2
考えが纏まらずに書いてる馬鹿なんで、更新かなり遅いです。
「うっううっ……本当にあったんだ! 俺の目指したユートピアにやっと……やっとこれたんだ! ありがとう! ありがとう、名前も知らない異国の人! あなたのおかげで俺は今日も明日も、ずっとずっと、この世界で夢を追って生きていけます! 本当に! 本っ当にありがとう‼︎」
「えっ? あっ、はい?」
なんの感動か? 何故に俺が泣いているのかわからない現地人の彼女は、不安の表示を向けたまま俺を心配するように肩に触れて優しく聞いた。
「あの〜、もしかして久しぶりに人に出会って混乱してる? 意味わかんないこと言ってるけどアホかバカなの? 街の診療所連れてってあげようか?」
「是非お願いします〜……って誰がアホかバカだ! 初見で人の頭を心配とか失礼だろうがっ!」
「おおっ⁉︎」
叫んで彼女の驚く顔と声に『ハッ!』とした俺は、怒鳴った自分の行動を恥じて慌てて頭を下げる。
「す、すみません! 初対面なのに大声で怒鳴ってしまって! 俺、有村雪路っていいます! はじめまして、こんにちは! よろしくお願いします!」
「そ、それはどうもご丁寧に……というか初対面の人にこっちもいろいろ失礼言っちゃってごめん」
「いえいえ」
「…………」
「…………」
「……てか、アリムラユキジって言うのが君の名前なわけ?」
「そ、そうだけど……なにか?」
「ふ〜ん……」
「……お、俺の名前がどうしましたか?」
俺の名前に眉間にシワを寄せるほど考え込む様子を見せる女の子に『もしかして、俺の名前になにか不吉を意味する言葉あったのか? もしかしたら日本名の奴と国同士で争っているのでは?』と思考を張り巡らせて、『偽名を使えばよかった』とか考えたり、次に来るだろう彼女の言葉に緊張をしていると、真剣な眼差しを向け下から覗き込んで言った。
「……いや、すごく変な名前だと思って」
「おいっ」
なんかのフラグかと思って損した。しかしそんなに怒る事じゃない。この言葉は逆に俺をより喜ばせる言葉でしかない。
異世界あるあるで、日本人の名前は笑われたり遠い島国の生まれや育ちだと思われることが多く、笑われたり珍しがられることはよくあること。今の彼女の台詞からこの地域にはどうやら異世界から日本人、もしくは日本名の人々が住んでいる街や地域がないのかとも感じさせる。
んまぁ、大航海時代が始まっていないなら発見されていない島国も多いだろうが、こういう世界って何故か隅々まで攻略されてる事が多いから望みは少なそうだ。
「……ところで、そんなあなたのお名前は?」
「えっ、ボク?」
「……ボク? ボクだって⁉︎」
「いやいやいやっ! なになに、なんなの⁉︎」
「だって、ボクっ娘なんでしょ⁉︎ ロリのボクっ娘とか本当にいるんだと感激してまして!」
「…………」
ズィと一気に距離を詰めてキラキラした俺の視線に身の危険を感じたのか、目の前の女の子は俺から二歩下がって言った。
「……嫌だ」
「えっ?」
「お、教えたくないってこと! 絶対に名前は教えないからね!」
「ちょ⁉︎ なんで⁉︎」
「初見の痛くて怪しい人に名前を教えたくないから!」
「誰が痛くて怪しい人だ! つーか、人の名前を聞いておいて、自分は名乗らないなんて、それはそれで失礼ないんじゃないですか!」
「うっ⁉︎ そ、それは……そうなのかな?」
「そりゃそうでしょう!」
「……うん。失礼……失礼か……んもうっ! ……ボクの名前はラクス。ラクス・アステリア。それがボクの名前。ほら、これでいい?」
なにかを吹っ切るように自己紹介をするラクスさん。
「は、はい! 改めてはじめましてラクスさん!」
「よ、よろしく……」
複雑な心境のラクスさんの気持ちなんて知らずに、俺だけ彼女の名前に只今感動中。
おぉ〜っ! 異世界くさい名前……くさいか? んまぁ、俺の田舎じゃ外国の人が少ないから彼女みたいな国外の名前は普通に珍しいと感じるし、異世界ぽい名前の人はたくさんいたかも知んないもんな……知らんけど。
「……さてと! お互いの自己紹介も終わったところで、君が怪しい奴じゃないなら田舎から飛び出した理由とか何処へ向かうつもりだったのか教えてくれる?」
「えっ⁉︎ えっと〜……」
話を戻すのに思考がついていかず脳内を凄いスピードでありそうでなさそうな、当たり障りのない言葉を組み立てる。
「どうしたの? 何か言えない理由があるの?」
その数秒の間が怪しいと眼光を鋭くするラクスさんに、俺は慌てて説明をはじめる。
「えっとと! とくにどこか目的の街があったわけじゃないんですけど……はっ! でも、怪しい者ではありません!」
「あ、怪しすぎ。これほど怪しすぎる奴も見たことないけど、ハッキリと言い切れない理由はなによ?」
「そ、それは〜……初めて会う人間の言葉なんで信じてくれと言うのも無理だと思うんですが、俺は冒険者になりたくて家を飛び出して旅をしているんです」
「冒険者に?」
「はい。ところが地図も持たず家を飛び出した上に地理にも詳しくないので、街には十日歩いてもつけず彷徨い、食料を探して森に入れば食事にはありつけても、来た道も出口も分からず迷ってしまう始末でして……」
「無様だね」
「ははっ、ごもっともです。とまぁ、こう説明しながらも君の心無い言葉で痛い子認定されて心身共に傷ついてしまい、ラクスさんには責任をとって近くの町までの道のりを教えてくれるか、そこまで連れて行ってほしい……というのが今の状況です」
棒読みでまた嘘と嫌味の反撃と無茶苦茶な要求。
そんなことを言われたラクスさん。彼女は俺の嫌味を気にしないというか、その返しを楽しむように頬を上げて口元を緩ませた。
「へ〜っ。付け加えで嫌味とそんな要求してくるなんてね」
「ちょっとだけ仕返ししました。それでどうですか? 町まではどのくらいの距離なんでしょうか?」
「……くすっ。一番近くの町ならこの川の流れに沿って上流に行けばいいけど、その町にギルドはないと思うよ」
「そうですか……」
そこまで順調にはいかないか。
「……んまぁ、ギルドのある街は少ないからね。右も左もわからないド田舎者ならどの街にギルドがあるか調べて旅たたなきゃね」
「うっ」
嫌味には嫌味の反撃。この子、可愛い顔して言葉がキツイ。
「となると振り出しか……」
はじめての土地。言葉には問題なさそうだがどうなるか……と旅先に不安がり困っていると──
「ふふふっ……しょうがない! ちょうどクエストも終わったし、ここから少し遠いけど、ボクが今住んでるギルドのある街でいいなら連れて行ってあげるよ?」
ラクスさんが助け船を出してくれた。
その優しい言葉に飛び付かない異世界初心者は……んまぁ、そこそこいるだろうが、俺ももちろん飛び付いた。
「本当ですか! ありがとうございます! すごく助かります!」
「うんうん。それに冒険者になりたいんだっけ? 所属したいギルドにこだわりがないなら、ボクがお世話になってるギルドを紹介してあげるよ」
「えっ! でもギルドって審査があるんでしょ?」
「えっ、ないよ? ボクが登録したときは、『ここで登録したいんですが』って、受付で言ったら『ここにサイン下さい』みたいな流れで登録できて面接もないし、すぐに冒険者デビューだよ?」
「そんな簡単に⁉︎ 街に連れて行ってくれて、ギルドも紹介してくれて、すぐに冒険者デビューなんて至れり尽くせりじゃないですか! 是非よろしくお願いします!」
