プロローグ第一話 終わりと始まりそして調整!
カイロプラクター、異世界で「伝説の調整師」となる
サトシ、45歳。職業はカイロプラクター。趣味はDIY。
長年培ってきた「手で、構造を正しく組み直す」技術こそが彼の人生の核だった。
ある日、愛する自作の作業場で、彼は突然の事故に遭い、命を落とす。
次に目覚めた時、そこは見知らぬ異世界。そして彼は、一つの特殊能力と若さを授かっていた。
それは、あらゆる生命体や物質の**『内部構造』を、図面のように完璧に把握できる能力――『精密なる構造把握アナリシス・スケルトン』**。
体の歪みを直してきたカイロプラクターにとって、それはあまりにも完璧な「天職」のギフトだった。
しかし、この世界で彼の技術は「戦闘に向かない素人の能力」と軽視される。
だが、薬草採取の片手間に崩壊寸前の木を**『調整』し、誰も直せなかった伝説の聖剣を、カイロプラクティックの技術で『ズレ』**を治して再生させた時、彼の真価が知れ渡る。
これは、カイロプラクターだった男が、異世界で**『伝説の調整師アジャスター』**となり、その精密な手で、人々の骨格、都市の構造、そして歪んだ人生をも「正しく組み直す」物語である
【見慣れた作業場と、突然の終わり】
サトシ、45歳。職業はカイロプラクター。趣味はDIY。
この日も、彼は自宅の作業場で木材に向き合っていた。使い慣れた工具の、心地よい金属音と木の香りが満ちていた。週末の趣味に没頭する、この時間が彼の何よりの楽しみだった。
(次は、何を作ろうか)
DIYも仕事も、「手を使って、人を支えるものを作る」という点で、サトシにとっては根っこが同じだと感じていた。長年培ってきた体の構造への深い理解と、手を動かす技術。それが彼の強みだ。
鋸の刃が木目に吸い込まれていく瞬間、全てを奪うように唐突に、視界が白く塗りつぶされた。
ガシャンッ!
激しい衝撃音。直後、全身を激しい痛みが貫く。何が起きたのか、理解する暇もなく、意識は暗闇へと沈んでいった。
【異世界の目覚めと、与えられた能力】
次に目覚めたとき、サトシは見たこともない場所にいた。石造りの天井。硬いベッド。そして、隣には白衣を着た、見慣れない老人。
「目が覚めたか、異界の旅人よ」
老人は、知らない言語で話しているようだが、サトシには完全に理解できた。
「ここはどこですか?」
「ここは、聖都アルドールの治療院だ。君は、**『次元の裂け目』**から転移してきたようだ。驚いただろうが、ここは君の故郷ではない」
やはり、異世界転移らしい。頭の中の記憶を整理する。作業場で、おそらく何らかの事故に遭った。死んだ、のだろうか?
「一つ、君に伝えなければならないことがある」と、治療院の老人が続けた。「君は、この世界に来る際に、**『祝福』を受けた。この世界に来た旅人は皆、一つの特殊能力を授かる。君の能力は思い浮かべてみるといい。
サトシは集中した。
!
この世界の知識が頭に流れ込んでくる、そして『精密なる構造把握』浮かんできたのは、そんなイメージだった。
サトシは眉をひそめた。精密なる構造把握?
「自らが触れた、あるいは視認した生命体や物質の**『内部構造』を、図面のように、誤差なく完璧に把握できる能力、特に、骨格や接合部、材質の構成、そして不具合や欠損箇所が、まるで光るように**見える」
その説明が浮かんできたとき、サトシの脳裏に電流が走った。
(体の構造への深い理解。手を動かす精密な技術。…そして、構造を完璧に把握できる能力。まるで、カイロプラクターである俺のために用意されたような能力じゃないか!)
その後治療院の老人と会う事はなかった会った事も忘れてしまった。
【ギルドへの登録と、新たな仕事】
治療院を出ると、サトシは聖都アルドールの街を散策した、そして冒険者ギルドを見つけた。
ギルドの受付で、彼は冒険者登録をした。しかし、彼の見た目は、屈強な戦士でも、華奢な魔法使いでもない。どこにでもいる、青年にしか見えない。
(転移の影響なのか20代ぐらいの頃の容姿になっていた)
案の定、ギルド職員は半信半疑だった。
「戦闘には向かなそうですが…」
「ええ、その通りです」サトシは微笑んだ。「私の本職は、調整師です!」
『この世界でのカイロプラクティックに近い職業は調整師らしい』
「調整師ですか?はぁ?」
ギルド職員はだから何?と言わんばかりにツンとした態度で続けた
「あなたに出来そうな依頼は薬草の採取ですね」
「あの山の中腹あたりに薬草が取れる所があるのでそこに取りに行ってください。ただ、街の外には魔物も出るのでお気をつけてください。」
最初にもらった依頼は、薬草採取だった、大人なら倒せるぐらいの魔物しかでないらしいが警戒しつつ、黙々と薬草を集めていると、ふと異様な雰囲気の一本の木に気が付いた。
(あれは…『構造把握』)
意識を集中すると、その山の中腹にある木が、地下の岩盤をかろうじて抑え込む形で立っているのが、図面として鮮明に見えた。
この時、感じた事のない嫌な感覚がした。
見えているが認識出来ない何か?
