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終活③歩  おはようございます? おそようございます?

 ザクッ! ザッ! ザクッツ!


 どこかを掘っているような、不規則な音と共に

 俺が寝ている場所が、ガタガタと揺れる。


 

 はぁはぁという自分の呼吸が聞こえる、真っ暗な空間。


 コロナのような軽い倦怠感を感じつつ、手探りでペタペタと前後に触れてみると

 どうやら俺は、箱の中に閉じ込められているらしい。

 


 振動するたびに、身体中にひびく痛みを感じ、結構辛い。

 鍛え続けた なんて言ってたけど

 寄る年波には勝ててないぞ、ダンテのじいさん。


 

 なんだろう、俺の手元にある、この棒は?

 せまい箱の中で、ペタペタと手探りで触ってみると、手元に堅い感触が。

 この形は……じいさんが杖代わりにしていた、あの剣か?

 


 ついでに自分の腕をペタペタと触ってみると、すっげぇ!

 めちゃくちゃ筋肉が引き締まってるじゃん。 

 体育の松下より筋肉がある! 流石勇者、老いてなおってヤツか? 

 腰はちょっと痛いけど。



 んで? 

 どこだよ、ここ。

 暗いし揺れるし、狭くて最悪!



 地震の余震のような、ガタガタと不安定な揺れは続いており

 とても、快適な起床とは言えない。


 

 ふかふかのベッドの上で起床! とまでは言わないけど

 せめて、布団の上で起きたかったね。 

 


 ガタンッという大きな揺れで、意識が覚醒した俺は

 ダンテのじいさんの話を思い出したけど

 そういえば、あのじいさんも、俺と同じく死んだんだよな。



 ……ってことは、さっきから、ザクザクと穴を掘るようなこの音って

 俺を埋めるために、地面を掘っている音か?



 うおっ、音が止んだかと思えば、何かに包まれてる変な感じ。

 俺、浮いてる? ふわふわと浮かんでる?

 これはこれで楽し――

 


 って、浮遊感を楽しんでる場合じゃない。

 このままじゃ 俺、生き埋めにされちゃうじゃん!




「待っ、待った待った!

 生きてる! 生きてるってば、死んでないぞ!!」




 箱の外にも聞こえるよう、必死に大声で叫ぶと

 さっきまで、延々と自慢話を聞かされた、あのじいさんの声が

 自分の口から飛び出していく。



 プッチン

 


 浮遊感が解ける感覚と共に、どすん!という衝撃が箱越しに俺へと響く。

 


 っっっ痛ってぇ!!!

 クソッ、頭を思いっきりぶつけたし、腰も――


 あ、やべ。

 コレ 腰をやったわ。

 もっと、こう老体と遺体を労わるよう、丁重に扱ってくれねぇかな?




 この箱に入ってるのは、あんた達の勇者 ダンテのじいさんだぞ。

 よくわからない勇者っぽい行動も、やってたけど。

 多分勇者。 



 ガタリ と、目の前の板が外されると


 白い髪の毛と月明りで、少し視界がぼやけるが

 俺が入っていた箱の上には、ぷかぷかと浮かぶ黒衣のばあさんと、小柄な人影が他にも2人。



 ばあさん達の後ろには、天文台で見るような

 今にも落ちてきそうな星空が、視界一面に広がっている。




「えっ?」


「あっ?」



 10秒ほど、ばあさんの幽霊?と見つめあった後

 


 なるほど、なんとなくわかった。

 幽霊が居るってことは、結局、俺もダンテじいさんと一緒に逝ったか。

 さらば前世、さらば転生。



 じいさんの次は、ばあさんね。

 あの世が、老人ホームになってるとは思わなかったな~……って

 こんなに、頭も腰もズキズキと痛いのに、死んでるわけねーだろ!

 額のたんこぶなんて、めちゃくちゃ痛いぞ!




「頭と腰が、めちゃくちゃ遺体!