「いいよ、いいよ。その辺で道に迷って死なれて腐っても後味悪いし」
「おい」
──と、ツッコミを入れるが、女性耐性の少ない厨二には彼女のイタズラな満面の笑みとウィンクが飴と鞭なり気持ち良くもなる。しかしこれが癖になったら変態だ。
「それじゃあ早速なんですが、案内よろしくお願いできますか?」
「うん、任せて」
というわけで、多少腹の立つこともあったが怒って現地人と喧嘩したくないため、大人しく付いて行くことに。つーか、ギルド所属してるってことはこの子も俺より確実に戦闘レベルは高いんだろうし、まだ異世界にきたばかりの力の使い方も知らないひよっ子の俺が怒りに任せて襲いかかろうものなら反撃されて殺されかねん。
そんな弱気な道中で、多少会話を濁しながらこの世界のことについてラクスさんから情報収集。
まずこの世界の名前には名前がないこと。
何故かと聞くと、なんでも国同士のいろんな問題で二千年以上前から名前について揉めてるらしい。
すると通貨も国々で色々あるのかと聞けば、お金は統一してたほうが都合いいからと、同じく二千年以前から《エール》という、使えば飛んで行ったり、それが飲み物ならば飲めば酔いそうで、応援されるような単位が使われているらしい。
なんて言うか、世界の名前も通過くらいの協調性で決めたらいいのにと思うが、どこの世界も異世界も国同士はなかなか分かり合えないものなのだろう。悲しいな。
そして三つ目。
この世界には科学なんてものは存在せず、魔導学という魔法を使った技術が進行していることがわかった。
うんうん。これが一番嬉しい情報だったなぁ〜。
だって憧れの魔法が俺にも使えるかもってことだじゃないか!
「──でねでね! ボクのギルドのイチオシメニューが安くて美味しい、《トカゲの尻尾の丸焼き》なんだよ!」
「えっ。トカゲの尻尾ってこんな小さいの食べるんですか?」
俺は小指を立てて彼女に見せる。
「それ何処のトカゲ? ギルドで出してる尻尾は小さくても君の腕の太さがあるし、今の時期は旬からずれてちょっと味は落ちるらしいんだけど、それでもすごくジューシーで毎日食べたいくらい美味しいの!」
「くぁ〜! それは是非とも食べてみたいなぁ! んでさぁ、ラクスさん!」
「……あ、あのさぁ」
「はい、なんでしょうか、ラクスさん?」
そう言うと、また顔を渋くするラクスさんに俺は首を傾げた。
「……うん。そろそろ敬語とか『さん』付けはやめてよ。仲良くなった人に敬語使われるの好きじゃないんだぁ、ボク」
「んなっ」
……父さん、母さん。俺、もう見知らぬ土地で個性の強い友達(仮)が出来ました。
「……んじゃ、やめる。その方が俺も楽だし」
「でしょ?」
早速敬語をやめた俺にラクスはニンマリ。
「んでんで、聞きたいことって?」
「ああ、うん。今更になって聞くんだけど、ラクスは俺の言葉わかるんだよな? わかりにくいとか何言ってるんだコイツみたいの……ないの?」
「はぁ? 全然ないけど。初見はアホかバカかと思ったけど、さっきからボクたち普通に話してるじゃない」
ちょっと傷ついた。けど、話が普通に通じてるからこそ思ったりするは当たり前。
なんで彼女は現代的な日本語や略語が喋れて、俺もこっちの言語が喋れて理解出来るのか?
山道を歩きながらラクスと話しながら頭の片隅で考えていたのはこれだ。
もちろん、俺はさっきから間違いなく日本語を話しているし、この世界の言葉を習って覚え、速攻でそれを使いこなし喋ってるという自覚は全くない。
だいたい、英語だってまともにわからないのに、他国どころか異世界の言葉を物覚えの悪い俺がちょっぱやでマスターすることが不可能なことは俺がよく分かってる。
もちろん、俺の《パッシブスキル》が発動していることも否定出来ないが、それを知る術もない。
ということは、今考えられる一番の答えは、この異世界の言葉は日本語に近い……もしくは、日本語しかない世界なんじゃないのかってこと、そしてそこそこ日本の流行り言葉も通じる言葉には不自由のない世界になる。
でもまだ他国に行ってないし情報も少ない状況でのあくまで仮説。だから現地住民に聞いてみるのが早いけど……これが普通なら聞いたところでまたラクスにバカにされるだけか。『本当になにも知らないド田舎者だね』って。
「早く早く! もう少しで街が見えるよ」
「お〜う! わかったから置いてかないでくれ!」
山道を二時間は歩いただろうか? 最初は並んで歩いていたが、今はラクスになんとか着いて行くのがやっと。自分で言うのもなんだが、休日は異世界ゲート探しに山登りしたりしてたから体力あるほうだと思ってたが、やっぱり冒険者のらラクスと比べると全然ダメだ。情けない。
「はぁ……はぁ……」
「おーい、頑張れー!」
まるで全速力でフルマラソンを走り切ったランナーのようにフラフラにならながら、やっと街の入り口に到着。
「ふぇ〜……や、やっと着いた」
「お疲れ様。だけど少しは体力つけなきゃ冒険者になんてなれないよ、ユキジ?」
「へへっ、だな。で、ここがそのギルドのある街?」
「そう。ここが私も住んでる《ウィンベル》の街だよ」
街を守るために作られた高い石の壁と城門を見上げて、荒い息は心臓をバクバクさせてはいるが、今は興奮に近い。こんな立派な建築物は写真でしか見たことない。確かこういうのは……城郭都市とかいうんだっけ?
「んじゃ、呼吸が整ったらギルドに案内するね」
「はぁ〜……ふぅ〜……だったらもう大丈夫だ。案内をよろしく頼むよ」
「意外と元気? まぁ、案内するけど疲れたら言ってよね?」
「うっす!」
城門と門兵の間をなんの身分証明することもなく軽く会釈をしながら潜り抜けると、そこはもうファンタジーの世界。
「ふわーっ! なあなあなあ! この街には武器とか防具を売ってる店もあるのか⁉︎」
門兵の姿や街の様子から俺は期待を込めて質問。
「あるよ。この道の突き当たりを右に曲がったら色々なお店があるんだけど、その通りで大体の装備は買えるよ」
「マジで!」
だろうとは思ったけど、やっぱそういうのが普通に買える世界なんだ。
「ってことはだ! 武器防具がいるってことは、この街の外にはよく出るのか?」
「変態? それはユキジでしょ」
「そうそう俺は変態──じゃない! モンスターだよ! モンスター!」
「もう、うるさいなぁ。ちょっとからかっただけじゃない。モンスターでしょ、モンスター。……うーん……今日は見たり出会ってないけど街の外は普通に出るでしょ?」
「で、出るのか! そ、そうだよな!」
「ん〜っ?」
道中で聞いたり出会わなかったから人同士の争いの絶えない中世世界かと思ってたところだったからな。
「それよりあれだ! モンスター使ってこの世界を征服しようとしてた悪い奴……いたじゃん? 確か……なんだっけ?」
ここまで話してきてラクスの性格上そんなことを気にもしないだろうと思ったが、言葉を少し選んで探りながら質問を続ける。
「世界征服? ……ああっ、もしかして魔王サタンのこと?」
やべぇ。この世界はとんでもねえ魔界の王がいる。
「そ、そうそう、そいつ。 サタンてどうなったけ?」
「ユキジのいた田舎には情報が行ってないの? あんなの千年以上前に討伐されたじゃん」
「そ、そうなの? じゃあもう魔王はいないのか……」
安心したような、ガッカリしたような……っと、待て。魔王が死んだのに何故にまだモンスターが出没してるんだろう?
