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冥土♰エスコート  作者: 蒲生竜哉
死者の世界と生者の世界。アリスは華麗に剣を振るう。貧乳長身JK剣戟メイドアクション、鮮烈に開幕!
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貧乳長身JKのハードボイルド剣劇バトル! 必ず天国にお連れします!

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)



 わたしはアリス、黒川アリス。漢字で書くと有栖なんだけど、面倒くさいのでもっぱらカタカナで通している。

 仕事は冥土♰エスコート。黒いメイド服に身を包み、亡くなった方をちゃんと天国にお連れするのがわたしの仕事。あれよあれよと言う間にそれが仕事になっちゃった。まるで予定調和みたい。


 みんなは死後の世界があるってわたしが言ったらどう思う?

 気が狂ってる? それとも残念な人?

 そうね。確かに変なことを言っているかも知れない。

 でもね、本当に死後の世界は存在するの。


¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨


 わたしの今回のお仕事は交通事故で亡くなった五人の子供たちを無事に天国にお送りすること。

 二日かけ、子供たちを連れてカロンの船着場まで徒歩で向かう。途中ほこりっぽいモノクロの街、Los Muertosで一泊。その日は前から目をつけていた空家に子供たちと宿泊する。

 わたしは囲炉裏の淡い光に照らされながら、隣の寝所で寝ている子供たちをぼんやりと眺めていた。

 拓海くん、結菜ちゃん、光ちゃん、大和くんに樹くん。


 この子たちはもう死んでいる。

 死んでいるのに魂はここにある。

 それが冥界。


 昼間はあんなに泣いていたくせに、夜にはみんなケロッとしていた。まるでもうそんなことは忘れてしまったかのよう。

 それが子供だったからなのか、あるいは冥界の空気感が原因なのかはよく判らない。でも、冥界に来ると誰でもすぐにいろんな執着がなくなっちゃうみたい。


 わたしだってきっとそう。わたしなんか冥界への執着の方がきっと強いもの。

「あーあ、たっくん、そんなにはだけちゃって……」

 盛大に布団からはみ出しているたっくんを布団の中に戻し、上掛けを掛け直してあげる。

 この子達を見ていると、どうしても自分の境遇とこの子たちの境遇を重ねてしまう。


 この子達は交通事故で亡くなった。わたしは交通事故でママを亡くした。

 そしてわたしもきっとママと一緒に一度死んだから。


…………

……


 それはわたしが十歳の時の夏休みのある日のこと。

 その日わたしはママと一緒に成城にお買い物に出かけていた。

 世田谷区の成城はわたしにとって特別な場所だ。東京の大きな高級住宅地。うちから一番近い大きな街だったし、何しろおしゃれ。街の中に大学があるから格好いい大学生の人も沢山歩いている。お買い物の帰りに食べるケーキも美味しい。


 なんとなくウキウキとした気持ちで弾むように歩きながら、ママと一緒に小田急線の改札に切符を通す。

 今日のお目当てはわたしの夏向けのワンピース、それにママの新しいお財布。

ママのお誕生日が近かったから、わたしはママに新しいお財布をプレゼントするつもりだった。

 だって、ママのお財布あんまりにもヨレヨレなんだもの。


 わたしはしっかりとママの左手を握っていた。

 ママはいつもわたしと歩くときは車道側を歩く。その方が安全だって。


 わたしは一人っ子だったから、甘やかされに甘やかされて育ってきた。

 もちろんただの猫可愛がりではない。いけないことはいけないこと、叱られる時もある。ママはお行儀には厳しかったから、食事のマナーとかでは良く叱られた。

 でも、基本的にわたしはいつもママと一緒。学校に行っていない時はいつもママとおしゃべりしていた。


「アリス、何色のワンピースにしようか?」

 と言うママの問いにわたしは

「白がいい!」

 と即答した。

 白いワンピースってなんか素敵。

「じゃあ、そこの路地のお店を見てみましょ? アリスが気に入るワンピースがあるといいわね」


 と、その時。

 突然周囲が騒然とした。

 思わずそっちの方を二人で見る。


 そこでわたしたちの目に映ったのは、車線をまたいでこちらにまっすぐに暴走してくる青いトラックだった!

