ボルト魔聖国編
【三十七日目】
クロノス和國、攻略完了である。
なんだろうな、準備もそうだけど本番でもとてつもなく疲れた。特に、一度殺されるのはかなりキツかった。首飾りがなかったら死んでいたし、死ぬってああいう感じなのだとわかったものだ。
まあ普通、死を体験するのは生涯一度だけだからな。こうなるのは仕方ないものと思おう。
終わってからはじっくりと休んだし、そろそろ消耗と得ることが出来た報酬を確認するとしよう。
まず減った虫の数。飛ぶ虫や投下した蟻、地上で死んだ虫を含めると……だいたい七千から八千くらいか? 相当数減らされたが、まだ良いほうか。
次に確保した苗床。これに関してはさほど良い結果ではなかった。誤って殺してしまった虫もいるが、何より先に逃されたのか数そのものが少なかった。それでも数百を超える数を確保できたので良しとしよう。
あとは、報酬か。
ポイントは二十万ほど。そして神樹の首飾りと同系統である三つのアイテム。クロノスとカルヴァリの二つの国を滅ぼしたにしては一つ多いように思えるが、特殊条件、ということらしいからそれの報酬なのだろう。
竜の冠、時止めの勾玉、位相の鐘……だったか。
とりあえず調べてみたが、中々強力な代物であるということがわかった。
竜の冠は『戦闘力の向上』
時止めの勾玉は『数秒、時を止める』
位相の鐘は『存在する次元からズラす』
そういう効果を持っていることが判明した。
冠、勾玉はともかく、鐘は少しわかりにくかったので試しに使ってみるとなんとなくではあるが理解できた。
つまりこれは、鐘を鳴らすことで鳴らした者を今自身の存在している次元とは違う次元に移して完全回避を実現させる、という感じだ。
要は鐘を鳴らせば、一瞬だけだが攻撃が当たらなくなる。
だいたい、1秒程度か? 上手く使えば普通に便利だな。ただ秒数が短いのが難点か。
冠、勾玉に関しては詳しい説明はいらないだろう。
冠は俺の戦闘力が向上した。だいたい倍近くか。これで不意打ちされても対応できるかもしれないな。逆に意味ないかもしれないが。
勾玉は文字通り時を止める。とはいえその時間は二秒だけ。しかし虫も動けることが判明しているので、使い方次第だろう。
……とりあえずはこんなものか?
次はボルト魔聖国。地上の国はこれで最後だ、気を引き締めていこう。
【三十八日目】
嫉妬の虫の情報収集だが、流石に内部の深い部分を知ることは出来なかった。しかし冒険者に偽装してバレることなく順調に過ごせているらしい。それなら俺としても問題ない。引き続き調査させよう。
ひとまずクロノスにある迷宮を攻略していこうと思う。
数はカルヴァリより少ないが、しかし深さがかなりのものだ。最低でも三十層は超えてるのがデフォルトらしい。
少し時間が掛かるかもしれないが、戦力増強のためだ、じっくりやっていこう。
そうしてじっくりやっている間に、嫉妬の虫が何か情報を得るかもしれないしな。それが役に立つのかどうかはともかくとして。
そんなわけで迷宮攻略に乗り出したわけだが……なんだろうな、全体の難易度そのものは高いものではないと思う。敵も強くない、蹂躙できる程度だ。
ただ……数が多い。そして環境が面倒。
敵はとにかく小さく数が多く、しかも近付かれたら自爆する。俺が前にやったことをやり返されてるみたいだ。殺意が高い。