よくあるファンタジーでは魔王の死は世界の平和、つまりはモンスターもいなくなるのが道理ってもんだろう。
「だったらどうしてモンスターがまだ出るんだ?」
「今は魔王配下だった六魔天っていうのが仕切ってんの」
「ろくまてん? なんだその人たちは? 勇者が全部倒したんじゃないの?」
「倒してないみたいだよ」
「なんで?」
「なんでって、サタン倒した勇者は魔王以外無視して特攻したからじゃん。これ、かなり有名な話だよ?」
「えぇええええ〜っ……そんな勇者いんの」
弱い奴から倒すっていう王道を無視して一番強いだろう魔王に特攻するヤンキーみたいな勇者もいるんだな。つまりそのどっかのドッジボールしてそうな六魔天とかいうのが、まだ全員残っているからモンスターが出現するの……かな?
まぁ、普通に冒険者になって暮らしたい俺には六魔天とか魔王とか関係ないんだよなぁ〜……とか、考えてたら巻き込まれるフラグオン?
「そうか……でもよ、六魔天ってまだまだ現役で生きてるのか? 千年たっても生きてるもんなのか? 死んでんじゃねぇの?」
と言いながら、悪い奴とモンスターとかは長生きだし、悪魔と妖怪は基本死なないというのを思い出した。
「そんなのボクだって知らないって。でも誰か一人でも倒した話も噂も伝説も聞いたことないし、未だにギルドに王都が六魔天の報酬を出してるってことは生きてるってことでしょ」
「そんな安直な」
「安直でもいいじゃん! 一生遊んで暮らせる高額賞金の奴が生きてるって思ったほうが冒険者にとって浪漫があんだから!」
「言い方変えりゃあ、人類にとっては絶望が終わらない恐怖だけどな」
なにやってんだ、各国勇者! 俺の異世界ライフのためにも早く平和にしてほしいもんだよ。
「冒険者になりたいくせに夢がない奴」
「絶望と恐怖を夢と一緒に考えるなんてどうかしてるだろ?」
「……それもそっか、てかさぁ、さっきの会話から薄々そうじゃないのかな〜とは思っってたけど……」
「なにを?」
「ユキジってば一度もモンスターに出会ったことないんじゃないの?」
「……はは、ははははっ……実は一度もない」
「カルガ山でも?」
さっきの山か?
「会ってない。というか、生まれてこのかたモンスターを見たことも襲われたこともない」
つか、この見たことない星だか世界に来たばっかだし。
「そんなことある⁉︎ 毎日モンスターの被害報告があるのに⁉︎ カルガ山なんて危ないとこに迷い込んだのに?」
あの山、そんなに危ねぇとこだったの!? そんなとこでグーグー寝てたのか、俺は!?
「あ、ある奴が此処にいるんだから『ある』んだよ!」
「そっか……ユキジのいたド田舎って世界の情報も入ってこないし、そこに住んでる村人はモンスターも寄り付かないオーラを纏ってるド田舎者なんだね。……可愛そう」
「いや、可愛そうではないだろ。平和な村と言え」
その後は初めて見る中世ののどかな街並みや風景、そこで暮らす人々を幸せな気持ちで見つめながらラクスを見失わないように隣で歩いて進む。
荷馬車の走る道路、道なりにズラリと並ぶ屋台、少し視線を裏路地に向ければ井戸の周りで楽しそうに井戸端会議をするマダム達とその近くでは床に絵を描いたりして遊ぶ子供達。
うーん、感激だ。ブレることなく漫画やアニメでお馴染みの中世生活しているし、山の上にある領主っぽい家とか最高じゃん!
なんでこの世界はこう俺の心をくすぐってくるんだ!
「──着いたよ」
「ん?」
立ち止まって見上げたのは一軒の建物。
どう見ても民家に見えないその建物は、周りの建物より立派な西洋風の建物。文字や表札などもなく、何か獣を象ったような像がご立派に門の入り口にあったので、そこが何の建物かはわかった。わかったんだけど……。
「……もしかして此処がラクスの所属するギルドですか?」
俺は現実を疑うようにラクスに聞いた。
「そうだよ。ここがボクの所属するウィンベルにある一つだけのギルド《エストレヤ》だよ」
「へぇ〜……そうなんだ」
贅沢言うつもりはない。ラクスが『良かったら』と気持ち良く紹介してくれたギルドに文句を言うつもりはないが……。
ボロッ。と崩れる壁の外壁。
こ、こう……なんか思ってたのと違う。
襲撃にあったのか屋根や窓硝子は割れて板を貼り付けてたり、ギルドの旗であろう物はボロボロ。一言で言うなら廃墟だ、廃墟。
「ささ、遠慮せずに中に入って」
「お前ん家じゃねぇだろ」
「まあまあまあ、そういうことは言わない約束」
ラクスが先頭になりギルドの扉を開いて建物の中に入ると、見た目はさておき俺も期待に胸を膨らませ後に続いた。
「…………」
──が、店内はもっと凄かった。
薄暗い店内の隅の方で椅子を並べて寝ている人はいるし、入り口近くのテーブルでは昼間から酒を飲んで楽しそうな甲冑冒険者数人とウェイトレスさん達が危ない外国のスラム街と化した店内で楽しそうにお話しをしていた。
な、なんか思ってたのと違う。絶対になにかが違う。
「……あの〜、このギルドは営業してるんでしょうか? それともやはり場所を間違えたのでしょうか?」
「間違いなくここがギルドで営業中! もしかして建物がボロいからバカにしてるんじゃないの!」
「バカにはしてないけど、なんかいろいろ俺が思っていたギルドといろいろ違うと言うか。人もいないし」
「今は昼すぎだよ? 遠出のクエストを受注したパーティはもちろん、近場のクエストを受注したパーティも、まだ帰ってくるには早い時間なの」
いや、そういうことを言ってるんじゃないんだが。
「なるほどね。だったら、そこで真昼間から酔い潰れてる暇そうな冒険しゃ──」
「んんっ! こほんっ!」
その俺の質問にラクスは軽く咳き込み、俺の言葉を遮る咳払いをすると、未だ楽しそうに話をしている冒険者達に聞こえていなかったことに安堵した後、人目を気にしながら俺を手招きで呼んで屈ませて小声で話し出した。
「な、なんだよ?」
(今いる人達は、目的のクエストがなかったり、暇つぶしに飲んでる人っていうか……ほとんどの人がハイエナさんて呼ばれてる人達なんだよ)
ラクスのコショコショと話す声のトーンに合わせ、俺も自然と小声で聞き返す。
(ハイエナ?)
