3
キリの良いところまで書いてるので、時間かかります。
《ウィンベルの正門》
「よぉし! ガンガン行こう!」
俺の手を引いてズカズカ正門を抜けると近くの立て札と依頼書を交互ににらめっこした後、ラクスがある方向を指差した。
「ん〜っ……えっと〜……こっちだ!」
異世界初心者な俺がベテラン? な、ラクスと早速リアルなクエストに行けることはとても嬉しいが、山道歩いて街に到着したかと思えば身体を休めることもなくクエストに出発。
ほ、本当にメルメーとかいうモンスターは初心者が……ノービスの俺が勝てる相手なのだろうか?
「な、なぁ! 本当に今から行くのか⁉︎ 街の外に出てから言うのもなんだが、もう夕方近いんだから明日にするのはどうだろうか?」
心境、かなり気持ちが負けて、俺は心の隅にある言葉にするつもりもない言葉を口にしていた。
「何言っちゃってるの! ユキジもメルメーは夜行性って知ってるでしょ?」
「ごめんなさい! 知らないです!」
「うん! 知らないなら知らないでいい!」
「いいんかい!」
「とにかく! 依頼者さんの不安解消のためにも、ボクたちはクエスト依頼のお家にメルメー出現時間までに到着! 家の付近でスタンバイして、奴が現れたら隙をうかがいながらバックアタックの不意打ちでノックアウトすんの! どうかな!」
「どうなんだろうねぇ! 俺は知らないからわからないけど、その作戦が正攻法なら間違いないんじゃないですかねぇ!」
「じゃ、この作戦で行こう!」
「俺が何を言っても押し通すと思うから作戦についてはもう何もいわないけど、ラクスもクエストから帰ってすぐなのに疲れてないのか?」
「へっ? 全然?」
タフ〜ッ。 ……っても、メルティナさんに俺の面倒見てやれって頼まれてやる気になってくれたんだもんな。
「……ごめん。そのなんだ……やる気、行く気マンマンになってるのにテンション下がることばっか言って悪かったな、ラクス」
「ん? なにが?」
無意識で無自覚。……これがラクスのいいところなんだろう。
「……うんまぁ……ありがとな」
「お礼を言うなんて変な奴~、あっ!?」
「どうした?」
「クエスト行くのにパーティー組んでなかったよ。ほらっ」
ラクスはギルドカードを取り出すと俺に『ほらほら』とカードを出すように指示した。
「お、おう! で?」
「そうだなぁ~……うん! ユキジがボクを誘ってよ」
「んっ、ああっ! ラクス、俺とパーティーを組もうぜ!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………。……これでいいのか?」
「いやいや、違う違う。ビックリした! ギルドカードの受注クエスト画面を開いてボクのカードの上に重ねて──」
ラクスの説明に従いながら自分のカードを操作し、最後にラクスのカードの上に重ねる。
「ラクス・アステリアをパーティーに誘いますかってカードに表示されたら『はい』を選んで」
「ん、おう」
「これで終わり」
「簡単だな。ってか、どうして俺が誘ったんだ? ラクスが誘ったほうが説明いらずで簡単だったろ?」
「メルティナがユキジをホストにクエスト受注を完了しちゃったから。深い意味なんてないよ」
「なるほどね」
「にしても、教えてなかったけど、いきなり『俺とパーティー組もうぜ!』って……ぷっ!」
「う、うるさい! 恥ずかしいことほじくって遊ぶな!」
「んぷぷっ。んじゃ、わざと忘れて話題を変えてあげる」
「ああ、そうかい! ありがとよ!」
「んふふっ、ずっと気になってたんだけど、背中の荷物袋って何が入ってるの?」
ラクスは少し笑いながらも、俺がずっと背負っているリュックを今更ながらに興味津々な瞳で指差しすと、俺もその反応に嬉しくなる。
「おっ! こいつが気になる!? こいつには俺が今日という旅立ちに向けて幼少から用意してた物が入ってるんだ! 携帯食にキャンプ道具に簡易テント。それに──」
そんな俺を見て、ラクスは笑うのをやめた。
「……ふーん。本当に冒険者になりたかったんだね」
「冒険者っていうか非日常……というか、みんなが行ってる外の世界に憧れたというか」
「外の世界……村の外ってこと……安全な村の中より、危険な外の世界に憧れて飛び出すなんて、やっぱユキジって変わり者だね」
「変わり者が集まるのがギルドじゃないのか?」
「……うん。確かにそうかも」
俺のひねくれた言葉にラクスもこっちを向いて笑う。なんかこう裏表なく言い合える奴っていいな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
普通に民家がチラホラする平坦な道を歩いて数キロ。初心者異世界冒険者の俺はやはり落ち着かない。
「……なあ、ラクス。壁の向こうというか、こういう道はどうなんだ? 出るのか?」
「なにがどう出るの?」
「いきなり『モンスターが現れた!』的なことは頻繁にあるのかなっと?」
「そんなこと誰に教わったの? 田舎のお父さん、お母さん? それとも村長さん?」