天井が狭いため大きな虫は使えず、飛ぼうにも蔦やらなんやらで飛びにくいし絡まる。地上を進んだほうが良いのだが、その地上も沼で動きにくくなる。とても面倒。
正直こんな迷宮放っておいて他の迷宮に移りたいが、そうしようにも他も似たようなものだし、なんなら生物ですらないから苗床にも使えない。ここも苗床には使えない奴ばかりだが、食糧には出来る。
本当に面倒だが、攻略していこう。
【三十九日目】
迷宮攻略はもう少し時間が掛かる。今は、半分を終えたくらいか。
ボルトもこちらの存在には気付いているのだろうが、幸いにも居場所が割れてないから対応しようにも出来ないらしい。嫉妬の虫が活動している冒険者としての依頼の中に国の跡地の調査があったらしいから、ほぼ間違いないと見ていい。
シャバドゥス、カルヴァリ、クロノスで刈り取れなかった者は、皆ボルトに逃げ込んでいる。そこから情報が漏れそうなものだが、そもそも大したことを知らないから問題になっていないのか。
クロノス、カルヴァリで減らされた虫は既に補完済み。すぐにでも仕掛けられる。
だが、少し様子を見たい。というより小手調べがしたい。
ボルトは他の国とは違う。領土の広さ、軍事力、そして人口。全てにおいて俺が滅ぼしてきた三国よりも優れていると思う。
それもあるのだが、何より気になるのは……なんだろうな。俺自身でもよくわかっていない。だが何かが気になる。
何か、足りないような気がするのだ。ボルトを調べ、監視させているのだが……なんなんだろうな。
とにかく虫を一部侵攻させて様子見だ。
【四十日目】
違和感がわかった。
魔物の数が極端に少ないのだ。そしてその理由も判明した。
魔物というのは俺が当初動物だと思っていた人以外の生物のことで……いやそこはいいか。創作ファンタジーに出てくる魔物と大して変わらないとわかればいい。
とにかく虫を侵攻させて様子見をしたのだが、わかったのはボルトの精鋭は魔物への特攻能力を持っているということだった。そしてその魔物特攻は俺の虫にも適用される。
レベルⅣの虫の百を超える大群がたった数十人に無双ゲームのように殺されていくとは思わなかったが……
幸いだったのは、特攻能力を持っているのはボルトの騎士のみであり冒険者にそのような能力を持つ者はいないということ。嫉妬の虫に調査させたが、少なくとも大勢いるわけではないことは確かだ。
精鋭とは言ったが、ボルトの軍に所属する騎士でありその数はゆうに千を越えるのは間違いない。ボルトでも、そこら辺は隠していないようだからな。最低でも千はいると思ったほうがいい。
ボルトという国では、騎士とは成れればエリートと言えるほどにその地位は高い。そしてそれに見合うだけの力を有している。
そして精鋭の中の精鋭、王直属の魔聖騎士という六人の騎士がいるらしいが、こいつらは特に実力が高い。さらには王も相当な実力者であるというのだから、こちらとしては困る。
最低戦力が騎士一人でレベルⅣの虫が十体分……割に合わない。正面からだと万を揃えても最悪負けるな。
民を人質に……出来るのかそもそも。今まで見たことはないが、魔法か何かで結界を作られたら面倒なことになる。それに魔物特攻でも付与されたらおしまいだ。
現状の俺の戦力だと……ギリギリ滅ぼせなくはない、か?
