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冒険者と ①

「マリー、フリードと結婚式は次の春はどうかしら?それなら、もう、ドレスを依頼しなければならないのよね。ふふふ、そうね、マダムの所でいいかしら?」


 カシャンと、皿が割れる音。


 朝食の席で、楽しそうに提案したリマンド夫人の言葉に、皆が一斉に動揺する。新人のリンダは特に夫人に慣れていないため、皿を割るという失態まで犯した。ユリは慌てて、一緒に皿を片付ける。


「アノ、お母様?ソレハドウイウコトでしょう?」


 マリアンヌも動揺しているようで、顔を引き攣らせ尋ねる言葉は片言だ。


「そのままよ。マリーはフリードが大好きでしょ?なら他に盗られる前に早い事結婚して自分のモノにしてしまうべきよ!それに、私達、殺されかけたでしょ?もし、ルーキン伯爵のようにこの人に何かあったら、誰がリマンド家を支えていくの?フリードならすぐにでも主人の仕事を引き継げるわ。そしたら、今まで無理だった旅行にだって二人で行けるのよ?素敵な提案だと思わない?」


 夫人は目をキラキラさせながら侯爵家に同意を求める。フリードリッヒは涙目になりながら、思いっきり咳き込んだ。


「イタ」


 ユリと一緒に皿の破片を片付けていたリンダが指を切った。


 ああ、可哀想にこんなに動揺して…。奥様になれて無いと驚くわよね。


「確かに、フリードリッヒになら明日からでも仕事を任せることは可能だ。しかし、マリーの気持ちが…。フリードリッヒにも確認をとらんとならんし、陛下にまず婚約の書類にサインを頂く必要があるんだが…。それから、婚約後最低でも」


 周りの反応など気に留める風でも無く、夫人はあっけらかんとした様子で、オムレツを口に運んでいた手を止めた。


「あら、マリーは大丈夫よ。だって、フリードのこと大好きですもの!フリードに侍女をつけようとしたら、すっごく嫌な顔したのよ?自分以外がフリードに触ると不機嫌になるんですもの、すっごく好きに決まってますわ。マリーがフリードのことを好きならそれで良いんです。弟のサインなら今日にでも私が書かせますわ。」


 暴走を止めようとするリマンド侯爵の言葉が終わる前に、夫人はノリノリで言葉を被せてくる。朝食後、すぐにでも陛下のサインを貰いに行きそうな勢いだ。


「お、お母様、私が兄様を大好きって?」


「あら、違うの?フリードに侍女であれ、町娘であれ触るのは嫌なんでしょ?だって、ユリにセルロスや他の侍女達が触るのは大丈夫なんでしょ?でも、フリードリッヒの世話をフロイト以外がするのはダメって、これは恋よ!恋。」


 ああ、奥様、可哀想にフリードリッヒ様が固まってらっしゃいますよ。しかし、お嬢様強いわね。自分が好意を持っている男性の前で気持ちを暴露されているにもかかわらず、飄々となさっているんですから。


「本音は、兄様にお父様のお仕事を押し付けて、お父様と旅行に行きたいだけじゃないんですか?」


「まあ、私は、マリーのためを思って…。」


 ヒートアップするマリアンヌと夫人を侯爵が宥める。


「まあまあ、ふたりとも落ち着いて、リンダが怯えているではないか。ユリ、リンダを下がらせて傷の手当てをしてやりなさい。」


「はい」


 ユリは一礼すると、指を押さえて青い顔でぶつぶつ言っているリンダを連れて食堂から出て行った。


「リンダ大丈夫?真っ青だけど」


 ユリはいつも元気で明るいリンダの動揺ぷりに、些か心配になりつつ、使用人ようの建物にリンダを誘う。食堂の椅子に座らせ、傷の手当てをしてやる。


「調子悪そうよ。今日はそのまま休みなさいね」


「は、はい」


 あっ、もしかして、皿を割ったことで。そうよね、何で私、気がつかなかったんだろ。リマンド家の食器はどれも高価だわ、それを割ったのだから弁償しなければって怯えるのも無理は無いわ。私は長らく勤めているから、旦那様や奥様がお気になさらないのを知っているけど、他の貴族の家ではそれ相応の罰が与えられるものね。


