調整師の里編 第三話:構造を操る手と、馬車の把握
サトシ一行は、北東の山脈へと馬車を進めていた。
街道は険しい山道へと変わり、道幅は狭く、馬車の通行は困難を極める。
サトシの**『構造把握』**のギフトは依然として使えないままだが、彼の「知識」と「手技」は、その旅の過酷さの中で冴えわたっていた。
【騎士の不調と、調整師の診断】
山道に入り、ライオスは手綱を握る手に力を込めながらも、時折、肩を回す仕草を見せていた。サトシは、その**『無意識の代償動作』と、剣士としての『正しい軸の記憶』**との間のわずかな不一致を見逃さなかった。
停車中、サトシはライオスの元へ歩み寄った。
「ライオスさん、右の肩関節に**『微細な機能不全』が起きていますね。
剣を振る際の『軸の連動』**がわずかに乱れている。
昨夜の寝姿勢か、馬車の運転による疲労の蓄積です」
ライオスは驚きを隠せない。
「……気づいたか。実は、ここ数時間、剣を握る度に**『わずかな違和感』**があった。
戦闘には支障がないレベルだと思っていたが」
サトシは冷静に診断を下した。
「戦闘には支障がなくても、その**『違和感』はすぐに『ズレ』となり、大怪我、あるいは致命的な破綻**に繋がる。
これは僕の本業です」
【カイロプラクティックと、構造の記憶の再構築】
サトシはライオスに横になってもらうと、ギフトを使わず、長年培った手技の感覚だけで彼の右肩を触診した。
「原因は、**『胸椎の五番と六番のわずかな後方変位』です。これにより、肩甲骨の動きが制限され、本来の『構造的な安定性』**を失っている」
「フィーナさん、『リ・アジャストポーション3型』をライオスさんの胸椎の五番に、今から『正しい角度と、力』**を加えます」
カツン、というわずかな音とともに、疲労によって生じた**『ズレ』**が解消される。
ライオスは大きく息を吐き出した。
「ああ……まるで、**『身体』が、正しい状態を『思い出した』**ようだ。
剣の重さすら、軽く感じる」ライオスは肩を回し、その違いに驚いた。
【サトシの運転技術:構造の再現】
ライオスの調整が終わり、再び出発しようとした時、サトシが手綱を握るライオスに代わって御者台に座った。
「ライオスさんは、しばらく体を休めてください。
僕が運転します」
「あんたが?だが、この山道は……」ライオスは躊躇したが、サトシは構造の知識による自信に満ちていた。
「ライオスさんの運転技術は、僕の頭の中に**『知識』として残っています。道の『凹凸』に合わせて、『馬車と、馬の骨格の連動』が最も安定する『重心の制御』**を再現します」
サトシは手綱を握り、馬車を動かし始めた。
彼の運転は、ライオスの運転を正確に模倣していた、**『正確な力加減と、無駄のない動き』を見事に再現したものだった。
道の傾斜、岩盤の凹凸。その一つ一つに対して、サトシは馬の動きを制御し、馬車の車軸が地面と接する角度を微調整する。それはまるで、馬車全体を自身の**『身体』の一部として捉え、『最も効率の良い姿勢』**で山道を登っていくかのようだった。
「すごい!サトシ殿の運転は、**『長年、馬車を運転してきた』**かのようです!」フィーナが歓声を上げた。
「これが、**『診断』**の応用です。ライオスさんの技術は、馬車の構造と完璧に合致していた。僕はそれを再現しているだけです」サトシは、汗を拭いながらも、確かな手応えを感じていた。
ギフトなき調整師は、自身の知識と、仲間から学んだ技術で、困難な山道を切り開いた。一行は、使徒の痕跡が示唆する**『精霊樹の森』、そして『調整師の里』**へと、深く進んでいくのだった。
【リ・アジャストポーション3型】
生物に使うと緩んでしまった靭帯を縮める
傷や筋肉痛にも効力を発揮する
炎症を抑える




