ハーレムなんて言ってすいません……俺が悪かったです
「……何でだよ」
俺、天野 貴斗は、手元にある手紙をみて、ため息をつく。
ファンシーな便箋にかかれた女子からの呼び出し、しかも、生まれて初めての。
勿論、嬉しい、嬉しいのだが……
「今日の放課後に校舎裏……奇跡かな?」
普段なら喜ぶ、だが……
「トリプルの上……クアドラプルでいいんだっけ?」
そう、手元にある手紙は4枚……しかも、全部今日の放課後、校舎裏に来いと記載されている。
クアドラプルブッキングだ!……何通か罰ゲームとかイタズラであるといいな……
いや、いっそ、全部がイタズラで誰が選ばれるかの賭けかなんかだろう……
イジメじゃん……
★
校舎裏に近付くと何やら話し声が聞こえる。どうやら待ちぼうけ系のイタズラではないようだ。
最低二人は居るみたいだし……イタズラの打ち合わせの可能性もあるが……
「あの……皆さんはこちらになにかご用が?」
「……ちょっと大切な用事がね、桜木さんこそ、こんなところでどうしたの?」
「えっ、御神楽先輩、私の名前をご存知でしたか?」
「あら、貴女こそ私の名前を知っているじゃない?」
「生徒会長は有名ですから……」
「桜木さんも十分に有名人よ、で、貴女は?」
「私も用事がありまして、お二人は?」
「私はただの待ち合わせなので、待ち人が来たらお暇します」
「あ、私も私も、待ち合わせなのでお構い無くー」
「奇遇ね私も人を待っているの」
「皆さんもですか、私も待ち人に用事があるんです」
「あはは、それは本当にすごい偶然ね」
「ふふ、これも何かのご縁なのかもしれませんね」
「だね!」
「そうですね」
4人いるのかよ!?
いや、声だけしか聞こえないけど、なんか和気藹々なんですけど……
まあ、待ち人俺だけって決まった訳じゃないし……
ここからじゃ、誰がいるかもわからないがもう、行かないわけにもいかないよな。
★
「おす、お待たせしました」
とりあえず、勢いを着けて登場してみる。というか勢いがないと無理。
「いえ、こちらこそ急に呼び出してごめんなさい」
最初に反応したのは、うちの学校の生徒会長、御神楽 涼音先輩。
艶やかな黒髪を腰まで伸ばした正統派美人で、成績は全国模試1桁常連、運動神経も良く、まさに才色兼備、生徒は勿論、教師からの信頼も厚い。
「来て頂いただけでも嬉しいです」
ほぼ、同時に掛けられたこの声はクラスメートの桜木 マリアーナ 穂花さん。
愛称はマリア、プラチナブロンドと蒼い眼のイタリア人ハーフで、人当たりも良く、彼女の所属する園芸部に男子が殺到し、現在は女子以外ほぼ立ち入れない状態になっている。
「やほー、じゃあ移動しよっか」
軽い感じで声を掛けてくるのは、同じくクラスメートの七瀬 亜果利さん。
明るい茶髪の気さくな【THE・ギャル】であり、クラスカーストの最上位であり、なんかの雑誌の専属読者モデル?って言うんだっけ?をしてるらしい。
「先輩、お待ちしておりました」
静かに、しかし通る声で俺を先輩と呼ぶのは、1年の氷室 佳澄さん。
金髪のクールな美少女であり、どこかの会社の社長令嬢だとか、今年の首席入学生で新入生挨拶では物凄く周りがざわついた記憶がある。
「ん?」
「え?」
「あれ?」
「……」
四者四様に怪訝な表情をする。ちょっと不穏な空気である。
「あー、せめて差出人の名前は書いて欲しかったかな?」
内心ビクつきながら、4枚の便箋を取り出してみせる。
「「「「あ」」」」
気の抜けたような声がハモった。
素で驚いてるようなので合同ドッキリではないようだ。
「因みに、下駄箱、机の中、ロッカー、鞄以外にいれた人いる?人違いも受け付ける」
無いとは思うが、4人もブッキングしている以上、確認しておいて損はない。
「下駄箱は私ね」
「机の中に入れました」
「私は鞄」
「……ロッカーです」
……間違い無いらしい。
★
「で、個別に話し聞くべき?すぐに用件伝えてくれる人はいますか?」
気を取り直して4人をみる。
「……」
何やら思案顔の御神楽先輩
「ど、どうしましょう……」
困惑が隠せない桜木さん
「なにこれ?こんなことある?せっかく……」
ぶつぶつ言ってる七瀬さん
「……」
氷室さんは解らん
「じゃあ、LEIN教えるから、ここは一旦お開きにしてまた後日に……」
「先輩、好きです、私と付き合って下さい」
「個別に…………は?」
一旦、仕切り直そうとした時に氷室さんが爆弾を落としてきた。良くみると耳が赤い。
「なっ!?」
「っ!?」
「ちょっと!?」
他の3人が狼狽えるがこちらもそれどころではない。
「氷室さん?えーと……」
なにか言わないと……不味い、なんも出てこない。
「ま、まって!わ、私も好きだ!!」
「私も!私も好き!!」
「え?え?」
御神楽先輩と七瀬さんが続いて爆弾投下、告白の連鎖爆発や!(現実逃避)
「……その、私も貴方をお慕いしています」
最後に、顔を真っ赤にしつつも真剣に告白してくれた桜木さん。
わーい、4人コンプだぁ!……どうしよう?