「リンダ、安心して、旦那様も奥様もこれくらいのことで貴女を罰したりしないから」


 こうは言ったものの、リンダにとって、皿を割ったことはすごくショックだったわよね。私も皿一枚の値段を知った後、怖くて仕方なかったもの。早く立ち直ってくれたらいいんだけど。


 リンダは死んだような目をして自室へ引っ込んだ。そんなリンダを見送ると、ユリは早速出かける準備にとりかかる。ユリは今日はこれからお休みを頂いていた。ラティーナ様から紹介して貰った冒険者に会いに行くためだ。


 セルロスったら、大丈夫だと言っているのに心配だからと付き合ってくれる。有難い限りだわ。


 辻馬車を頼み二人で待ち合わせ場所である、王都の冒険者ギルドへ向かう。


「そんなにジュリェッタ嬢のことが気になるのか?もう魔法学園に入学されたんだから、流石にフリードリッヒ様にもちょっかいをかけないだろ」


 心配しすぎだと言うセルロスに、ユリはフリップ夫人から聞いたジュリェッタの学園での様子を伝える。


「ジョゼフ殿下にまで…。はあ、お嬢様の婚姻相手となり得る人物全てに粉をかけてるのか、何が聖女様だよ。ただの毒婦じゃ無いか。クシュナ夫人と何ら変わらないな」


「毒婦って」


 本当セルロスって、執事服を着ていない時は口が悪いね。


「見た目が可憐でも、やってることは劇団の女優と同じだろ?まあ、彼女たちはそれが仕事だけどね。でも、ジュリェッタ嬢は仮にも貴族の娘だろ?不特定多数に媚びを売るのは、倫理上良くないだろう。で、何が疑問なんだ?」


 まあ、一代貴族ではあるけどね。


「うーん。何がと言われると難しいんだけど…。違和感があるんだよね。例えば、ジュリェッタ嬢が計算は出来るのにマナーはからっきしだったり、冒険者としての腕はまずまずのバルク男爵が、冒険者時代に名を馳せたことだったり…」


「確かに違和感があるな。バルク男爵の実力は兵士試験にギリギリ受かる程度なんだろ?ランクはギリC級、年齢は潮時の40代。際して、これといった能力があるわけじゃないと第一騎士団の騎士が言ってたぜ。勇者としてで無けりゃ、第一騎士団には兵士としても入れなかっただろうってさ」


 やはりそうだ。彼は竜討伐で生き残るだけの実力は無い。


 馬車がギルドの前で止まると、セルロスは御者へ硬貨を多目に渡し帰りの時間を伝える。ユリはフードを深く被り直して馬車を降り、二人でギルドの門を潜った。


 ラティーナに紹介してもらった男はすぐにわかった。なんとも特徴的で、大柄で厳つい身体に武器は斧。モヒカンで後を長く伸ばした髪は、三つ編みで束ねられ腰まであり、左頬にはギスがある。近づいて声をかける。


 ラティーナ様の仰ったとおりの風貌ね。これで、オネエ言葉がマストらしいからそれこそビックリだわ。


「貴方がライアン?」


「ええそうよ。ラティーナから話は聞いてるは、貴女がユリちゃんね。ラティーナとはまた違って可愛らしいわ。で、横のいい男は誰かしら?」


 ライアンの言葉に鳥肌を立てたセルロスが、ライアンから距離を取り、助けを求めるようにユリの背後に少し身体を隠す。


 大柄で厳ついオネエって面白すぎるでしょう、セルロスは苦手みたいだけど。


「彼はセルロス。今日は私の護衛よ」


「ふーん、護衛ね。まあ、良いわ、此処じゃちょっとアレだから場所を移しましょう。そうね、カフェとかどう?ユリちゃん、女の子だからカフェとか好きでしょう?」


 厳つい大柄のモヒカンオネエに、黒髪長身の美青年、地味で平凡な侍女って、何の集まりよ。このメンバーでカフェって、目立つことこの上ないわよね。


「あの…出来れば人目につかない所で…」


「ええ、勿論よ♪安心して、ラティーナから話は聞いているわ。貴女、モテモテなんですって?ふふふ、大丈夫よ、ちゃーんと個室に通して貰うから♪」

 

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