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冥土♰エスコート  作者: 蒲生竜哉
マン・ハント
33/42

マン・ハント(3)

『嫌だよう、やらないよう』

「やれって言ってんだろうが。このクソガキ」

 口汚くキョウヤが罵る。

 わたしは声がしている方を覗き見てみた。

 ついに見つけた。

 たっくん。

 キョウヤ。

 バスを待っている人の列から少し離れた、ビルの軒先で何やら言い争いをしている。

 とりあえず背中のバックパックを前に回し、中をゴソゴソしてハムスターを探す。

 わたしはハムスターを探り当てるとその先にぶら下がった携帯電話で宇賀神さんに連絡を取った。

『はい、宇賀神』

「宇賀神さん、見つけました。キョウヤが目の前にいます。すぐに来て」

『アリス君か。場所はどこだ?』

「中野駅の南口、バスロータリーです」

『わかった。PCを出してすぐに行く。十分程度で着けると思う』

「お願いします。わたしはここで見張ってます」


 どうやらキョウヤはたっくんの意に沿わないことを無理やりにやらせようとしているらしい。

 話の内容から推測するに、これは バス事故?

 これなら一気にたくさんの人を殺せる。

 これが目的だったのか。

 今までのは練習だ。

 だけど、たっくんはとても嫌がっている。

 それはそうだろう、人を殺すのは誰でも嫌だ。

 ましてやそこに母親がいるというのなら……

 キョウヤ、なんて嫌な奴。


 わたしは少し離れた場所から注意深く二人のやり取りを聞き続けた。

「いいからやれって。バスが行っちまうだろうが。何、そこの運転席にいるおっさんに乗り移ってバスを発進させるだけでいいんだ。簡単だろうが」

『…………』

 たっくんが俯いて唇を尖らせている。

『……嫌だ。こんなの全然面白くないよ』

「あのなあ、いい加減にしねーと怒るぞ」

『…………』

 ぱたり、ぱたりとたっくんの両方から涙が溢れる。

『うわーん』

 追い詰められて、ついにたっくんは泣き出してしまった。


 飛び出していきたい。

 今すぐキョウヤを始末してたっくんを助けたい。


 だが、宇賀神さんが来るまではダメだ。

 宇賀神さんが来る前に逃げられたら元も子もない。

「あーもー、これだからガキは嫌いだよ。やってらんねー。行くぞ、小僧、仕切り直しだ」

 キョウヤがたっくんの腕を取る。

 だが、大泣きしているたっくんは一歩も動こうとしなかった。

 雨の中、大声で泣いている。

 もちろん、他の人にたっくんは見えない。

 傍目から見たら、一人でキョウヤが怒っているようにしか見えないだろう。

 周りの人は薄気味悪そうにキョウヤのことをチラチラ見るだけだ。

 『視える』人なら事情も分かるだろうが、普通の人から見たらキョウヤはただの不審者だ。

 と、その時。

 盛大にタイヤを鳴らし、赤色灯だけを点滅させたパトカーが走路を逆走し猛スピードで飛び込んできた。そのままスピンターンして路肩に止まる。

 宇賀神さんだ。

 宇賀神さんはパトカーから飛び出してくるとすぐにわたしの姿を認め、こちらに駆け寄ってきた。

「アリス君、どこだ」

「あそこです」

 キョウヤとたっくんのいる方向を指差す。

 宇賀神さんもすぐにキョウヤを見つけたらしい。

「キョウヤー、やっと見つけたぞ。てめえはこれで終わりだ。そこを動くな!」

 大きな声で警告する。

 宇賀神さんはホルスターから小さな拳銃を抜くと、いきなりキョウヤに向けて発砲した。

「キャーッ」

 突然の発砲音に初め周囲の人は訳が分からないという顔をしたが、すぐに宇賀神さんの握る銃を認め、悲鳴をあげながら逃げ惑い始めた。

「テメ、警察がいきなり撃つかよ」

 さすがに驚いたのか、キョウヤが宇賀神さんを見つめる。

 ほとんどあきれ顔だ。

「S課にそんなルールはねえ。てめえはここでブチ殺す」

 ブチ殺すって、それって警察としてどうなんだろう。

「……なんだよ、いつぞやの剣術の姉ちゃんもいるじゃねえか。こりゃ分が悪いな」

 さして慌てた様子も見せず、キョウヤがわたしたちを見ながら後ろ頭を掻く。

「こりゃ退散するに限るってね……ガキ、逃げるぞ」

 キョウヤはたっくんの腕をとると、引きずるようにして無理やり駅の方へと走り出した。


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