「誰にも教わってないけどイメージだよ。イメージ」
「あのさぁ、誰に植え付けたイメージか知らないけどウィンベルの壁の外側や一般道が常に危険なんてことはないよ」
「なのか?」
「うん。ユキジの田舎はモンスターが出ないらしいから教えるけど、モンスターに襲われた理由なんて人里離れた山とかでモンスターの縄張りに入っちゃったことが原因だったり、此処ら辺に近寄ってくるモンスターの理由のほとんどが食料を求めて人里におりてくることが多いから、食料投げたらそっち向いて追いかけてくから、すごく足の早いモンスターじゃないかぎり、その間に逃げることも出来るんだよ」
「へぇ〜。じゃああんな塀いらないんじゃないか?」
「んまぁ、たまに大きいのとか、群れでくることあるらしいからいるんじゃない?」
「ふ~ん」
縄張りに入らなきゃ襲われなかったりするってことは、俺達の世界の熊とか猿や猪みたいに、この世界もある程度モンスターと共存してるってことなんだろう。
「てか、一般道だとモンスターより山賊とかの方が多いって聞くよ。確か昨日も宝石商人が襲われたって聞いた」
「モンスターより人間のほうが恐いってか」
「そうなのって……まぁ、関係ない話はいっか。色々聞きたいこともあるかもだけど話は後だよ。依頼主の牧場に行かないと!」
「お、おう! そうだな!」
再度意気込んで出発した俺達というか俺は、まるでピクニックへ行くようにワクワクしながら周りの景色を楽しみながら牧場に歩いて行く。
なんか異世界感ゼロだけど……いいなこういの。
「すいませーん! ウィンベルのギルドから来た冒険者でーす! こんにちはー!」
ラクスの言う通り、牧場は出発して体感三十分くらい歩いたすぐそこ感覚で到着した。
牧場に到着すると、沢山の見慣れたヤギがいる中に建てられた丸太小屋に向かってラクスが叫ぶのを聞きながら、俺の視線は緑の草原にいた沢山の動物に向けられていた。
「へーっ、ここにはヤギがいるんだな」
「うわっ、ヤダ。ヤギも見たことなかったの?」
「馬鹿にすんな! ヤギくらい見たことあるわい!」
「あははっ。ごめん、ごめん」
ラクスは軽く俺に謝った後、古屋の入り口に立って大きく息を吸うと元気よく挨拶。
「すーっ……すいませーん! お家の方いませんかぁー!」
「…………」
「…………。……返事がないな?」
「おっかしいなぁ。地図に描かれているお家はここで間違ってないし、家を留守にすることはないって書いてんだけど……こほん! すいませーん‼︎ どなたかいますかー‼︎」
「──ああっ、はいはい! いますよ! どうもすいませんな!」
「おっ、良かった。無事に居たみたいだな」
「だね」
家の中から聞こえた声にラクスが扉から一歩下がると、開かれた扉の向こうから現れたのは、何処かでみたようなアルプスの山の上に住んでそうなお爺さんと毛がモッサリした犬が現れた。
「これはこれは! よく来てくれましたのぉ」
「この人、実在したのか……」
「えっ? この人と知り──」
「あーっと、すまん。人違いだった」
「んー?」
俺の言うことに納得してはいなかったが、ラクスはお爺さんにぺこりと頭を下げた。
「初めまして。ウィンベルのギルド《エストレヤ》からクエストを受けて来ました、冒険者のラクス·アステリアといいます。よろしくお願いします」
ラクスが冒険者カードをお爺さんに見せて自己紹介をするのを見て、俺も慌ててカードを取り出して見せた。
「あっ、とと! 同じく、有村雪路といいます!」
「ほうほう、そうですか。……しかし、お若い二人でモンスターを相手に大丈夫ですかな?」
「若くても腕には自信があるのでご心配なく! それで、今回はメルメーの討伐依頼ということみたいなんですが、間違いないですか?」
「ああ、その通りじゃよ」
お爺さんが顎の髭を触りながら言うその姿に、アルプスのあのお爺さんをついつい重ねてしまうが、よくよく考えたらこんな顔のお爺さんはアルプスに限らず海外に行ったら珍しくもないくらい沢山いるのかもしれない。
まぁ、それを確かめようにも海外すっ飛ばして異世界来たから、もう無理な話なんだけどさぁ。
「お爺さんはお一人で生活を?」
「んにゃ。家には孫娘とその友人が泊まりで遊びに来ておるから、今は三人で暮らしとる」
「そうですか。やっぱり、孫娘さんと友人がいたんですね」
「そうそう。孫娘さんと友人がぁ〜……って、何処に食いついてんの!」
「わ、悪かったよ。俺のことは気にせず、依頼主のお爺さんと話を進めて下さい」
「本当っ、話の邪魔しないでよ!」
「了解です!」
「おじさん、ごめんなさい」
「ふぁふぁ。かまわんよ」
つーか、驚きなのはラクスの対応だ。
俺ともこういう出会いと対応をしてくれれば……。
「こほん! 話を戻しますね。ギルドの受付で聞きました。メルメーは一飲みしやすい柔肌の子供を狙うことが多いって」
……んっ? 一飲み? メルメーって、そんなデカいの? てか、肉食なの?
