第3話 「止められた港」後半
シゾーカブレスが、短く震えた。
『――エマージェンシーコール。三保造船』
徳川 静の声は、切迫していた。
『進水準備中の船が、原因不明のまま停止』
『制御系は生きていますが、工程が成立していません』
由比港にいた桜は、即座に顔を上げた。
「……来た」
隣にいた一護も、迷わない。
「距離が近い俺たちが向かう」
二人は同時に走り出した。
⸻
三保造船所。
巨大な船体が、ドックの中央で止まっている。
未完成のまま、時間だけを奪われたような姿だった。
クレーンは沈黙し、
作業員は遠巻きに立ち尽くしている。
壊れてはいない。
だが、次の一手が誰にも分からない。
「……由比と同じ」
桜が呟いた、その瞬間だった。
——ギ……ギギ……
金属が軋む音が、空気を裂く。
ドックの奥、影の中から
人型の異形が姿を現した。
頭部は操舵室。
窓が“目”のように光り、サーチライトが現場をなぞる。
肩と背中には船体構造。
腕はクレーンアーム。
脚は、ドックの支柱そのもの。
喋らない。
威嚇もしない。
ただ、工程を止めている。
「……あれが原因」
桜のブレスが、じわりと熱を帯びた。
「壊してない」
「止めてるだけ……」
一護が一歩前に出る。
「なら、やめさせる」
二人は同時にブレスへ手を伸ばし、メダルをセットした。
——カチリ。
ピンクとレッドの光が弾ける。
「シゾーカピンク!」
「シゾーカレッド!」
変身が終わるより早く、
フナドメの腕が振るわれた。
クレーンアームが地面を叩く。
衝撃。
だが、構造は壊れない。
代わりに、
足場の“順番”だけが狂った。
「……っ!」
踏み出した先が噛み合わない。
力が逃げる。
「破壊じゃない!」
ピンクが声を張る。
「工程を狂わせてる!」
レッドが踏み込む。
拳を叩き込む。
確かに当たった。
確かに効いている。
それでも――
フナドメは、こちらを見ない。
次の支柱へと手を伸ばし、
淡々と“作業”を続ける。
「……無視してる」
レッドの声に、苛立ちが混じった。
その瞬間、
離れた場所で作業台が沈黙する。
ピンクは一瞬だけ視線を逸らした。
止まったクレーン。
動けずに立ち尽くす作業員。
港で見た光景と、同じだった。
——誰も、次に何をすればいいか分からない。
「……終わらせないと」
ピンクが間合いを詰める。
押している。
確かに追い込んでいる。
それでも、
終わる気配がない。
——キン。
ブレスが鳴った。
『各員、水上ビークルで三保造船へ向かっています』
静の声だった。
『到着まで、数分』
『それまで、現場を維持してください』
フナドメは、その間も作業を止めない。
クレーンが動き、また一箇所、工程が沈黙する。
「……時間、稼ぐよ」
ピンクが言い、
レッドが短く頷いた。
二人で踏みとどまる。
⸻
やがて。
水を切り裂くエンジン音が、重なって近づいた。
岸壁に、三つの影が滑り込む。
「シゾーカオレンジ!」
「シゾーカグリーン!」
「シゾーカブラック!」
五人が揃った。
互いの立ち位置を、一瞬で確認する。
五人が並ぶ。
「静岡の海で生きる人を守る」
声が重なる。
「静特戦隊
シゾーカファイブ」
一瞬だけ、空気が変わった。
五人が揃い、
動きが噛み合う。
——いける。
誰もが、そう思った。
一斉に踏み込む。
連携。
包囲。
確かに、追い詰めた。
ピンクが前に出る。
トドメを刺せる距離。
——だが。
フナドメが、初めて大きく後退した。
次の瞬間、
ドックの影に溶けるように、その姿が薄れる。
逃走だった。
攻撃は、空を切る。
やがて、静けさが戻った。
造船所は、止まったままだ。
壊れていない。
だが、動かない。
「……終わってない」
ピンクが、低く言った。
レッドも拳を下ろす。
「勝ってないな」
ブレス越しに、静の声が届く。
『対象、意図的に撤退』
『被害は、継続中です』
五人は、止まったドックを見渡した。
揃って戦った。
名乗った。
連携も取れた。
それでも——
止められなかった。
倒したわけでも、
追い払ったわけでもない。
ただ、
“やることが終わった”ように去っていった。
波の音だけが、遠くで響いている。
これが、
“流れを止める怪人”のやり方だった。
——第3話・終
シゾーカファイブの乗り物達は静岡県の企業が開発している設定を作っています。
今回登場した水上ビークルはYAMAHAさんが開発した水上バイクという感じです。