その言葉からあまり良い印象はない。
(んで? それはどういう人達なんだ?)
(まったく〜、なんにも知らないんだから)
(すいませんねぇ)
(……あのね? クエストに失敗したり、予期せぬ事態になったパーティさんが《救難信号弾》てのを上げることがあるの。んで、そういうパーティさんを助けてあげてるのが、この人達)
(んだよ。すごくいい人達じゃんか)
(んまぁ、皆さんがそんな感じだといいんだけど、中にはそのパーティが受注したクエスト報酬を横取りするのは当たり前、更に助けた代価で高額請求や身ぐるみ剥がされた人たちも多くて、あんまり良い噂は聞かないんだよ。まぁ、命が助かるだけ有難いのかもしんないけど)
へぇ〜、まさに骨まで食べるハイエナさんだ。
俺にそう言た後、ラクスはハイエナさん達を避けながらスタスタと奥の受け付けらしき所へと真っ直ぐ向かい、そこで書類に目を通していた黒髪のミディアムボブの女性に近付き声をかけた。
「やっほー、メルティナ!」
「あっ、ラクス。おかえりなさ〜い」
ラクスが軽い挨拶をしたメルティナさんというスーツ姿の女性は手を振って笑顔で彼女をお出迎え。なんか男装というわけじゃないけど、女性のこういう姿にはグッと来るものがある。ほら、体育祭の男子の学ラン着る女子みたいな。
「たっだいま!」
「カルガ山に行ったのに早い帰りだったね。どこも怪我してない?」
「うん、大丈夫」
「クエストはどうだった?」
「もちろん大成功!」
ラクスが腰袋から袋を出してテーブルに置くと、メルティナさんは袋から見たことのない赤黒い草を取り出して確認した後、数枚の銅貨と銀貨を小さなトレイに置いてテーブルに置いた。
「本日はお疲れ様でした。こちらが報酬の4800エールになります。お確かめ下さい」
「えっ、4800エール?」
「うん、そうだよ。予想より多かった?」
「あぁああああっと……うん!」
おい。今の「うん」はそんな感じしないぞ?
「そう、良かった。今夜は奢ってもらおうかな?」
「あはっ……あはははっ……」
ラクスが少し元気なさげに差し出された硬貨を数えながら布袋に入れるのを心配しながら、後ろから物珍しく見ていた俺と受付嬢さんの目がここでふと合う。
「……ところでさっきからラクスの後ろで見え隠れしてる、やたら落ち着きのない怪しい見たことのない人はどちら様?」
「……あっ。忘れてた!」
忘れんなよ。
「えっとね。後ろの人が冒険者登録したいんだって」
彼女と目の合った俺は軽く会釈した。
「ふーん……で、本当は?」
「んっ? 本当だけど?」
「またまた〜。その人、本当は最近出来た彼氏さんなんでしょ?」
メルティナさんは一人『うんうん』と頷きながら頬を赤らめた。
ちょちょ! そう見えちゃいます──
「冗談やめてよ、メルティナ。ボクも人は選ぶから、こんなダサくて頭の痛いバカを好きになったりしないよ」
この野郎っ! 黙って聞いてりゃ、人を傷つけることしか言わねぇな!
「うふふっ。それじゃあ聞きますが、後ろの人とはどんな関係なんでしょうか?」
「いろいろ勘違いされると嫌だからキッパリ言うけど! カルガ山でクエスト終わって水飲んでたら声かけられたの。それだけ」
「要約するとナンパね! それでときめいたラクスは──」
「いい加減にしないと怒るよ、メルティナ?」
「ごめん、ごめん。それで?」
「んもう……この子、冒険者になるためにド田舎飛び出してギルドのある街を目指してたみたいなんだけど、右も左もわからず迷ってたみたいでさ、優しい私はこの人が可愛そうだからここまで道案内したってわけ」
「なるほどねぇ〜……」
お前、その辺で腐っても困るからとか言ってなかった?
「一攫千金を狙ったのか、それとも冒険者への憧れか……まぁ、今の時代珍しくもない理由ね」
メルティナさんは聞こえるようにそう言った後、軽く俺に手を振る。適当に作った話だが、時代かモンスターのせいか、どうやらこの世界じゃ冒険者になりたくてギルドの門を叩く人は多いようだ。
「それでは後ろの方。冒険者登録の説明をしたいので、よろしければ前に出て来てもらえますか?」
「ほらほら、前に来て!」
ラクスの手招きに誘われるようにカウンターに近づくと、受付嬢のメルティナさんに一度ぺこりと頭を下げた。
「どうもはじめまして……えっと、よろしくお願いします」
「はい。ウィンベルのギルド《エストレヤ》へようこそ。今回は冒険者登録をする為にご来店されたそうで」
「…………」
「あの、どうされました?」
「いえ、前に何処かであったことありますかね?」
「毎日沢山の方を見送ってますが、お客様は初めてかと」
「で、ですよね!」
「ちょっとユキジ! メルティナをナンパしないでよ?」
「わかってるよ。そういうんじゃなくて、ラクスもだけど、前に会ったことある気がしてさぁ」
「えっ、ボクも?」
「ふふふっ。そういうことありますよ。さてさて、王都のギルドより、この街のギルドでの登録を選んで頂きありがとうございます」
「いえいえ!」
初見で変なこと言ったことと、選んだなんて偉そうな立場じゃない俺は、詫びる気持ちを込めて深々と頭を下げた。
「冒険者登録をしていただきますと、あちらに張り出されたクエストを受けることが可能となりますが、このギルドに直接持ち込まれたC級依頼以上のクエストは他国ギルドと情報を共有してますので早い者勝ちの報酬はピンキリで毎日安定収入ではございません。もちろん高難易度クエストほど報酬は良くなりますが、当たり前のようにどのクエストも命の保証が出来ない危険なものとなっており、年間の冒険者の死者数が一番多いのが、あなたがこれからなる《駆け出しの冒険者》だと最初にお伝えしたところで……それでもあなたは冒険者になりたいですか?」
俺を不安にさせないようになのか、作った笑顔で接客する受付嬢のメルティナさん。
きっと彼女は何人もの勇敢な冒険者を迎えては見送り、帰って来なかった人達のことを思い、ここまで真剣に重く聞くのだろう。
だったら……そんな思いをさせないように俺は強い意志をもって男前に答えるしかないじゃないか!
「はい! 俺は困った人を助けるような冒険者になりたいです! 登録をお願いします!」
「かしこまりました。それでは、これからあなたのギルド内でのサポートは私《メルティナ》が担当いたしますので、お亡くなりになるまで何でも聞いて下さいね」
「あはっ、ありがとうございます」
有り難いけど、年間死者数の多い駆け出し冒険者になる俺に的には期間限定のような言葉を頂いた気分だった。
「ところで、お客様?」
「なんですか?」
「冒険者登録するにあたり、手数料を頂きたいのですが、よろしいですか?」
あっ。よくある話。
「えーと、おいくらですか?」
「はい。3000エールになります」
「…………」
そんな金はないっ‼︎ つーか、この世界の金なんて一銭も、1エールも持ってない‼︎ 持ってるわけがないです‼︎ ていうか、1エールは日本円でいくらくらいなの⁉︎ そもそもこの世界では一日どのくらいあれば暮らしていけるのでしょうか⁉︎
わからない! なにもわからない! そんな俺が頼れるのは!