「そうじゃよ。しかも、明るいうちは安全じゃし、家の中は明るくしてれば入ってくることはないと説明しても、扉の隙間から覗いて家の外で奴がうろついていると子供たちが怖がってしまって……ワシが若ければ守ってやれるんじゃが、何かあってからでは遅いからの。だから、たまたま通りかかった行商人にお願いしてギルドに依頼を出してもらったんじゃが、まさか出したその日の夕方に冒険者さんが来てくれると思わなんでたまげたわい」
そう言って貰えるとすごく嬉しい。それに少し安心した。このお爺さんが若ければ守ってあげられるくらいのモンスターなら、今の俺でも大丈夫そうだ。
「ボクたちのギルドの売りは早期解決、安全毎日なので!」
そうなんだ。
「それで、だいたいでいいので、メルメーがどの方角からよく現れるかわかりますか?」
「よく見るのは……あっちかの?」
お爺さんが指差したのは現在地より更に高い山上の森。
「日が完全に暮れると家の近くをうろついてましてのぉ」
「なるほど……わかりました。後は此方で対応しますので、お爺さんはお孫さん達と絶対に家から出ないよう、お願いしますね」
「ああ、わかっておるよ」
「んじゃ、ユキジ。そうと決まったら、あそこの森の陰でメルメーを待ち伏せしようか」
ラクスが指差したのは此処から歩いて五分ほどの林。そこは草木が生い茂り、待ち伏せるにしても居心地は良くなさそうなところだ。
「…………。……ラクスさんよ」
「なに?」
「あんな虫が出そうなとこで待つのですか? 俺たちも家の中でのんびりまったり待機するのはダメなのですか? モンスターが来てから奴が後ろを見せた瞬間に窓から飛び出して不意打ちバックアタックするのではダメのでしょうか?」
「わがままでアホな作戦を言わない」
「バックアタックの不意打ちでノックアウトすればいいだけじゃないのかよ?」
「大まかな作戦はね。だけど、メルティナからの注意で『家の周りで普段しない人間の匂いがしたらメルメーが何するかわかったもんじゃない』らしいから、なるべく家から離れないと」
「そうか。じゃあ、わがままは言わない」
まぁ、相手は野生動物じゃなくてモンスターだから、ここは経験者の言うことを聞くべきだな。
「さてと! そうと決まったらボクたちはさっさと物陰に隠れて、メルメーが登場して安心しきったところでグワッとやるだけ! 頑張ろうね!」
そう言って拳を握りしめるラクスだけど、そんな簡単にこのクエストが終わったらいいんだけど。
「……わかったよ。ラクスの言うとおり警戒心が強いなら早いとこ移動しようぜ」
「あっ! 待ってよ!」
林に移動すると、警戒心の強いメルメーのせいで夜に備えて火をつけるわけにもいかず、俺は更に不安になる。
本当に大丈夫なのか?
火をつければ獣や低級のモンスターが寄り付かないとかいろいろと有り難みがありそうだけど、今の俺たち──というより俺は普通の常識では考えられない状況で異世界の初夜を迎えようとしてる。
現代の街の灯で照らされた夜になれてるから、本当に純粋に暗い月明かりだけの夜が本当にロマンチックなんだけど、そんな心の余裕がない俺としては何が何でも早くメルメーに来てもらいたい!
