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第1話 集められた五人 後半

扉が、完全に開いた。


中は、倉庫とは思えないほど整然としていた。

油や埃の匂いはなく、

冷たい空気だけが静かに満ちている。


「……」


誰も、言葉を発しなかった。


床はコンクリート。

だが、照明の配置も、壁の素材も、

普段見慣れた倉庫のそれとは明らかに違う。


一直線に伸びる通路。

五人が足を進めるたび、

足元の灯りがわずかに追従する。


「こちらへ」


三ヶ日で成実に声をかけた女性が言った。


命令口調ではない。

だが、断られることを想定していない声音だった。


五人は互いに顔を見合わせ、

黙ったまま通路を進んだ。



通路の先で、視界が開ける。


円形のフロア。

天井は高く、

中央だけが淡い光に照らされていた。


「ここで止まってください」


五人は自然と円の縁に立つ。


一護が低く言った。


「……で、何だよ、ここ」


一護の問いに、桜が周囲を見回した。


「展示じゃないですね。

 触らせる前提の配置です」


女性はすぐには答えず、

床の中央に視線を落とした。


その部分が静かに沈み、

低い台座がせり上がってくる。


その上に並んでいたのは、

五枚の円形メダルだった。


色も、刻まれた意匠も、すべて違う。


マグロ。

桜えび。

みかん。

茶葉。

うなぎ。


説明されなくても、分かった。


——静岡だ。


「それは、力の核となるメダルです」


女性が言う。


「人の身体では扱えない力を、

 形にしたものです。」


続いて、別の台座が現れる。


その上には、

五つのブレスレットが並んでいた。


時計のようで、

だが時計ではない。


「こちらは、

 その力を人が使うための装置です」


桜が、思わず口を開く。


「……使うって」


女性は、はっきりと答えた。


「戦うためです」


空気が、わずかに張り詰めた。


いずみが、低く呟く。


「……冗談には聞こえないな」


「だから、あなたたちはここにいます」

女性は言葉を続けた。


一護が眉をひそめる。


「何と戦うっていうんだ」


女性は、間を置いてから答えた。


「深海機関アビス」


リョクが、帽子のつばを指で押さえた。


「深海、ですか。

 陸の話じゃないってことですね」


聞き慣れない名だった。


「深海を拠点に活動し、

 すでに各地で

 異常事象を引き起こしています」


「正体や目的は不明です」


「ですが——」


視線が、五人をなぞる。


「人類にとって、

 敵であることだけは確かです」


成実は、無意識に唾を飲み込んだ。


「……じゃあ、

 あたしたちは」


「アビスと戦う存在です」


女性は迷いなく言った。


「その力に適合したのが、

 あなたたちでした」


そう前置きしてから、続ける。


「力はすでに目覚め始めています」


「何も持たずに帰せば、

 あなたたち自身が

 その影響を受けるでしょう」


ブレスレットとメダルに視線が落ちる。


「だから、

 持ち帰ってください」


「使い方は?」


一護の問いに、

女性は首を振った。


「まだ教えられません」


そう言ってから、

五人の顔を順に見た。


「ですが、

 最初の出現は

 そう遠くない」


その言葉に、桜が短く息を吐いた。


「……準備する時間は、

 あまりなさそうですね」



五枚のメダルが、

台座の上で静かに並んでいる。


成実は、

どれを取ろうか考えた覚えがなかった。


ただ、

橙色のメダルだけが、

妙に近く感じた。


視線を向けた瞬間、

それがわずかに傾いたように見えた。


気づけば、

成実の手の中にあった。


——みかん。


「……え?」


自分でも理由は分からない。


けれど、

間違っているとは思えなかった。


周囲を見ると、

他の四人の手にも、

それぞれ別のメダルが収まっている。


選んだ様子はない。


いずみが、手の中の黒いメダルを見つめる。


「……離れない」


それだけ言って、黙った。



倉庫の外は、

まだ明るかった。


扉は静かに閉じ、

何事もなかったかのように

現実の音が戻ってくる。


一護が、乾いた笑いを漏らす。


「……とんでもねぇ話だな」


誰も否定しなかった。


背後で、女性が最後に言う。


「あなたたちは、

 シゾーカファイブ」


その名前が、

まだ何を意味するのか、

誰にも分からなかった。


役割だけが残されたまま、

五人はそれぞれの帰路につく。


その夜。


静岡の、

まだ誰も知らない場所で。


深海機関アビスが、

静かに動き始めていた。


——第1話・了

誰がどのメダルか前半のプロフィールを見ればなんとなくわかるかと思いますが、作品の中で語っているのは成実がみかんいずみが黒いメダルとしか触れていませんので一応誰がどのメダルを手に取ったのかをここで確認しましょう。

湊 一護 マグロメダル

茶谷リョク 茶葉メダル

橘花成実 みかんメダル

宇那木いずみ うなぎメダル

海老原桜 桜エビメダル

です。


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