表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原林檎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/56

2. 悪役令嬢、詰んでました

チリン、チリン、と高い鐘の音が響く。

スマホのアラームではない。どこか遠くで鳴らされる朝のベルの音だ。


(……やめて。まだ5分、あと5分だけ『スターレンジャー』の夢を見せて……)


しかし、顔を撫でる空気はどこまでも冷たく、シーツの肌触りは恐ろしいほどに滑らかだった。

ベッドサイドに手を伸ばしてみる。

当然だけど、スマホはない。


「だよねー……」


重い瞼を押し上げると、そこにあったのは昨日と同じ、高く、無駄に装飾の凝った天井。


「……夢じゃ、なかったかぁ」


天井を見つめたまま、私は遠い目をした。

覚醒とともに、濁流のような情報が頭に流れ込んでくる。それは「ルーナマリア」としての、傲慢で孤独な記憶の断片だった。

両親に溺愛されて育った彼女は、望むものは何でも手に入れた。湯水のように金を使い、平民を見下し、侍女たちとすら壁を作る――そんな記憶。


聖女リリアへの嫌がらせについては……確かに身に覚えがない。けれど、周囲が「あの傲慢なルーナマリアならやりかねない」と納得してしまうほど、彼女は常に不機嫌そうで、周囲に冷たい壁を築いていた。


「大輪の氷の花……うまく言ったもんだわ。中身はただの『拗らせたお嬢様』じゃないの」


重厚な体躯に、人を寄せ付けない冷徹な眼差し。毎日を退屈そうに過ごしていた彼女の虚無感が、今の私にはよくわかる。


これ、職場の同僚が熱弁していた「悪役令嬢もの」の展開そのものじゃん。

正直、内容はほとんど聞いてなかった。

「へー」って言いながら、スマホで特撮の新情報チェックしてた気がする。でも、私はこれから辺境の死神公爵に嫁ぎ、その不遜な態度が災いして、最終的には夫の剣にかかって殺されるみたいな流れじゃなかった?


「スターレンジャーの17話……私の黄金のヒーロータイムが……魔法少女ミラクルステラなんて来週最終話だったのに!」


録画予約すらできない異世界で、私の推し活は死を迎えた。人生詰んだ。


「お嬢様? おはようございます。

まだお加減がよろしくないのですか?」


心配そうに顔を覗き込んできたのは、昨日と同じメイドだった。名は……アンナ。


「昨夜はお風呂にも入らないで、そのまま寝てしまわれて……。あれほど清潔を好まれていたお嬢様が、よほどお辛いのだと心配しておりました」


「あー……ごめん。ちょっとショックがデカすぎて。……ねぇ、アンナ」


「お嬢様! 記憶が……! 私の名前を呼んでくださった!」


アンナが感激に震えているが、今はそれどころではない。


(……いや。待てよ?)


人格は「佐藤花」にほぼ上書きされている。これ、実は詰んでないのでは?


「この世界って、確か魔法が使えたわよね? 魔法を込めた『魔道具』とかもあるわよね?」


「ええ、もちろんありますけれど……。お嬢様はあまり、泥臭い魔法の鍛錬は好まれませんでしたわ」


「勝ち確ーーーーー!!!!!!!」


拳を握りしめ、私は快哉を叫んだ。

あるじゃない。魔法が。変身を科学的に可能にする魔道具という名のテクノロジーが!


「決めたわ私。辺境で『武闘派ヒロイン』になる」


「はい……?」


アンナが、見たこともないものを見るような目で私を見ている。無理もない。昨日まで「重厚なる氷の令嬢」として、置物のように冷たく座っていたお嬢様が、今は鼻息荒く立ち上がっているのだ。


「魔法少女……にしては、ちょっとこの体、年齢もボリュームもいってるけど。でも、素材は最高だし、魔法と特撮愛があればカバーできるはずよ!」


ここから先は、自分との対話だ。

まず、命を狙われる原因になる「素行不良」は即刻廃止。代わりに辺境領のことを死ぬ気で勉強する。

そして、私の理想を形にする魔道具の研究。変身アイテム、ブレス、ベルト……夢の装備をこの手で作る。


「そのためには、まず体作りね! 決めポーズが映える体型に絞って……魔法の練習も実戦形式で取り入れて……ブツブツ……」


「お嬢様……やっぱり、まだ記憶の混濁が激しいようですわ……すぐに主治医を!」


慌てふためくアンナを無視して、私はギラギラした瞳で鏡を見据えた。

追放? 結構。処刑? させるわけないでしょう。

辺境伯領で、私は生き残る!

そして――この異世界に、本物の「ヒーロー」を顕現させてやるんだから!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