魔動列車にて ─黒騎士との邂逅─
「ふう・・・やっと終わった・・・」
少し息をつく。
思ったより容量が多く満たすのに時間がかかってしまった。
だけど、これだけ満たせば動力としては十分ではないだろうか。
「よし、人を探そう。できれば会話ができる人を」
さっき返り討ちにした人たちを思い返す。
いきなり供物に~とか言って襲ってきたけどなんなんだろう。
少なくとも列車を止めたのが彼らか彼らの仲間っぽいということは分かったが。
そう思い、動力の水晶が設置されている車両を出る。
「あれ?でっかいのがいなくなってる?」
動力に向かう時には気にすらしなかったが、少し遠くにいた巨体がいなくなっていた。
誰かが倒した?あるいはどこかに行ったのか。まあいいか、私には関係ない。
そう思い、ひとまず列車内の車両に向かっていると人に出会った。
黒の全身鎧を着ている人、気配が淀んでいていかにもやばい人だが、
(いやいや母さんが見た目は悪い人でも中身は優しい人もいるって言ってたし・・・)
思い直し、話しかける。
寸前、おじ様から初対面の人との会話はできるだけ丁寧に話しなさいと言われたのを思い出した。
危ない危ない、危うく忘れるところだった。
「こんばんは、今日は星もきれいないい夜ですね。」
完璧だ、丁寧なあいさつに天気や周りの景色を織り交ぜた出だし、これは勝った。
そう思っていると、相手から返事があった。
「貴様は何者だ、我らの同胞ではないな。」
おお!これは自己紹介の流れか、ちょっとテンション上がってきた!
「私はローレルといいます。貴方はどなたですか?」
「我は黒騎士だ。貴様から同胞の血の香りがするな」
ん?黒騎士って称号とかそういうのじゃない?自己紹介失敗したのかな?
というか同胞の血の香りってさっきの黒フード3人組のこと?
「先ほど黒いフードを被った3人組が襲ってきたので返り討ちにしました。彼らのことでしょうか?」
「・・・なるほど貴様は敵か、ずいぶん余裕のようだが、同胞の敵討ちといこう。ここで死ね」
あーやっぱり仲間かーそりゃ攻撃してくるわけだ。
じゃあ敵か、残念。
正面から距離を詰めて切りかかってくる。
さっきの3人組とは比べ物にならないくらい速い。
油断してたらばっさりやられそうだ、と思いながら回避して一旦距離を置く。
「なるほど、動きに無駄がなく速い。動力の見張りに回した3人では太刀打ちできなかろう」
敵の警戒が強くなった、判断も良い。
少し厄介かもしれないな、とりあえず攻撃するかというかさっき3人組から剣奪っておけばよかった。
全身に力を込め、距離を詰める。
速さは私のほうが上、迎撃の一撃を躱して鎧を殴りつける。
鈍い音はするがダメージは入っていないか、すぐに再度距離をとる。
「無駄だ、この鎧は我らの神から授かった物。拳程度では傷一つ付けられぬ」
敵の連撃、流れるような剣技に敵も多くの研鑽を積んできたことがうかがえる。
だが、当たらない、そう簡単に当たるほど遅くもないし剣筋も見えている、問題はない。
なら後はこちらの攻撃を通すだけだ。
確かに鎧は固く、拳一つだけでは破壊することは困難だろう。
だが、中身はただの肉だ。
外からの攻撃が通らないのなら中に通すまで、固い外殻を持った敵を素手で倒したことくらいある。
再度距離を詰める。
またも敵の迎撃を躱し、一撃。
通った。
師匠から教わった直接中身に衝撃を通す「鎧通し」はどうやら効果的のようだ。
距離をとって仕掛け続ければ──
(え?)
