰り道、ふっと視界が白く歪んだ。


「あ……」


地面が急に近づいてくる。叫ぼうとしたけれど、声が出ない。

そのまま私は、冷たい地面へと崩れ落ちた。


「ギルバート様!!! 奥様が、奥様が倒れられました!!!!」


混乱する屋敷。気づけば、私は自室のベッドの上にいた。

視界の端で、ギルバート様は真っ青な顔をした私を見つめている。


「医師、妻はどうなんだ」


ギルバート様の、今まで聞いたこともないような震える声。


「過労でしょう。極度の睡眠不足と心労が重なったようです。しばらくは絶対安静、動くなど言語道断ですな」


医師の言葉に、ギルバート様は深いため息をついた。その横顔には、怒りよりも深い後悔が滲んでいる。


「……しばらく、二人きりにさせてくれ」


その静かな、けれど拒絶を許さない声に、誰も逆らうことはできなかった。

私も倒れそうです。ブクマ、アクション

ありがとうございます!励みになっています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