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冥土♰エスコート  作者: 蒲生竜哉
フライ・キャッチャー
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フライ・キャッチャー(5)

 その後もわたしは事案書をひたすら読み進み続けた。

 交差点で小学生の女児の手を引いて渡らせようとした若者。

 下校途中の小学生に下半身を見せた中年男性。

 女子中学生に告白めいたことをした若者。

 行方不明になってしまった痴呆老人(その後発見)。

 小学生のグループにアイスを与えて去っていった老人…………


 こうしてみると、半分ぐらいの事案は親切心が裏目に出たり、あるいは常識の欠如が原因で通報されてしまっているようだ。

 しかし、こうなんでもかんでも通報されるのでは、そりゃ確かに宇賀神さんの言う通り所轄のお巡りさんたちも大変だろう。

 しかもちゃんと記録を残している。

 お巡りさんって、大変な仕事なんだなあ。


 こうしたほとんどどうでもいい事案の中で怪しい案件を見つけると、まるで炭鉱の中で金鉱を見つけたような気分になる。

 今のところ三つ。

 先のカウボーイ姿の少年が叱られていた件、黒いスーツの男性が一人で怒鳴っていた件、それにやはり黒いスーツの男が一人でいつまでもブツブツと喋っていた件。

 どれもキョウヤの匂いがする。

 キョウヤがいる。

 それも中野区に。

 キョウヤはどうしているのだろう?

 ホテルに泊まっているのかな?

 それとも毎日冥界に帰っているのだろうか?


 美百合さんは、キョウヤはこちらとあちらに同時に存在していると言っていた。

 でもそんなことは不可能、単に高速で移動しているから同時に存在しているように見える、というのがわたしの見立てだ。

 でも移動にはエネルギーを使うはず。

 もしたっくんを連れてこちらにいるのであれば、いちいち行ったり来たりしているとは思えない。

 どこに潜んでいるんだろう。

 パラリ。

 もう一枚、事案書をめくる。

 次の事案書は刺激的だった。

 深夜、カウボーイ姿の少年を連れた黒いスーツの男性が一人で宿泊を希望。不審だったため身元確認の書類提示を求めるとそのまま去った。

 中野区の地図を開いてそのホテルを探す。

 中野サンプラザホテル。

 中野駅の目の前のホテルだ。

 まさかキョウヤもそんなホテルの受付に『視える人』がいるとは思わなかったのだろう。

 奴はこちらに潜んでいる。

 どこかに隠れて活動している。

「どうだ、何か見つかったか?」

 気づくと、ドアにもたれた宇賀神さんが腕を組んでいた。

「何個か、見つけました」

 付箋を差した箱ファイルを示す。

「やっぱり、中野のどこかにいるみたいです」

「どれ」

 宇賀神さんは付箋を差した事案に目を通した。

「なるほど、確かにこっちにいるみたいだな。奴は一度こっちに来るとしばらくは冥界に帰らないんだ」

 俺の方はな、と宇賀神さんが言う。

「とりあえず中野区の警備の強化をお願いしたよ。キョウヤの見た目とたっくんの見た目も伝えた。これで、所轄の連中からは逃れられない。見かけたらすぐに連絡が来るはずだ」

「あと少しで全部見終わります。そうしたら、行動範囲も絞れるかも」

「そうだな。……頼んだぞ」


 事案書の最後の一枚を読み終わったのは翌日の夕方だった。

 さらに怪しい事案が二件追加されている。

 一件は嫌がるカウボーイ姿の子供を連れ回す黒スーツの男。

 もう一つはコンビニのベンチにいつまでも佇む黒スーツの男。

 座ってるだけで通報されちゃうんだ。もっとも、二時間も座ってたら通報されちゃうか。お店の人にしても邪魔だろう。

 事案があった場所を地図の上にマークする。

 やっぱり、最初に描いた三角形の周りに集中している。中野サンプラザホテルだけはそこから外れていたが、他にホテルもないし、そんなに遠くもない。

 ハムスターを引っ張って携帯電話をカバンから取り出し、宇賀神さんを呼び出す。

 すぐに行くといういつもの答え。

「読み終わりました」

 わたしは宇賀神さんに言った。

 最後の事案は二週間前。その三日前に別件でキョウヤと思しき人が目撃されている。

「地図にはマークをつけたか?」

「つけました」

 ピラッと地図を掲げる。

「よし」

 わたしの持っていた地図を机に戻し、指で追う。

 事案の日付を横に書いておいてよかった。

「アリス君、学校は休めるかい?」

 宇賀神さんが無茶苦茶なことを言う。

「それは、無理です。学校にはいかないと。単位落としちゃう」

「そりゃまあ、そうだよなあ」

 顎をぽりぽりと掻きながら考える。

「よし、俺が一筆書いてやる。俺が呼び出したらすぐに中野に来てくれ。学校からは遠くないだろう?」

「学校は市ヶ谷だからそんなに時間はかからないと思います」

「じゃあ、君は俺が書いた手紙を学校に提出してくれ。ハンティングを始めるぞ」

 宇賀神さんはいつものボサッとした感じではなく、完全にハンターの目になっていた。


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