魔神■■■■■ 2
戦闘力はともかくとして、魔神に効きそうなアイテムに心当たりがあった。
聖魔の角笛だ。アレなら魔神にも通用するかもしれない。戦闘力の差をこいつで埋めることも出来るだろう。
ただ少し疑問もある。
「これの『魔』の範囲はどのくらいなんだ?」
俺の虫は魔の範囲にいた。恐らく魔物や迷宮なんかも同じで特効が作用する。
では魔神は? 俺が生み出した虫に作用するのなら魔神には通用するのか? 『魔』神なんて名前なのだから効くとは思うが……
魔神の言っていることが正しいのなら俺の肉体は生神であり、俺の生み出した虫は魔の範囲には入らないと思うのだが……
魔神の手が入ったことで効くようになったとか、そういうことなのだろうか。
とはいえ効くとしても問題がある。角笛には時間制限があることだ。使い所を見極めなくてはならない……の、だが。
……まあその問題は既に解決しているので次に移ろう。
残された時間は一週間。
─────そして、既にその内の二日が経過して残り五日となっている。
「……どうするかな」
この二日でやれることはしている。
虫を増やす。レベルアップをさせる。これくらいしか俺に出来ることがない。
あとは二重付与を試したが、一応の成果も出ている。
戦闘力の向上もそうだが、それぞれの専用の特性を得ることが出来ているのは確認済みだ。
ただ、中には暴走する虫も出てきた。幸い一匹ずつ試しているから制圧は可能だが……レベルが高くないと暴走する危険性が高いこともわかってきた。
あとは、生まれてからの日数か。長いのだとラビュタントが一番の古参だな。
しかし、二重付与では魔神には届かない。何か、他の手を考えなくてはならなかった。
「数で押すにも限度がある。そしてなにより、魔神の手が分からない」
神なのだから、原理が全く理解できない攻撃手段を持っていても不思議ではない。
俺の思いつくことは全て出来ると考えるしかないだろう。
最近になって角笛の魔と聖の併用が可能であると分かったので戦闘力を上げつつ特効によって威力を弱めることが出来るだろうが……それでも勝利するイメージが出来ない。
時間は、魔神に守る気があるのなら五日ある。
五日しかない。
「やっぱり属性付与か」
今すぐに打てる手は、属性付与しかない。
付与できる属性は七大罪のみ。他は出来ないことは既に試した。
二重付与は暴走の危険性がある。しかし戦闘力の向上は見込める。
特に強欲か。アレは地味で使い道も殆どないために使ってこなかったが、二重付与で合わせるとベースの属性を強化する効果があることが判明した。
上手く使えれば化けるかもしれないだろう。
だが、二重付与だけでは足りない。属性付与の、新しい使い道が必要だった。
「二重……二重か」
考える。
虫たちは今も数を増やし力を蓄えている。
俺はその間に、自分に何が出来るのかを考え続ける。
考えて……
「……同じ属性を付与できるのか?」
そのようなことを思いついた。
―――――――――――――――――――――――――――
そうして四日目。
属性の加重付与に成功した。
そして属性付与で出来ることが新たに判明した。
まず、属性付与の回数の限界。
最大で七回。これが現在確認できた付与できる限界数だった。
多くの虫が七回以下しか付与できず、また加重付与を行った場合、二重付与は出来ない。その逆もまた然り。
そして加重付与をすれば多大な戦闘力増強が可能である。
とはいえ単純な足し算という話ではないらしく、例えば憤怒だと最初は1.5倍だがそれ以降の倍率は大きく下がる。
一番戦闘力が高くなったのはラビュタントだった。
《インペリアルセンチピード・オーバーラース》
戦闘力:20193
……正直、ここまで強くなるとは思っていなかった。
ラビュタントの方も名前が変わり、戦闘力や図体も前とは比較にならないほどに大きくなっている。
だが、これでもなお足りない。
七回付与できたのはラビュタントも含め六体。どいつも一万を軽々と超えているが、あの魔神を相手にするには足りない。
角笛を使ったとしても勝てるかどうか……その場合、角笛の聖がどれほど通用するのかが鍵となるだろうな。
今は加重付与された虫を増やして戦力を増やすしかない。
……それと、七回分の加重付与をやっている内に思いついたことがあるのだが。
賭けになるだろう。
そうするだけの余裕があるのか。そしてやったところで成功するのか。
魔神との戦いの前にやるだけやってみるつもりだが、成功するかはわからない。
大前提として、今の俺の最大戦力となった六匹の虫が生存していることが条件になる。
ラビュタント、ストリング、ニードル、ギガント、ミスト、ミミクリー。
強欲以外の各属性に特化した虫たち。
こいつらをどう使うのか。
それが魔神との戦いにおける鍵となるはずだ。
そして、七日目。
ついにこの日がやってきた。
日が落ちる時間まで、あと僅か。
虫も配備している。
転移対策もストリングとミミクリーが転移妨害の『式』を作成したおかげで何とかなりそうではある。
だが、最初の転移は防ぐことができない。
相手からの奇襲を許すことになるが、それ以降の転移は必ず防ぐように構成されている。
だからまずは、初手を防がなくてはならない。
出来なければ戦いにすらならない。
「……そろそろだな」
間もなく、日が落ちる。
それが合図となり、魔神はやってくる……はずだ。
ラビュタントが蜷局を巻き俺を囲う。
ストリングの糸が四方八方に張り巡らされ何者をも通さない。
防御は固めであるが、はたして─────
日が、消える。
その直後。
「始めようか、早速」
声が聞こえたのは、真後ろからだった。
「《獄門・第五番解放》」
虫を通して見る視界から魔神が突如現れ、自身の周囲に『門』を展開される。
そこから禍々しい大砲と思わしきものが向けられ、
「これで終わらないでね」
辺り一帯を呑み込む、灼熱の砲撃が放たれた。




