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終活①歩  余計なことをするな

 「余計なことはするな」

 

 それが父さんの口癖だったよ。

 母さんを殺したのは、俺だから。



 母さんのことは、スマホの写真や動画でしか見た事が無い。

 医者からも俺を産むことは諦めて、母さんが生きる方を勧められたのに

 無理して産んで死ぬなんて、残される身としちゃたまったもんじゃない。

 


 酒を飲んでる時は、普段より少し饒舌になる父さんが


 「お前が産まれなきゃ母さんは……」


 って愚痴る度に、いつも俺は思っていたよ、それなら産むなって。




 自分の全てを投げうってもいい、たとえ命と引きかえになっても。 

 なんて決心してたらしいけど 重すぎ。



 俺にはそんな価値がない。

 母さんが、自分の命をかけるほどのガキじゃねぇ。



 誕生日になると、年に1回のスマホレターを見る。

 死んだ母さんから、1つ 歳を重ねた俺に向けた誕生日を祝う動画。

 

 

 

 毎年、俺が母さんの腹の中で寝ている、ふっくらと膨らんだ腹を抱え

 俺の誕生日を祝う言葉と、画面越しでごめんねと謝る言葉。

 

 去年は

  


(だん)、あたしがなんで産もうと決めたのか、まだわかんないかもしれない。

 あたしは頭が良い方じゃないし、父さんと同じく口下手だからね」


「この動画だと……もう14歳か。 好きな子は居る?彼女はできたの? 

 来年で中学を卒業なら、父さんみたいに卒業後、すぐ社会人になるのかな。

 今のあんたを見たかったな~」




 画面越しにふふっと、楽しそうに笑う母さんだが

 なんで、こんなにニコニコと笑えるんだよ。



 

(だん)が生きていく中で、今のあたし以上の迷いを抱えることが

 い~~~っぱい、あると思う。

 でも大丈夫よ、だってあたしがいるから!」


(だん)が心の底から、熱く強く望む時が来たら

 いつか どんな奇跡だって……」




 毎年祝ってくれるのは嬉しいけど、目元にこぼれそうなくらいの涙を浮かべ

 笑顔のまま撮影を切る母さんの姿を見ると、俺は言葉が出てこない。



 俺の誕生日は、母さんの命日なのに、なにが「誕生日おめでとう」だよ。

 

 

 ずっと俺のことを見て欲しかったし、一緒に居て欲しかった。 

 一緒に遊んで欲しかった。

 色んな所に出かけたかった。

 母さんの手料理を食べたかった。



 何回聞いても、全然わかんねぇし、奇跡なんてねーよ。

 俺は、母さんに生きてて欲しかったんだ!

 


 父さんが、中学を卒業したら就職しろと言った時はやっぱりと思ったが

 それでも今時、中卒で働くなんて何十年前の日本だよ、って。



 高校に進学するために、必死に父さんを説得しようとしたが

 返ってきたのは、いつもの 「余計なことはするな」

 俺の言葉に、全然耳を傾けようとしない。



 余計な事? 

 俺の人生だぜ?



 中学生になった頃、じいちゃんやばあちゃんを相次いで亡くし

 頼れる親戚が居なくなった、今の俺が相談出来るのは

 中学の担任くらいだったので、奨学金を借りての進学を望んだが

 どこからこの話を聞きつけたのか、父さんが学校に乗り込んできて



(だん)は就職させる! お前達も余計なことはするな!」


 

 と大暴れ、話し合いにすらならない。



 結局 俺は父さんと同じく中学を卒業したら、すぐに社会へ投げ出されることになったが

 企業面接の帰り道、歩きスマホをしていた俺は近づいてくるトラックに気付けなかった。




 クラスメイト達は、中学3年生の、最後の部活や夏の大会の真っ最中。

 初めての高校受験という不安や、来年 高校生になる楽しみを味わっているのに

 「なんで俺だけ……」という悔しさと、面接でやらかしたショックもあったんだろう。


 


 死ぬまえの走馬灯は一瞬なんて、漫画で読んだことがあったけど

 いざ跳ねられてみると、意外と長く感じたので、漫画の演出は嘘だったんだな?



 “同じ陸上部で、親友の(おさむ)の大会、もうすぐじゃん”

 “やっべぇ、ちゃちゃまると名付けた野良猫に、今日はまだ餌をやってないや”

 “もうすぐ俺の誕生日か、今年のスマホレターも見たかったな”



 なんて、色々な後悔が頭に浮かんだ後



 “せっかく産んでもらったのに、ごめん 母さん”



 と、最後の後悔が頭に浮かんだ所で 視界が暗転し

 俺は14歳で、死んだ。

 


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――



『――うや、坊や。おーい。 寝ぼすけじゃのう。 

 ほれ、そろそろ起きなさい』


「……っう、ああ?」



 まどろみの淵で、俺を呼ぶ声がどこからか聞こえる。


 ぼんやりとした目で声の主を探すと




『うむ、目が覚めたようじゃな。

 ワシじゃよ……』


「ワシって……あんた、誰?

 えっ、ちょっと、その剣!!」




 目を覚ますと、寝転がる俺をのぞき込むのは天使や悪魔じゃなく

 小柄なじいさんが1人。

 腰に差している鞘から抜いた、むき出しの剣を

 杖代わりにして、キメ顔で立っている。


 


 じいさん、剣は杖代わりに使う者じゃないぜ。

 痴呆症?の老人はやばいって、銃刀法違反だって!



 おい、俺達以外に誰か居ないのか?

 警察か、介護士か、誰でもいいから、今すぐここに呼んでくれ!


序盤は少し重いですが「楽しく終活!」なのでご安心ください。

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