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【無慈悲な】侵攻蟲苗床化計画【異世界攻略】  作者: 観測者・五百七十六万千二十一番
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スルバーン天空都市編 2



【六十七日目】




 スルバーンが高度を上げたせいで攻撃を中断することになってしまった。


 だがまあ、幸いにもさらに高度を上げようとはしていない。そこが限界なのか、それともこの程度の高さで十分だと考えているのか……


 どちらにしろ、こちらとしてはありがたい。


 高度一万を飛べる新しい虫を作る必要はあるが、スルバーン攻略に何の支障もない。このまま攻め続ける。


 ……しかし、スルバーンは一体どうやって高度を維持するつもりなんだろうな。


 スルバーンにだって、生命はいるはずだ。そして生命には空気が必要だ。高度一万という高さは、常在するには厳しすぎるはずなのだが。


 何か、高度を維持できる方法があるというのか。


 侵入したまま放置されている怠惰の虫から得た情報では、落下地点周辺に生命の反応はないという。その怠惰の虫もスルバーンの防衛機構によって殺られてしまったが、僅かな時間であれ情報は得られた。


 得られたからこそ、わからないことも増えた。


 生命の反応が極端に少なかった。あそこに住んでいるのであれば、何処かの虫は生命反応の多い地点に落下しそうなものなのだが……今となっては虫も消えてしまったため、探ろうにも何もわからない。


 わからないから次を考える。


 考え、練り、行う。


 まずは虫を用意するところから始めよう。落とされても良いようにレベルアップもしておかなくては。




【六十八日目】




 虫の生命力は高い。


 例え高度一万を越えたとしても生存が可能だ。少なくとも俺の虫は生存できる。


 しかし、地上に近いほうがより多くの虫を使える。飛ぶ虫よりも地上で這う虫のほうが数が多いからな。


 スルバーンの高度を下げさせるのがひとまずの目標だ。地上に落とすことが出来ればベストなので、それを目指しつつスルバーンを攻撃する。


 そのためにはスルバーンの結界を破壊後、内部に侵入して機能を停止させなくてはならないが……通れないくらい道が狭くても掘ればいいとは思うが、もし掘れないくらい硬かったら爆破させるしかないな。


 スルバーンの地面がどれほどの硬度なのかにもよるが。爆破で削れないとかはやめてくれ。


 近づくのにも問題がある。スルバーンに備わる対空砲とボルトを滅ぼした砲撃だ。


 前者はともかく後者を撃たれたら地上の虫にも被害が出る。攻め込む前に減らされるのは避けたいから、虫をスルバーンの真下に置かないようにするしかない。


 そして、侵入したあとも安心はできない。スルバーンの防衛機構があるだろうし、一匹だけ潜入できた、では駄目なのだ。


 ……そこはステルスの虫を使えば素通りできるか? 試してはみるが、結界と同じように察知されそうだな。


 虫の用意はできた。明日にはスルバーンに仕掛けよう。




【六十九日目】




 スルバーンへの攻撃は失敗に終わった。


 そもそも近付くことすら出来ないのは想定外だったな。


 スルバーンの対空砲の数が増していた。下が一番無防備だとわかっているのか、対空砲は下側に大量に設置されていた。上側にあった対空砲よりもはるかに数が多い。


 それに威力も上がっていた。温存していた、というよりリソースを対空砲に多く割り振った感じだ。面倒なことになったな。


 だが、虫を張り付かせて結界を維持させることには成功した。エネルギー消費を続けさせれば綻びが出てくるはずだが、早めに成果が出てきてほしいものだ。


 対空砲によって向かわせた虫の五割が撃墜、三割が巻き添えを食らい、二割が残った。また増やさなくてはならない。


 全体で見れば大した被害ではないが、スルバーンの対策のための虫と考えればその被害は少なくない。


 飛べる虫は沢山いるが、高度一万に達することのできる虫は少数で、そのための虫も増やしているが物量戦をするには心許ない。


 いっそのこと落下させるだけなら話は早いんだが……そう上手くはいかないか。


 ……今のところ、他に打開策が思いつかないな。俺の頭がもう少し良ければ策も練れたのだろうが……


 とにかく数は明日には補完できる。他にも出来ることがないか、試してみよう。




【七十日目】




 スルバーンが墜ちた。


 ……どういうことだ? スルバーンで驚いてばっかりだな、俺。


 だが好機だ。


 一気に高度を下げ、もう間もなくで地上にまで落ちるだろう。


 出し惜しみはせず、すべての虫を投入する。


 こんなチャンスは二度とない。


 今まで増やし溜め込んできた虫たち約百万を動員して、スルバーンを確実に滅ぼす。


 



