旅立ち編 第五話:主軸の再調整と、歪曲の残滓
水路都市アクアリアの地下迷宮、制御室へと続く通路は、崩落と轟音を上げる不規則な水流によって、極限の危険地帯と化していた。サトシは頭痛をこらえながら、ライオスとフィーナに指示を出す。
「ライオスさん、水の勢いはもう止められません!フィーナさん、あの壁の**「構造固定ポーション」を!ライオスさん、剣の腹で、通路の梁の端を叩いてください!「構造の遊び」**をなくし、崩落を一時的に防ぐ!」
ライオスは剣の腹で、サトシが指示した石造りの梁の端を正確に叩き込み、フィーナが即座にポーションを流し込む。サトシの**「構造把握」とチームの連携により、彼らは決壊寸前の通路を突破し、ついに迷宮の心臓部、巨大な『制御室』**へと辿り着いた。
【制御室:歪む巨塔】
制御室の中央には、都市の命運を握る**『マナ・コンジット』**がそびえ立っていた。それは、複数の水流と魔力導管が絡み合う、高さ十メートルにも及ぶ巨大な構造物だった。しかし、その主軸は、まるで酔っぱらいの足取りのように不規則に振動し、周囲の構造物に激しい衝撃を与え続けている。
『精密なる構造把握』!
激しいノイズと頭痛が襲いかかる。
サトシは、ノイズに耐えながらコンジットを見据えた。視界に映った構造は、完全に**『歪曲の魔力』に汚染されていた。主軸の『軸受』**。巨大な構造物が高速で回転するたびに、激しい摩擦と衝撃を生んでいた。このままでは、数時間で構造物は崩壊し、都市は水没する。
「ズレは、予想以上です…!この主軸の**『軸受』に調整**する必要がありますが、この振動の中で、僕の力では調整を加えることは不可能です!」
サトシは焦燥に駆られていた。この構造物は、一人の調整師の力を遥かに凌駕する巨大さだった。
【構造錬金術:巨大な調整具の創出】
フィーナが、サトシの苦悩を察し、進み出た。
「サトシ殿、私に指示を!この制御室には、緊急用の**『魔力調整炉』**があります。あれを使いましょう!」
フィーナは、制御室の片隅にある古びた魔力炉を指差した。
「私たちが、**『歪曲の調整具』**を錬成するのです。サトシ殿、主軸のズレを解消するために、最も必要なのは何ですか?」
サトシの頭脳が、極限の状況で閃いた。
「構造を正すための**『正確な角度』と、それを維持するための『強力な固定力』です!フィーナさん、あの魔力炉を使って、『ディストーション・キャンセラー』を錬成してください!ライオスさん、主軸の、『ズレの頂点』**に叩き込んでください!」
サトシは**「構造把握」**で確認したズレの頂点を示す。
ライオスは、サトシの指示に従い、コンジットの巨大な主軸に跳び移る。彼の軸の安定性と剣の正確性が、この極限の振動の中で、最もズレた一点にディストーション・キャンセラーをぴたりと触れさせた。
それこそが、サトシが示した『ズレの頂点』**だった。
【最終アジャストメント:魔力の鉄槌】
「今です、フィーナさん!炉の魔力を全て使って、キャンセラーに魔力を集中してください!ライオスさんはそのキャンセラーを**『ズレの頂点』**へ、叩き込んでください!」
フィーナは魔力炉に大量のポーションと、これまでにない量の魔力を注ぎ込んだ。炉から、巨大な青い魔力の塊が噴出し、ライオスのキャンセラーに送った。ライオスがキャンセラーを振りかぶり、主軸の**『ズレの頂点』**へと正確に命中させた!
ドッカーン!
その音は、これまでの全ての調整音の中で、最も大きな、爆発音だった。
主軸の**『軸受』**は、ポーションの力と青い魔力によって一時的に結晶構造が緩められた、そこにキャンセラーの一撃によって再配列された。
次の瞬間、コンジットの振動は完全に止まり、都市全体に響いていた**『不協和音』は、清らかで一定の『水流の調べ』**へと変わった。
【残されたサイン】
サトシは安堵の息を吐きながら、主軸の**『軸受』**に触れた。歪みは消え、構造は完全に安定している。
しかし、その軸受の表面には、彼がリーフ村で見たものと同じ、微細な**『彫り込み』が刻まれていた。それは、「構造の歪曲は、新しい構造を生み出すための進化である」**という古代文字のサインだった。
「まただ…**『調整』**を理解し、そして否定する存在が、この構造物を歪ませた」サトシは悟った。
フィーナは、測定器の異常な数値を読み上げる。
「サトシ殿、この先の地下通路の方から歪曲の魔力の反応があります…」
サトシは、その通路の暗闇を見つめた。
「僕の旅は、まだ続く。構造を正す僕と、構造を歪ませる使徒…僕らの戦いは、この都市アクアリアで、ついに**『顔の見えない宿敵』**へと、その矛先を向けることになる」
水路都市アクアリアの危機は去った。しかし、調整師サトシの、構造を巡る本当の旅は、今、始まったばかりだった。