「なぁ、ラクス。今日に限ってメルメーが来ないとか……ない?」
「それは絶対ないよ。メルメーは一度狙いをつけた獲物を喰らうまで離れない傾向があるから」
「そうか……」
……喰らうまで離れないのか……嫌だなぁ……。
「……っていうか、メルメーだっけ? 可愛い名前だけど、そんなに悪いモンスターなの?」
名前だけを聞くと癒し系だ。
「あのねぇ。お爺さんの話を聞いてなかったの? 孫娘さんに害があるからギルドに依頼が来てるんだよ」
「だよな。今のは俺が悪かった」
我ながらアホな質問をした。
「「…………」」
そう言葉を交わした後、ラクスは身を屈めて小屋を見たまま動かない。
俺はと言えば、リュックを抱いて木にもたれて何をしていいかわからず、時たま聞こえる草木の揺れる音にビクついて振り返ったりしていた。
そうしてる間にも時はどんどんと進み、完全に日が暮れる前にはヤギを連れた男の子が沢山のヤギを連れて何処かに帰って行った。
「やっぱいたのか大将……」
「なに? 誰がいたの?」
「なんでもないよ。こっちの話だ」
「本当、わけわかんない」
お前も俺たちの世界であのアニメを見てたら、今の俺の気持ちが少しはわかるだろうよ。
「……にしても暇だな」
今の状況をそう思わない奴はいないだろう。
「そりゃね。今は暇だね」
それはラクスも同じようで、なんだか安心。
「……ユキジ。完全に日が暮れる前にご飯食べよう」
「おっ、マジで⁉︎ ちょうど、お腹が減ってきてさ」
「えへへっ、実はボクも」
ラクスはお腹をさすって自分も空腹だと見せた。
「ユキジ食べる物ある? 分けてあげようか?」
「んーっ、大丈夫だ」
俺がリュックを指差すと安心したのか、ラクスは腰袋から紙袋を取り出して、お世辞にも美味しそうじゃない瓦礫の欠片みたいな物体を透明の液体が入っている瓶を取り出し、飲み口で少しずつ欠片をふやかして柔らかくしてから口にして飲み込んだ。
何あれ?
「お、美味しいのか?」
「水でふやかすだけだから、全然っ美味しくないよ。でも、あんまり匂いの出るものは食べられないし、いつ戦闘が始まるかわからないからね」
やっぱ経験者は違う。ベテランの冒険者は携帯食料みたいのを食べて、いつ戦闘が始まっても対応出来るようにするものらしい。
俺はラクスを感心しながらリュックを開けると、彼女を見習うように、あまり匂いのする肉系の缶詰めは避け、長期保存のきくパン一袋とさっきの飲みかけのペットボトルの水を取り出して広げた。
「──いただきます」
「ん?」
それを見たラクスは「うぇ」と嫌な顔をする。
「雪路、なんか変な物食べるね」
「食べるか。これは──」
力を入れてナイロンを引き裂き中のパンを見せた。
「パンが入ってんの」
「なにこれ!? なにこれ!? これがパン!?」
あまり力をいれずにちぎれるパンに目を輝かせる、ラクス。
「いろいろ用意したって言ったろ? でも、ラクスの食事見てると必要最低限の食事で直ぐに動けるようにしてんだな。『これだから素人冒険者は……』って馬鹿にされそうで、なんか恥ずかしくな──」
「……ごくっ!」
「…………」
今、『ごくっ!』って喉を鳴らしました?
「はひゃ〜。美味しそうな食べ物〜……」
しかも、年頃の女の子がなんの恥じらいもなく涎を出して、人の食事をものほしそうに見てるんですけど! 食べづらいどころか、ドキドキするくらい顔が近いんですけど!
「あの〜ラクスさん?」
「じゅるるっ! ……なに?」
「そんなに見られると食べにくい……」
「……はっ⁉︎ ごめん!」
そこで我に戻ったラクスは、手に持ったビチャビチャになったパンの欠片を飲み込むように食べ終わると、また牧場を向いて見張りを続けたのだったが……。
「(くぎゅるるるるるるるるるるっ〜……)」
めっちゃ腹の虫がなってます‼︎ モンスターが来るのも気になるけど、それよりもあなたの腹の虫が気になって食事が出来ません!
