旅立ち編 第四話:水路都市アクアリアの挑戦と、不安定な構造
三人を乗せた馬車は、難なく森を抜け、ついに目的地である**『水路都市アクアリア』**へと到着した。都市は、古代の魔導工学によって張り巡らされた複雑な水路と、それを支える巨大な石造りの構造物によって成り立っている。
【水路都市の絶望的な不協和音】
都市の門をくぐった瞬間、サトシは身を震わせた。
「これは…」
水の流れる音が、どこか不規則で『不協和音』を奏でている。それはまるで、巨大な鉄の胃袋が、内側から激しい痙攣を起こしているかのような、苦悶の呻きだった。地面までもが、微かに、しかし規則的な『振動』を刻んでいる。
水路の壁面や、巨大な橋脚には、人一人通れるほどの**深い亀裂が走っていた。その亀裂からは、都市の生命線たる水が勢いよく噴き出し、**サトシたちの足元を濡らした。
「コレはひどい!」
フィーナは、水路に向かって、改良版の魔力測定器をかざした。測定器の針は、制御不能なほど激しく揺れ動く。「水流の魔力ラインに、強烈な『歪曲の魔力』の痕跡があります!」
特命依頼は、都市の地下に広がる『地下迷宮』の修復だった。この迷宮は、都市の主要な水流と魔力ラインの心臓部として機能している。
【ギルドの受付と、時間の宣告】
三人はアクアリアの冒険者ギルドへ駆け込んだ。
受付で待っていたのは、白髪の老練なギルドマスター、グラントだった。彼の表情は、暗いというより、既に『諦め』ている。
「聖都の調整師殿。よく来てくれたが…この都市はもう…『猶予』がない。既に住民の避難はほとんど終わっている。君たちもはるばる聖都から来てもらったのに悪いが、もう帰った方がいい」
グラントはそう絶望感に押しつぶされそうになりながら言った。
サトシはまだできる事があるのではと広範囲に特化した『構造把握』を使った!
「グラントさん、まだ間に合うかも知れません!地下迷宮の最深部、中央に、僕の能力を強く邪魔する力が働いています。
(この感じは歪曲の魔力による妨害だ!)
ここが原因の場所かも知れません!地図か何かありますか?」
グラントは震える手で地図を広げた。そこには、都市の地下に広がる、複雑に入り組んだ迷宮の地図が描かれている。そして、地下迷宮の最深部にある『制御室』の部分に、血のような赤いインクで巨大な「×印」が刻まれていた。
「原因は、わかっている!この制御室の**『マナ・コンジット』(魔力導管)だ。数か月前から、異常が始まり、迷宮内部も崩落するほど激しく、都市全体に影響をもたらしているほどだ。そして…この崩壊の進行は、ここ数日で急に臨界点へと加速している**!」
グラントは絞り出すような声で告げる。
「崩落の影響で地図があっても、制御室にたどり着く事は困難だ。」
「コンジットの暴走を止める猶予は、あと『1日もない』!止められなければ、地下迷宮の崩壊で、アクアリアは水の底に沈む!」
サトシは身を乗り出した。
「この制御室を覆い隠す力は『歪曲の魔力』だ、さらに詳細に調べれば何かわかるかも知れません!まだ1日あるなら調べさせてください!」
【地下迷宮への潜入と、命がけの診断】
サトシは、地下迷宮入り口で構造把握を試みた。
『精密なる構造把握』!
彼の視界に、都市全体を支える巨大な地下迷宮が、緻密な機械図面のように浮かび上がった。だが、迷宮の深い部分に差し掛かった瞬間、視界に黒いノイズが走り、激しい頭痛に襲われた。
「くっ…!」
サトシはよろめき、額に脂汗が滲む。「『歪曲の魔力』が強すぎる!僕の視覚と意識を、無理やりズラそうとしている…これでは、真実の構造が見えない…!」
「原因は、きっと迷宮の最深部、制御室のコンジットです。この装置から、何か、あの村の岩盤と同じ、『意図的な歪曲』によるものだ!」
三人は、制御室に急いで向かう事にした!
迷宮内は、轟音を立てる水と、その不協和音を増幅させるようなエコーで満たされていた。水路の壁面からは、すでに**『歪曲の魔力』が滲み出ており、行く手を阻むように、水流を操る魔物『ハイドロ・エレメンタル』**が待ち構えていた。
エレメンタルが水流で攻撃して、サトシたちを押し流そうとする。
フィーナはなんとか柱にしがみつきながら、測定器を構える。
「この魔物からも歪曲の魔力の反応が!」フィーナが魔力測定器(改良版)で確認する。
サトシは迷宮に入ってから体調が悪そうだ。
『歪曲の魔力』はエレメンタルを操り、さらに攻撃してくる。
「構造把握!」一瞬のノイズと痛みを堪えながら、サトシはエレメンタルと周囲の構造の関連性を見抜いた。
「うっ」一瞬の悲痛な声が漏れた。
「ライオス、あの壁を壊して!エレメンタルの認識が『ズレ』ている!壁にこの魔物の核が!そこを破壊して、そうすれば、倒せる!」
ライオスは、一瞬の躊躇もなく、剣の柄で、渾身の力を込めて壁を破壊した!
エレメンタルは、悲鳴に似た、甲高い「不協和音」を上げ、水の渦と共に亀裂の奥へと消えていった。
フィーナの魔力測定器が測定不能なほど激しく反応した、最深部のコンジットから、極めて強烈な『魔力』を検出した。
「サトシ殿…これは、いままでの歪曲の魔力とは『格』が違います。冷たく、憎しみに似た、悪意です…!」
サトシは、奥歯を強く噛み締めた。
都市の命運をかけた、修復という名の新たな戦いが始まる。
「迷宮の最深部で僕らを待っているのは、もっと困難な、この**『歪曲の魔力』の…**」
彼は、言葉を飲み込んだ。
一瞬だけ、ノイズの向こうに、**構造全てを意のままに操る、冷たい『影』**を感じたのだ。




