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スミス侯爵家の夜会 ②

 最近、マリアンヌの手紙の返事を書いている侍女のリアレッドの機嫌がいい。


「リアレッドさん、何か良い事でもありました?」


 ユリがいつも通り手紙の仕分けをしながら、リアレッドに尋ねると、リアレッドは嬉しそうに頬を染め顔を綻ばせる。


「実は、ロベルト卿にデートに誘われたんです」


 ロベルト卿?ああ、いつぞや、お嬢様をデートに誘っていたオモテになる騎士様。


「そう、良かったわね。で、行くの?」


「勿論ですよー、あのロベルト卿ですよ。ふふふ、みんなに自慢できるわ」


 何を馬鹿なことを聞くの?とでも、言いたげにリアレッドは頬を軽く膨らませる。


 自慢する為なら良いけど、お嬢様と取り告げと言われないことを祈るわ。

 

「わかっているとは思うけど、何を言われてもお嬢様にお取り次ぎは出来ないから、その事だけは頭の中に入れておいてね」


「勿論です。そう言えばユリさん、お嬢様の手紙の選別基準てどのようになさっいるんですか?」


 リアレッドさんが気になるのも仕方ないわね。


「お嬢様と面識があるかどうかですが、面識の無い方でも、お仕事関係や、お嬢様が合うべき方であればその手紙はお嬢様にお渡ししていますよ。反対に、お嬢様と会ったことの無い方からの恋文は、お嬢様にお渡しすることはございません。また、夜会の誘いも、侯爵家と王家主催のもの以外、基本的にはお断りしています」


「あの、お嬢様が合うべき方とは?」


「御親族の方と、旦那様や奥様から取り次ぐように申しつかった方々です」


 夜会の誘いも多く全てに出席できるわけでは無い。お嬢様にお友達がいらっしゃれば、その方から誘われたものにでも参加すれば良いけど、差し当たり、お友達と呼べそうな方はスタージャ様のみ。昔、お嬢様付きだ方々は、わかっていらっしゃって学園を卒業なさるまではと、夜会の招待を控えて下さっている。


「マリアンヌお嬢様って本当に深窓の姫君ですわね。夜会にもう少し出席なさればいいのに!ユリさん、お嬢様があんな事言われているの知ってますか?あんなにお美しいのに、私、悔しくって!」


 リアレッドさんの様子からして、多分、お嬢様の容姿に関する噂だろう。彼女は夜会に頻繁に参加しているようだし、そこで、耳にしたのだということが想像できた。


 憤るリアレッドを宥めつつ、ユリはリアレッドが怒るのも無理も無いともわかっている。


「全ての夜会に参加はできませんし、親しいお友達でもいらっしゃれば、その家の夜会に出席すれば良いのですが、親しいお友達もスミス侯爵令嬢だけですし、そんな中、適当に夜会に出席すれば、出席できなかった家から不平不満が出ますので。こうして、欠席の返事を出すしかないのです」


「はあ、実際のお嬢様を見たら、あんな噂、たちどころに消えるのに」


「そうしたら、リアレッドさんの仕事が増えますね」


 にっこりと笑ってユリがそう言うと、手紙を書く量が多いと、今でさえ不満を漏らしているリアレッドの顔が引き攣った。


「それは嫌です。でも〜」


 葛藤しているリアレッドを他所に、ユリはサクサクと仕分けしていく。


 あっ、スタージャ様からのだわ。多分、お茶会のお誘いね。日時を確認して、旦那様とフリードリッヒ様に根回しをしなきゃならないわね。テイラー伯爵の件はセルロスを通じて、旦那様の耳に入っているし、都合をつけて貰う約束も取り付けてあるから大丈夫。


「私、お嬢様の手紙の返事を書く様になってから、デートのお誘いや、結婚の打尽の手紙を頂くようになったんです」


「そう、良かったわね。目的達成じゃない」


「そうなんですけど、私がお嬢様に渡す手紙を選別しているわけでもないですし、お嬢様の交友関係に口を出すことなどできないじゃないですか、なのに、期待されてもプレッシャーというか、申し訳ないというか」


 はあ、と溜息を吐きながら、愚痴を溢すリアレッドをユリは生暖かい目で見た。


「そんなこと最初からわかっていたでしょう?」


「そうなんですけど。最初は、まあ、きっかけがそれでも、デートを重ねているうちに…なんて、甘い夢をみていたんですけど、会う度に、お嬢様を紹介して欲しいと詰め寄られると、流石に萎えるといいますか」


 嫌な思いをしたのね。


「私達、侍女がお嬢様の交友関係に口を挟めませんものね」


「そうですよね。寄ってたかって、簡単に、お嬢様に手紙を渡してくれれば良いから、とか、夜会に参加するように進言してくれれば良いとかおっしゃるけど、そんなに簡単に夜会に参加できる、普通の令嬢じゃあないんだからって話ですわ!」

 

 はは、熱がこもっているわね。私、社交界デビューして無くて良かったかも。


「それでも、ロベルト卿とのデートは行くのよね」


「はい、勿論。あの方は別枠ですから。私なんかを、相手にする方ではないことくらいわかってます。それに、最初からお嬢様目当てってわかってますので。でも、そのくじがせっかく当たったので、楽しんでこようと思いまして」


 ああ、好きな芸能人と行く、イベントみたいな感覚なのね。


「じゃあ、また、その話聞かせてね」


「はい。ああ、こんな風で、結婚相手見つかるのかしら…、自信がなくなってきました。ほら、私、美人じゃないでしょう。それに、伯爵家でこそあれど裕福な方ではありませんし、兄様は二度目も、文官採用試験に落ちてますし」


 ああ、兄が文官採用試験に受かった時、すんなり、旦那様の部署に入れて貰えるように、ここに奉公にいらっしゃったのね。でも、この前の採用試験に落ちたと。で、自身の婚姻相手も、家に利益になる人を探してこいと言われいるのか、伯爵家令嬢も大変ね。


「お兄様、次は受かると良いですわね」


「本当ですわ、妹の私がこんなに頑張って、コネを作ってるって言うのに!お兄様ったら、今年も落ちるなんて!次回受かって貰わないと話になりませんわ!はあ、それ比べて、リンダさんは羨ましいわ。彼女のお兄様、今回の試験に合格されて、春から城でお勤めになられますのよ」


 そうなんだ、彼女の未来は前途揚々ね。後は、本人の婚姻相手のみか…。それで、夜会へ出席する為、休みを頂いてご実家に帰っているのね。


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