足に衝撃、貫かれてる。
全身鎧の一部が槍のように変形しており私の足を貫いていた。
「見事だった。だが、終わりだ」
黒騎士の剣が胸を貫く。
が、動ける、無理やり距離をとるがその前に返す刀で右腕を斬られた。
とっさに風を操り斬られた右腕を引き寄せる。
予想外だった。
ただの鎧ではないと本人が言っていたのに、警戒をしていなかった。
なんと無様なことか。
自分に憤りながら、体に魔力を通す。
大丈夫、この程度なら一瞬で治る。
胸の傷も消え、切られた右腕もつながった。問題なし
「今確かに胸を貫き、腕を斬った。なのに・・・貴様は何者だ?」
「人より傷が治りやすい体質なものですから、この程度はすぐに治りますよ」
「なるほど、よくわかった。次は肉塊にしてくれよう」
「それは怖いですね、頑張って挑戦してみてください」
鎧が変形するなら鎧通しで攻撃し続けるのは少し危険だ。
よし、剣を奪おう。
いい剣みたいだしあの剣なら鎧も斬れると思う。
方針は固まった。
なら後は行動するだけ、とりあえず突っ込んで全力鎧通しで攻撃すると見せかけて剣を奪おう。
全力なら多少の攻撃は受ける前提で行ったほうがいいよね、
傷がすぐ治るというのはもう見せたからそう動いても不自然ではないと思うだろうし、
そもそも普通に考えたら素手で倒す場合、手数じゃなくて一撃で重いのを食らわせると考えるだろう。
手数で攻めても変形鎧に手を串刺しにされるだろうし
右手に力と魔力を込める。
身体強化も強めにかけて強襲に備える。
敵もそれを見て迎撃の構えをとっている、準備時間をくれるのなら存分に利用させてもらおう。
準備完了・・・今!
一瞬で距離を詰め、振りかぶる。
相手が剣を振る。肩口からばっさり切ろうとしているため、簡易障壁を形成して防ぐ。
当然完全には防ぎきれないため、障壁は破られ斬りつけられる
だが、必要なのは防ぐ一瞬、斬撃の勢いを殺される一瞬。
私は鎧を殴ると同時に拳にためた魔力を操作して魔法を発動する。
発動する魔法はバースト、魔力を膨張、爆発させる単純な魔法。
単純ゆえに込めた魔力量が威力に直結する。
さらにバーストに風と炎を織り交ぜ、爆発力を増加し、さらに爆発範囲を限定することで
範囲内の威力の底上げと周りの被害軽減をする。
そうするとどうなるか、私と敵の間に起こる爆発はお互いの距離を無理やり離す。
あとは爆発に便乗して空いた手で剣の鍔を握ればあら不思議、敵の剣がこちらのものに。
目的通り剣を手に入れた、私の見立て通りいい剣だ。
切れ味、重さ、固さ、大きさ見事に私好みだった。
上機嫌で剣を振って慣らしていると敵から話しかけてきた、殺意がすごく漏れてる。
「女、その剣を今すぐ返せ。返すのなら楽に殺してやろう」
「折角手に入れたものをすぐに返すわけないじゃないですか、それにしてもいい剣ですね気に入りました。」
「最後にもう一度だけ言う。その剣を、今すぐ、返せ」
「嫌に決まってるじゃないですか、そんなに返してほしければ取り返してみては?」
「殺す」
鎧が変形していく、先ほどより鋭く、禍々しく──
そう思った瞬間にはもう目の前に来ていた、まるで刃のようになった手刀が嵐のように襲ってくる。
手刀の嵐を躱し、鍔迫り合いに持ち込んだ後距離を離す。
打ち合って確信した、やっぱりこの剣ならあの鎧を斬れる。
敵が体勢を低く取り踏み込む、また突っ込んでくるようだ。
ならばその力も利用させてもらおう、これで終わりにするために。
「終わらせる」
そう言って敵の姿がぶれる、それだけの速さということだろうが、私には見える。
こちらも前進しぶつかる寸前に切り上げる。
まだ斬れない、これは前座、次が本命!
自分の体勢を魔法で無理やり調整し、魔力を込め今の全力の斬撃を斬った箇所と重なるように放つ──
「馬鹿な・・・ありえん・・・神から賜った鎧が・・・」
血を流しながら倒れている敵が言う。
さっきまで鋭く変形していた鎧も元の形に戻っている。
衝撃を受けているようだが、物なら壊れて当たり前なのに何を言っているのかと思う。
とりあえず衝撃を受けてるのならそれはそれで好都合、さっさととどめを刺そう。
そう思い剣を振り下ろすが、躱された。
鎧がそうさせたのか、明らかに不自然な動きだった。
距離をとった敵がどこからか取り出した粉を振り撒く。
粉から魔力を感じ毒か薬かと警戒していると、敵が話しかけてきた。
「ローレルと言ったか、その名覚えておく。次会う時は我が剣を取り戻した後に、殺す」
そう言って消えた。
しまった、転移系の道具だったかと少し後悔したが、もう遅い。
んーとりあえず敵は撃退しておまけにいい剣も手に入れた。
敵を逃したのはマイナスだが、総合的に見ればプラス、つまりこちらの勝ちだ。
また会うみたいな感じのこと言ってたし、その時にちゃんと始末をつければいいか。
そんなことを考えていたら、こちらに4つの気配が近づくのを感じた。
お代わりかな?