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スミス侯爵家の夜会 ①

 シードル様の側仕えから、シードル様の普段の様子を聞く限りでは、スタージャ様自身に好意を持っているというよりは、皇后陛下の妹で侯爵家の娘というブランドに心惹かれているご様子だということがわかった。


 スタージャ様にとってお嬢様は、シードル様を繋ぎ止める大事な道具なのね。例え、愛情が無くても、お嬢様と仲が良ければ、シードル様は愛人や他に夫人を迎え難いわね。お嬢様に見放されれば、リマンド侯爵家の分家として、冷遇されることが目に見えている。フリードリッヒ様はお嬢様にくびったけだ。お嬢様の我儘には逆らえまい。


 方向性は決まった。


 メイドにこっそり呼んで貰っていた辻馬車で、待ち合わせのカフェに向かう。


 ロココ調の店内には品の良い彫刻の施されたソファーやテーブルが並んでおり、天井からは豪華なシャンデリアがぶら下がり、ソファーにはフリンジやタッセルで縁を飾られたクッションが置かれている。贅を尽くした、上流階級の為のカフェだ。ユリは店内の豪華さに気後れしつつ、フードを目深に被ったまま、入口で店員に要件を伝えるとスムーズに奥の個室へ通される。


 スタージャ様の店なだけあって、センスが良いわね。


 ユリはキョロキョロと店内を見たい衝動を抑えながら、案内された部屋へ入ると、そこには既にスタージャがソファーに座っていた。


「スミス侯爵令嬢、本日はお時間をお取りくださり感謝致します」


 ユリはカーテシをし、礼を述べる。


「硬っ苦しいことはいいわ、そこに座って」


「有り難うございます」


 ユリが座ると、この店の店員が手際良く紅茶

と3段のケーキスタンド、マカロンやクッキーのプレートをテーブルに並べる。スタージャが手で合図すると、サッと彼女は部屋から出て行った。


「さ、どうぞ、遠慮なく食べて。要件は手紙の通りでいいのかしら?」


「はい、スミス侯爵令嬢のお力をお貸し下さい」


 スタージャは普段見せる優しい微笑とは違い。ゾクリとするような真顔のまま、紅茶に口をつけた。


「で、貴女は私に何を見返りにくれるのかしら?まさか、タダ働きをさせるつもりではないのでしょう?」


「お望みのものを」


 一口サイズのピスタチオのマカロンを口へ入れると、スタージャはユリを見据える。


「お前は私の望むものを与えれるというわけね」


「はい、今後も変わらず、お嬢様の親友という席を約束致します」


「ふふふ、貴女があの世間知らずの侍女とはね。まあ、良いわ。で、その保証は?貴女、婚約者はいないの?」


 スタージャは口角を上げると、ユリを見据える。その目の奥は楽しそうに、そして、ユリを試すように笑っている。


「婚約者はおります。リマンド侯爵家執事、セルロスでございます。学園にも、私がお嬢様に付き添いつもりでございます」


 ユリの言葉に、スタージャは目を見開き、摘んでいたクッキーを皿の上に落とした。


「は、ははは。ふふ、ふふふふ。あの執事と?マリアンヌ様のお気に入りの貴女なら、騎士爵の出てとはいえ、男爵位、子爵位からの縁談があったでしょう?なのに、何故?」


 確かにあった。お嬢様とお近づきになりたいという思惑が透けて見える、私を娶りたいと言う申し出が。


「その理由は、スミス侯爵令嬢と同じでございます」


 扇をバシンと閉めると、スタージャは真剣な表情をつくる。


「貴方の言葉を信じましょう。数日後に、お茶会を開きます。そこに、テイラー伯爵令嬢とマリアンヌ様、そして、噂話が大好きな、今、学園に通っている伯爵令嬢を呼ぶわ。必ず、フリードリッヒ卿を迎えによこしなさい」


「ありがとうございます。感謝致します。お嬢様がスタージャ様を姉のように慕っていると、シードル様の耳にさりげなくいれておきましょう」


 自らケーキを一つ皿へ取り分け、ユリへ勧めるとスタージャはクスリと自傷気味に笑った。


「お前は良く心得ているな。シードル様は決して、私を愛することは無いでしょう。だが、私が彼にとって価値のある存在である間は、私を大切にしてくれるわ。彼はそういう人だから。だから、マリアンヌ様を見てると、時々妬ましくの、あんなに、フリードリッヒ卿に愛されいらっしゃるから」


「そうですか?私は、フリードリッヒ卿もいかがなものかとおもいますよ」


 長年、片思いを拗らせすぎたせいで、酷く狭量で嫉妬深い。自分が休みの日は、朝からお嬢様の側に張り付いているのだから。まあ、これは、お嬢様が赤ちゃんの頃からだったわね。


「ん?どのようなところが?」


「フリードリッヒ卿は私にまで、焼き餅を焼かれますので。この前も、お嬢様にご自分と私、どちらが好きか一生懸命お嬢様に尋ねていらっしゃいましたし。できることなら、リマンド侯爵家などほっぽり出して、お嬢様と静かに暮らしたいとおっしゃっていました」


 未来の旦那様は困ったものです。とでも言う風に、ユリは肩を落としてみせる。


「ふふふ、ユリ、お前は手厳しいのね。まあ、確かに、フリードリッヒ卿ならマリアンヌ様さえ手に入れば、他は要らぬとでも言いそうだわ。そう言えば、マリアンヌ様は、昔は、学習が忙しく、社交界へ出向けなかったようですけど、今はお暇になったのでしょう。なら、夜会へお誘いしても良いかしら?」


 ユリはニッコリと笑顔を向ける。


「是非、お願い致します。スミス侯爵令嬢のお誘いであれば、フリードリッヒ卿も断る術が御座いませんので」


「まあ、マリアンヌ様も自由が無くて、難儀ですわね。それに比べれば、私の方が幾分マシかもしれませんわね」


 クスクスと楽しそうに、そして、少しだけ寂しそうにスタージャは笑った。


 

「婚約は間違いでした」の「スタージャのお茶会」の前の話です

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