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風結び ー戦国ノイズー  作者: 蓮空虎太
第1章 平成の里と新米忍者編
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第4話 認められたきゃ強さを示せ!

「今日は組手の稽古!」


朝一番からリーダー格のサイゾウが怒鳴った。


訓練メニューは、毎日サイゾウが独断で決める。

昨日はひたすら山中の走り込みをやらされた。


それに比べれば組手=スパーリングと思えば、やっと自分の強みを発揮できそうだ。


8人ばかりの男衆が広場に集まり、二人一組で一定間隔に広まった。


「よし、始め!」


僕の正面に立つのはショーゾーという30位の男だった。

数日見ている限り、サイゾウに次ぐナンバー2という立ち位置のようだ。


(ならば組手の腕前も悪くはないだろう...)


「あの…、ルールは?」


始めといわれてもどうしたらいいかわからない僕が、目の前のショーゾーに聞いた。


ショーゾーは不敵な笑みを浮かべながら


「そんなもんあるか。殺し合いにルールなんてないんだよ!」


と言いながら飛びかかって来た。


パンチかと思ったら明らかにサミング(目つぶし)を狙いに来ている。


間一髪避けると、続けざまにみぞおち目掛けた膝蹴りが飛んでくる。


確かに一撃必殺の急所ねらいばかりだ。


畑仕事へ向かう途中の子供らが見ていた。

中学生くらいの年代であろうケンタと呼ばれている少年が


「あーあ、またショーゾーの奴新人に洗礼を浴びせる気だよ。

かわいそうに、ゴエモンどのくらいもつかな」


と言って笑ってみている。

娯楽の少ない里の中で、こうした組手稽古は格好の見世物だ。


「ッ痛」


ケンタの声に一瞬気を取られた瞬間、ショーゾーのパンチがこめかみに入った。


大抵の男はこれでダウンするだろう。


それほど強烈な一撃だったが、打たれ強さがプロレスラーのウリだ。


僕はリングの癖で人差し指を左右に振って“効いてないぜ”をアピールした。


それを見たショーゾーは怒気を含み再度右こぶしを振り上げてきた。


それをこめかみスレスレでかわすと、僕は下がらず相手の懐に飛び込み、掌底で相手の顎をかち上げた。


カウンターで下からアッパーをくらわせば、脳が揺れて平衡感覚を失う。


そのままクルッと背後に回り込みバックドロップで投げ捨てた。


無意識に体に沁み込んだムーヴだったが、プロレスのマットじゃない、土の踏み固められた広場である。


この場での投げ技は自分にもダメージがあった。


「痛って~」


自分でやっておきながら、頭を押さえ情けない声をあげる僕を、見ていたケンタが指さして笑っていた。


「やめやめ、勝負ありだ!」


サイゾウが慌てて駆け寄ってきた。


ショーゾーは、意識が飛んでいる状況で固い地面に頭から落とされ気を失っている。


「ちち!ちち!」


2歳くらいの小さな女の子が駆け寄ってくる。ショーゾーの娘のふうらしい。


「大丈夫だおふう、今父ちゃん起こしてやるからな。」


そう言ってサイゾウはショーゾーの上体を起こすと背後からカツを入れた。


「ウッ」といううめき声と共にショーゾーは意識を取り戻した。


恐らく何が起こったかわかっていないだろう。


「…やられたのか、俺」


ショーゾーがサイゾウに聞いた。


「あぁ、見事な負けっぷりだったぜ!」


そういうとサイゾウは豪快に笑った。


風はショーゾーに抱きついて泣いている。

その光景を見ると何だか悪い事したみたいでちょっとバツが悪くなった。


ショーゾーは頭を振りながら立ち上がり、風を抱き上げこっちに向かってきた。


「お前強いな。何かやってたのか?」


そう問われると僕は


「プ、プロレスを少々...」


と答えた。


「プロレスーっ!?」


場にいた一同が、驚いたように声を揃えた。


「その割には大きくないな」


とサイゾウが僕のことを上から下まで舐めるように眺めながら言う。


体格だけなら間違いなくサイゾウの方がプロレスラーだ。


「あ、ルチャ・リブレっていう、メキシコ系のプロレスで、普通の人とあまり体格変わらないんです。」


「ルチャならマスクマンなん?」


とキュウサクと呼ばれている20歳くらいの少年が人懐っこい笑顔で聞いてくる。


「あ、うん。まぁね」


「なんて名前?」


「ザ・シノビウルフ…」


そう言うと何故か周りから「オー」という感嘆の声が聞こえてきた。


「ふ、シノビとはな。お前がここにくるのは運命だったのかもしれねぇな。」


とサイゾウが言った。


首を抑えながらショーゾーも


「強い奴は大歓迎だぜ。よろしくな。」


と言って右手を差し出してきた。


「”ちち”をいじめるなよ」


ふくれっ面で風が言うと一同爆笑した。


僕はショーゾーの右手を両手で握り、風のぷくぷくほっぺをツンとして答えた。


「大丈夫、”ちち”とは仲間だ」


風がくすぐったそうに「キャッ」と笑った。


里の仲間との絆がまた少し深まったような気がした。


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