魔動列車にて ー捜索②ー
「あれ?戻るのですか?」
「はい、ここより少し前に客車じゃない場所があったと思いますが、そこが作業場となります。」
そういえばなんか入れない場所があったな、
そこは通ったけど特に人の気配は感じなかった・・・もしかしてもう死んでる?
そう思っていたらガウルさんから補足が入った。
「この魔動列車は多くの人の技術や知識はもちろん多くの財も投じられています。その極めて貴重な魔動列車を扱う技術者も当然重要視されています。その為作業所は特殊かつ貴重な素材をふんだんに使っているのですよ。単純に頑丈であるということだけじゃなくて、中に人がいるか気配を探らせないようにもしていると聞きます。熟練の戦士や強力な魔物は敵を目で視認する前に気配を察知するためですね」
なるほど、そういうものなのか
ということは気配を感じられなかった私が未熟というだけか
誰かが気配探りを想定して作ったものを私が超えられなかったということ・・・ちょっと悔しいな
「さあ着きました。申し訳ありませんが、入るにはちょっとした仕掛けがあるので少しの間後ろを向いてもらってもいいですか?ローレルさんを信用していないということではないのですが、規則なもので本当に申し訳ないのですが」
「大事な場所を守るためにできた規則を守るためです。謝る必要はありませんよ。終わったら呼んでください。」
そう言ってちょっとだけ距離を離して後ろを向く
ついでに悔しかったのでちょっと本気で気配を探ってみるとうっすら人の気配のようなものが感じられた。
大分集中しないと感じられないってすごいな、技術者ということは気配の消し方が上手いというわけじゃないと思うんだけど、ここまでしないとわからないとはこういう技術っていうのも侮れないってことか
「ローレルさん、終わりました。こちらを向いても大丈夫です。ご協力ありがとうございました。」
考えているうちに終わったみたい
振り向いて近づくとぬるい風が吹いてきた。
あんまりこういう風は好きじゃないなあやっぱ山の風が最高だね
そう思いながら中に入ったらなんかよくわからないものがたくさんあった。
よくわからない道具やいろいろ書かれた紙とかさっぱりだ
「やっぱりまだいるか」
「なぜわかるのですか?」
「もし避難してるのなら下に降りるスロープの蓋が開けられているはずなんです。基本的にその技術者は下にいるので、閉まっているということは避難していないということですね」
そう言って部屋の少し奥にあった蓋を開けた。
さらにこもった空気が流れてきた。うえ
「おい爺さん!みんな避難してるぞ!早く避難場所まで行こう!」
「その声はガウル坊やか。悪いが儂はまだ避難はできん。計器に異常が出ているからの。」
「異常?信奉者どもめ列車を止めた他にも何かしていたか!でも爺さん今はそれより避難だ、爺さんのような技術者がいれば最悪新しい列車を作ることだって・・・」
「無理じゃよ、こいつの設計から関わってきた奴はもういないし今は時代も違う。儂はあくまでこいつの管理をしている爺にすぎん。奴のように複数の国を動かすほどのものは持っておらんよ。」
「それに管理をしているだけとはいえ、それなりに長くこいつを見てきた。儂の子どものようなものじゃ。そいつに異常があるというのに避難なんてできんよ。」
「爺さん・・・じゃあその異常の原因がわかれば避難するんだな?何が起こってる」
「ガウル坊やにわかるとも思わんが、まあいい、聞いたらお前さんたちだけでも避難しろよ。」
「さて、異常じゃが、列車の動力についての計器が異常な状態を示しとる。列車の動力は魔力を使っており、信奉者どもはこの魔力を空にして列車を止めた。なのに少し前から魔力が急速に回復して今では最大まで満たされている。上位の魔導士が何人、下手をすれば10人以上がかかりきりで補充するものがだ。明らかに異常なのに計器には異常がない、今は他に原因がないか探っているところじゃ。」
「確かに、それはおかしいけど後で他の技術者と一緒に探ればいいだろ。今は避難をすべきだ。」
「馬鹿を言うな、この状態を放置できるか。万が一信奉者が奪った魔力を無理やり戻して暴走させていたらどうなると思う?避難場所がここからどれくらい離れているか知らんが、生半可な距離なら最悪避難場所ごと吹っ飛びかねないぞ」
「それは・・・でも」
なんか言い争いしてるけど動力ってあの水晶だよねえ
私が補充したんだけどまずかったかな?
もしそうなら謝らないと、やだなあ
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「ん?ガウル坊やそういえばこのお嬢さんはどうしたんだ?」
「この人はローレルさん信奉者に襲われていた俺を助けてくれた人で、列車内で逃げ遅れた人がいないか探してくれていた人だよ」
「おおそうか、儂はゼペックという。ローレルさんと言ったか、ガウル坊やを助けてくれたありがとうよ。こいつはなかなか見所のある男じゃからな。それで何か言いたいことがあったかの?」
「はい、先ほど話していた動力に関してなのですが、列車の一番後ろにあった水晶のことですよね?それに魔力を満たしたのは私です。余計なことをしてしまったようで申し訳ございません。」
「・・・はい?お嬢さんが一人でかい?」
「はい、少々時間がかかりましたが、動力がないよりあった方がいいかな、と思いまして」
「これは驚いたが、今は計器の異常がなかったことを喜ぼう。お嬢さん、動力を満たしてくれたことはこちらにとってはありがたいことだから謝ることは何もないよ逆に礼を言わせてくれ。」
「とにかく!これで問題はなくなったわけだ。爺さん大人しく避難してくれよ」
「わかった。と言いたいが、こんな車いすに座った爺を避難させるのも危険じゃろ、お前さんたちだけで避難を」
『癒しの光よ、この者の四肢に再びかつての活力を与えたまえ』
動かないのなら動かせるようにすればいいじゃない。
幸い完全に動かない状態じゃなかったから多少力を込めるだけで済むし何よりこの人は動力を満たしたことにお礼を言ってくれた。
つまりいい人だ。いい人はできる限り治してあげたい
「これは・・・足が動く・・・まさかまた自分の足で動くことができるとは・・・」
「まさか動かなくなった足を治すなんて、本当にローレルさんはすごい癒し手なんですね」
「さて、これで避難をしない理由はなくなりました。皆さんのところに急ぎましょう」
「ここまでしてもらって避難しないのはさすがに失礼じゃな、急ぐぞガウル坊や」
「ああ、爺さんも気を付けろよ。久しぶりに自分で歩くんだから」