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あるギルドの調査報告~元ギルドメンバー失踪事件~

作者: 香坂 悟

「もう一週間も経つのか・・・」


あの事件から一週間が経つ。

私の名前はライル=エイミング。ギルド「白銀の盾」のギルドマスターをしている。

今日は王国のギルド本部から来る調査員にあの事件の話をする事になっている。


外は小ぶりの雨。彼の死を悼んでいるのだろうか・・・


ドアがノックされた


「どうぞ。」


入ってきたのは受付のエイミーだ。


「失礼します。ギルド本部のサクラ様が到着しました。」

「ありがとう。この部屋に通してもらえるかな。」

「はい。」


エイミーの案内でサクラが入ってくる。

ピンク色で腰まで伸ばした長髪とギルド本部の衣裳に身を包んだ女性だった。


「はじめまして、私の名前はライル=エイミング。ギルド『白銀の盾』でギルドマスターをしています。」

「こちらこそ。私はギルド本部で事件の調査を担当しているサクラと申します。本日は調査にご協力いただきありがとうございます。」


ライルとサクラは挨拶と握手をする。

サクラにソファにかけてもらい、資料を手渡した。


「一ケ月前、ニックはテイマーとしてこのギルドで働いていました。優秀ではありましたが、素行不良の為に謹慎からギルド追放の流れになりました・・・。」


(1ケ月前、ギルドマスターの部屋)~~~


「マスター、どうして俺に例のヨルムンガンドの調査をさせないのですか。」


ライルに話しかけている金髪のオールバックがニックだ。

最近西にある山から“特殊な”ヨルムンガンドの目撃報告が来ている。

ギルドに調査依頼が来ているが、ライルはニックにその依頼を回さなかった。


「ヨルムンガンドは毒のワーム。いくらお前が優秀でも使役する動物に負担がかかる。」

「動物ならいくらでも替えは効くじゃないですか。」

「そうか、なら今のお前には任せられないな。先月の任務でどれだけの動物が死んだと思っている。」


ニックには動物を強制的に使役する力があり、どんな命令でも可能な限りやろうとする。

その為、好戦的なニックに合わせて動物が動き・・・結果として任務の度に動物は力尽きてしまう。


「くそっ、もっと強い動物がいれば・・・」

「そういう問題ではない。お前はテイマーとしての仕事を理解するまで謹慎処分にする。」



(その日の夜、街の酒場)


「よう、ニック。謹慎処分なんだってな、やっぱテイマーはギルドのお荷物なのか?ははは・・・」


酔っぱらった常連客がニックに絡む。


「俺はお荷物じゃねぇっ!!」


怒ったニックは常連客を殴り飛ばし・・・

そして、店を巻き込んでの大喧嘩に発展する。


(次の日の昼、ギルドマスターの部屋)