「……ラ、ラクスさ〜ん」
彼女しかいない!
「な、なに? ヘラヘラ気持ち悪いなぁ」
マジ顔で距離をとりながら人を貶すなよ。
「悪いけど、お金を貸してもらえないでしょうか?」
「んもう、そういうこと? 一体いくら足らないの?」
「あ、あの……お恥ずかしながら全額足らないのです」
「こ、怖っ! 無一文で家を飛び出して、冒険者登録しようなんて怖すぎて笑えないよ」
「ごもっともです」
嘘設定だけど、俺がラクスでもそう思うわ。
「俺としても出会ったばかりの人にお金を借りることは最低だと思ってます! だけど、お願いします! 絶対に返すからお金を貸してください!」
すると、俺の真剣な態度とは違い、ラクスは安心させるようにお気楽な顔をして言った。
「ぷふふっ。大丈夫、大丈夫。ボクが貸さなくてもギルドからお金借りて冒険者カードも作れるから〜」
ヘラヘラと笑いながらお気楽に言うラクス。
「……いやいや、待て待て。初対面の名も知らない奴にギルドはそんな簡単にお金を貸してくれるもんなのか?」
「これがまたそんな簡単に貸してくれるんだよ。冒険者登録したら逃げようにも逃げれないしね。ね、メルティナ」
「ですよ」
メルティナさんはお花でも愛でるような笑顔でそう答える。
「へ、へぇ〜……」
冒険者登録したらGPSとか発信機を埋め込まれるのだろうか?
「あの、お金を借りた場合、支払い方法は?」
「クエストの報酬から冒険者様の活動に支障が出ない額を完済まで引かれることになります。お金のない冒険者様は初めて行くクエストの装備を整えるお金も借りれますよ」
な、なんとお得なシステム!
「メルティナさんも人が悪いですよ! そういうシステムがあるなら最初かは説明して下さいよぉ」
「し、しすてむ?」
最初の装備は借金して買って、借りた金は少しずつ返せばいいんだから冒険者スタート楽勝じゃん。
「それで? どおすんのユキジ?」
「もちろん! メルティナさん、冒険者登録の費用をクエスト分割払いでお願いします!」
「ふふっ。かしこまりました」
話を終始聞いて、説明していたメルティナさんは口に笑みを浮かべたまま答えた。
「あと支度金というんですかね? それをお借り出来ると聞いたのですが……可能でしょうか?」
「もちろんです。というところで、そんな無一文なアリムラさんにオススメのお話があります」
「オススメの?」
メルティナさんは笑顔のまま俺に人差し指を立てて説明を始める。
「はい。本来ならば初心者冒険者にお貸しするお金は最大でも10万エールまで……しかし、アリムラさんはついてます!」
「ついてる?」
「はい! 実は現在このギルドで初心者冒険者応援活動として、初めてギルドに登録された冒険者様百人限定で50万エールまでお貸し出来る権利が与えられてまして!」
「初心者限定、しかも百人までにそんなにおいしい話が⁉︎
「そうですそうです! 美味しいお話です!」
「もしかして、その権利が俺にも⁉︎」
「あります、あります!」
早速、異世界特典キタコレー! ローン出来ることが異世界特典なのは嫌だけど、スタート装備と寝床の確保は大丈夫でしょ!
「是非是非、それでよろしくお願いします!」
「ありがとうございます。それではこちらにサインをお願いします」
「はーい」
さっきラクスが受けていたクエスト報酬から考えてかなりの金額を貸してもらえることに浮かれて、お気楽にメルティナさんからの用紙を受け取ろうとした瞬間、ラクスがポツリと言った。
「そういやさぁ、メルティナ」
「なに、ラクス?」
「噂……なのかな? その冒険者応援活動っての? 三か月後までに全額を支払わなかったらギルド側からの強制クエストに連れて行かれて、もう二度と元の暮らしには戻れないってって噂は本当なの?」
「……う、う〜ん? どうだった〜……かな?」
ラクスの何気ない質問にどう答えていいかと悩み笑顔を崩さないメルティナさんが額から汗を流すのを見て急に怖くなった俺は、次の瞬間ラクスに飛びかかった。
「うわああああああああっ! 金貸せ、ラクス!!」
「きゃああああああああっ⁉︎ どこ触ってんのよ!」
どっかの主人公みたいに奴隷生活が真っ平御免な俺は、お金を奪うためにラクスに飛び付いた……までは良かったが、一瞬で返り討ちにされ、この歳までしたことのない土下座を異世界のロリッ子にしてお金を借りた俺を父さんと母さんはどう思うだろうか……。
「ぐすっ……登録料はこれでいいでしょうか? あと冒険者支援金の話はキャンセルで……」
「は、はい。確かに登録料3000エール受け取りました」
「絶対に全額返してよ! 絶対の絶対に逃げないでよ!」
「に、逃げないよ!」
俺もこの歳で女の子からお金を借りパクして犯罪者になるのはごめんだよ。
「そ、それでは、此方の契約書内容を確認してから、こちらと……こちらにサインをお願いします」
「わかりました……って⁉︎」
さっきとは違う紙を差し出されて内容を見たとき、俺は驚きで慌ててラクスに手招きした。
「ラクスさん! 大変ですよ、ラクスさん!!」
「んっ、もう! 今度はなに!」
「コレコレ! この紙に書いてる文字が俺の国の言葉で書いてんだ! 慣れ親しんだ文字のオンパレードなんだよ!」
「耳元でうるさい! 言葉とか文字とか、ずっと昔から世界共通なのは当たり前でしょ! ほら、よくわかんないこと言ってないで、内容読んで早く名前を書きなさいよ!」
「うぇっ⁉︎ ああっと……だよね! そうだよね!」
ラクスは俺の言ってることがわからないだろうが、その紙に書かれた文字は間違いなく漢字、ひらがな、カタカナと見て書いたことのあるものばかり。
例えば《冒険者様にもしものことがあったとしてもギルドは一切の責任をとりません》や《緊急時には街のために戦ってもらうときがあります》などなど、内容がちゃんと読める時点でこれはもう日本語だ。
どういうことだ? 街の風景は中世で、言葉は日本語かと思えば通貨は全然聞いたことがない。
いや、俺が知らないだけで地球の何処かにはあったのかもしれないけど、ここが本当に異世界かと疑わしくもある。
実は近所に最近出来た異世界テーマパークじゃないだろうな?