気にはなったが、先ずは目の前の問題を解決する事にした。
「これは…まずいな。このままでは、この木が倒れて岩盤が緩み、土砂崩れの原因になる!」
サトシは、持っていたDIYの経験で培ったノコギリと斧を使い、周りの支障となる木を少しだけ整理し、木が自力でまっすぐ伸びるように補助するための木製の添え木を器用に作成し、固定した。
「これで安心だ」
サトシはほっと一息ついて薬草を背負い、街へと帰っていった。
【コツコツと、小さな調整】
薬草採取の納品後も、サトシはギルドで地道な雑用や低難度の依頼をこなしていた。彼は、暇ができるとギルド内の**「歪み」を探した。受付のカウンターは床との接合部にわずかな『ズレ』**があり、職員の目線が少し低くなっていた。サトシはギルドの道具庫から楔を見つけ出し、カウンターの傾きを完璧に修正した。
(少しでも快適に少しでも過ごしやすく派手な能力じゃなくても、できることはある。気になるとついつい手を出してしまう。)
ある日、依頼掲示板を眺めていたサトシは、ふと、受付に立ち、辛そうにしている中年女性職員の立ち姿に目が留まった。
明らかな歪みが、その立ち姿からわかった。
**『構造把握』**を無意識に発動する。
彼女の背骨の第三腰椎(L3)の関節面が、わずかではあるが後方へ変位し、それに伴い骨盤全体が微かに後傾しているのが、ヴィジョンの中で青白い光を放って見えた。それは彼女が長年、受付で無理な姿勢を続けたことによる**『歪み』**であり、サトシにはっきりと「痛み」の根源だと認識できた。
(これは…ひどい**『ズレ』**だ。放っておけば、さらに進行するだろう)
「すいません、少しお時間をいただけますか」
サトシは彼女の前に進み出た。
「え?新人さん…何でしょう?」
「失礼ですが、ここ数年、腰の右側と、左の首筋に、鈍い痛みがありませんか?」
女性は目を見開いた。
「な、なぜそれを?確かに、長年の立ち仕事で…でも、怪我ではありませんし、そのうち痛みも引くので…」
「いえ、これは『歪み』の問題です」サトシは真剣な顔で言った。「私は調整師です。その痛みを解消できると思います。報酬は要りません。私の技術の確認だと思ってください」
不安がる女性を、サトシは受付カウンターから離れた壁際に優しく誘導した。
彼は、カイロプラクターとしての経験に基づいて、第三腰椎に最も効率よく、かつ安全に「圧」をかけることができる体勢に彼女をセットした。
そして、長年培ったミリ単位の精度で、女性の腰の最も歪んだ部分に、正確な衝撃**を加えた。
ボキッ…という、静かだが確かな音が響いた。
女性は反射的に腰を触った。そして、信じられないという顔でサトシを見つめた。
「あ…あれ?腰の、何かが…外れたような、戻ったような…痛みが、消えています」
「これで、体の**『土台』が正しく組み直されました」サトシは微笑んだ。「明日からは、正しい姿勢を意識してくださいね」
受付の女性は、深々と頭を下げた。
「サトシ先生!ありがとうございます。これは、まさしく**『神業』**です。あなたのような調整師は初めて見ました…!」
この世界の調整師とはとてもマイナーで効果を実感できるようなものではないらしくコルセットなどで固定して痛みを出にくくするのが主な役割とされているらしい。
サトシの行うカイロプラクティック技術はこの世界では、異質なものだがサトシの真面目な性格と地道な善行で、驚くべき『調整』の腕前は、瞬く間にギルド内で小さな話題となり始めた。
サトシの冒険は、まだ始まったばかりである。
**『精密なる構造把握』**と、前世で培ったカイロプラクターとしての「調整」の神業。この二つを武器に、サトシは異世界の様々な「歪み」と対峙していく。
彼の名は、単なる冒険者としてではなく、**『伝説の調整師』**として、聖都アルドールを越え、広く知れ渡ることとなるでしょう。
彼の調整の対象は、歪んだ骨格を持つ仲間、傾いた石造りの砦、機能不全に陥った魔導具、そして心に傷を負った人々の人生……。
彼の旅路は、この世界を「正しく組み直す」壮大な物語へと続いていきます。