ライルは昨夜の大喧嘩の件についてニックを追及する。


「ニック、今日呼び出した理由だが・・・」

「マスターもテイマーはお荷物だと思っているんだろうっ!!」


大喧嘩からさめきっていないニックはライルに食って掛かる。


「少なくともお前以外のテイマーには後方支援を任せているが。」


今回は調査任務なので動物の協力による斥候能力の補助など他のテイマーにはきちんと仕事を回している。


「嘘をつけっ!!そんな綺麗事なんて信じられるかよっ!」


ニックの右拳を振り上げるが、ライルは左手で軽く受け止める。


「・・・ニック、残念だがお前をギルドから追放する。」


そのままニックの腕の関節をきめて、ギルドの入り口まで持っていくとニックを外へ突き飛ばした。


~~~


「・・・これが彼、ニックをギルドから追放した流れになります。」

「そうですか、その話を聞いた後だとライルさんに話を聞くのも悪い気がしますね。」

「いいえ。ニックもギルド離脱後にパーティーは作っていましたが、あの事件から全員失踪していますので私が適任でしょう。」


サクラは次の資料に目を通す。


「ニックさんの件は分かりました。次に“特殊な”ヨルムンガンドの件ですね。」

「はい。ヨルムンガンドは本来は巨大なワーム型のモンスターで毒を操る能力を持った危険な魔物です。ところが、調べていくと報告にあったヨルムンガンドは光を放つのです。」

「光を放つ?」

「えぇ。危険と判断されるものや狩りでは光線を使い獲物を仕留める。そのような姿が目撃されていたのです。私たちは“特殊個体”または“光放つヨルムンガンド”と呼んでいました。」


この中央大陸で“通常個体”はそれほど珍しいモンスターではない。その多くは瀕死で体がちぎれた状態で発見されている。瀕死ではあるが毒持ちで地中からの攻撃を得意とする為、毒対策などの準備は必要になる。

特殊個体については情報はないが、情報提供から弱っている様子はなく体の欠損等は無いと思われる。


「当初は打つ手がないと思われていたのですが・・・エイミーいる?」


ライルは部屋の外で待機しているだろうエイミーを呼んだ。


「はい。どうしましたか、マスター?」

「サクラさんに例の話をしてほしいんだけど、いいかな?」

「はい。」


エイミーはライルの隣のソファに腰を掛けた。


「あらためまして、受付を担当しているエイミーと言います。」

「ご丁寧にありがとうございます。」


3人がソファにかけた所でライルが口を開く。


「特殊個体の他の大陸での生態情報が手に入ったんです。エイミーは北の大陸出身で彼女がいた所では特殊個体の生態情報があり、それにまつわる伝承もあったのです。じゃあ、エイミー頼んだよ。」


エイミーはうなずくとサクラに伝承の話をする。


「『光放つ蟲を追うべからず、不運ならば星を見つめる瞳に光の奔流へと連れ去られる』・・・これが北の大陸に伝わる伝承です。北の大陸の歴史で不自然に消えた街も数か所あるので、伝承については大事にされてきました。私のいた北の大陸では光を放つヨルムンガンドを見たら、まず“逃げろ”と言われています。普段は襲ってこないのです。それでも、追いかけて来る様なら討伐をするというのが決まりでした。」


光放つ蟲は特殊個体だと推測ができる。

星を見つめる瞳と光の奔流は分からないけど、不吉なものである事は間違いないだろう。


「私たちはエイミーの情報から特殊個体の特性を推測し、遭遇してもまず距離を取る事を徹底しました。そして通常個体との戦闘も起こる可能性もあった為、討伐班と調査班に分けて行動しました。」


サクラは話の中で必要な個所を資料内に書き留めていく。


「そして、あの事件が起こりました・・・。」


(1週間前、西の山)~~~


討伐班と調査班に分けて、ライルは討伐班の先頭に立つ。


「これより調査に入ります。事前の打ち合わせ通り皆は行動してほしい。」


道中に色々モンスターと戦闘があり、メンバーが疲弊してきた頃に


「ヨルムンガンドの通常個体が出たぞっ!!」


と斥候から報告が来た。毒の攻撃に注意しながら、戦闘をする。

しかし、ヨルムンガンドの力はすさまじく死者は出なかったが撤退せざるを得ない状況だった。


「くっ、ここまでか。」


ライルは撤退を考える。



・・・そんなピンチの中でやってきたのがニックだった。


獣人族の中でも強力な神狼族と神猫族の女性戦士2人連れていた。

ギルド追放後に使役したと思われる。

メイド服なのは彼の趣味だろう・・・


「マスター・・・いや、ライルさん。そんな敵に苦戦しているんですか?やれやれ・・・ポッチ、やれ。」

「御意」


神狼族の女戦士(ポッチ)は体にかけられる毒を無視して攻撃する。ヨルムンガンドの右側面?を殴ると水風船が割れる様な音がして、その体は吹き飛んでいた。


「ニック、彼女に毒消しを使ってやるんだ。」


ポッチは毒に蝕まれていて、体が紫に変色している・・・

ライルはバッグから毒消しを取り出し、ニックに渡そうとするが受け取らなかった。


「そんなものは必要ありませんよ。ターマ、解毒魔法を。」


神猫族の女戦士(ターマ)は解毒魔法をポッチにかけると、みるみると毒が消えていった。

ポッチが攻撃、ターマが補助の役割を果たしているのだろう。


「おやおや、ライルさん。皆さん満身創痍の様ですが?ターマ、回復魔法をかけるんだ。」


回復魔法が全体を包む。


「ありがとうニック、助かったよ。」

「あれ~ライルさん。調査が進んでいないようですが?」

「まぁね・・・」


ニックがライルに絡む。指摘通りではあるので特にライルは反論しなかった。


「今からでもギルドに戻りましょうか?」


戦闘を見る限り、仲間を大事にしている様子でもないし、追放理由を分かっていないからギルドに戻す必要はない。

ライルは静かにニックを見ている。


「・・・。」

「ご主人様、今はご主人様がギルドマスターじゃないですか。」

「なんだポッチ?あ、俺って今はギルドマスターだったな。はっはっは・・・あ、そうだ。」


ニックはなれなれしくライルの肩に腕を回す。


「白銀の盾が俺の傘下に入ればいいじゃないですか。俺、ナイスアイデア!!」

「ご主人様、流石です。」

「ご主人様、頭いい~。」

「ポッチ、ターマ。そんなに俺を褒めるなよ~♪」


ゲラゲラと笑うニック・・・


「白銀の盾は私だけのギルドじゃない、みんなの居場所だ。こんな場所でホイホイ決めるべきではない。」


ライルは淡々と答えた。


「ちぇっ・・・まぁ、いいや。手伝ってあげますからさっさと調査してしまいましょうよ。」


まだ、特殊個体が出ていないのが気になる・・・

ライルは討伐班、調査班に連絡する。


「まだ特殊個体に遭遇していない。皆、油断はしないでくれ。」

「ライルさん、何ですか?特殊個体って。」

「あぁ、以前に話が出ていた特殊なヨルムンガンドの事だ。光線を撃ってくる特殊な奴で作戦上は私たちはそいつに遭遇したらまず距離をとる、ニックも安全を配慮して距離を・・・」


ライルが話し切る前にニックが口を挟む。


「はぁ?俺が何で逃げなきゃいけないんです?そんな奴俺が倒してやりますよ。」


ニックは余裕そうに腕を組んでいるが、さっきの戦闘で気になった点があったライルは質問する。


「さっきの戦闘にはニックは参加していなかったが大丈夫なのか?」

「舐めているんですかね?俺、使役している動物の力を使ったりする事が出来るんですよ。最強と名高い戦闘の神狼族と魔法の神猫族を使役しているので、俺は最強ですよ。」

「そうか・・・まぁ、守ってやれよ。」


山を進み、小さな祠が見える広場についた。

少し休憩が取れそうなのでライルは休憩をみんなに伝える。


「ライルさん、休憩ですか?俺はまだまだいけますけど?」

「あぁ、ここから奥はまともに休憩取れそうにないから今のうちにな。」



少し休憩をした後、更に進む・・・


そして、奴がいた・・・特殊個体の光を放つヨルムンガンド。

幸いこちらには気づいておらず、光線を使ってモンスターを狩っている。


作戦通りにまずライル達は距離を取る。


しかし、ニックは交戦しようとしていた。


「お前が特殊個体か。俺が狩ってやるよ。」

「ニック、やめろっ!すぐに逃げるんだっ!!」


ライルの声も空しく・・・ニック達と特殊個体との戦闘が始まる・・・


“ヨルムンガンドと呼ばれている生物がいた。”


光線はターマを貫く・・・

相手は既にニックのパーティーの弱点を見抜いていた。


「ご主人様・・・カハッ!・・・」


ターマは力なく倒れる。


“しかし、後世の文献にてとある生物の体の一部である事が判明する”


「回復魔法だっ!!・・・な、何故使えない。」


ニックはターマに回復魔法を使おうとするが発動しない。

ターマが死んだ事で使役が解除されるから、当然魔法は使えなくなる。


“その生物は全ての生命の上に君臨するが無益な殺生をする事はなかった”


「クソッ・・・ポッチ、奴を叩くぞ!」

「はい、ご主人様。」


二人はヨルムンガンドに突っ込む・・・


“巨大な瞳は全ての星空を捉え、牙を向けるものを容赦なく光の奔流へと消し去る”


「何だ、奴の付け根に・・・巨大な・・・目・・・?」


その瞬間、二人は瞳から放たれる巨大な光線により蒸発した・・・


“生物の名は『スターゲイザー』(星を見つめるもの)といった(文献「伝説の魔物辞典」より)”



逃げるライル達の背中を照らす輝き・・・

次の瞬間に衝撃波となりライル達を吹き飛ばした。


怪我人にこそ出たが、何とかギルドメンバー全員助かっていた。