「──内容わかった?」
「あ……うん。わかった、わかった」
もしこれが普通なら、それを説明しろと言ってもラクスが説明出来るわけもない。これが普通なんだから。
「──書けました」
思考しながら名前を書くと、俺はそれをメルティナさんに渡した。
「え〜っと……これは……アリ……アリムラ……」
「有村雪路です」
「へぇ〜、アリムラユキジと読むんですか。変わったお名前ですね」
「そうですか?」
「あの、どのようにお呼びすれば? アリさんですか? キジさんですか?」
「なんで虫か鳥みたいに呼ぶんですか! そこは有村か雪路で呼んで下さいよ!」
もしかしたらと思ったけど、ここでも日本人名は珍しがられてしまった。
それはつまり、少なくともこのギルドには俺と同じ世界の人間や日本国籍名を持つ人達がいないということだ。
寂しさはないが謎は深まるばかり。日本語が世界共通の割に、漢字ばかりの日本人の名前は珍しい。この世界での日本人は全滅したのだろうか?
「す、すみません! それでは最後に此方のプレートに両方の手の平を五秒ほど力いっぱいグッと押し付けてもらえますか?」
「手の平を……こうですか?」
「そうですね。……はい、もういいですよ」
黒い石版に手の平を良いと言われるまでグッグッと押し付けて手を離すと、そこにはクッキリと指紋が付いていた。
「では、私は冒険者カードを取りに行ってきますが、直ぐに戻るのでこちらで少々お待ちください」
「は、はぁ……」
頭を傾げながら奥に入っていくメルティナさん。
その様子に不安を感じない奴はいない。
「……おい、大丈夫なのか?」
「もしかしてメルティナが手を抜くんじゃないかって思ってる? 冒険者カード作るのはそんな手間かから──」
「違う違う、カードのことなんか気にしてない。俺はメルティナさんが名前を気にしてたから……」
「へっ。名前がダサいから笑いを堪えてただけでしょ」
「人の親がつけてくれた名前に失礼だろうが!」
「お待たせしました、アリムラさん」
「ぷぷぷっ。聞いてよ、メルティナ」
俺の心配してたのがバカみたいに、本当にそんなに待ってない時間で奥からメルティナさんが戻って来くると、待ってましたと言わんばかりにラクスは彼女を手招きして呼んだ。
「んっ、どうしたの? すごく楽しそうだね、ラクス」
「それがね。ユキジたら──」
「言わなくていい! メルティナさん、それで冒険者はカードは出来ましたか?」
「あっ! すいません、業務を忘れるところでした」
メルティナさんはペコペコと何度も頭を下げたあと、俺に一枚のカードを差し出した。
「こちらがアリムラさんの冒険者カードになります」
「へー、これが」
「ほらほら、触ってみて」
「ん? ああっ」
ラクスに言われカードに触れるとカードに文字が浮き上がるように書き込まれていく。
「おおっ⁉︎ どうなってんの、コレ!」
「先ほど取ったアリムラさんの指紋をそちらのカードに登録してまして、アリムラさん本人が触ることでカードが反応してレベルや職業、ステータスなどを一時的な間浮き上がらせ確認することが出来るんです」
「ふへ〜っ」
「今の経験値を知りたいときや、スキルの取得、ギルドでクエストの受注や報酬受け取りのときなどなど触る機会は多いので、全て自動更新となっております」
なんか旧時代なのに数十、数百年先のオーバーテクノロジーを目の当たりにした気分だけど、本人が触ることで初めて反応して一時的に浮き上がらせて個人情報が守られるのと同時にギルド登録者が犯罪を犯したら登録した指紋から足がついたりとかもあるのかな?
「ギルドカードは大事にして下さいよ、アリムラさん! 紛失した場合、再発行は出来ますが初回発行より料金がかなりお高くなりますので!」
「わかりました」
ギルドカードの書き込みが終わったのを見て、再びそれに目を向ける。
大きさは銀行やポイントカードとほぼ同じくらいで材質は金属製ぽい。裏面には現在何も浮き出ていなかったが、表面には現在のランクと職業(無職)と現在のギルドランクと俺のレベル(1)と、パッと見で『あっ、俺って弱いかも……』ってわかる一桁台の低い数字がステータス欄にちゃんと浮き出てあった。
うん、大丈夫。ステータスはレベルが上がれば希望はある。
「……このランクってクエストを受けることが出来るレベル制限のようなものですか?」
「いいえ。そのランクは冒険者さんがどれだけ頑張っているかという功績を記録しているもので、クエストを受注するさいに冒険者様のランクによって受けられないクエストはございません」
「どんなクエストでも?」
「はい。どんな凶悪クエストでも魔王クラスのクエストでも受け放題となっております」
どんな凶悪クエストも無制限。そ、それはそれでどうなんだろう。
「だとしても、冒険者は冒険するのも夢を見るのも自由だけど高難易度には手を出さない方向で頑張ります」
「確かにその通りですね。でも、Sランクだから危険なモンスターが必ず出たり出会うというわけではないんですよ? 実際ちょっと昔、王都の素人冒険者がS級クエストに出かけて魔法鉱石の一つ《ミスリル》の大量採掘に成功して一夜にして大金持ちになって、現在は王都で鉱石採掘の商人として活躍しているなんてお話しもあります」
「マ、マジですか⁉︎」
「レアな薬草や鉱石探しは、運が良ければ凶悪モンスターに出会うことなく採取や採掘できますし、そのような浪漫もあります」
「ギルドの受付が年間死亡者の多い初心者冒険者を危険なクエストと浪漫を勧めるのは如何かと思うのですが⁉︎」
「その通りです。だからこそ今勧めました」
「と、というと?」
「先程話したのは運の良かった一例で、最初からお金に目が眩んだ冒険者は我々としても目をつけておかなくてはいけないので」
「試したと?」
「そういうことです」
「な、なるほど」
「ちなみに俺は?」
「少なくとも『命を粗末にするかたでない方』と答えておきます」
「そ、そうなです! 俺ってそういう子なんです!」
正直な所、金と命を天秤にかける度胸が俺になかっただけなんだけなんですけどね!