「くぅ〜……」
それが恥ずかしくなったのか、ラクスはお腹を抑えたまま顔を赤くして隠した。おい、可愛いな。
……うん。俺も空気が読めない男じゃない。
「ラ、ラクス? よかったら一緒にパンを食べないか?」
「いいの⁉︎ (ぐぅ〜)」
「いいよ。他にも色んな味があるから出す──」
「んぐっ! んぐんぐ!」
「って、もう食べてるね」
俺の返事も聞かず、ラクスはパンにかぶりついていた。
「急いで食わなくてもまだあるから大丈夫だよ。ほれ、水」
「んぐんぐ……ゴクッ! ぷはーっ! 美味しい! このパンみたいのすごく柔らかくて美味しい!」
「みたいのじゃなくて、それはパンだよ」
「こっちのは野いちごみたいな味だし! こっちのは……なんか……なんか高級な味する!」
「そうかい、そうかい。ストロベリーとメロン味が気に入ったようで良かったよ」
「……ぐすっ。ありがとね……んぐ! ありがとね、ユキジ」
な、泣くほど嬉しいのか。
「お前、ちゃんと毎日食べてるのか?」
俺が質問するのも可笑しな話だが。
「んぐっ! んぐぐっ! んぐんぐふぐん!」
「うんうん、そうかそうか……慌てて答えなくていいから、飲み込んで落ち着いてから話そうか!」
食事に夢中にながらも頷ずくラクスは、口に入れたものを飲み込み、次の食べ物を口に入れる間に俺の問いに答えた。
「んぐんぐ……ゴクリ! た、食べてるけど、冒険者は節約するのが……そう! 当たり前でしょ!」
「当たり前かどうかはさておき、節約はいいことだと思うよ」
「でしょ! だから、今日は朝一で一週間前の売れ残りの安いパンを纏め買いして──」
「空腹を満たしてたわけか?」
「んぐんぐ!」
『そうそう!』とでも言っているのだろう。答えてまたすぐにがっつくラクスを見ながら、地面に落ちた茶色のレンガのようなカケラを掴んで思った。……これがパン? クッキーじゃ……あっ。でも、確かに昔のパンはこんなだったってテレビで見たような気もする。
「なるほどね……メルティナさんがもんのすごくラクスを気にしてた訳がわかった」
「うっ……」
冒険者は生活に苦労するとは聞いてたが、この様子じゃ毎日の寝泊まりすらも怪しい。
「お前が毎日のご飯に困るくらいの生活を今日からすることも心配だけど、寝泊まりはどうしてるんだ? 女の子が一人で野宿とか危ないんだからな」
「んぐっ⁉︎ ぷはっ……さ、流石にしてないよ! 食費削って宿屋を優先してる! ……してるんだけど……」
「だけど?」
「そ、それが……食事を優先してもしなくても、今日の採取クエの報酬が結構残念な感じでして……どんなに捻っても、財布を裏返しても宿屋代が捻出出来なくて……」
「……もしかして、俺のギルド登録料のせいか!?」
「気にしないで。貸しても貸さなくても足りなかったから」
「そうか。でも今日から宿無しだろ?」
「うっ……」
その言葉にラクスは小さく頷く。
女の子が一人屋根無し野宿で今までは寝泊まりしてないとこは安心したけど、それも今日までか。
こいつにもいろいろ事情があるんだろうが、年下の女の子だけにマジで心配になる。
「ごちそうさま! その〜……ありがとう、ユキジ! ユキジのおかげで『今日も生きてる!』って実感したよ!」
「大袈裟だな。お腹いっぱいになったか?」
「うん! お腹いっぱいに満たされた!」
「そいつは良かった」
それを聞いて、ラクスが食べたパンの袋を回収してリュックに詰めていると彼女が聞いた。
「そういやさぁ」
「ん、どした?」
「ユキジ、森で出会ったときに食料探して道に迷ったとか言ってたじゃない?」
「あっ」
そういやそういう設定だったな。
「こんな美味しいパンをいっぱい持ってるのに食料探してたの?」
純粋な目をして聞かれたくないことをズケズケ聞いてくる。うんまぁ、わかるけど。
「ねぇ、なんで?」
「そりゃ……」
「なんで? なんで? どうして?」
知りたがりの子供か、コイツは!
「ねぇってば」
「……こ、これは非常食だからだよ!」
製品的にも嘘は言っていない!
「えっ。非常食なんて大事な物食べても良かったの?」
グイグイ会話を掘り下げてくるなぁ、おい!
「まま、ま、街についてギルドにも入れたし! ラクスにはお金を借りてるし! こ、このくらいお礼しとこうかと思ってな! あははっ!」
「なんか気を使わせちゃったね」
「気にすんな! これは俺が好きでしたことだから!」
「う、うん。本当にありがとう」
空腹を満たしながらまた小屋を眺めていると、日が完全に落ち、月明かりで薄っすらとだがお互いの姿が見えるくらいになった。
後ろの林は完全に闇だし、後ろから討伐対象のモンスター来たら最後じゃない、コレ? よくあるパターンで、後ろからモンスターが現れてガブリんちょとか嫌だよ、俺。
「……ねぇ、ユキジ」
「ん? どうした?」
「あれ、メルメーだよ」
「マジか!」
そんな心配をしてたのがバカみたいに、お目当のモンスターは目の前に登場。
発見したラクスの指差した方を辿って目をやるとは 、お爺さんたちの山小屋から約二百メートルくらい離れた位置。
「あれが……モンスター?」
月明かりでぼんやりと見える先には、そこに近づくトコトコと可愛らしく歩く毛ダルマの生き物……あれがメルメーというモンスターらしい。
なんだろう、あの愛くるしい毛ダルマは? まるで何処かのご当地ゆるキャラのように、危険度ゼロの緩みきった物体じゃないか。
そりゃ、モンスターと言えば見た目がおっかない牙剥き出しっていうのは俺の勝手なイメージだったけど、此処に着いてからの事前情報で子供一飲みだの聞いたからビビってたのに……ふふっ! 勝てる! いくら俺が鈍臭くても、あそこまで可愛い生物に負けるわけない! いや、もう勝ったね!
