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辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原林檎


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1. 夢か現(うつつ)か、婚約破棄

「仲間がいるだけで、応援してくれる人達がいるだけで、俺達は強くなれる!」


「みんな! 応援ありがとう! みんなも俺達の仲間だ!」


会場を揺らす子どもたちの歓声と、鳴り止まない拍手。


「わーーーーー!!!!」


最後列の隅っこで、私も精一杯の拍手を送る。


(最高……今日もとても尊かった……)


ヒーローたちの眩しさに、胸がいっぱいになる。私はそっと目をつむり、彼らの言葉を噛み締めるように空を見上げた。



……だが。



次に目を開けた瞬間、世界は一変していた。



「お前との婚約は、今この時をもって破棄させてもらう!」


鼓膜を震わせる怒声に、私はゆっくりと目を開けた。

視界に飛び込んできたのは、眩しいシャンデリアと、高すぎる天井。


…は?


ここはどこ?

中世ヨーロッパの演劇セットか何かだろうか。

目の前には、絵に描いたような金髪のイケメン。その隣には、これでもかとフリルを盛ったドレスの少女……ちょっとメイクが厚すぎない? 舞台化粧にしては生々しい。


「おい、ルーナマリア! 聞いているのか!」


ルーナマリア? 誰それ。

あたりを見渡しても、そんな名前の人はいない。なのに、周囲の貴族たちはなぜか私を蔑むような、あるいは怯えるような目で見ている。

え、ルーナマリアって、私?

私の名前は、佐藤花。ついさっきまで、ヒーローショー会場の最後列で、子どもたちの邪魔にならないようひっそりと、けれど熱くステージを見守っていたはずなのに。


「……あぁ、夢ね。なんだ、びっくりした」


「夢なわけあるか!!!」


王子様みたいな服を着た男が、顔を真っ赤にして叫んだ。


「数々の悪事をはたらいた上、聖女であるリリアを階段から突き落とし、執拗な嫌がらせで彼女の心を傷つけたその醜悪な精神、そしてその怠惰な姿! もはや矯正不可能だ。お前は私に相応しくない! 辺境の死神公爵に嫁げ! 王族の命令だ、嫌とは言わせないぞ!」


「はぁ……」


ため息が漏れる。私いつの間に家に帰ったんだろ。

夢を見るにしても、もっといい夢だったら良かったのにな。早く夢から覚めてほしいな~。明日は保育園で、園児たちと最新話に出てきた合体ロボのギミックについて語り合う約束をしているのだ。あの中盤で追加される3号機が実は右腕になるっていう激アツ展開、早くみんなと共有したいのに。


「……っ、お前、急に態度が変わっていないか? まぁいい、連れて行け!」


兵士たちに囲まれ、背中を押される。その瞬間、足元に強い違和感があった。

身体が重い。記憶にある自分の動きより、すべてがワンテンポ遅れるような、ずっしりとした重量感。


「え、待って待って、どこ行くの!?それにこれドレス!? 歩きにくっ!」


私はガバッと思いきり裾をたくし上げた。保育士の習性だ。動きにくい服はまくればいい。


「は、はしたないぞ! そんなにたくし上げるんじゃない! お前の家に帰るんだろうが!」


「あ、ハイ。すみません」


馬車に押し込められると、扉が勢いよく閉まった。

一人になって改めて自分を上から下まで見る。

これはドレス……? 散りばめられた宝石も本物?

馬車に乗ったのもはじめてだ。思ったより揺れる。この不快なほどの振動、妙にリアルだ。

屋敷に着くと、血相を変えた男女が出迎えた。


「ルーナ! あなた、婚約破棄された上に、あの辺境伯に嫁げと言われたんですって!?」


「王家からの通達は絶対だ……。力になれなくてすまない」


首を傾げる。

「あなた達は、どちら様で?」


その言葉を聞いた瞬間、女性は青ざめ、崩れ落ちるように倒れ込んだ。

男性は信じられないものを見るように私を見つめ、声を荒げる。


「ルーナ!? ショックで記憶が!? 大変だ、主治医を呼べ!!!」


ほどなく呼ばれた主治医は、私の様子を一通り確認すると、

「記憶が混濁しているようですね」と告げた。

そして、数日安静にしているようにと言い残す。


男性は苦渋に満ちた表情でうなだれ、主治医と共に部屋を後にした。


私は一人で贅を尽くした寝室に残された。

赤と黒、所々に白を配して統一されたセンスの良い内装。


「美術館かな……?」


一年前に奮発した旅行先のホテルより、ずっと高級で洗練されている。鏡を見つけて、そっと近付いてみた。


「いやいやいや、誰よこれ……」


鏡の中にいたのは、黒髪黒目で「ちょいぽっちゃり」だったはずの私ではなかった。

燃えるような少しうねりのある赤髪に、桜色の瞳。そして、王子に「怠惰」と罵られたのも納得の、立派すぎる体躯の女性がそこにいた。


「うわーすごい……カラコンなしでこれ? 外国人にでもなった気分……」


思わず肉厚な頬を指で引き下げて、瞳の色を確かめてみる。頭髪も、整えられた眉も濃いめの赤。対照的にまつ毛は黒。下の方は……よそう。他人の裸を見るみたいで申し訳ない。

そんな中、メイドがキッチンワゴンに山ほどのお菓子をのせて戻ってきた。


「わぉ……高級なカフェとかで見るやつ……」


三段重ねのタワーを置かれ、椅子を引かれる。


「……これ、全部食べていいの?」


「? はい。いつも美味しそうに全部食べていましたよ」


(いつも完食してたのか、この体型だもんね……)


一口食べてみる。


「んーーー〜!!! 美味しい! でも味がわかるってどういうことー!」


叫ぶ私に、お茶を淹れながらメイドが笑う。


「なんだか喋り方も随分変わってしまわれて……。」


お嬢様の立派な体でも、混乱しているせいか思ったよりお腹に入らず、私は早々に寝ることにした。寝ればきっと覚める。これは夢だ。

明日は待ちに待った『銀河戦隊スターレンジャー』と『魔法少女ミラクルステラ』の日! セットしたアラームが鳴れば、いつものジャージに着替えて、園児たちの待つ日常に戻れるはず。


「きっと、アラームが鳴るはず……!」


私はスマホの電子音を待ちわびながら、豪華すぎるベッドの沈み込みを感じつつ、深い眠りへと落ちていった。


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