百年後の貴方へ
拝啓
初夏の風が心地よい季節になりました。いかがお過ごしでしょうか。
さて、今日は貴方に私と出会ってほしくて、筆を取りました。私はこの手紙を今日書いています。当たり前だろう、と思われるかも知れませんが、一応ことわっておきます。
少し前のことになりますが、この国は元号を改め、長く続いてきた社会を大きく変えました。外の世界に広く門を開き、未知なるもの、革新的なことを次々と取り入れました。もはやこの頃は取り入れ尽くしてしまったようにも感じます。
長い戦乱がありました。疫病の流行がありました。景気が悪くなることもありました。それでも私たちは明日を信じて生きて参りました。
これからの将来がどうなるか、私には予想もつきません。人間はこれ以上は新しくならないかも知れぬとも思い、それがある種の美しさなのではないかとも思っております。いかがでしょうか。何か変わったこと、大きな出来事がありましたら、ぜひお返事にて教えてください。
最後になりましたが、この手紙を読まれる貴方が、幸福であることをお祈り申し上げます。
敬具
大正十年五月一日
転送:2121年宛
大正十年五月一日→2021年5月1日