トラック、トンネル、転移
――現代、横須賀近辺、トラック、高田あき
トラック運転するのは初めてだけど大丈夫かなー。大野しめとかないと。
「いやー高田さんがトラックの免許持ってて助かりました。ラッキー」
「ラッキーじゃないですよ、大野さん。危うく電波法違反の端末1万台も売るとこだったんだから反省してください。回収だけでもどれだけコストかかることか」
「いや販売前にわかってよかったです。気がついてくださって感謝してます。ありがとうございます。横須賀まで運べばチップ抵抗交換してくれるところも見つかったし、これでうまくいけば、ちょっと発売日遅れただけですむじゃないですか。ほんとにラッキー」
「反省してよ。あと1歩で大惨事だから」
「はい反省してます。でもよくソフトウェアエンジニアのくせにトラックの免許なんか持ってましたね。運送屋一杯でどうなることかと思いましたよ」
「ソフトウェア関係ないから。昔は中型までついてたの。いわせんな。いいからナビお願い」
「大丈夫です。スマホでみてますから。なんか位置ふらついてますけど」
「えー大丈夫? GPSの周波数もまちがってるとかじゃないでしょうね」
「あれは変えられないから大丈夫です。単に木のせいかと」
「そこのトンネル入るの? ほんと? 端末一万台かかえて事故ったら」
「あー多分」
「うわ暗いな」
――いつか、どこか、トラック(多分平気)、高田あき
突然のドカンという衝撃、ガンという車体底から聞こえる音。うわ、やば。これ大丈夫?
「うわ、大丈夫?」
「平気でーす」
「車は大丈夫かな? トンネル抜けたしちょっと見てみよう。ハードウェア担当よろしく」
「それ関係あります? いいですけど」
・・・・
「ちょっと見てみましたけど、油とかは漏れてなさそうなので、車は大丈夫ですよきっと」
「いやこれスマホ電波入んないし、この先道なくなってるしおかしいでしょ。Uターンできるかな?」
「えー、出てきたトンネル塞がってるみたいですよ」
「はい?」
ありえないので、出て周りをみたけれど、確かにトンネルは塞いである、というか廃坑道みたい。
なんじゃこれ。周りもみてみたけれど、あまり手の入ってない山にしかみえない。こんなとこ歩けない。無理無理。ネットもGPSも入らないし。車は機能しているように見えるけれど、ラジオは入らない。えー、あ、AMは入る。
「本日、ちゅうけんはちこうのどうぞうがしぶやえきとうにしゃおんのこころをたいげんし。。じょまくしきにははちこうも」
え、なにこれ、ハチ公? 生きてるの? 映画?
「あータイムスリップ、すげー。トラックだし」
「なにいってんの。なにこれ」
「いやよくあるタイムスリップでしょ。ハチ公って昔からあるんでしょ。ラジオやってるんなら昭和? 歴史とかをどうにかするやつじゃないですか」
「ないでしょ。なにそれ、歴史? どうするの? 昭和の歴史なんか知らないよ」
「さしあたり売るほどあるスマホを換金して、生活基盤を確保するとこからですかね? ラッキーなのかこれ?」
「大野さん、ゲームじゃないんですよ」
「いやでも、あのトンネル掘って戻るとかじゃないでしょ。ラジオもドラマじゃなさそうだし」
えー、確かにあのトンネルは無理そうだし、昭和は昭和だよね。手持ちの現金も使えないよねこれ。なんだか寒そうだし車中泊も避けたいなぁ。
「スマホ売るって、どこにどうやって売るの」
「電卓って昭和からあったんでしょ。街で、電卓として売ればいけるんじゃないですかね。キッズモードで電卓アプリ固定にしとけば」
いやこんな電卓昭和にないから。へたしたら機械式じゃないの。
「大丈夫ですって。一応ある製品の性能がいいやつだからきっと売れます」
「このがわとディスプレイはいくらなんでもおかしすぎでしょ」
「じゃあ箱にいれて開けたら保証無効って書いといて、あ、ACアダプタ渡さないでリース商法にすればいいのか、ラッキー」
あ、器用だな、箱に押すとこと結果のとこだけ穴をあけて電源いれっぱのスマホ詰めてる。えー本当? 街までいくんならついでにスニーカー買ってきてほしいな。
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