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【無慈悲な】侵攻蟲苗床化計画【異世界攻略】  作者: 観測者・五百七十六万千二十一番
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ボルト魔聖国第二次侵攻戦




「─────出てきたか」


 当日になったばかりの深夜、虫を引かせた。


 そうして少し待ってみれば、意外にも騎士たちは出てきた。


 予想していたよりも早い。てっきり間を開けて出てくるものだと思っていた。


 いや、虫がなぜ引いたのか、いつ戻ってくるのかわからないとなれば賭けに出てくるのも当然、なのか。


 ……まあいい。


「なんであれ、踏み潰すまでだ」


 出てきた騎士の数は、ざっと十数人。そして魔聖騎士が……おおっと、これは予想外だな。


 全員だ。全員出てきている。本来は王を守るべき騎士が、あろうことか、全員。


 そこまで追い込まれていたのか?


 だが、虫たちは常に不眠不休。いつだって監視は続いている。


 どれだけ強かろうとそれよりも数十倍、数百倍も強大な戦力を投下してしまえばいずれは潰れる。


 さらに、今回充てるのは虫の鎧と武器を身に着けた人型の虫たち。要の魔物特効も対策して、あ、る……


「……なんだと?」


 目を疑った。


 騎士たちが離れてから、約数分後。


 結界が、解かれた。


「何を考えている」


 自暴自棄─────そんなはずはない。


 人とは足掻く者だ。生命とは生きることを諦めない者だ。滅ぼされるとわかって、そのようなことをする愚か者はいない。


 ……戦力の分散か?


 そうか、なるほど。


 確かに結界が解かれたとなれば、攻め込む以外の手はない。ここで待てばさらに侵攻までの時間が先延ばしになる。


 しかし魔聖騎士たちを放っておけば、こちらに攻めてくる可能性は捨てきれない。

 となればどちらも対応するしかなく、そうなれば戦力は分散される。


「考えたな、やはり」


 これがただ強いだけなら、こうはならなかった。


 数の差で押しつぶしてしまえばいい。だが今、俺が相手にしているのは魔物特効を有する騎士たち。奴らは魔物に対して一騎当千とまではいかないが、一騎で何十もの虫を相手にできる。


