調整師の里編 第ニ話:能力なき構造師と、旅路の消耗
ギフトの使えないサトシ、心配そうに見守るライオスとフィーナだが…
水路都市アクアリアを出たサトシ一行は、北東の山脈、そしてその奥にある伝説の**『調整師の里』**を目指して、再び街道を馬車で進んでいた。
サトシの**『構造把握』**のギフトは使えないままだが、彼の目は、周囲の景色や仲間の構造を、以前にも増して鋭く観察していた。
【知識による緊急修理】
「サトシ殿、体調はいかがですか?」馬車の中で、フィーナが心配そうに尋ねた。
「大丈夫です、フィーナさん。むしろ、ギフトがない方が、周囲の情報を**『知識』**として分析する事に集中できている気がします。」
サトシはその直後、ライオスの肩越しに、馬車の車軸から伝わる**「振動の微かな違和感」**に気づいた。
「ライオスさん、停車してください!」サトシは唐突に叫んだ。
ライオスは、サトシの緊迫した声に、反射的に馬車を止めた。
「どうした、サトシ。魔物か?」ライオスが剣の柄に手をかける。
「魔物ではありません。馬車の**「前輪の車軸」に、異常な「ズレ」**が生じています。このまま進めば、数刻後、前輪の構造が破綻し、馬車が横転します」
ライオスとフィーナは顔を見合わせた。ギフトなしで、なぜそこまで言い切れるのかという驚きと、信じざるを得ない緊迫感が交錯する。
フィーナが車軸に近づき、目視で確認する。
「…本当です!わずかですが、**「軸受けの接続金具」が緩み始めています!この街道は石畳が多く、振動による「摩耗」**が激しかったようです」
構造師の真価
ライオスは警戒を強め、周囲を剣で牽制した。そしてサトシに尋ねた。「能力なき今、あんたの**『知識』**だけが頼りだ。どうすればいい?」
「フィーナさん、**『構造固定ポーション』はありますか?それと、僕の『万能工具』**を貸してください」
サトシは、ギフトに頼らず、長年培った調整師の手の感覚と、構造知識だけで緩みの原因を特定した。それは、車軸の固定ボルトの締め付け不足と、それに伴うワッシャー(座金)の破損だった。
「ライオスさん、このボルトを締めますが、完全に締め付けてはいけません。馬車の荷重がかかった時に、**「遊び(クリアランス)」が必要な構造です。僕が指示する「構造を安定させる締め付けの力加減」**で止めてください!」
サトシは、万能工具の先端を、ポーションの力で硬化させた特殊なワッシャー状のパッチに切り替えた。
「フィーナさん、ポーションで補強したパッチを、この破損したワッシャーの代わりに挟んでください。ライオスさん、ボルトを**「四分の三回転で止める」**!」
ライオスは、サトシの指示の精密さに驚きながらも、その通りに実行した。彼の剣の正確な力加減でボルトを回し、フィーナのポーションが、その新しいパッチを瞬時に固定する。サトシは、その**「構造の遊び」**が適切に確保されたことを確認した。
「よし、これで大丈夫です。僕のギフトは使えなくても、構造の理論と適切な工具があれば、直せないものはありません」サトシはそう言って、汗を拭った。
車軸の調整が完了し、馬車が再び石畳を噛みしめる。サトシの知識という名のギフトが、一行の命綱となった瞬間だった。
能力を失っても、冷静に「構造」に対処するサトシの姿に、ライオスとフィーナは深い信頼を寄せた。三人は、自身の起源と能力の回復を求めて、伝説の**『調整師の里』**を目指し、馬車を駆るのだった。
ギフトを使って得た、『知識と経験』がサトシ本来の能力を底上げしている事に2人は気付き始めていた。