 もっと、こう、仲間なんだったら丁重に扱うべきじゃないか?」


「それで? ここは、どこなんだ?

 ああ、こうしてちゃんと生きてるから、人を勝手に埋めないでくれ」



 なんて、生き埋めにされるのを、やんわりと断ると

 ぷかぷかと浮かぶばあさん達が、俺のことを見つながら




「ダンデが……ダンデがああァァあああっっっッッ!!!!

 いぎっ、いぎぎ、生ぎがえっっっッッッツづづづづづだああああァァァ!?」



「あらあらまぁまぁ、本当に生きてるの? 成功したの? 

 棺桶に入れた時は、確かに心の臓は、止まっていたんだけどねぇ」



「ふむ! 

 ダンテ、お前とも長い付き合いじゃが、老いてなお驚かされてばかりじゃな。

 今回ばかりは、ちと肝が冷えたぞ」




 それ……浮き輪?

 浮幽霊かと思ったが、ぷかぷかと浮かんでいる、横断歩道のような白黒髪の

 ばあさんは、浮き輪に乗っているらしい。

 1人で、ナイトプールでも楽しむつもりか?


 


 頑丈で重そうな盾を、ひじ掛けにして、寄りかかっている

 黒い甲冑から赤髪がはみ出してるじいさんや

 月明りに照らされた、黒い喪服のようなドレスにかかる銀髪を揺らし

 号泣していた少女から、次々と声をかけられる中で

 箱からむくりと身を起こすと、とにかく身体が重いし痛い。


 

 俺はどのくらいこの中に居たんだ?

 


 ぱさりと、無造作に伸びた前髪が、目にかかってうっとうしいし、邪魔だな。

 ダンテのじいさん、髪の毛くらいちゃんと切れよ。

 


 首、手、足と、凝り固まった体をポキポキと鳴らしながら

 頭を傾け軽くストレッチを。


 

 

 俺達以外に人気のない、なんか変な臭いのする場所。

 ぐるりと周囲を見渡すと、地面には無数の墓標が。



 俺が入ってるこの箱、もとい棺桶の中に居たことといい

 やっぱ、ここは墓地らしい。



 うわっ、気持ち悪っ! なんだあの鳥?

 カラスより小柄なのに、ギャーキャーーとクラスの女子の笑い声みたいな声で鳴きやがる。

 これなら俺の家の前でエサをねだる、野良猫のちゃちゃまるの方が可愛いぜ。



 ……そっか、もう俺は ちゃちゃまるにエサをやれねぇのか。

 あいつにエサをやる、俺の代わりが見つかるといいんだが。




「ねぇ、ダンテ。 

 とりあえず立てる? 歩ける? 無理なら飛ばすけどぉ」


「ふむ。俺が担ごうか。

 それとも、小屋まで投げるか?」



 月明りでボヤけていた視界もハッキリと見え、俺に声をかけてくる3人を見ると

 困惑した表情や、困り笑顔を浮かべるばあさん達が。


 

 俺……ダンテのじいさんが入ってた棺桶を落とした事といい

 人を飛ばすだの、投げるだの物騒なコトを言う連中だな。


 


「さっき棺桶ごと落とされたせいで、頭や腰やひざが、ズキズキと痛むんだけど

 コレ、なんとかならねぇかな?」


「色々と、聞きたい事もあるからさ。

 ダンテのじいさんの話をする前に、俺の身体を、なんとかしてくれない?」



 

 「 「 ・・・・・・は ぁ ~~~~~ ! ? ? 」 」


 俺の言葉に、困惑から驚きの表情に変わる3人は、顔を見合わせた後

 深夜の墓場に響き渡る、大声をあげる。



「はぁ~!?」って叫びたいのは

 こっちだよ こんにゃろー。




 目が覚めたら棺桶の中で、俺を埋めてる真っ最中?

 しかも最初に会うのが、ばあさんの幽霊もどきって。

 


 ダンテのじいさん、これは一体どういうことなんだ!?


というわけで、おそようございます。

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