ミハイロビッチを探ろう!
シュトラウス家が没落していない今なら、ミハイロビッチの居所は分かる。
今、私に必要なのは、シュトラウス家の侍女かメイドの友達。それも、シュトラウス子爵が爵位を返上するその時までシュトラウス家に仕える人物。
どうやって作れば良いのよ!そんな友達!
まず、私はお嬢様付きなので、滅多に領地の城から外へ出ない!実家は貧乏騎士家で、人脈も期待できない。いや、人脈が有ってもシュトラウス家に関係のある人と友達になりたいって親子に言えないじゃない!理由、お嬢様が悪役令嬢になるのを止めたいから。って、頭のおかしい人じゃない!
あっ、ミハイロビッチの祖父母は平民で商家だったわね。そこの客から始めるのが一番自然よね!ただ、その商会の名前がわからない…。
こういう時は、リマンド侯爵家次期執事候補であるセルロスに聞くのが手っ取り早いわね!
問題はどうやって切り出すかが問題だわ。彼になら、興味本位な質問でも大丈夫。だろうけど、どうして興味を持ったかだけは考えておく必要があるわね。
さて、どうしょうかな。
シュトラウス子爵と繋がりがある、私に関係のある貴族といえばルーキン伯爵。
よし!
さ、セルロスを探しに行こう!
「今度は、シュトラウス子爵家かよ」
セルロスは呆れた声様子で、こっちを見て来る。
誰かの婚姻に関係があると思ってるみたいね。なんだ、誤魔化す必要ないじゃ無い。
「奥様の生家って、商家なんでしょ?」
「ああ、パブロ商会。安価な飴や、焼菓子、ジャム、保存のきく干し肉や、燻製品を扱っている商会だ」
庶民用の食品を扱っているんだ。私でも買えるかな?実家に帰る時に、弟妹に買っててあげたいな…。私はここでお菓子を口にできるけど
「繁盛しているの?」
「ああ、シュトラウス家は奥様の生家からの援助で、どうにか遣り繰りしてるって話だぜ。シュトラウス子爵は領地運営に不向きな方だからね」
そうだったわ、借金が嵩んで爵位を手放すのよね。
「そうなんだ…」
「なんだよ。もしかして、シュトラウス家よりパブロ商会の方が気になるのかよ。何?パブロ商会が食品店だから?連れて行ってやろうか?飴ぐらいなら買ってやるよ」
セルロスのまたとない申し出に、自然と顔が綻ぶのを抑えられない。
「いいの?」
「お前、給料を全額仕送りしてるんだろ?」
それは仕方がない、弟を騎士学校へやるお金になるのだから。そう考えるとここは高給よね。小娘一人の稼ぎで学費から寮費まで賄えるのだから。
「まあね。でも心配しないで、私服くらい持ってるから、皆さんがサイズが合わなくなった服を下さるので、質はよいものばかりよ?」
一緒に行くのだから私服はまともだと言って置かないと、さっきの雰囲気だと仕事着で行くと思われているよね?
それに、セルロスには言えないけど懐はそれなりに暖かい。偶にクロエ達に休日を金貨1枚で売っている。ようは、彼女達と代わってたまに仕事をしているのだ。行儀見習いの侍女の休みは多い、四人で担当し常に一人は側に付く。お嬢様が目覚められる前に、準備をして起こしに行き。そこから、ベッドに入られるまでが仕事だ。一日を三人で担当して、一人が丸一日休みを貰うシステム。一週間に二日は休みが確実にある。その日を利用してデートをしたり、服を作りに行ったり、プレゼント用の刺繍をしたりと案外忙しい。結婚相手を探している侍女はだけどね。
一瞬ポカンとしていたセルロスがお腹を抱えて笑い出しだ。
「あはは、楽しみにしてるよ!次の金曜日でいいか、お互い丁度休みが被るだろ?」
何よ、目尻に涙まで溜めて失礼な奴!
「いいわ」
じゃあな、と言ってセルロスは私の頭を撫でて部屋から出て行った。
なんなのよ、アイツ。
「ユリ!」
後を振り返ると、クロエがニマニマしながらこっちを見ている。
「クロエ、デートは楽しかった?」
「ええ、楽しかったわ。私、このままこの婚姻受けようと思っているの。で、貴女はデートの約束?」
ちゃんと聞いてたのね。
「シュトラウス夫人の生家であるパブロ商会へ行くだけよ。セルロスは私がお金を持ってないと思ってるから、一緒に行くことになったのよ」
買う物が無いのに商会へ行けないからね。
「そうなのね、残念。てっきりデートの約束かと思ったわ。私の為にだったの?ありがとうね、明日。ユリ!あっ、ちょっと待っていて!」
クロエはそう言って抱き着いた後、慌てた様子で身を翻して、使用人用の玄関の方へ急いで行ってしまった。
クロエのデート相手とシュトラウス家に繋がりがある?良く考えるのよ。クロエが結婚を考えている相手、クリソン小伯爵。あっ、シュトラウス子爵はクレソン小伯爵の叔父様。だから、セルロスはあんな事を言ったのね。クロエの為に色々調べてるって思ってるんだ。
クロエはシュトラウス子爵と会う機会があるはずよね。なら、その時に、クロエの侍女としてつき添えれば、従者と知り合いになれる機会があるかも知れないわ!
慌てて戻って来たクロエの手には、クリソン家の印で封をしてある封筒があった。
「ユリ、苦労して手に入れたのよ。これ、貴女が欲しがっていた社交クラブの招待状よ」
世界を股に掛けるローディア商会の会長も名を連ねる、商業について意見を交換する社交クラブ。会員の紹介で無ければ入会出来ない。ただ、事業を起こすのであれば、学ぶ場所として此処より最適な場所は存在しない。
これで、お嬢様が事業を始められてもきっとお助けできる筈だわ。本では、ご自分が始めて起こされた事業に失敗なさるのよね。それで、他の貴族達からの信頼を得る事に失敗なさる。それにより、旦那様がお倒れになった後、リマンド侯爵家本来の事業の資金繰りが困難になるのよね。
最初に始められた事業が成功していたら、他の貴族達は旦那様不在でも、リマンド侯爵家の事業から手を引くことは無かったわ。本来、リマンド侯爵家の事業はどれも順調で多額の利益を生み出していたもの。
「ありがとう、クロエ」
「どう致しまして、貴女には沢山助けて貰ったからね。お陰で、こうして婚約まで上手く行きそうだし。でも、ユリ、貴女、事業でも始めるつもり?元手も無いんでしょ?」
クロエの婚約相手はこの社交クラブの会員。もしかしたらと、頼んでみたかいがあったわ。
「違うわよ、私じゃないわ。お嬢様が将来、事業を始められたいと思われた時に、少しでも役に立てるように今から勉強しておくのよ。人脈も築いておくに越したことは無いわ」
事業の失敗。
これがお嬢様と私の転落人生の始まりなのだから…。
奴隷同然の扱いを受けて、罪人として死ぬまで強制労働を強いられる人生なんて真っ平ごめんだわ!
明日も18時過ぎに更新します。