旅立ち編 第一話:調整師、構造をつく
水路都市アクアリア
水路を使い聖都アルドールと周辺の都市をつなぐ運河と魔力ラインを使って食品だけでなく工業製品など幅広い商品の運搬に使われている…
聖都アルドールを出発し、西へと続く街道を馬車が進む。サトシ、ライオス、フィーナの三人は、水路都市アクアリアを目指して旅を続けていた。
サトシは、ライオスとの特訓で得た「軸の安定性」、そしてフィーナから教わった錬金術をもとに構造錬金術を身に付けて、不安などないと思っていた。
【道中の遭遇とライオスによる強制指導】
街道を進むこと二日目。
鬱蒼とした森を抜けた開けた場所で、それは起こった。
ガアアッ!
甲高い咆哮とともに、三体のファング・ウルフが森から飛び出してきた。
体長二メートルほどの巨大な魔物で、その鋭利な牙と爪は旅人にとって脅威だ。
「魔物か!サトシ、フィーナ、馬車にいろ!」ライオスは即座に剣を抜き、前に立ちはだかる。
「ライオスさん、俺も手伝います!」サトシが腰の工具ベルトに手を伸ばすが、ライオスは剣の切っ先を彼に向けた。
「待てサトシ、いい機会だ、戦ってみろ」
「えっ!?」サトシは絶句した。
「俺との鍛錬で、お前の身体は戦士の身体になった、お前の能力は、魔物と相対する極限状態でこそ試される。
いいか、俺の指示があるまで、『構造把握』以外は使うな、そして情報を集めろ!」
ライオスは二体のウルフを引きつけ、残る一体をサトシの前に追い込んだ。
サトシは武器すら持たず、ただ逃げ惑うしかなかった。
逃走中の『構造把握』
ファング・ウルフの巨体が唸りを上げてサトシに飛びかかる。サトシは反射的にライオスに教えられた動きで身をひねり、辛うじて爪を避けた。
地面を転がりながら、彼は反射的に能力を発動した。
『精密なる構造把握』!
サトシの視界が、一瞬で情報の奔流に変わる。
目の前で咆哮するウルフの「構造」、すなわち骨格、筋肉の接合部、皮膚の密度に加え、獲物に飛びかかる際の重心の推移と、次の動作への連動といった、あらゆる情報が、まるで精密な図面のように浮かび上がった。
(速い!だが、重心が常に右前脚の関節に偏っている!そして、爪を振り下ろす瞬間、左側の肋骨の接合部がわずかに緩む、そこが、この魔物の弱点だ!)
サトシは、恐怖の中でありながら、まるで作業場で故障した機械の不具合を探るかのように、冷静にウルフの構造の癖を読み取った。
ライオスが言った「情報収集」の真の意味を、サトシは悟る。戦闘とは、相手の構造を把握し、最小の力で最も効率の良い倒しかたを見つけることなのだ。
【決定的な瞬間と、あっけない決着】
ウルフが再びサトシの喉元を目掛けて飛びかかった。その瞬間の重心のズレを、サトシの脳がコンマ数秒で計算し尽くす。
サトシは、右前足の着地地点に、ごくわずか先回りして移動した。ウルフは体勢を崩しながら左前足を振り下ろしたが、攻撃はサトシに当たらず空を切る。
体勢が完全に崩れる前に、サトシはウルフの側面に体当たりを敢行した。
倒れたウルフに、サトシはすかさず覆いかぶさる。
「今だ!」
ライオスが叫んだ!
錬金術で作り上げた万能工具を手に、彼はウルフの肋骨の緩んだ接合部に、ライオスに教わった「体捌き」で叩き込んだ。
ガキィン!
工具の先端が、ウルフの構造的な欠陥である接合部を直撃した。全身の骨格をわずかに支える「緩み」が、一瞬で「破綻」へと変わる。
ウルフの全身の筋繊維と骨の接合部が、一時的にその連結を失う。魔物は、まるで糸の切れた人形のように、地面に崩れ落ちた。
ライオスが残りの二体を一閃で切り伏せたのは、直後のことだった。
「…あっけないものだったな」ライオスは、倒れたウルフを見て鼻で笑った。
「サトシ、何が起きたんだ?まるで達人のようだったぞ」フィーナは駆け寄った。
「僕は…」サトシは息を整えながら、倒れたウルフに触れた。「この魔物の構造の歪みを、工具で一時的にズラしただけです。これが僕の戦いかた?」
ライオスは満足そうに頷いた。
「これでわかっただろう、お前の能力は、戦闘そのものではなく、『戦闘を支配する力』だ。
これからは、魔物の『構造』を見極めろ」
こうしてサトシは、調整師としての新たな戦い方を身につけ、ライオスとフィーナとの旅は続いた。




