第1話 プロレスラー戦国に堕つ
初投稿です。
書き始めは退屈しのぎの軽い気持ちでしたが、気づけば20話超の長編になり、誰かに読んでもらいたいという欲が高じ、今回思い切って投稿してみました。
学生の頃物書きになりたいと思っていた夢を、ちょっとだけかなえられた気分です。
失われた時代に生きる者たちの痛みと優しさ現代から来た若者の成長と絆を描いています。
ファンタジーながら、できるだけ納得できるリアリティも追及しているつもりです。
応援いただけたら幸いです。
「…なんか、いや~な感じ…」
木々がざわめき、山の湿気が肌にまとわりつく。
ここは三重県伊賀の山中。
まるで時間が止まっているような、人気のない深い森。
「いかにもって感じだけどな……」
僕は、鬱蒼と茂るヤブの中をかき分けながらつぶやいた。
『伝説の忍者・百地三太夫の隠れ洞窟がある』
ネットで偶然見つけたその一文に、心が躍った。信憑性ゼロの情報だったけど、なぜか強く心惹かれた。
行かなきゃいけない、そんな気持ちが日が経つにつれ強くなり、僕は今回の伊賀行きを決意した。
東京の小さなインディープロレス団体で、僕-石川和樹-はマスクマン「ザ・シノビウルフ」としてリングに立っている。
華やかそうに見えても、インディのプロレスラーなんて儲からない。
夢だけじゃ食っていけないから、試合がない日はコンビニ、引っ越し、居酒屋などのバイト漬けの日々だ。
今回、たまたま奇跡みたいに3日間のオフができた。試合も練習もバイトもない連休なんて、次はいつあるかわからない。
温泉でのんびりも考えたけど、歴史好きが嵩じて忍者モチーフにしている僕が選んだのは、ここ伊賀の山中だった。
でも、現実は甘くなかった。
(そんなもん本当にあるなら、誰かがとっくにテレビに売っているか、YouTubeでバズってるよな…)
時計を見ると、午後4時を過ぎていた。雲も厚くなってきて、風も冷たい。
日が落ちる前に引き返さなきゃ遭難しかねない。腹も減ってきたし、いい加減あきらめるか。
そう思ったときだった。
「あれ?」
目の前、どこか不自然な直線の岩肌がある。
人の手が加えられたような違和感。
そこは崖のような急斜面で、うっかり足を滑らせれば下まで真っ逆さまという場所だった。
でも、なぜか、目が離せない。
僕は、吸い寄せられるようにその岩場の前まで移動した。
(もしかして…)
慎重に足元を確かめながら、手で触れると、冷たくて硬い岩の感触
。
苔と泥に覆われていたが、まるで入口を塞ぐように石を組んだようにも見える。
「動かないかな…」
少し力を入れてみたがビクともしない。
さらに力を入れようと、足を踏ん張った瞬間だった。
バリバリバリッ!!
空が裂けるような轟音。
地面が揺れ、頭上で閃光が走ったような気がした。
雷!?
何が起きたのか、わからない。
(落ちる!!)
崖から?
いや、違う。
意識が深い闇に落ちていくような感覚。
深い無限の闇に落ちる感覚を味わいながら、僕の意識は遠のいていった。