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風結び ー戦国ノイズー  作者: 蓮空虎太
第1章 平成の里と新米忍者編
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第8話 平成の里の秘密―戦国ノイズ

「寒くないか?ここは陽が当たらないから、年中寒いんだよ。夏場はいいがな。」


と三太夫は重苦しくなった空気を和らげようと少し話題を変えた。


「大丈夫です」


「二人とも早く先を話せって顔だな。」


三太夫は苦笑しながら、真顔に戻って続けた。


「村に入るのに俺が山伏、ショウが従者という役割で行くことにした。

村に近づくとどこからともなく木陰から数人の男たちが現れたよ。

さすが忍びの国という感じだったな。」


僕はゴクリと固唾をのんだ。


「男らに近隣の山で修業していること、山中で遭難している男を見つけ従者にしていることなどを話したが、この時代簡単には信用してもらえない。まして一国丸ごと忍びのような国だからな」


「2~3日軟禁され、あれこれ尋問されたよ。

だが、あの山伏の一件以来、言葉で戦うのが俺の役割だと自覚したからな。迂闊な言葉は吐かないよう注意し、持てる知識をフル稼働して話続けたさ。でもな…。」


そこまで言うと三太夫は急に思い出し笑いをはじめた。


僕もアヤカも真剣に聞いている時に急に三太夫が笑いだしたから、呆気にとられていた。


「何を言っても頑な(かたく)に信用してもらえないもんだから、俺も段々頭に来てな、

『我は神仙の山にて神託を得て、人ざる技能を与えられた者ぞ。下々の者に語ることなどない。頭領を呼べ!!』

と大見得きってやったのよ!」


僕は目が点になった。多分アヤカもだろう。


「そしてな、懐に隠し持っていたジッポーライターを取り出して懐紙に火を点け、投げつけてやった時の連中の顔、忘れられないぞ。化け物を見たような唖然とした顔な。」


そういうと三太夫は爆笑した。


「火を起こすのにまだ火打石なんか使っている時代にな、いきなり火を点け投げ付けてくるものだから、奴らにしてみれば仙人か物の怪か、って感じになって大パニックよ。」


「それからほどなくして、村長らしき男と地侍らしき奴が数人きて、この地域を治める長の所へ案内すると言ってきた。」


「凄い展開ね…」


アヤカが少し呆れたように言った。

冷静沈着な三太夫が、そんな博打のような行動に出るとは思えなかったのだ。


三太夫はカカと笑いながら


「おまえなぁ、俺だってその頃は31でまだまだ血気盛んな頃だったんだよ。」


「そっか、桃爺も若いころあったんだね。」


アヤカが茶化す。


「最初から今のようなジジイのわけないだろう。」


皆口を開けて笑った。


「ショウという人は、その時いくつだったんですか?」


僕が聞くと、三太夫は虚空を見上げ、思い出すように答えた。


「確か…23だったな。」


「に、にじゅうさん~!?」


僕とアヤカは声を揃えてのけぞった。


先程から聞かされている冷静沈着で何事にも動じない男のイメージは、昔父親と見た映画“ランボー”その人だった。

歳だって三太夫より上なものとばかり思っていた。


「ショウはな、防衛大学校出のエリートのくせに、過酷なレンジャーに志願した変わり者というか、まぁ、あのままいけばスーパーエリートであっただろうな。」


「当然士官として戦略、戦術を立てる頭脳があり、レンジャーのような前線で必要な実戦能力もある。この戦国時代なら天下を取れる男よ。」


(凄い人だったんだな)


三太夫は話の続きを語り始めた。


「我々が案内されたのは城郭の様な砦のある、ちょっとした城下町を思わせる集落だった。

そこの主は、戦の無い時には、砦の門前に屋敷を構えていて、俺たちはそこに通された。」


「出て来たのは、“百地正永”という俺と同じくらいの年齢の男だった。」


「百地!?丹波ですか?」


僕は伝説の忍者の名前を思わず口走った。


「ふふふ、ゴエモン。

歴史好きだと聞いていたが、勉強が足りんな。

伊賀上忍の百地家当主は代々皆丹波守(たんばのかみ)を名乗っている。

だから皆百地丹波で間違いない。

後世有名な百地丹波は正西といい、この時まだ生まれたばかりの乳飲み子だった。

正永様は正西の親父。丹波守正西は今、現役の百地党の当主だよ。」


そうだった。百地丹波が有名を馳せたのは天正伊賀の乱での活躍。正に今だ。


(ひょっとしてどこかで丹波に会える?)