 質ではなく、特性が厄介なのだ。


 さて、どうする。


 考えるまでもない。


 どちらも潰す。王がいるであろうボルトは迅速な制圧が求められ、魔聖騎士の部隊には倒せるだけの戦力が求められる。


 となれば。


「四の五の言ってる場合じゃないからな」


 虫に命じる。


 ジバクアリの系統を投入せよ、と。


 得られる数は減ってしまうが、この際それでも構いはしない。


 確実かつ迅速な制圧の必要がある。


 時間が経てしまえば結界をまた展開されかねない。


 その前に。


「とはいえ、対策はされているだろうな」


 いつでも出れるようにと備えていたジバクアリを抱えた虫たちはボルトの上空に到達する前に撃墜される。


 色鮮やかな魔法たちによる砲撃で、次々と撃ち落とされる。


 それに合わせて地上からも虫を進軍させる。空への手を少しでも減らす作戦だ。


 そしてそれだけに注目するわけにもいかない。


 魔聖騎士たちは少しずつ、着実に、こちらに近づいてきているのだから。


「まずは通じるかどうか」


 魔聖騎士たちには、傲慢と嫉妬を充てる。


 本当ならボルトを攻めるための戦力だったが、魔物特効を持つ騎士たちには生半可な戦闘力と数では相手にならない。そして、潰しやすいこっちからやるべきだろう。


 最悪ボルトは時間を掛ければ挑めるが、俺の命は一つしか無い。削られればそこで終わってしまう。


 ならば優先するべきはこっちだ。


「そろそろか」


 ……今、虫と騎士たちがぶつかったようだ。


 ボルトは……まだ耐えてるな。あちらは少し時間が掛かるか。


 魔聖騎士たちは嫉妬と傲慢を相手にしても、難なく倒している。他の騎士は苦戦しているし倒せているのだが……やはり選ばれるだけあって、強いな。


 どいつもこいつもレベルⅤなんだが……鎧を携え、武器を持たせ、特効を突破する手段を拵えて尚これか。


「しかし、このまま削りきれる範囲だ」


 何事もなければ勝てる。


 勝てるが……さて。


 このまま何もなければ良いが、そういうわけにもいかないだろうな。


 ─────それがフラグとなったのか。


「ん?」


 魔聖騎士が、光りだした。


 物理的に光りだした。


 光源になっている。夜なのにピカピカしてて眩しい。


 そう、気の抜けた感想を抱いていたら。


「まあ、だと思ったよ」


 魔聖騎士が周辺にいた虫たちを吹き飛ばした。


 先程までは数の差もあってこちらが優勢だったのに、それがひっくり返された。


 厄介なことになった。あんなパワーアップ手段があるなんて、流石に想定していなかったな。


「けど、初手から使わなかったってことは、何かデメリットがあるんだろう?」


 例えば時間制限があり、使い終われば戦闘力が低下する、とか。


 なかったら困る。頼むからデメリットはあってくれ。


 仮に時間制限があるとして……待ってもいいが、終わる前にこちらに辿り着かれたら面倒だ。


 だから、時間制限になるまで持ちこたえさせる。


 とはいえ問題はどうやって時間を稼ぐか、だが。


「二重付与……いや」


 属性の二重付与。


 それを行えば戦闘力の向上が可能となるだろう。しかし……そうすれば何が起こるのか、俺も把握できていない。


 試したのは一体のみ。それも傲慢と色欲だった。


 これから付与する場合は、傲慢と嫉妬、そのどちらかと相性が悪くないものを選ばなくてはならない。


 そして問題なのは、準備する時間もなく付与したところで即座に抗えるほどの戦闘力向上には繋がらないということ。


 意味がないとは言わないが、やったところですぐに倒されるだろう。それでは二重付与した虫の数が増やせない。そして数が足りなければ押し返すことも出来ない。


 二重付与では駄目だな。他の手を考えなくては。


 しかし。


「……やはり数で押すしかないか」


 結論はそうなってしまった。


 魔聖騎士がパワーアップした時から憤怒の虫も加えて数で押し潰す作戦に変更している。


 それでもなお押されており、前回やったよう爆風もやっているが、酸が散布されているのに武装が溶けない。流石に対策はされているらしい。


 質で劣るなら数で。今はまさしくそういう場面だった。それでも足りていないのだが。


 ボルトも未だに着弾できていない。抵抗が激しいようだ。


 魔聖騎士も、すぐ近くにまで迫ってきている。


 ……仕方ない。


 本当なら、ここまでやるつもりはなかったし、後に備えて置きたかったのだが……そう甘いことを言ってられる状況では、ないらしい。


「全部だ」


 虫を集める。


 今まで待機させていた虫たちを、全て。


 木々を薙ぎ倒し、地面を捲り、進行方向にあるもの全てを押し潰す。


 文字通りの意味での大軍。


「全てを平らげろ」


 虫の進撃が始まった。










 魔聖騎士。


 その名は、聖なる力を持って魔を討ち滅ぼす騎士、という意味を持って省略されたものだ。


 その力は魔を滅ぼすために。その力は聖なる加護の下、王を守るために。


 それが魔聖騎士。そして、それが魔聖王という存在だった。


 ─────だというのに。


「厄災ってのは、こんなにも理不尽なものなのかい」

「言うな。絶望したくなる」