「というわけで、メルティナさん。確かにお金も必要なんですが、冒険者として先ずはコツコツと力をつけたいので、安全で超ド素人にオススメな弱々モンスターで経験値がそれなりに貰える、そんなおいしいクエストはないですか?」
「あははっ。お金も大事だけど、先ずは安全に経験値となると……そうですねぇ……近場で初心者でソロの方に向いてるレベルは……無し。お金稼ぎだと……」
メルティナさんは手元のファイルをパラパラとめくって一通り眺めるとガクッと肩を落として言った。
「申し訳ありません。現在、アリムラさんにオススメ出来る初心者向けクエストはないようです」
「ですか。それは残念」
「ああっと! クエストは毎日更新されてますので、本格的にクエストに取り組むのであれば夕方と朝方に来るのをオススメしますよ」
「はい、ありがとうございます」
納得した俺が再びカードを見ると、それを見たメルティナさんが再び説明に入る。
「あとお伝えしなくてはいけないのは……職業のことですね。アリムラさんは現在の職業が《無職》となっておりますが──」
それは現代一般社会的に聞こえが悪い。早く職につきたいものです。
「──無職の方限定で、基本職となるファイター、ウィザード、プリースト、モンク、などの8つのジョブに転職する方のみ、ギルドが全面負担で、今から、いつでもギルドで自由に変更することが出来ます」
「マジで⁉︎ いきなり魔法を使う職業になることも出来るんですか?」
「マジで⁉︎ いきなり魔法を使う職業になることも出来るんですか?」
「えっ⁉︎ ええっと……はい! 基本的な魔法をつかうだけならノービスのままでも大丈夫です」
「そうなんですか!?」
「はい。ただ……人それぞれ向き不向きというか素質みたいなものがやはりあるので、魔法の素質がないのに魔法を覚えたり、ウィザードやプリーストになっても魔法の火力や治癒効果が低くなったり、覚えれる魔法の種類にも影響があります。まぁ、人によってステータスの伸び幅が違いますから当然なんですけどね」
カードで見えるけど、また目に見えないものが表現されたな。威力低くてもいいから覚えるだけは覚えたいなぁ、魔法。
「よろしければ、あそこにある《ジョブクリスタル》で現在のステータスからオススメジョブを探して、これからなる職業の参考になさいますか?」
「じ、じょぶくりすたる?」
メルティナさんの指差す先には、台座に固定されたクリスタルが日陰で霞んだ光を放っていた。
しかし気になるのは──
「もちろん無料ですよ」
「お願いします!」
メルティナさんと一緒に後ろに置かれたクリスタルまで移動すると彼女は説明を始める。
「簡単にこちらのジョブクリスタルのことを説明しますと、その人のレベルと最高レベルになるであろうステータスの伸び幅を予測して、適材職業を調べるものなんです」
「ちょっと昔は職業鑑定士に見てもらわなきゃわからなかったけど、このクリスタルが開発されたおかげで誰でもお手軽に鑑定出来るようになったから便利な世の中になったよね」
「「ねぇ〜」」
っと、ラクスとメルティナさんがハモる。
側から聞くに、便利っちゃ便利だけど、こんな無機物のせいで職業鑑定士も商売上がったりだと思う。
「それで、これはどう使うものなんですか?」
「え〜っと……このように触ると……ですね」
するとクリスタルは淡く輝いて何かの模様が浮き出た。
「……模様が出ます」
「つまりこれが、メルティナさんへのオススメ職業ってこと?」
「そうですね」
「ちなみにこれは何の職業なんです?」
「ランサーですね」
「へぇ〜」
壊れてんじゃ……ないわな。
才能、素質があっても、メルティナさんのように事務職に進む道も素敵だよ。
「大抵はこのように、下級職と呼ばれる基本職の模様が出ます。しかし、ごく稀にいきなり上級職の素質が出た場合に限り、そちらの職業になることが可能となっております」
ああっ、異世界来た人が絶対に通るギルド内でチヤホヤ騒がれるやつね。もちろん、俺もなれるだろう!
「ん〜、こほん。じゃ、じゃあ〜……こうかな?」
メルティナさんがやったように、俺もクリスタルにそっと触れると、一瞬輝いて直ぐに丸い輪だけが現れた。
「うーん……」
こっちの言葉や文字は元の世界と同じものだからすぐに理解出来たが、何の飾り気もないただの丸を見ただけで、それが何の職業かわかるわけもなく、これは素直にメルティナさんに聞くしかない。
「なんなんですかね、コレは?」
「えーっと……これは……なんでしたかね?」
それを見て困ったように頭を捻る、メルティナさん。
も、もしや このあまり見たことないパターンは、物凄い職業なのでは⁉︎
ごめんなさい、やっぱり来ちゃいました! 有村雪路、転移者(仮)特典で超凄いアレな力を見せつけ──
「どれどれ⁉︎ そんな珍しい神職業だったの〜って……へっ。《ノービス》じゃん。ぶふっ!」
などと感激していた俺とメルティナさんを避けてジョブクリスタルを覗きに来たラクスが大袈裟に吹き出して笑う。
「ちょちょ、ちょっと待って下さい! ラクスがめっちゃ笑うくらいだから嫌な予感がするけど、これってあんまり見ない超凄いレアな職業なんですよね、メルティナさん⁉︎」
「え〜っと……ノービスの意味は《見習い》でして……最近どころか世界でもほとんど見ることがない、レアと言えばレア中のレアな職業……ですね」
優しく言ってくれてるけど、遠回しに『凄く残念なジョブですよ』感がひしひしと伝わる。
ええっ、本当はわかってましたよ! ノービスと言われた時点でロープレとかしてたからピンと来てました! ノービスっが最弱基本職って、すぐにわかってましたよ!
けども 、世界でもほとんど見ない現れない基本職が俺へのおススメとはどういう嫌がらせですかね!
「と、ということはですよ⁉︎ もしもオススメされてるノービス以外の基本職に就くと、俺は一体どうなるんですか⁉︎」
「え〜……大変申し上げにくいのですが、アリムラさんが思ってた力や才能が目覚めることはないかと……すいません! 私がジョブクリスタルを勧めなければ……」
「き、気にしないで下さい! いつかわかったことですよ! それに努力次第で最強になるかもしれないし!」
「ないない。下級職以下だからね。最弱だからね」
「「…………」」
こいつの言葉は土足で俺の心を踏みつけるな。
「お前もちょっとは気を使え……」
……ちょっと待て。
「……ラクスさ〜ん」
「な、なによ。つくづく気持ち悪いなぁ」
それは言い過ぎだろ。
「いや、なんですかね! ラクスさんもギルド登録してクエストを頑張ってるんですよね?」
「ん〜っ……まぁ……ね。ぼちぼち活動してるよ」
なんだハッキリしない。
「そうなんですか、凄い偶然!」
「どんな偶然?」
「いやいや、さっきから僕の職業を小馬鹿にしていたので、ラクスさんはさぞかしご立派な職業なんだろうなと思いまして! よかったら教えてくれます?」
軽い挑発。このロリッ子がそんなに凄い職業なわけ──
「ボクの職業は《バトルカイザー》だよ」
「おおぅ⁉︎」
やだ。なにその厨二心を揺さぶるカッコいい名前の職業。
「メルティナさん! ラクスのバトルカイザーってなんなんですか⁉︎ 強いんですか⁉︎」
「えっと〜……はい、かなり……」
マジですか。
「全ての職業をマスターしても生まれ持った才能ある者にしかなれない究極職の一つで──」
上級職の更に上があったのかよ! しかも選ばれた者とか超カッコいいじゃねぇか!
「剣術と武術、更にちょっとした魔法の才能があり、なんでもやれば出来るような、というより出来ちゃうクラスでして──」
やべっ。俺のなりたい理想の職業第一位じゃん。
「レベル1でも筋力や魔力、全てのステータスが上級職の極めた人達と同じくらい高いというのが《バトルカイザー》という現時点でラクス一人しかいない職業なんです」
なにそのチート職業。しかもコイツ一人? めっちゃレアで目立つじゃん! いいなぁ。
「そういうわけだよ、どやっ! 因みに武術特化型です!」
「へ〜……」
トークでムカついたからって襲わなくて正解だったな。ていうか、武術特化型ならそれはもうモンクだろ!!