 運転している人の目が虚ろだ。こちらを向いているのに、こちらを見ていない。

「危ない、アリス!」

 とっさにママがわたしのことを抱き上げる。


 だが、一瞬遅かった。


 トラックはガードレールを粉砕しながら歩道に飛び込むと、わたしたちの身体を跳ね飛ばした。

 ボールのようにわたしたちの身体が歩道に転がる。

 トラックはそのままさらに暴走し、わたしたちの身体を銀行のビルに叩きつけた。

 トラックがぶつかる前に、ママが背中を丸くしてわたしに覆い被さってくれたことは覚えている。

 トラックがビルとぶつかる猛烈な騒音。

 次の瞬間、何か途轍もなく重いものがわたしたちの身体にのしかかってきた……


…………

……


 燃え尽きた薪がカサッと小さな音を立てて崩れ落ちる。


 と、その時。

 わたしは何者かの視線を感じて思わず緊張した。

 だが、身じろぎはしない。

 こちらが気づいていることを気取られてはならない。


 目をじたまま気配を消し、じっとわたしは五感に集中した。


 誰かが、家の周りをゆっくりと回っている。

 数歩動いては立ち止まり、気配が消えたところでまた数歩。


 慣れている。

 相手は、手練てだれだ。


 わたしは音がしないようゆっくりと鯉口を切ると、静かに愛刀の『西瓜割』を鞘から抜いた。

 片膝を立て、両手をついて滑るように移動する。

 引きずるスカートの衣擦れの音すら気に障る。


 一歩、また一歩。


 黒いメイド服はこんな時はとても便利だ。影から影へと移動できる。


 子供たちのいる寝所と居間の間を通る時は緊張した。

 今、もろとも襲われるのが一番危ない。


 わたしは充分に時間をかけ、壁の向こう側の敵に気取られないように気をつけながら囲炉裏を回り込んでよろい戸の下まで移動した。

 低い姿勢のまま、囲炉裏を背にして壁際へ。


 壁一枚を隔てた向こう側には敵がいる。

 裏庭にかすかに相手の気配を感じる。

 どうやら、よろい戸の隙間から中を覗こうとしているようだ。


 わたしは峰を下に『西瓜割』を構えると、静かに切っ先を壁に当てた。

 刀の峰に左手を添えて『西瓜割』を壁際に固定、そのまま息を止めて自分の気配を消す。


 再び、壁の向こう側の誰かが身じろぎをした。


 今!


「フンッ!」


 一気に柄まで『西瓜割』を叩き込む。

 渾身の一撃。


 ドンッ!


「ぐッ」

 押し殺した苦痛の声。


 残念、逸らした。


 身体の真っ芯を狙ったのだが、急所には当たらなかったようだ。

 だが、刃は貫通している。かなりの深手を負わせたはずだ。


 ズルリ……と『西瓜割』を壁から引き抜く。

 暗い中、刀身を走る赤いルーン文字が血に飢えたかのように光り輝く。


 ドシッ!


 全体重を乗せ、すかさずもう一撃。

 だが、二撃目には手応えがない。


 すでに敵の気配は消えていた。

(逃げた?)

 

 『西瓜割』を片手に、急いで裏庭に出て痕跡を辿る。

 壁に空いた二つの穴から囲炉裏の光が漏れている。

 そこに痕跡は残っていなかった。


(わたしもまだダメね)


 あれは必殺の間合いだった。

 殺さないまでも、あれで倒せないようではまだまだだ。

 わたしは右手に『西瓜割』をぶら下げたまま居間に戻ると、本格的な不寝番に戻った。


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