だが、俺には次がある。スルバーンを相手にしなくてはならないのに、ボルトで消耗しきっては意味がない。
魔物特攻……それがどこまで影響を及ぼすのか、知る必要があるな。
今回は、より時間をかけようじゃないか。
スルバーンの巡回時期は嫉妬の虫が情報を手に入れている。その内容は既に頭に入れている。最悪の事態である俺の居場所の把握と、スルバーンの介入を成される前に調べ尽くす。
【四十一日目】
まずは弱い虫で小手調べ。
複数の村を襲わせ、騎士がいないのかを探る。
結果、騎士はいた。とはいえ数は少ない、精々が三人ほどだ。
弱い虫でなおかつ数も少ない。敢え無く撃沈されてしまった。
だが、村に配備できるだけの余裕があるのはわかった。
次だ。
【四十二日目】
毒を散布してみた。
同じように村に向けて、即効性に調整した。
しかし、駄目だな。
毒が通じてない。いや、通じてはいるがすぐに治されている。
意味がないわけではないが、これでは駄目だな。
……だが、治すのに専用の物品が必要なのはわかった。
杖……か? それにしては短いし小さい……それ以外に使っていないということは、治癒専用なのか。
魔法を主に使っている騎士もいるが、そいつは普通の杖に見えるものを使ってるな。
汎用性を高めると大きくなる……いや、今知るべきなのはそこじゃない。思考が逸れてるぞ。
次だ。
【四十三日目】
速さ、及び攻撃力特化の虫を使った。
魔物特攻が攻撃だけならばと想定した方法だ。
……しかし、悪くはなかったが駄目だな。
攻撃は当たったが、仕留めきれなかった。
攻撃力が弱い、というより減衰されてる感じだな。魔物特攻は防御にも作用する、と。
これなら特効だな。今後はそう呼ぼう。
他に案が浮かばなければ速さに特化した虫で殲滅を実行することになるだろう。
さて、次だ。
【四十四日目】
間接的に攻撃……つまり投擲で殺せないかと試してみた。
不可能ではないが、難しい。
騎士は確かに殺せた。だが、これがより強い騎士や王に通じるかと言われれば……
毒も通じていないわけではなかった。だが決め手に欠けるのだ。
……そもそもどういう原理で魔物への特効になっているんだ?
魔物特有の共通する何かへの特効なのか……恐らくそれだとは思うが、肝心の中身がわからない。
次だ。
【四十五日目】
わかった。
騎士の特効は、死んだ魔物には効力を発揮しない。
あれは今日の襲撃が終了し、死んだ虫を解体しようとする者たちを観察していた時のことだった。
そこで村人たちが解体に苦戦している中で、戦いを終えた騎士も解体に参加したのだ。
手早く終わらせられるのだとばかり思っていたが、あの騎士たちは予想以上に苦戦していた。
いや、綺麗に解体するのが難しいとか、そういうことではなく。
そもそも斬ったり折ったりといったことに、時間が掛かりすぎているように見えたのだ。虫が襲ってきた時はあんなにも容易く切り裂き壊したというのに。
原理は未だ不明。しかし、力押しによる攻略の仕方はわかった。攻撃面での特効の対策は思いついた。
あとは……防御面だな。
最悪、クロノスでやったように爆破で吹き飛ばす。
次だ。
【四十六日目】
数日前から騎士を何人か殺したせいか、騎士の数が増員された。
試すに丁度良いと考えよう。
今回は毒を蒔いた。とはいえただの毒じゃない。酸性の毒だ。つまり当たれば身体が溶ける。
効きは悪かったが、通用した。そして防具にはダイレクトに通じている。かなり良い。
今の酸性だと刃を鈍らせたり鎧を壊しやすくする程度だったが、もう少し濃度が高ければ溶かしきれるな。
これでわかったのは、特効に作用しているのは生物。非生物には効果がない。
完全ではないが、無力化に近い方法は思いついたな。
とはいえ既に出した手は対策される可能性が高い。他にも手を考える必要があるだろう。
次だ。
【四十七日目】
特効は騎士に纏わりつくように作用している。霧か何かが周囲を漂ってるイメージをすれば分かりやすいだろうか。
それを剥がしてしまえば特効は一時的に効力をなくす。その間に仕留めてしまえば良い。毒を注入するとかな。
毒は特効とは別の方法で治療していたが、何も毒に全く作用していないわけではない。遅延か、あるいは中和している可能性がある。
封じてしまえば、即効性の毒も通じるようになるだろう。
その特効を剥がす方法だが……クロノスでやったことと変わらない。爆風で吹き飛ばしてしまえばいいのだ。
特効とは、恐らく付与されたもの。永続的に付与され続けるみたいだが、爆風で吹き飛ばせば一時的に剥がれる。
試しで残ったジバクアリを使ってやってみたのだが、上手くいった。
とはいえ封じられる時間は数秒ほどだ。時間との勝負になる。しかしジバクアリをそのまま転用する方法では間に合わない可能性があるだろう。
新しい虫を用意する必要がある。
次だ。