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一人ぼっちになってしまった勇者と勇者を助けたい魔王の出会い

作者: 水鞠氷

拙い文章ではありますが、楽しんでいただけると幸いです。


澪side

 

 異世界に召喚されて早二年。

 仲間たちとの苦しい別れを繰り返した結果、私は一人で魔王が住む城へと辿り着いた。

 城から距離はまだあるはずなのに、今までとは比べものにならないほどの威圧が感じられ気が引き締まる。


 城の中に入り玉座まで進めば、玉座には"少女"が座っていた。真っ赤な長い髪が印象的だが、その整った顔立ちからこの世界のお姫様かと思ってしまった。けれど、それは一瞬のこと。少女と視線があった瞬間、少女が魔王であることに気がついた。今まで戦ってきた魔物達と違う、圧倒的な魔のオーラ。城から溢れ出ていた威圧の正体だ。思わず身が竦んで今にも逃げ出したくなってしまうが、逃げ出したい気持ちを必死に抑えながら私は剣を構える。神との約束、”魔王を倒す”ことを果たして元の世界に帰るために。

 先手を打つため走り出そうとするが、それよりも早く魔王が動き出していた。「しまった!」と思った時にはすでに遅く、目の前に魔王の姿が現れる。

 今更防御しても遅い。そう気付いた私は次に来る衝撃を受け入れるように目をつむる。あまりにもあっけない最後だ。頭の中は「死への恐怖」と「家族のこと」でいっぱいだった。「痛いのか」「苦しいのか」「もう二度と家族に会えないのか」「帰りたかった」「なんで私が」「酷い」そんな思いでいっぱいだった。けれど、いつまで経っても衝撃はなく、恐る恐る目を開けば目の前に……否、私の足元に魔王である少女が土下座していた。


「……えっ!?」


 思いもしなかった魔王の行動に声を上げてしまう。幻覚でも見ているのかと思い頬を抓るが特に変わらない。つまり現実ということになる。しばらく土下座をしている魔王を黙って見ていると、魔王はゆっくりと顔を上げる。すると、その綺麗な顔を歪めながらはっきりと言う。


「ほ、本当にごめんなさい!」

「え、えぇぇ?」

「うぅ……!ひっく、ごめんなさいごめんさいぃ!」

「ちょ、ちょっと!?」


 突然の謝罪に困惑していればワンワンと魔王は泣き出してしまう。これには思わず私も慌てふためいてしまう。

 一体、どういうことなのだろうか。



 ――――――――――――――――



 二年前、異世界のとある国で勇者の召喚が行われた。

 その国で召喚された勇者は、日本の当時高校生になったばかりの清水澪しみずみおという女子高校生。澪は突然の出来事に目を白黒させていたものの召喚されて早々に、協会に連れて行かれ”神”と呼ばれるモノと出会い、神から異世界の説明、そして澪のすべきことを告げられたおかげで、澪は自分が”勇者”であり、元の世界に戻るには”魔王を倒さなければいけない”ということをすんなりと理解した。それに加え、澪は元々ラノベ小説やアニメもよく見ていたおかげで、異世界召喚についても特に抵抗は持っておらず、どちらかといえば夢と希望を持って勇者であることを受け入れ新しい事に胸を膨らせていた。そして、そんな澪の姿に異世界の住人達は感激していた。


「貴女なら素敵な勇者になれる」

「貴女という勇者を召喚できて嬉しい」

「素晴しい活躍を期待している、勇者様」


 口々に人々は澪を褒め称えた。澪もその声に応えるべく、勇者として恥じぬ行動を心に誓いながらも、これから起こりうる素敵な出会いに思いを馳せながら魔王を倒すため冒険を始める。

 

 けれど、現実はラノベやアニメのようなキラキラする出来事は起きなかった。


 澪は初めて勇者としてパーティーメンバーを組んだ。メンバーとの関係性も悪くなく、巷では「最強!魔王討伐パーティー」とも言われ、特に問題もなく着々と敵を倒していった。世界中の誰もがこのパーティーで魔王を倒すと信じてやまなかった。何せ澪は明るく、コミュニケーション力もあり性格も良く、戦闘スキルも高かったため彼女の姿はまさしく人々が求めた勇者そのものだった。

 しかし、それが良くなかった。あまりにも人々が求める勇者として完成してしまっていたせいで澪は一人になってしまう。

 ある時を境に、澪の組んだパーティーから次々とメンバーが抜けていってしまう。


 ある者は澪の働きに冒険を諦め、パーティーを抜けた。

 ある者は澪の戦闘スキルに自分が馬鹿らしくなり、パーティーを抜けた。

 ある者は澪の姿に自分が恥ずかしくなり、パーティーを抜けた。


 一人、また一人パーティーを抜けていく時誰かが言った。「澪一人で魔王は倒せてしまう。僕達はいらない」と。その言葉を聞いたメンバーはまるで賛同するかのように一斉にパーティーから抜けてしまい、いつしかパーティーは解散され澪一人だけで魔王を討伐することになってしまった。