「戦う気力があるだけマシじゃねぇかね?」


 魔聖騎士たる自分たちが、疲労困憊で立つのがやっととは。


 王に立つ瀬がない。


 わかっていたつもりだった。敵が強大であることは。


 厄災はあろうことか加護の隙を見つけ、武装を整えてきた。人に似た虫に、人にしか見えない擬態虫。どれも難敵であり、少しずつ削られていった。


 自分たちに加護があろうと関係ない。その対策をあちらは練っていた。


 それを越えるためにも、一日に一度しか使えず、使えば寿命を削ることになる禁忌『魔の秘奥』を用いてなんとか退け、


 ─────その直後に、例えようのない虫の大群に飲み込まれた。


 考える時間はなかった。


 殺して、殺して、殺した。


 押し寄せてくる虫には加護対策はなかった。


 一振りで何匹も殺せた。


 だというのに終わらなかった。


 虫は途切れない。


 まさか、まさか。


 こんなにも数というものが恐ろしいとは、思わなかった。


「クリス、ケッティー、ロメの嬢ちゃんは?」

「こちらでは見ていない。恐らく……」

「言うなよ。考えたくもない」

「奇遇だな。私もだ」


 魔聖騎士が五人。本当は六人いたが、一度目の侵攻によって失われている。欠員を補充できるほどの人材もいなかった。


 ここにいるのは二人だけ。残りの三人は、戦いの音も聞こえなくなっていることから既に……そこから先のことは考えたくもなかった。


 連れてきた騎士たちも敗れているだろう。


 王が、自らを犠牲にする決死の作戦を立てたというのに。


 王と国そのものを囮とした作戦。


 自分たちは、それを活かすことも出来ずに敗れる。


 ─────自分たちを囲む虫たちの音が、絶えず聞こえてくる。


 すぐにでも踏み込んでこないのは……様子を見ているからか。


 それとも……もう勝ったと思っているからなのか。


 それは、なんとも─────


 面白くない。


「けどまあ、最期まで抗おうかねぇ。付き合えよタルダ」

「いいだろう」


 そう言って、一歩踏み出そうと、


 ──────────


 光が、周囲を薙ぎ払った。


「うぉぉ!?」


 虫も人も関係なく、全てを吹き飛ばす。


 剣を地面に突き刺し、その衝撃を耐える。


 叩きつけられる暴風。


 それをなんとか耐え、その方向を見据える。


「……おい」


 それは、信じたくもない……厄災によって滅ぼされようとした時よりも、はるかに怒りを感じる光景があった。


「ふざけるなよ、おい」


 その国は、常に結界に覆われている。


 その国は、自分たち以外を認めない。


 その国は、翼の末裔である。


 その国……都市は、天空に浮かぶ島である。


 その名を、天空都市スルバーン。


「スルバーン……スルバァァァァァァン!!!」


 騎士が一人、怒りの咆哮をあげる。


 ボルト魔聖国の上空に浮かぶ、天空の島。


 ─────その下は、ボルトの残骸が残されるのみ。


 


 ボルトは、厄災ではなく……スルバーンによって滅ぼされた。







―――――――――――――――――――――――――――







 

《ボルト魔聖国の崩壊を確認しました》

《ミッション達成・未遂条件を確認》

《報酬:聖魔の角笛》



「どうなっている?」


 疑問が口から飛び出してきた。


 国が勝手に滅んだことではなく。


 いつの間にかスルバーン天空都市がボルトの上空に現れたことでもなく。


 そのスルバーンが、ボルトを滅ぼしたこと。それがとにかく疑問でならなかった。


 騎士も、民も、虫も、何者も例外なく殺された。


 スルバーンは下に向けられた砲口……のようなものから放たれたものによってボルトを破壊し尽くした。その時の衝撃波は遠く離れたこちらにまで届いたくらいだ。


 そのスルバーンは破壊を行ったあとは何をするでもなく移動を始めた。


 とはいえ、その速度は充分に追いつけるほどではあるが……今はそこではない。


「流石にあれでは、生き残った者はいないだろうな」


 折角の苗床候補が皆消し飛んでしまった。


 しかもソレに加えて、内部にまで侵入することが出来た多数の虫が巻き添えを喰らった。多分一万を超えているな。


 ……だが、レベルⅤの虫は瀕死だが生存しているらしい。とんでもない生命力だ。虫に回収させて、肉団子でも食わせれば治るだろうか。


「……生きているやつがいるのか?」


 そんな中、虫から生きている女がいることが報告された。


 四肢……両手は消し炭となっているが、生きているらしい。どうやら両手を犠牲にして生き延びた、と推測される。どれだけ強度が高いのだろうか。


 だが、まあいい。治したら苗床に成ってもらおう。それだけ強いのなら、質の良い苗床になってくれるはずだ。


 考えなくてはならないこと、やらなくてはならないことがある。


 スルバーンがなぜボルトごと滅ぼしたのかは定かではないが……俺の目的は変わらない。


 次の目標は、天空都市スルバーンだ。









「魔聖騎士を一人逃した?」


 そんなことを報告されて。


 ちょっと、幸先不安であった。






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