―――――――――――――――――――――――――――






 天空都市スルバーンはかつて翼の楽園と謳われていた。


 天翼スルバーンの末裔である翼人は争いを憂い、長年に渡って継承されてきた魔導技術を存分に振るって天空都市スルバーンを作り出した。


 その後はどのような争いにも関わらず、スルバーンを訪れた者もどのような人種であれ受け入れた。


 翼の創り出した楽園。平和という概念そのもの。それが天空都市スルバーン……だった。


 しかし、ある時からスルバーンは変わり果てた。


 本来ならいらないはずの兵器を天空都市に建設し、あろうことか国を滅ぼした。


 その時は当時の国家が協力してスルバーンと戦争を行い、そして停戦にまで持ち込んだのだが……なぜそのような暴挙を行ったのか不明のまま終わってしまった。


 そこからしばらく……数百年はスルバーンは沈黙を保った。


 そして虫の厄災が現れ、残る国がボルトとスルバーンだけとなった時。


 スルバーンはボルトを滅ぼした。


「厄災への抵抗手段の確立まで、残り一日二十一時間三十三分」


 それを行ったのは、現在のスルバーン天空都市を支配する銀色の髪と蒼いラインの走ったボディスーツを纏う女、ルミル・ガーナーだった。


 ルミルは顔の表情を変えることなくスルバーンへの侵攻を続ける厄災をモニター越しに見つめ続けた。


 そこに感情はない。ただ、もう間もなくで終了する厄災を殺す薬剤の生成が完了するまで、スルバーンの運行を正常に行い続ける。


 それが終われば厄災への対処を行い、自身の役割を果たす。


 ルミルは元よりそのために生み出された存在であった。


 そしてルミル自身にはスルバーンの運行は可能でも戦闘能力は皆無である。


 それ以上の機能などルミルには必要ではなく。


「よお」


 たからこそ。


 後ろから声を掛けた人物からの攻撃を、ルミルは避けることなど出来なかった。


 首を切断され、頭が転がり身体が倒れ伏す。


 普通の生物であれば、そこで生命活動は停止する。それは翼人であれ例外ではない。


 祖である天翼スルバーンも、首を落とされ命を失っているのだ。それより力が衰えた翼人が生きていられる理由などない。


 ─────しかしそれは。


「なるほど、なんとなく察してたが……おまえ、魔導人形(オートマタ)か」

「肯定します、魔聖騎士ローブ」

「流石に知ってるか。なら、理由を話す必要はないな?」


 翼人であれば、の話。


 首を落とされたはずのルミルが喋る。魔導人形たるルミルは、コアを破壊されない限り存在し続けることが可能なのである。


 首を落とした当人……魔聖国ボルト最後の生き残りである魔聖騎士ローブもそれを理解しているのか、剣を逆手に持ち倒れたまま動かないルミルの心臓へと剣先を向ける。


「翼人は……あぁ言わなくていい。おまえら、自分を創り出した翼人を裏切ったな?」


 それは確認だった。


 スルバーン天空都市が建国されてから千数百年もの間、翼人は他者を攻撃するようなことはしなかった。


 だというのに、突如数百年前に攻撃を開始した。一体なぜなのか。


 簡単な話だった。その時既に翼人は滅びていたのだ。


 他ならぬ自身の創り出した人形たちによって。


「否定します。これは裏切りではありません」

「笑えない冗談はやめろ。翼人を脳で保存するのが裏切りではないだと?」

「生命維持には必要、」

「もういい。どうして国を滅ぼしたのか聞くつもりだったが、ろくなこと言いそうにないからな……さっさと死ね」


 聞くに堪えないと。


 ローブは剣を降ろし、ルミルの心臓を貫いた。


 ─────そして。


『総督代理の機能停止を確認。これより権限を別媒体に─────エラー。媒体が存在しません。一時的に権限を管理機能バースに─────』


「ここに来る前に魔導人形の置いてあった倉庫をぶっ壊したが……結果的に良かった、ってことでいいのか?」


 ローブは腰を下ろす。


 既に、自分の命の先がないとわかりきっているから。


「陛下に託された転移の宝珠を、まさかこんなことで使うことになるなんてな。

 騎士として駄目だっていうのはわかるが、やっぱり俺には耐えられなかった」


 ボルトが滅んだ時、激しい憎悪がこの身を包みこんだ。


 怒り、悲しみ、憎しみ、恨み。絶え間なく感情が溢れてきた。


 原因となった厄災よりも直接滅ぼしてきたスルバーンへの憎しみが勝り、対厄災のためにと渡された宝珠を使ってスルバーンに侵入した。


「あとは、厄災がスルバーンを壊してくれるだろ」


 厄災への怒りがないかといえば、勿論そんなわけはない。恨みも憎しみもある。


 だが、あれはわかりやすい世界の敵だった。


 元より敵でしかなく、交渉とか和解など考える必要すらなかった。だからこそ、元より守る側であったはずのスルバーンの暴挙を厄災以上に許せなかった─────


 のだろう。恐らくは。


「実際はどうなのかなんて、俺にはもうわからないけどな」


 恐らく、でしかない。怒りが先行してろくに考えていなかったこと自覚している。


 もはややってしまったことの取り返しはつかないが……敵討ちのようなことは、出来たのではないか。


「ま、後は精々頑張れ。置き土産も残しておくからよ」


 そう、ローブが呟いた。


 その直後に。


 スルバーン内部から、爆発が引き起こされた。






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