「ユキジ。アイツは耳が悪いらしいから走って近づいて気づかないらいしよ。先ずはボクが──」
「待て、ラクス! せっかくの初陣だ。先行は俺にやらせてくれ」
あの隙だらけのトロそうな巨体に先制攻撃の全力で脳天に一撃を与えれば気絶くらいするだろうし、なにも殺さなくても捕獲も対象だったはず! リュックの中のロープを使って手足を縛って生け捕りにしてギルドに処分してもらうこともできるだろう。
初めての経験値を逃すのは惜しいが、流石にあんな愛くるしいモコモコフォルムの生き物を殺してしまうのは気が引ける。
「え〜っ、任せて大丈夫なの?」
「これも経験だ。そのかわり、危なくなったら直ぐに助けてくれよな」
「それはいいけど、実はボクも戦闘は──」
「んじゃ、行ってくるな!」
「あっ! ユキジ待って!」
ラクスの呼び止める声なんて聞こえない俺は、物音を立てないように林から出ると、リュックから木刀を抜きながらメルメーに走り迫った。
「ッ⁉︎」
近くで草を蹴る音で始めてメルメーが俺の存在に気づいて振り返ったとき思わず足が止まると同時、俺はこのモンスターの恐ろしさを初めて知った。
「はは……こいつは反則だろ」
その顔は目がクリクリっと可愛く、ウルウルとした瞳は心を揺さぶり、体毛は柔らかそうで抱きしめてモフモフしたい。
「これが本当にモンスターなのか?」
見た目とその顔で、完全に俺はメルメーに対して戦意が抜けていく。
「こんな可愛い生き物がモンスターだなんて何かの間違い──」
『ガァウ‼︎」
「──じゃないみたい‼︎」
さっきの姿は何処にいったのか、毛は一瞬で黒く変色し、クリクリとした目は野犬のように鋭く光、聞いた噂通り、口は小さな子供を丸呑みするくらいまで縦に開らいて涎を垂れた。
うん! こいつは間違いなくモンスターです‼︎
「ひゃあああああああああっ!」
飛びかかって来たメルメーの前脚を木刀でなんとか受け止めるが、奴は俺の頭に噛み付こうと木刀をガリガリ噛みながら暴れ、力を抜けば俺の素敵フェイスがガリガリされそうなところで俺は自分の力に気づいてしまった‼︎
ちっ、くしょうっ‼︎ 気付きたくなかったけど気づいちゃった! 多分絶対、異世界補正ゼロだ、俺っ! へルモード! 初心者にキツイ、へルモード!!
カードに記されたステータスは嘘はつかない! 腕力も脚力も時の運す数字のまま! このままじゃ死ぬぅ‼︎ 死んじゃうよ、お母さーん‼︎
「ラクス! ラクス! ラクスさーん‼︎ 助けて下さい、今すぐにっ‼︎ メルメーに喰われるのは嫌だぁー‼︎」
「んっ、もうっ! なにやってんのよ、アイツ‼︎ 『アクセルドライブ』‼︎」
死を直感した俺の必死な叫びに、林の中にいたはずのラクスが一瞬で俺の視界に入りメルメーの横まで移動したかと思うと、奴の無防備な下腹を蹴り上げ、続け様に頭部にかかと落としを食らわせるコンボで地面に叩きつけた。
バトルカイザーのコンボかっけぇー。
「た、助かったよ、ラク──」
「バカ! まだ気を抜いちゃ駄目っ!」
ラクスは俺の襟首を掴み立たせると、急いでメルメーを叩きつけた場所から十メートル以上の距離を取る。
「な、なに慌ててんだよ、ラクスさん。今のすごい連続技で倒しちゃったんでしょ、アイツ?」
「バカバカ、大バカっ! 毛が白い間に頭を何回も殴って撲殺しちゃえばよかったのに! 黒くなったメルメーだと自分の実力もわからない今のボクじゃ絶対に長期戦になっちゃう!」
「実力? お前何言って──」
言葉を言いかけ俺は背中にぞくりと悪寒を感じた。メルメーを叩きつけた穴に視線を向けると、土埃の中からケロッとした顔のメルメーが『ほっほっほっ。……今、私に何かしましたか?』と言わんばかりにスンッとした顔をして現れた。
「どどど、どうなってんだ! めっちゃ凄い蹴が直撃したろ⁉︎ なんで平気なんだよ、アイツ⁉︎」
「さっきも言った‼︎ メルメーは白い毛のときは防御力が低いけど、黒くなるとBランク並みの竜の鱗の固さになるの! ちなみに、あの黒毛はそこそこ高級品!」
「Bランクの竜の鱗並み⁉︎ しかも高級品!」
そ、それがどのくらい硬いのかは知らないが! ええ、きっと硬いんでしょう! すんごく硬いんでしょう!
