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グレートヒェンの祈り  作者: 藤和
第1章 メフィストの呪縛
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6:自由への一歩

 それから数ヶ月が経った。暑い日差しが照りつける夏休みも過ぎ、色づいた桜の葉も落ち、雨のあとの水たまりが凍り付く晩冬になった。

 この数ヶ月間、僕は大学受験のために勉強をがんばる傍ら、両親の目を欺き続けた。両親はまだ、僕が受かった大学がある場所を知らない。ただ、今の家から通うのは難しいということを説明したら、渋々とはいえひとり暮らしを許可してくれた。通学時間が長くなって通学が困難になり、中退でもしたら家の名に傷が付くと言ったらこの通りだ。けれどもそれ以上に、早朝から通学をして、寝不足になって体を壊すのを心配したようだった。

 ひとり暮らしをする家を探すのは、牛久先輩が手伝ってくれた。牛久先輩に手伝ってもらっていることをお母さんに知られたとき、そのまま同棲してもいいのに。とは言われたけれども、一度は縁談を断った相手にそれはできないと言い通した。とはいえ、牛久先輩が家探しを手伝ってくれた事実は、僕がひとり暮らしするためにいい後押しになってくれた。なにより、家から離れて生活をしている牛久先輩はとても生き生きとしていて、その姿を見られて安心した。僕も上手くやれると思えたのだ。

 卒業式が終わったあと、いつも通りに清々しい香りのする生物室にみんなで集まった。その時に、いつもの暗い席から日向に一歩踏み出して小絹君がこう言っていた。

「いいか、これからが勝負だ」

 その言葉に、僕も竜ケ崎君も頷いた。僕の逃避行ははじまったばかりなのだ。

 大学在学中に、僕はどれだけ上手く立ち回れるだろうか。わからないけれど、恐れてばかりはいられない。僕が家から逃げるために、竜ケ崎君も小絹君もきっと応援してくれるから。

 でも、そんな頼れる友人達を置いて僕は遠いところまで逃げていくんだ。僕はもう。逃げることから逃げられない。

 どんなに今がうつくしくても、決してとまることのないよう。


 春休み中、家を出る前に親戚の集まりで花恵さんに会った。

 これから僕がひとり暮らしをすると言ったら、花恵さんは両親達には見えないよう、悪魔のようにうっすらと笑った。

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