「氷室さんにはしてやられてわね……」
「会長も、似たようなものでしょ私なんて便乗気味になったし」
「……桜木先輩にインパクト持っていかれた気がします」
「え?その……すみません」
仲良いね、こっちは頭グルグルだよ?
「で、誰を選ぶの?」
しっかりと俺を見つめて問いかけてくる御神楽先輩
「っ!?」
少し申し訳なさげに息をのみつつ、こちらを見つめてくる桜木さん
「あはは、緊張するなぁ」
力なく笑いながらも眼を反らさない七瀬さん
「……」
緊張しながら静かに、俺から目を離さない氷室さん
え?これ今答えるの?宿題じゃダメ?
「えーと……」
そうだ、思い切りふざけよう、一旦、仕切り直しになれば助かるし、愛想つかされてもしかたない。
と言うか、この状況がワケわからん。
「俺はハーレムを作る!!」
腕を広げて思い切り馬鹿なことを叫ぶ。
「……」
「……」
「……」
「……」
平手打ちやグーパンの4発や8発くらい受けてやるつもりだ!!
★
「助けて、叶えもん」
翌日の朝、まだ人がいない時間に登校していた、幼馴染みの仲澤 叶に泣き付いた。
「どうしたの貴斗?急に」
「実は昨日な……」
第一声がアレにも関わらず、真面目に返してくれた叶に昨日の出来事を話す。
「ふーん」
叶の声のトーンが下がる、目も心なしか冷たい。
「ハーレムとか言っちゃったんだ……でそのかわいそうな娘達は?」
「……それがさ」
~~
「なら、年上の私が先に大学卒業して働かないとね」
「はい?」
最初に、広げた腕のなかに抱き付いてきたのは御神楽先輩だった。
「みんなで、お泊まりできる部屋用意できます」
末恐ろしいことを言いながら続いたのは、氷室さん。
「ちょっ!?私だってモデルで稼いでる分だせるし!?」
もう、何を言ってるかわからない七瀬さんが飛び付いてくる。
「では身の回りのお世話は私が、末永くお願いします」
最後に完全に逃げ道を塞いできた桜木さん。
俺が言うのもなんだけど、みんな後には引けないなって感じでテンションおかしくなってない?
~~
「ということになって……」
「……」
叶えもんの目が絶対零度になってるよお……
「で?」
「はい」
「私に何をしろと?」
「ヘイト管理の手伝いを……ごふっ!?」
言いきる前にリバーブローを食らう。昨日覚悟してたものを今貰うとは……
「なに頭おかしいこと言ってるの?違うでしょ?」
「ですよね」
叶がまともで良かった。
「……今から私が言うことを復唱しなさい」
「はい?」
急な要求に間抜けなこえがでる。
「いいから」
「はい!」
冷たい視線とドスの効いた声に思わず返事をしてしまった。
「叶も」
「叶も」
「俺のハーレムに」
「俺のハーレムに」
「入れよ」
「入れよ……え?え?」
「喜んで」
俺が、狼狽えている隙にここ最近一番の笑顔で抱き付いてくる叶えもん。
マジか……
どうしてこうなった?
★
昼休みに5人が顔を合わせ、一晩置いてもおかしいことにツッコミも入らず、叶も特に揉めることなく意気投合しながら昼食とると言う奇跡も起きた。
「ふむ」
「どうしたの?」
ふと、下らないことが頭をよぎったところを叶が目敏く問い掛けてくる。
「いやさ」
言い訳をさせて貰えばこの時俺はもう、ハーレム成立とか言う非現実で頭がおかしくなっていたのだ。
だから、あんなことになるとは思ってもみなかったのだ……
「俺、童貞なんだけど誰からとか揉めないためにも、一回お店で済ませた方がいい?」
「「「「「は?」」」」」
「ひぃ」
空気が凍り、全員顔から表情が消えて、思わず声が出た。
その後、放課後拉致されて、翌日6人揃って学校を休むことになりました。
ハーレムなんて言ってすいません……俺が悪かったです
色々あって、久しぶりに書こうとしたら凄い難産でした