「そんなの聞いてないぞ‼︎」
「言ってないもん! 言わなかったもん‼︎ って言うか、自信もりもりで止めても聞こえてなかったでしょ! ボクは悪くない‼︎」
「おおう、俺が悪かったよ! 調子こいて自信もりもりで挑んで何も出来なくて悪かったよ! でも、あんな愛くるしいのを倒すなんて無理じゃねぇか!」
「それがメルメーなの! あの見た目に騙されて子供が襲われる危険があるからギルドに依頼が来てるんだよ!」
「ごめんね! 本当にごめんね、ラクスさん! 子供じゃなくていい年の男が騙されて──って⁉︎」
戦闘中なのに話に夢中だった俺たち向かって、目を鋭くしたメルメーが涎ダラダラと撒き散らしなから走ってくる。そのスピードはさっき見たトコトコ歩きから想像出来ない俊敏さ。
「ひぃいいいいっ⁉︎ 喰い殺されるぅ‼︎」
しかもラクスがさっき食らわしたダメージも殆どなさそうだし!
「こんにゃろ!」
『ギャン‼︎』
ラクスは襲いかかったメルメーの一番防御力が低そうな顔面に蹴りの一撃をお見舞いして今度は林に中に吹き飛ばした。
「……今度はやったのか?」
「っ⁉︎ ……多分無理……ってか、足痛い」
見ると、脛当ては二回の蹴りでベコベコ凹んでいる。
相手は鋼鉄ほどの硬さをほこるモンスターなんだから、いくら究極チート職業のラクスでも鋼鉄を蹴って骨に異常が無いとは絶対に言えない。下手すりゃもう利き足はビビくらい……クソッ! 完全に俺のせいだ。
『グルルッ〜……』
林の中は暗くてわからないが、獣が上げる唸り声は聞こえる。暗闇から奴がいつ襲って来ても可笑しくない。
なにか出来ないか? 俺にいま出来ることはないのか?
気持ちばかりが焦り、なにも出来ない自分にイラつく俺の姿から何かを感じとったのか、戦況を落ち着いたまま確認しているラクスが言葉をかける。
「ユキジ……もしかして責任感じてる」
「そりゃな。俺もこの状況で責任感じないほどバカじゃなよ。本当っ、どうすっかな……何か俺に出来るか?」
「……だったらお願い。少しだけ時間を稼いで」
おっ。必殺技フラグの予感。
「あのモンスターを倒せるのか?」
「もち! 使ったことないけど、バトルカイザーのスキルに、どんなに硬い物でも一撃で粉砕する必殺技があるんだけど……ちょっと詠唱してタメ時間がいるみたいなんだよねぇ」
林の中からバキバキと小枝の折れる音。
間違いなくメルメーはまだ襲ってくる。
「その詠唱とタメ時間は、どのくらい必要なんだ?」
「うーん……二十……ううん、十五秒!」
微妙な時間だなー。死ねるときは死ねる時間だ。
だけど此処でやらなきゃ、ラクスのパートナー失格だ! お約束の時間稼ぎくらいやってやるさ!
「おっしゃ! 逃げに逃げて時間稼ぎくらいしてやるよ」
「へへっ、ありがとう。頼りにしてるよ」
再び林の中から現れるメルメー。
集中するラクスに狙いをつける奴の身体に石を拾って投げつけると、俺は出したことのない声量で叫んだ!
「お前の相手は俺だ、メルメー‼︎」
『グワァウ‼︎』
鋼鉄の弾丸のように襲い掛かるメルメーをよく見て身を交わすと、走って距離をとってまた挑発。
「こっちだ、こっち!」
小学生の頃、昼休みのドッジボールで毎度最後まで生き残り、残り時間までボールを避け続けた実力は伊達じゃない!
ドッジボールのようなゴムボールじゃないから、メルメーのスピードと強度は当たれば即死だが、ギリギリで交わした方が相手も此方の動く方へ反応して飛ぶことが難しいはずだが、それは此方も同じで、どちらも常に先を読み、メルメーは噛みつき、俺は避ける。
「うおっ⁉︎ 今のはヤバかった!」
野生の感なのか六回くらい交わしたところで、メルメーは俺が交わした方への飛びつきが早くなってきた気がする。
ちくしょう、野生の勘か?
「っ⁉︎ しまった!」
しかも、体力的にそろそろ限界だと感じていたころ足がもつれ転んでしまうミス。
『グルルガァアアアア‼︎』
その隙をメルメーが見逃すわけもなく俺の背中を奴の爪が襲い掛かかろうとした、その時だ!