~~~


「・・・以上が事件の流れです。特殊個体から逃げている内に全てが終わっていました。あれから3日後、現場にいきましたが、えぐれた大地しかありませんでした。」

「一体なんだったのでしょうか・・・ニックさん見つかればいいですね。」

「えぇ。」


調査中に起こった元ギルドメンバーの失踪。

真相は全て闇の中だ・・・


「この資料はギルド本部にて丁重に保管いたします。ライルさん、ご協力ありがとうございました。」


エイミーにサクラの見送りを任せて、ライルは一人コーヒーを飲む。


「ニック・・・私はお前とは和解したかったんだがな・・・」


独り言が寂しく部屋に響く。


(完)

最後まで見ていただきありがとうございます。

「小説家になろう」でこんな話を書く事になるとは思わなくて、とても面白かったです。

テーマは「追放にも理由がある。」ですね。

追放モノって作品によっては追放側を擁護したくなる事もありますし難しいですね。


時系列処理が難しくて、分かりにくくなっていたらすみません。

1ケ月前のニック追放部分と1週間前の事件部分の2ヶ所回想部分があります。


きっかけはとあるYOUTUBEチャンネルで「追放する側」の主人公の話を書くというものでした。


設定の補強ですが・・・

“光放つヨルムンガンド”の本体のモデルは“名前を言ってはいけない魔物”です。

生命力が非常に高く、触手部分がちぎれても少しの間は触手のみで行動できます。

触手での捕食を行いますが、本体と繋がっていない為に毒素が分解できず毒を使った攻撃をする事は生存本能だったりします。

通常のヨルムンガンドの方が特殊個体という設定ですね。

書いていてモ〇スターハ〇ターの世界観って本当に素晴らしいんだなぁと改めて思いました。


ニックについてですが・・・

なろう系レビュー動画を聞きながら話を作っていたので、何か似た様な能力があるかもしれませんが他意は全くありません。

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