そんな期待が少しだけ僕の胸を熱くした。


「百地様は入ってくるなり、

『その方妖術が使えるらしいな。今この場で見せてみよ。』

と言ってな。ここまで来ると俺も引くに引けなかったから、わざとらしく適当な呪文を唱えながら、ライターで火を点けて見せたわけだ。」


「横にいた家臣らは皆驚きの声をあげたが、百地様はジッと俺の手元を見ていた。そして周りの家臣に

『なるほど、これは神がかりじゃ。これらに仇なすは天罰がくだされよう。皆の者、以後この者に不埒な対応することは許さぬぞ。』

と言い出したのだ。」


「俺の手元を見る目からしても、絶対に妖術などとは思っていないはずだったからな。

意外な展開に逆に面食らったよ。」


「そして百地様は、

『拙者はこの神仙の使いと話がある』

として、自分とショウだけを残し、その他の家臣を人払いしたんだ。」


部屋に三太夫とショウ、そして百地正永だけが残った。


「百地様は鋭い御方だった。初対面で俺を見抜いていた。俺の目をじっと見て、こう言った。『どこから来た?何を見てきた?』と。まるで…すべてを知っているかのように」


ゴエモンもアヤカも、無言で続きを待つ。


「腹をくくって、正直に語ったよ。『時を越えて来た。名は桃内信義、元は未来の学者で、伊賀を研究していた者だ』と。

そうしたら、百地様はため息をつき言ったんだ。『やはり、お主のような者がまた現れたか』とな」


「また…って?」


アヤカが驚きの声をあげる。


「百地様はそう言うと、奥の隠し戸棚から何かを取り出してきて、俺たちの前に差し出した。

それは…壊れた眼鏡と腕時計だった。」


「え!!」


僕らは思わず声を上げた。


「俺も、さすがのショウも絶句していたよ。

俺たちの他にも、ここに来ていた未来人がいたのだと。」


「そ、その人は、どうしたんですか?」


「俺も今のゴエモンと同じテンションで百地様に聞いたよ。すると百地様はゆっくり首を左右に振られた。」


「恐らく俺たちと違い、何の知識もなくこの時代に落ちたのだろうな。あの山を歩きまわり、食い物も無く、飲み水もなく、川の水など飲んで腹を壊し衰弱しきって山を降りてきたところを、近くの猟師に発見されたそうだ。」


「言葉も通じない中、その男はひたすら“未来”という言葉を口にしていたそうだ。」


ゾッとしていた。平成の里がなければ、僕も同じ運命を辿っていたかもしれない。


「百地様曰く、

『当家には、代々あの山に時折奇妙な物の怪が現れる、という言い伝えがあってな。物の怪の祟りを恐れてあの山を“神仙の山”として、人が立ち入ることを禁止しているのよ。』とのことだった。」


「だが、実際この眼鏡と時計の男に会った百地様は、身なりは奇妙、怪しげな“からくり道具”を持つが、身ぐるみはがせばただの人間とわかっていたらしい。」


「そして俺たちがおかしな妖術を使うと聞いてピンときたんだろうな。すぐに呼出し、その未来の遺物を見せ、確認したんだろう。」


「そして百地様は驚くべき提案をしてきた。

『お前たちにあの神仙の山を預ける。そしてあの山に時折やってくる者たちを保護し、この世界で生活できるようにしてやれ。

神仙の山に常人は近づかん。お主達は特別な神託を受けた民だということにする。あの火炎の妖術を見せた後だから、皆信じようぞ』と言って、初めて笑ったよ。」


「さすが忍びの頭領、冷静で合理的な判断のできるお方よ。

俺の苗字が“ももうち”で“ももち”と似ていることから、山を預ける大義名分として、百地の一族の者としてくれ、三太夫という名前もいただいたのよ。」


「そして、ここで生き抜くための術として、ショウに伊賀流忍術を伝授してくれた。

もっとも、短期間で殆どの事をショウはマスターしてしまうので、百地様もその素質の高さに驚いていたよ。

最後の方は、逆に若手に格闘術を教える側になっていたわ。」


三太夫は懐かしそうに微笑を浮かべていた。


「ただし、このことを知っているのは百地党の限られた宿老(おとな)だけなので、山に人が増えた場合は、他の村落同様な扱いにするということを約束したのだ。」


「だから軍役なんかがあるのね…」


三太夫は頷いた。


「平成の里も20人を超えるようになり、立派な村落となった。

百地党の中に、この里の成り立ちを知る宿老(おとな)もほとんどいなくなった。

今この里の真実を知っているのは、ご当主の丹波様くらいだろう。」


「未来から来た者は、この時代では“異物ノイズ”だ。

だが生きるためには、この時代の人間として認められねばならぬ。そのために必要なすべて─衣食住、言葉、技、心構え─それを教える場として、俺とショウはここを作った。」


「それって…本当に…」


アヤカが言葉を探しながら言う。


「すごいこと…ですよね。」


僕が言を繋いだ。


「いや、すごいなどというものではない。

俺はただ、目の前の現実に抗わず、受け入れて生きただけ。

だが…この世界に放り出された者にとって、この場所が小さな“灯”となるなら…、それが俺にできる、唯一の務めだと思っている。」


平成の里は、三太夫とショウが命がけで作った、未来人にとっての灯台だった。


僕たちは“戦国ノイズ”

けれど簡単に消去されないよう、この地で生き抜いていってやる。


3回に渡り平成の里の成り立ちを書かせていただきました。

若干説明っぽい文章が多くて、読み物としては少し退屈だったかもしれませんが、後半に向けて知っておいていただきたいことでしたので、敢えて書かせていただきました。

特に平成の里の創立になくてはならない人材だったショウはどこへ行ったのか?

そのあたりも気にしながら今後も読んでいただけたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
平成の里の秘密とタイトルにある戦国ノイズの言葉が出てきましたね!頭に来た三太夫に笑いつつ、ショウのその後が気になるところです。エピソード9も楽しみにしてます!
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