 澪はこの事態に傷つき驚いたものの、「ラノベなどではよく起きる展開だし、いつか一緒に冒険してくれる人が現れる」と割り切って冒険を進めた。

 けれど澪の考えとは真逆に、人々は澪を敬遠し始めた。怪我をしていても「勇者だから大丈夫」と言われ治療を受けられなかった。完璧すぎた故に誰も澪と関わりを持とうとしなかったのだ。

 

 それでも澪は諦めずに人々との交流を続けていた。敬遠されないように。人から好かれるように。アニメや小説のような物語が送れるように。

 しかし、澪の努力は報われなかった。どれだけ魔物を倒しても、どれだけ成果を上げても、誰も澪の側にいてくれる人は現れなかった。

 

 そんな状態が一年も続いてしまい、澪は一度戦うことを諦め元の世界に戻ろうとしたことがある。助けたいという想いよりも、「一人は寂しい。一人で戦うのは嫌だ」という気持ちのほうが強くなってしまったからだ。

 澪は協会に行き"元の世界"に戻れるよう神に祈りを捧げたが、神はそれを否定した。「倒すまで返すことはできない」と。

 その言葉に澪は絶望した。「この世界は私が困っていても助けてくれないのに、なんで私は助けなくてはいけないの」と。いくら嘆こうが神は澪の願いを聞き届けることはなかった。


 一人協会に残された澪はポキリと心が折れてしまった。するとどうだろうか。その日を境に一人でいることに苦痛を感じなくなった。心が折れたことで、澪は淡々と敵を倒すだけの勇者になることが出来たのだ。前まで怪我を負いたくない気持ちで慎重になって戦っていたはずだったのに、今では全く怪我を恐れずに敵へと進むようになった。


 そこから澪の身体の傷はどんどん増えていく。召喚されたときの綺麗な肌はそこにはなく、勇者として相応しい生傷から古傷が残り初めた。魔法の焼け跡。引きつった皮膚。戦った証が身体に刻まれる。澪は着々と魔王の討伐へ一人進む。

 

 

 そしてついに魔王と戦う前日。

 澪は魔王がいるとされる城から一番近い宿で自分の傷の手当や武器の手入れをしている時のこと。自分の姿が姿見に写される。今まで見て見ぬ振りをしていた、自分の表情、身体の傷、髪の長さ。異世界召喚された日から比べるとあまりにも大きく変わってしまった自分の姿が赤裸々に写される。澪はそんな自分の姿をまじまじと見ると、乾いた笑い声を出す。

 

「は……っはは。何この表情。それに私の身体、傷だらけだし……」


 まるですべてを諦めてしまったかのような、そんな声音で澪はぽつりと言葉をこぼす。

 澪は一度深呼吸すると、まるで自分の姿を見たくないと言わんばかりに鏡に布をかけ布団へと入る。


 (早く、お家に帰りたい。ママに、パパにみんなに会いたい)


 決して寒くない温度なのに、澪は寒く感じ自分の身体を抱きしめるように眠りにつく。

 

 澪が眠りについてから数分後。夢見が悪いのか表情は険しく時折呻いていると、突然眠りについた澪の側に真っ赤な髪を持つ人物が現れる。

 赤い髪を持つ人物がそっと額に手をやると、澪の表情は柔らかくなり、そんな澪の姿を見た赤い髪の人物は独りごちる。

  


「やはり神はぶち殺すしかないなぁ」


 その言葉は、夢の中の澪に届くことはなかった。

 



 

________________


魔王side


 

 我は、我を倒すために召喚される勇者を魔法を使って見ていた。

 

 勇者が召喚されたのは2年前。我と敵対している神がニンゲンの王族を誑し込んで異世界から召喚した少女の勇者。

 その姿は明るく、正義にあふれていた。


「うぅむ……」


 正直、召喚された勇者を見るまでは、力をつける前に倒してしまおうと思っていた。けれど召喚された勇者を見てみれば、まだ子供で勇者と呼ぶには青かった。


「……途中で野垂れ死ぬかもしれぬ。我が直接手を出すまででもない、か」


 そもそも我ら魔族はニンゲンを倒したいわけではなく、神をぶち殺したいだけ。ならば、わざわざ召喚されたばかりの勇者を倒しに行く必要はないと結論づけた。その言葉を部下を通じ魔族全体へと行き渡らせれば、いつもと変わらない日常が流れる。


 そんなある日。

 我は召喚された勇者がどうなったのか気になった。気まぐれに魔法を使って勇者の行動を覗き見れば、周りのニンゲンと協力しながら我の同族達を倒していた。勇者の表情は明るく、仲間との冒険が楽しそうだった。敵対している立場ではあるが、その姿に少し安心していた。