「──ユキジ、お待たせ!」
声のした上空を見上げると、飛び上がったラクスがメルメーの鋼鉄の胴体に向けて蹴りをかます瞬間だった。
「ラ、ラクス‼︎」
「調子に乗るな、羊野郎! くらえっ!! この世の全て壊す神の一撃! 爆砕!『ミョルニルブレイカー』ッ‼︎」
メルメーに向けて展開されてる黄金色に光る一つの魔法陣。
それに飛び込んだラクスは、その姿を稲妻と変えて加速し、メルメーが防御を固め構える隙も与えず、閃光となったラクスの一撃で鋼鉄の毛を粉砕!
『メェエエエエエエエエッ⁉︎』
悲痛な叫びを上げたメルメーは、毛を刈り取られ、丸焼きにされた羊のような姿になり、地面に何度かバウンドして横たわると、痙攣しながら最後は動かなくなった。
「ふぅ〜……」
鼓膜に響く爆音と暗闇を貫くような光に頭をクラクラさせながら立ち上がり稲妻が駆け抜けた方を見ると、そこには暗闇で輝きを放つほどの放電をしながら立ち尽くすラクスの姿があった。
「……今度こそ、や、やったのか?」
「……う……うん。やったよー……」
少し反応が遅かったが、放電を終えたラクスは笑顔で俺を向いてピースで答える。
「ははっ……あははっ! や、やった……やったな、おい! お前、本当にすげぇよ!」
初めての勝利に嬉しくてラクスまで駆け寄ると、立ったままの彼女の背中を叩いて激励。
「痛っ……」
「わ、わりぃ! 調子に乗った! そんなに力は入れてなかったんだけど大丈夫か?」
「あはは……ユキジのせいじゃないよ。あのスキルを使うと身体中が筋肉痛みたいに痛くなるみたいでさ……えへへっ」
そんなに負担がある技なのかよ、アレ。
「まあ……とりあえず安静にな。ところで、あいつ……死んだのか? 安心しきったところで後ろから噛まれたりとか、後ろ向いた瞬間に抱きつかれて自爆されるとかない?」
「死んでるよ……死んでなきゃ嫌だよ」
歩き出したラクスは足元がフラフラしていたので、隣で支えながらメルメーまで歩いていくと、横たわったメルメーの隣で屈んで手を振り上げ──
バシッ。
「こんのっ」
「おいっ⁉︎」
頭をしばいた。
生存確認が雑っ!
「…………」
首がグキッと曲がったメルメーはピクリとも動かない。
「ほら、死んでる」
「ほ、本当か? 本当の本当に本当か? 本当にただの屍のようか?」
「ど、どんだけビビりなの? 今のはわざとしたけど、生体の《気》を見れば死んでるのくらいわかるでしょ~……って、ユキジには気を見るコツもわからないだろうから、そんなに不安なら冒険者カード見ればいいよ?」
「冒険者カード?」
ラクスに言われ冒険者カードの裏を見ると、そこには《メルメー討伐完了》の文字が刻まれていた。
このカードはモンスターの生存確認も出来るのか、スゲーな。
「ほ、本当だぁ!」
「はぁ〜、でしょ?」
「はは……本当によかった」
そこでやっと気の抜けた俺はどっと肩の力を抜いた。やれやれ……にしても、この世界のモンスターはFランクでこんなに怖いのかよ。一人だったら間違いなく死んでた。
「さてと! ……ユキジ。ギルドに帰って報告して……報酬貰わなきゃ……」
「おっ! そうだな!」
足に力を入れて立ち上がろうとするラクス。
「そしたらさ、ギルドの横の食……堂で、今度は私が……ユキジの食べたがってたトカゲのしっぽ……肉を奢って……あげ……」
しかしほんの少し立ち上がったラクスは目の前で膝から崩れ落ち、前のめりに地面に倒れそうになるのを見た俺は慌てて滑り込むように地面スレスレで彼女を受けた。
「危なっ!? いっつつ〜……お前、足元フラフラじゃないか。本当に大丈夫かよ」
「…………」
「ラクス? ラクスさん?」
「…………」
「おいおい……や、やめてくれよ。返事しろよ」
「…………」
「………おい! おいっ、ラクス!」
目の前で倒れた人を揺さぶる行為はよくないが、明らかに意識のないラクスを揺さぶり必死に呼びかけるも俺の声にピクリとも反応もない。
「こりゃ、冗談じゃない! ど、どうしたらいいんだ⁉︎ 呼吸はしてる! 脈も……あるっ! あと、こういうときは基本動かしちゃダメなんだっけ? 救急車は⁉︎ 救急車は来るわけねぇだろ! あぁああああっ! この状況でどうしたらいい? う一ん……迷うなら背負って帰る!」
ラクスを背負って山小屋のおじいさんに説明したあと、街に走りだしたこのときの俺は、本当に何もわかっちゃいなかった。究極職が……本当に誰もが憧れる職業なんかじゃないことを……。
次回はなるべく早く仕上げます。