「凹む……聞くんじゃなかった」
「ですが、バトルカイザーにも弱点がありまして、戦闘力は高いのですが──」
「メルティナ!」
説明を続けるメルティナさんの口を塞ぐと、ラクスは言うなと言わんばかりに首を横に振ると、それを理解したメルティナさんが首を縦に振り、ラクスは抑えてい口から手を退けた。
んだよ、さっきまで鼻高々に自慢してたくせに。
「ぷはっ! と、とにかく凄い職業ってことですね。とてつもなく経験値がいりますが、ユキジさんもノービスや他の職業を極めて才能の芽が出ればバトルカイザーになれますよ!」
ラクスが押さえつける手を振りほどいてメルティナさんが言うその言葉に、すごく気を使わせているのがわかる。
なんていい人なんだ、メルティナさん。
「ユキジ、落ち込んじゃダメだよ。ボクがそれだけすごい人間ってことなんだから! ほら、やっぱ生まれながらの才能というか天才っているじゃない? 仕方ないよね! どんまい!」
隣の自慢と小馬鹿にしてくる以外は脳のないバトルバカに、彼女の爪の垢を飲ませてやりたい!
「コラッ。また調子に乗りすぎ。あなたもレベル1でしょうが」
「あうっ⁉︎ ……ご、ごめん」
嬉しそうに笑うラクスの頭をメルティナさんが軽く拳骨。ざまぁみろ。
「基本職のレベル9じゃないんだから、その辺のドラゴン一匹倒してもレベルは上がらないし、究極職のレベル9なんておばあちゃんになってもなれないかもしれないんだよ?」
「ボクはいつまで冒険者として現役で働かなきゃいけないの⁉︎」
「それくらい道は険しいってことを言ってるの!」
「わいてっ⁉︎」
でもまぁ、レベル1でも上級職のレベル9と同等なんだから威張りたくもなる気持ちはわかるわ。
しかしなるほど。この世界ではレベル9が職ごとのレベルマックスのようだ。そんで、ステータスとレベルは関係があるようでないやつで、俺の予想ではレベルごとにステータスの上限値が決まってて、何かしらの経験を得ることで次のレベルに上がる感じなんだろう。知らんけど。
「……そうだ! ラクス、あなたアリムラさんとパーティを組んでみたらどうかしら!」
「うぇっ⁉︎ ユキジとパーティ⁉︎」
ラクスは露骨に嫌そうな顔を此方に向けた。そりゃ俺は弱いけど、そんな嫌な顔されたら傷つくわ。
「嫌そうな顔したって、あなただって一人でしょ! あなた、ふかふかベットとお腹いっぱい毎日ご飯食べることが夢なんでしょ?」
「まぁ……ね」
なんと小さな夢かな、この究極職は。
「だったらよ。その夢を叶えたいなら、毎日採取クエストじゃギルドランクは上がってもレベルは上がらないし、その日の食事と宿代ギリギリの報酬で、この先の冒険者生活を一人で生き抜いていくなんて戦闘狂の限られた狂戦士以外はほぼ無理よ。あなたすぐ《しょぼん》ってなるのに」
「ちょ、やめて! ボクのイメージが!」
「ラクス。背中を預ける共に支え合う仲間は必要だよ? 強がり言ってても寂しくなるとき、辛いときに仲間の存在がすごく頼もしくなるから、何よりもきっとね」
「うっ……」
まぁ、ソロには限界あるよな。うん。
良いこと言うなぁ、メルティナさん。
「で、でもさ……ボクは……」
「大丈夫! アリムラさんはなんか…………」
そこで俺をジッと見て頷くメルティナさん。
「うん! なんか違うよ!」
なんかとはなんですか! なんかとはっ!
「そ、そうかもだけど……」
その言葉にも、どうも後押しされずハッキリしないラクスを見てメルティナさんは大きなため息をつくと、再び俺を見て言った。
「アリムラさんはどうですか⁉︎ この子、人の3倍口も性格も悪いですけど、これ以上に強いオススメジョブもないですよ! どうします⁉︎ 実はいい子ですよ!」
「ちょっと、メルティナ! やめて!」
な、なんか売れ残りを叩き売りしてるみたい。
「な、なんかゴタゴタしてますけど、俺はここまで連れて来てくれたラクスがパーティを組んでくれるなら、こんなに嬉しいことはないんですけど……」
可愛いは正義だし。正直なところ、冒険初心者のノービスの俺には究極職の味方は心強い。
「えっ⁉︎ ボクでいいの⁉︎」
なんで驚く、ラクス?
「そうと決まれば話が早いですね! お二人が正式にパーティを組むかは置いといて、二人でお手軽に倒せるモンスターの討伐に行かれてはどうでしょう?」
「う、う〜ん……大丈夫かな、ボク?」
何故に初心者の俺より戦闘力ある自分の心配を?
「大丈夫よ! ほら、クエストボード見てきなさい」
「……わかった。行こう、ユキジ」
「お、おう」
気乗りのしないラクスについて行き、クエストボードの前に立つと貼られたクエスト用紙を一つ一つ見ていく。
ファイアドラゴンにキマイラ。デーモンロードにブレストオーガにサンダーライガー、タイタンにソウルイーター、そしてフェンリルかぁ〜……って、なんなんだこの種族ごとに明らかに強そうな名前の数々は⁉︎
「……なぁ、ラクス」
「んへ? なに?」
「ウィンベル近郊には弱いモンスターはいないのですか?」
「バカッ。ユキジが見てるのは高難易度クエストコーナーだよ! 駆け出し冒険者はこっちこっち!」
「おっと。こりゃ失礼」
ラクスに手招きされたクエストボードを見ると、そこでは聞き慣れたモンスターの名前がチラホラ。
「ランクFゴブリン退治。森で繁殖したゴブリンを退治してもらいたい。現在確認されているゴブリン数は二十匹。報酬は二十万エールか……」
ゴブリン一匹一万計算。やはりモンスター討伐は採取クエストよりかなりの高額報酬となっているらしい。ラクスがこなした先程の採取クエストの約十倍だ。
だとすれば冒険者支援活動金はそれほど法外でもなく、パーティ人数でだいたい四、五人だと計算しても……三か月で返せなくはない金額みたいだ。このギルドのたたずまいから予想出来ない良心的さに驚きです。
っと、そんなことより。
「なあなあ、これにしない?」
「それはやめたほうがいいと思う。たった2人でゴブリンの群れを相手にするのは本当に危険だよ」
うん、究極職のコイツにそう言われると本当に危ないんだろうな。
「んじゃ、こっちのスライム退治なんてどうだ?」
「スライムは剣とか物理攻撃の類いはほとんど効かないよ。魔法効果を武器や拳に付与させるなら話は別だろうけど……」
「ラクスはちょっとした魔法が使えるんだろ?」
「えっと〜……実はそっちの練習はあんまりしてなくて、こんな焚火が出来るくらいの火種しか出せないんだよ、ボク」
「おおっ……」
そう言ったラクスの指先にはライターでつけたくらいの火がゆらり。……うん、あったかい。
「しかしなぁ、どんな攻撃に弱かろうが強かろうがこれがゲームだったらゴリ押しでもなんとかなるのに、現実は厳しいな」
「げーむ?」
「ああっと、こっちの話。にしてもどうする。低ランクから攻略法とか属性とか相性考えてたらきりがないぞ? しかも俺の今の装備といえば、この木刀だし……」
「──待って待って! いいのがあった!」
ラクスは一枚のクエストを剥ぎ取って俺に突き付けた。
「クエストランクFのメルメー退治! こいつは属性も関係ないし、ボクとユキジでも撲殺でいけそう!」
「め、めるめー?」
なんだその生き物は? しかも撲殺とな?
仕事の都合上、次回は二日後完成を予定しております。