 我はニンゲンが嫌いではない。むしろ好いている。ニンゲンというのは愚かで間抜け、庇護がなければあっという間に死んでしまう儚い生き物だと思っているからだ。だから、我は召喚された少女をほんの少し気に掛けていた。なにせ見知らぬ土地に突然飛ばされ勇者としての働きを望まれるなど、弱いニンゲンには務まらないと思っていたからだ。けれど少女は勇者である自分を誇りながらも、魔族に立ち向かっていた。その姿は凜々しく、まさに勇者と呼ぶべき存在へと育っているため我は安心した。

 勇者の成長を見ていきたいと思ったけれど、今後戦う時にこちらだけ勇者の事を知っているのはフェアでないと考え見るのをやめた。

 けれど、それは大きな間違いだった。もし、我が見続けていれば、勇者はあんな目に遭わずにすんだだろう。


 勇者が召喚されて一年と半年が経った頃。我の耳に変な噂がに入ってきた。なんでも『勇者は独りよがりで仲間を必要としない』という噂が。我はその噂を聞いた瞬間「そんなわけあるか!?」と近くにいた部下をぶん殴ってしまうほど気が動転してしまった。慌てて魔法を使って勇者の行動を覗き見れば、そこには勇者が一人で我が同胞を倒している姿が写し出される。勇者の表情は暗く、召喚された当初の明るさはない。変わり果てた勇者の姿に我は絶句してしまう。一体何があったのか。すぐさま部下の方を見れば、部下は腫れた頬を撫でながら答えてくれる。なんでも、勇者の働きぶりに挫折や妬みから勇者を一人にするように仕向けられたらしい。

 部下達を一度下がらせ、一人玉座に座りながら勇者を見る。

 異世界から来た異邦人。知らない土地で知り合いも少ない、そんな世界でボロボロになっていく勇者の姿を見てなんとも言えない気持ちになる。

 


 そしてついに、勇者は我が城の近くまでやってきた。きっと明日、勇者は我と戦うつもりなのだろう。なんでも、我が城から数百㎞離れた宿に止まっているらしい。

 その日はなんとなく、魔法で覗くのではなく、直接宿に入り勇者に会いにいった。けれど遅い時間の来訪だったせいで、勇者は寝ていた。ゆっくり寝られているようで安心したが、突然苦しそうに勇者はうめき出す。何事かと思っていると「ママ、パパ……」と悲しそうに、苦しそうに言葉をこぼしていた。その言葉に我は何も言えなくなってしまう。

 

 我を殺すためだけに召喚された幼かったニンゲン。真剣に世界のために戦っているのにも関わらず、皆に敬遠されている寂しい勇者。

 こんなのあんあまりではないか。


 思わず我は夢見が良くなる魔法を勇者にかける。すると、瞬く間に勇者は表情をリラックスさせ「すぅすぅ」と規則正しい寝息を立てる。


 寝顔は幼さが残っているが、召喚されるまでなかったはずの身体の傷が古いモノから新しいモノまで数多く存在していた。本来であれば、勇者というのは神の加護があり傷跡など残らないはずなのに今回の勇者に傷跡が残っているということは、神は勇者に癒やしの加護を与えていないということになる。

 とんでもない事実に気付いてしまった我は思わず天を仰いでしまう。


「やっぱり神ぶち殺すかぁ……」

 



 

________________________

 

澪side

 

 大きな涙を流しながら「うえーん」と泣く魔王である少女の対処方がわからず一人慌てていると、少女は私にガバっと抱きついてきた。


「、っ!?」


 自爆覚悟で殺されるのかと思い、ぎゅっと目をつむると突然頭を撫でられる。


「……えっ」


 思わず魔王を見れば、「うわーん」と鼻水や涙でべっちょべちょになりながら、私の頭を撫でていた。久しぶりの感覚に戸惑ってしまう。けれど、魔王は私の態度を気にした様子もなく私の頭を撫で続ける。


「うえーん、勇者ぁあ。そなたは良い子だ。良い子!花丸良い子だからぁあ~!うぇーん」

「???」

 

されるがまま撫でられていると、魔王はべちょべちょの顔を私の首元に埋めてくる。思わず「あっ、べっちゃべちゃ。首元べちゃべちゃだ」なんて感想を持っていると、魔王が顔を上げはっきりと宣言する。


「一緒に神……ぶっ殺そうね!」

「……え”っ!?」


 突然の宣言に私はただ驚くことしか出来なかったが、魔王はニパッと笑顔を見せてくれた。

 

 

 ――けれどこの時の私は知らなかった。

 魔王のおかげで元の世界に帰る前に、異世界で楽しい思い出が作れるなんて。もしも、異世界に召喚してくれたのが”魔王様だったら”なんて考える時がくるなんて。この時の私が知るよしもなかったのだ。

 



 


 





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