幕間 初勝利の後
――シゾーカファイブ基地
シゾーカラインの光が消え、着いた感触を確かめた。
三ヶ日で、みかんリーパーを倒した。
逃げ場はあった。
それでも、逃げなかった。
その結果が、今ここにある。
基地の空気は静かだった。
機械の音だけが、一定の間隔で耳に入ってくる。
成実は無意識に手首へ視線を落とした。
シゾーカメダル。
戦闘中、確かに応えた重みが、まだ残っている。
湊一護が前方に立っている。
茶谷リョクは腕を組み、考え込むように視線を下げていた。
宇那木いずみは姿勢を崩さず、成実の斜め後ろに立つ。
海老原桜は、少し距離を取りながら周囲を見ている。
五人とも、座ろうとはしなかった。
通路の奥から足音が聞こえ、
成実は顔を上げた。
現れた女性は、五人の前で足を止める。
その視線が、順に仲間を捉え――
最後に、成実のところで止まった。
短い確認。
逃げない目。
「戦闘直後ね」
落ち着いた声だった。
「でも、今話す必要がある」
壁面モニターに、三ヶ日の映像が映る。
倒れたみかんリーパー。
成実は、自分がそこに立っていた事実を思い出す。
「みかんリーパーは討伐確認済み」
「逃走ではない。撃破よ」
その言葉で、胸の奥に残っていた緊張が、少し形を持った。
「怪我は?」
「ありません」
成実は一歩前に出て答えた。
声は、震えなかった。
いずみと桜が続き、
一護とリョクが頷く。
女性は視線を五人の手首へ向ける。
シゾーカメダル。
成実は、その視線から目を逸らさなかった。
「もう、分かっていると思う」
女性は言った。
「これは偶然じゃない」
「一度きりで終わる出来事でもない」
成実の胸に、重たい実感が落ちる。
そうだ、と心の中で答えていた。
「だから、ここで伝える」
女性は姿勢を正した。
「私は、徳川 静」
「シゾーカファイブの指揮を担当している」
成実は、その言葉を正面から受け止めた。
この人は、判断する側だ。
逃げ場を与えない人だ。
「あなたたちを選んだのは、私たちじゃない」
徳川の視線が、成実のメダルに向く。
「シゾーカメダルが選んだ」
成実の指先に、力が入る。
「怖かったでしょう」
「逃げる選択もあった」
徳川は、成実を見て言った。
「それでも、立った」
「最初に踏みとどまったのは、あなたよ」
成実は、何も言えなかった。
畑の匂い。
足元の土。
逃げなかった自分。
「そこから、全員が動いた」
成実の背中に、仲間の気配がある。
「だから戦えた」
「だから、倒せた」
徳川は続ける。
「選ばれた以上、守られるだけの立場ではいられない」
「でも、全部を背負わせるつもりもない」
成実は、ゆっくり息を吐いた。
「判断は私が下す」
「責任は、私が持つ」
その言葉が、成実の中で静かに落ち着いた。
「仲間として、名乗ってほしい」
成実は迷わなかった。
「橘花成実です」
「三ヶ日で育ちました。高校生です」
名前を言った瞬間、
ここに立つ理由が、自分の中で固まった。
それに続いて、一護、リョク、いずみ、桜が名を名乗る。
成実は、それを背中で聞いていた。
徳川は五人を見渡し、頷く。
「今日から、あなたたちは
シゾーカファイブ」
成実は理解していた。
選ばれたのは偶然じゃない。
逃げなかったからだ。
――それだけで、十分だった。




